8章E
「なるほど、バリアか。これは少し面倒なことになったな。」
彩矢とゴードンからの説明を聞き、参次郎は眉をひそめた。これまで様々な戦闘を経験してきた参次郎。彼はそこから、解決策を導こうと思案を始めた。今から、敵陣を突破し、バリアを消しに行く。
普通ならそう考えるべきだろう。赤い鳥の戦闘力なら不可能ではない。
しかし、それでは外に黒い鳥の援軍が来た時に対処できない。考えをめぐらす参次郎。そこに、突如爆発音が飛び込んできた。
「おっと。」
一人こそこそ隠れている参次郎に気づいた黒い鳥隊員が、攻撃を始めたのだ。慌てて、その場を動き、戦闘態勢に入る参次郎。
その一方で、参次郎に襲い掛かるところだったあの爆発に、彼は何か引っかかるものを覚えた。
「爆発……そうだ。爆発だ。」
彼の中にひらめいた作戦。それは極めて危険な賭けであった。彼でなければ、考え付いた時点で、その策の実行の可能性をすぐに消し去るほどだろう。
しかし、彼の頭の中には成功できるという、絶対的な自信があった。
「いい加減、境川と立津人に任せるのも厳しくなってきたな。俺もそろそろ戦うか!」
参次郎は、背負っていたリュックを降ろし、一つの防具を取り出した。黒く輝く、大きな盾。参次郎が常用装備としている物だ。
右手にはビームガンを構え、襲い掛かる敵と対峙した。
基地の外を囲うバリアは消える気配がない。さらに、基地の周辺には、近づく戦艦を迎撃するためのキャノン砲やミサイルが大量に、隠されていた。用意周到なバードソンが、念のために設置していた物だ。
彩矢たちのマグマドラゴンシップをセンサーによって感知した、それらの武装は一斉に攻撃を開始した。
マグマドラゴンシップに目掛けて二門のキャノン砲が火を噴く。
「彩矢さん、後方から攻撃だ!」
咄嗟にゴードンが、叫び彩矢の操縦でどうにか回避する。しかし、続いてミサイルや他からの攻撃が降りかかってくる。
「黒い鳥は本当に、私を捕まえる気があるのでしょうか。もし、攻撃をこの戦艦が喰らえば、私は、間違いなく死にます。それでは、本末転倒のはずですが。」
無論、バードソンも彩矢を殺すつもりは毛頭ない。赤い鳥が現れたことを知った時点で、彼は部下に迎撃装置を切っておくように命令していた。
しかし、人間とは一つの事に気を取られるとほかの事を忘れてしまう生き物である。その部下は、赤い鳥の襲撃を聞いて驚き、バードソンの指示どころではなかったのだ。
もちろん、そんなことを彩矢たちが知るはずもない。降りかかる攻撃に、ゴードンは今度こそ、最期を覚悟した。しかし、その心配は無用だった。
「このくらいの攻撃速度なら、腕慣らしにはちょうどよさそうですね。」
「はい?!」
彩矢の目は心なしか鋭くなる。彼女の記憶の中に閉じ込められていた、フライトゲームへの情熱が今復活したのだ。
「久しぶりに、飛ばしますよ!」
次の瞬間、船体が大きく傾いた。後方からくる攻撃を、避けるため、上方に大きく動かしたからだ。
当然、キャノン砲から放たれたビームは、マグマドラゴンシップを捉えることなく明後日の方向に飛んでいく。
急上昇するマグマドラゴンシップ。ここに大量のミサイルが飛んでくる。
「追尾ミサイルでもなさそうですね。これは楽勝かもしれません。やっほー!」
ミサイルが船体に傷をつける寸前、マグマドラゴンシップは一転して急降下する。
「ギャああああああ!」
急上昇の後に急降下という地獄を味わっているゴードンは、ナイフで刺し殺される寸前のような叫び声を上げる。一方、彩矢は随分と楽しそうだ。
「一つ一つに歯ごたえはないですけど、数はありますね!まだまだ、避けますよ!」
今度は、船の左側にあった大砲が火を噴いた。実体弾であるためスピードは遅いが、今回は距離が近い。
「おっと。」
しかし、彩矢はこれに対して、マグマドラゴンシップを回転させて、やり過ごす。大砲の弾丸は、船体を逸れ、ミサイルと激突する始末だ。
「オゴベェェ……グバァァァ……。」
あまりのアクロバティックな動きに耐えられないゴードン。備え付けられていたトイレに駆け込み、嘔吐症状を引き起こしていた。
「いいか、基地を爆破しろ。ゴードンからの情報によれば、爆破装置の位置は地下3層だ。機密保持のために爆破装置を設置していたんだろう。」
戦闘の合間を縫い、太郎と接触した参次郎。彼は、先ほど思いついた作戦を太郎に説明した。
「基地を爆破して、バリアごと破壊することで脱出を図る!?」
太郎は、参次郎の発想に正気を疑った。発生装置さえ破壊すれば、彩矢たちのいるマグマドラゴンシップの脱出は可能だ。
「バリアさえ破れればそれでいいはずじゃないのか。」
なぜわざわざ危険な道に走るのか。太郎の疑問に参次郎は、真面目な声色で答えた。
「もし、黒い鳥の援軍がシールド外まで駆けつけていたらどうなる。シールドが破られた途端に、彩矢たちはその援軍につかまることになる。」
今のところ、黒い鳥に援軍の情報はない。しかし、万が一、援軍が駆けつけていた場合、逃げ切れる保証はない。
「だからって、なぜ基地の爆破を?」
「基地が爆発したら、援軍は基地内にいる仲間の救助を優先するだろ。」
「確かに……」
現在、黒い鳥の隊員たちは赤い鳥に阻まれ、戦艦を出動できない状況にある。もしここで基地が爆破されれば、黒い鳥の隊員たちは逃げることができない。仮に援軍が来ていたとしても、隊員の救助が優先となり、彩矢の脱出を阻む者はいなくなるはずだ。
「危険な賭けにはなるな。」
太郎は、理解を示したものの、その手には汗がにじんでいた。
「もともと危ない橋を渡っている最中だろ!こんなことでビビるなよ。」
「そうはいってもな。」
太郎は笑みを浮かべた。参次郎の言葉は力をくれる気がした。もちろん、緊張は完全にほぐれていない。それでもこの男の前なら、どうにかなる気がしてくるのだ。
「必ず成功させて戻るよ。」
「まあ、ぼちぼちな。」
太郎は、そう会話を交わし、参次郎と別れた。




