7章D 戦いのプロ
「ここから逃げる。手錠をつけてくれ。移送するふりをするんだ。」
ゴードンの指示に彩矢は頷いた。
「こんな危険を冒してまで私を。どう感謝をすればいいかわかりません。」
彩矢は今まで多くの人々に手厚く待遇を受けてきた。
しかし、いざこのような時に彼女を命がけで助けてくれたのは家の使用人たち。警察も動いていることは知っていたが、黒い鳥の前に手も足も出ていなかった。
そんな中、ゴードンは、一人危険を承知でここまで来てくれたのだ。彩矢はうれしかった。
「そこまでっすよ。侵入者。」
「!」
この場に響く第三の声。ゴードンが振り向いた先には、シャンパンノが銃を向けて立っていた。
先ほどのゴードンの言葉に疑いを抱き、気づかれないように近づいたのだ。
「どういう理由で市ヶ谷彩矢を助けようとしているかわからないっすけど、もうだまされないっすよ。」
それまで呑気な青年だったシャンパンノは、完全に戦闘員の顔へ変わっていた。
一瞬でも、敵の嘘に引っかかってしまった怒り。任せられた仕事を達成しなければいけないという、使命感。
彼の戦闘員としての目は、ゴードンを逃がしはしない。
「彩矢さん。下がっていろ。相手がプロならこっちは元プロだ。」
「はい……」
彩矢はゴードンの後方に下がり距離を取った。戦闘の邪魔にならないようにするためだ。
「こいよ、黒い鳥のお兄さん。俺は人民解放共同団の元スナイパー、ゴードン・カッターだ。聞いたことあるだろ。」
ゴードンの名は、暴力団間では比較的有名である。数多くの隊員をスナイパーライフルで仕留めてきた、危険な少年と。しかし、今のゴードンが持っているのは、急いで調達してきた電撃ソードと、小型のマシンガン。
彩矢を一刻も早く救出するために、最低限の武装しか揃えることができなかったのだ。
「下手な抵抗をすれば、撃ち殺すっす。」
「お前に、仕留められるかな。」
一瞬の沈黙。彼らはお互いに戦士である。一瞬の遅れが命取りになるのだ。緊張の糸が張り巡らされるのは想像に難くない。
先に動いたのはゴードンだった。取り出したのは小型マシンガン。シャンパンノ目掛け掃射する。
シャンパンノはこの攻撃を避けると戦艦の外に出る。先制攻撃を奪われた以上、1対1は厳しいと考えたのだ。銃声を聞きつけ、格納庫にいた黒い鳥と暗殺団の戦闘員が集まる。
「総員、戦闘配置っす!それから、誰かバードソンを呼ぶっす。非常事態には彼の力が必要っす。」
シャンパンノを追撃するため、戦艦の外に出たゴードン。
しかし、目の前には武器を構える20人ほどの戦闘員が待ち構えていた。
「格納庫にいるだけでもこれか。厳しいな。」
ゴードンは数の力に、弱音を吐いた。しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。
敵からの一斉攻撃を何とか交わし、ゴードンは戦艦の陰に隠れる。銃声は止むことがない。このまま隠れていても、彼のもとに近づいてくる隊員たちによってすぐに殺されてしまう。
「敵は一人っす。このまま殺すっす。」
「さすがに数が、多すぎる!」
黒い鳥隊員の数の暴力は、ゴードンの動きを大きく制限する。流れるように飛んでくる攻撃をいくらやり過ごしても、きりがない。
さらにゴードンの体力も、あまり長くはもたない。すでに肩で息をしている状態だ。目に見えて、追い込まれている。
「そこ、もらったっす!」
「まずい!」
後方から、シャンパンノが現れる。後ろに回られてしまったようだ。今、ゴードンの背中はがら空きであり、対応できない。銃口はすでに向けらてしまっている。
「ここまでか!」
ゴードンは死の覚悟をした。




