7章A 念には念を
黒い鳥の輸送船は、黒い鳥の支部の一つ、静岡支部に到着していた。富士山の中腹。木々に隠された山肌を切り取り、基地として活用している。
バードソンは上空を細かく見渡し、不審な点がないことを確認する。
「敵に隠密で追跡されることはないと思うが、万が一ということもある。輸送船を変えて、対策するに越したことはないだろう。」
この世界では、レーダーを無効化するステルス機能と、周囲の景色に映像で同化し、視覚での認知を不可能にする光学迷彩が存在する。両機能とも高額であるため、秘密基地でもない限り導入はされていないが、警戒は念入りに行うべきだ。
「ここは任せるぞ。シャンパンノ。」
バードソンはシャンパンノの肩を叩くと、そのまま支部へ入っていく。次に彩矢を乗せる輸送船は、まだ発進の準備が整っておらず、ここで待機することになる。
「バードソンから任せると言われたからには、しっかりと仕事をやり遂げるっすよ!」
シャンパンノが任されたのは、あくまでも基地内部にある彩矢を乗せた戦艦の見張りである。
どう考えても襲われる心配はないし、彩矢が戦艦の中の抜け出せるはずもない。一見、見張りなど必要ないようにも思える。
しかし、シャンパンノはバードソンの判断に疑問を覚えてはいなかった
「この基地に侵入者がいるかもしれない、市ヶ谷彩矢は本当の実力を隠している可能性も否定できない。きっとバードソンはそう考えて、ここに見張りをつけるよう指示したっす!」
バードソンは、あらゆる事態に対し対応できる必要があると考えている。それは、数多くの戦闘経験から、失敗を避けるために至った思考だ。そんなバードソンにシャンパンノは、あこがれを抱いていた。
「どんな事態でも、想定し、備えて戦う。いやあ、かっこいいっす!」
得意げに語るシャンパンノ。周囲にいた整備班や操縦士の面々にとって、これはいつもの事らしく、皆苦笑いを浮かべていた。
そんな時、一人の隊員がシャンパンノに話しかけてきた。帽子を深くかぶっていて顔はわからないが、肩に銃を持っているところを見ると戦闘員だろう。
「すみません。バードソンから緊急に指示を受けてきました。」
「緊急の指示、何かあったのか?」
何かまずいことが起こったのだろうか、シャンパンノは詳細を確認しようとする。
「まだ詳しくはわかりません。しかし、バードソンの指示で市ヶ谷彩矢を連れてくるように命令を受けました。こちらに彩矢を引き渡してください。」
「ええ?」
まだ、乗り換え先である、次の戦艦の発進準備が終わったという情報は聞いていない。シャンパンノは意味が分からず混乱した。
「お早く、お願いします。彩矢を収容した部屋の鍵を開いてください。」
シャンパンノは訳が分からないまま、言われたとおりに自動になっている檻の鍵を開けた。
「では、ここから私の仕事ですので。」
そう言って、その隊員は戦艦の中へ入っていった。




