1章B 仲間を守るために
「ここでの敵はあの二人で、終わりか。」
ビルの陰から二人の敵戦闘員がマシンガンを乱射している。鉛玉を正面から受ければ、命は助からないが、警察官らはこれを、盾で防いでいる。
白いバイク用のヘルメットを被り、手には、中型のビームガン。グレーの防弾チョッキを着た警察官、芽里太郎。第8部隊に割り当てられた彼は、このエリアの最後の敵と交戦していた。
「広山、セレナは援護を頼む。俺が奴らを倒す。」
太郎は、警察の中でも屈指の戦闘力を誇る隊員だ。23歳にして、エースの称号を持つ。太郎一人で、敵戦闘員二人を倒すことは難しくはない。
「無理するなよ。ここでお前に死んでもらうわけにはいかないんだ。」
太郎の仲間であり友人でもある広山は、忠告する。
太郎は重要な戦力であると同時に大切な仲間でもある。太郎の同僚たちは、彼の事をとても大切に思っていた。
「当然だ!」
広山の言葉にいくらか、力をもらったように感じた太郎。彼は、盾を隔てて降り注ぐ弾丸に怯むこともなく前へ出た。
揺るぎない意志で敵の位置に向けて、進んでいく太郎。その姿に、銃口を向ける敵は恐怖すら覚える。
銃弾の衝突は盾に大きな負担をかけ、今にも貫かんとするばかりに向かってくる。しかし、長い戦闘経験の中で武器の扱いに慣れた太郎にとってそれは、どうでもいいことであった。ただ目の前の敵を倒す。これ以上仲間を失わないために。
銃撃が止んだ。敵の弾切れだ。敵が装弾作業を完了させるまでの一瞬。その隙をついて太郎は、盾の後ろからビームガンを向ける。
「ここで仕留める。」
援軍の要請もある。ここで殺す事をためらう余裕はない。太郎は即座に引き金を引いた。
「うわああ!」
ビーム音とともに敵の一人が頭に大穴を開け、倒れた。頭から血を流した敵の目はカッと見開かれ、その目には涙が浮かんでいる。
「ん……」
一瞬、同情の念を感じた太郎。戦闘時において、敵への情けは不要だ。わずかな感情の揺らぎが、仲間を失うことにつながる。
太郎は己にその事を言い聞かせ、もう一人の敵に立ち向かう。
もう一人の敵は、マシンガンを捨て、とある装備を取り出した。
大型のバズーカ。まともに喰らえば、太郎は盾もろとも一瞬で吹き飛ばされるだろう。バズーカは装弾数が少ないため、近距離に迫られれば不利になる。それを理解して敵も今までこの切り札を使わなかったのだろう。
「あっちも一か八かの賭け事ってわけか。」
太郎はあえて下手に動かず、相手からの攻撃を待つ。敵は、すぐにバズーカの弾頭を太郎に向け放った。そのバズーカが火を噴いた瞬間、太郎は盾を投げだし横に体を転がした。敵の弾頭の着弾地点を予測し、いち早くそこから離れるためだ。
轟音と共に周囲に煙が漂う。
「やったか!」
敵の戦闘員は煙で、視界の開けない前方に注意を向ける。今の攻撃で普通なら、死んでいるはずだが、まだ動く影がある。
「しぶとい奴め!」
敵の戦闘員は咄嗟に残っていたピストルを向けた。この視界の開けない中、敵は太郎に弾丸の起動は読めないだろうと判断したからだ。
「しまった、周囲が見えない。」
敵の予測通り、太郎は動きを封じられていた。どこから銃弾を撃ち込まれるかわからないが、下手に煙から出れば蜂の巣かもしれない。今まで、何とか状況を切り抜けてきた太郎でも悪寒を感じた。
敵の戦闘員は煙の中に、狙いを定める。
「仲間の仇だ!」
一人では、どうにもならない。太郎は死を覚悟した。
銃声が響く。倒れたのは敵の戦闘員だった。
「煙から出てこい、敵はこっちで倒したぞ!」
広山だ。どうやら、敵が太郎と交戦している隙に後ろに回り込んできたらしい。
太郎はいくら戦闘力が高いと言っても、所詮は一人の戦闘員だ。ピンチの時には仲間の助けが必要である。
咳をしながら太郎は煙から出てきた。彼のまとっていた警察官の制服はやや黒ずんでいる。
「先輩、大丈夫ですか。また無茶して……」
太郎の後輩、セレナも駆けつける。彼女もグレーの防護用のヘルメットに共通の防弾チョッキをつけ、顔はよく見えない。
「大丈夫、大丈夫。何とかなっただろう。」
太郎は笑顔で答えた。彼は必死に戦っている。自らの信念と、頼れる仲間を守るため。