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レッドバード  作者: HT
encounter with idiots
27/54

5章E 屈辱の敗退

その時だった。

「ボーグ!敵だ!気を付けろ!」

「何?」

ボーグの部下の言葉にボーグは下におろしていた巨大ハンマー持ち、構えた。ボーグの仲間たちも武器をかまえ、いつ戦闘態勢に入っても構わないよう準備をする。

「バードソンは何をやっている!」

足止めに回っていたはずの部隊が、その役割を十分に果たせていない。その事にボーグは激怒した。しかし、文句を言っていても致し方ない。一瞬の沈黙が流れ、緊張が走る。

そして、次の瞬間。

「見つけたぞ!ボーグ!」

現れたのは、太郎だった。バードソンの部隊を突破し、ここまでたどり着いたのだ。

彼はボーグたちに向けてビームガンを撃ち込む。ボーグは咄嗟にこれをハンマーでこれを防ぐ。

だが、構うことなく、太郎はビームガンを打ち込み続けた。太郎の攻撃に対応できず、何人かの暗殺団員が倒される。

「好き放題しやがって!」

守り一方では対抗できないと感じ、ボーグはハンマーを振り回し太郎に突っ込んでいく。

「再び会えてうれしいよ太郎!稲垣さんは後継者に恵まれたようだぜ!」

「悪いが、お前とのイタチごっこに付き合うつもりはない。お前らが誘拐した人を取り返すのが俺の使命だ!」

ボーグはどこか楽しそうに戦闘を行っていた。しばらく刑務所にいたため、久しぶりの戦いに血が騒いでいるのだろう。

一方、太郎は自らの正義感に基づいて、彩矢の救出を絶対の使命を考えている。

「今、助けを求める人を助けられなければ、警察の存在意義は無くなる。俺達が市民の平和と安全を守って見せる。」

太郎は、ボーグの周りを動き回り、四方からの攻撃をかける。ボーグはこれをハンマーですべて防ぎきる。

「なんて鉄壁の守りだ。埒が明かない。」

太郎は唇をかんだ。このままでは動き回るだけ、体力を消費していくだけ。

彼は攻撃をやめ、瓦礫の陰から動かなくなった。一方、ボーグはこれまでの守りに徹していたが、その方針を変える。相手が攻撃してこない以上、こちらから仕留めにいくしかない。

「いつまでもちょろちょろ動き回っているんじゃねえ!」

ボーグは瓦礫の陰に隠れた太郎に、襲い掛かる。ボーグの跳躍は高く、真上からの攻撃で判断の遅れた太郎。

しかし、意表を突かれたのはボーグの方だった。

「喰らえ!」

太郎はその指で、ロケットランチャーの引き金を引いた。

「嘘だろ!」

ボーグのハンマーが太郎にたどり着く前に、ロケットランチャーは発射された。発射された弾頭はボーグのハンマーを撃ちぬき、爆炎を上げる。

「うあああああ!」

爆風で吹き飛ばされるボーグ。ビルの壁にその体は激突し、その衝撃でボーグは気を失った。

ボーグを失った暗殺団員たちは、慌てふてめいている。彼らの実力では、太郎に対抗できないからだ。

「その少女を開放し、武装解除しろ。さもなければ、俺はお前らと戦闘を行わなければならない。」

状況は太郎に有利だ。敵側もそれをわかっているはずだと考え、あえて武装解除を勧める。使命と仲間の命を第一に考えている太郎でも、むやみに人の命を奪いたくないのだ。

「それはこちらのセリフだ。太郎。」

太郎の後方から聞こえてきた声。その声に太郎は凍り付いた。振り向くとそこには、バードソンと彼によって頭に銃を向けられているセレナがいた。

「セレナ!そんな……」

「芽里太郎。部下の命が惜しければ、素直に武装解除しろ。」

バードソンは冷酷に告げる。

「俺を助けてくれた部隊はどうした。広山は……?」

太郎はほかの仲間の安否を聞いた。

「俺が倒した。お前の友人は運よく逃げ延びたがな。ここまでたどり着くのにも苦労したよ。」

太郎は絶句した。目の前にいるたった一人の男によって、部隊が壊滅したのだ。太郎と戦った段階では、太郎と互角程度の実力しか備えていないと思っていたが、どうやら本調子ではなかったらしい。

バードソンは引き金に指をかける。太郎に仲間を見捨てる選択はできなかった。

「お前の勝ちだよ。武装を解除しよう。」

太郎は持っていた武器をすべて地面に置き、手を上げた。その顔は苦渋に満ちていたが、背に腹は代えられない。

その時だった、バードソンの後方で爆発が起こる。

「なんだ!?」

バードソンが後方を確認すると、そこには1機の起動歩兵がいた。

「広山!無事だったのか。」

「太郎、今助けるぞ!」

どうやら、広山は敵に逃げ延びたように見せかけ、油断したところを再び襲撃する作戦に出たようだ。作戦の効果は絶大で最初の一撃でバードソンの後方にいた暗殺団員は全滅した。

襲い掛かる暗殺団員をキャノンで撃ちぬいてく広山。彼はいつも太郎の判断力によって、生き残ってきた。そのため、太郎に大きな感謝を抱いていた広山。しかし、その一方で広山は、劣等感も募らせていた。実力のある友人と、助けられるだけの自分。

いつまでもそんなことを繰り返すだけの日常を、変えたかった。

「太郎、今までお前に助けられてきた俺が、お前を助ける。やっと、追いつくことができたんだ。」

彼の心は、達成感を感じていた。突然の攻撃に、大型兵器を準備する間もなく倒れていく敵。あと少しで太郎や彩矢を助け出すことができるのだと。

しかし、広山はまだ知らなかった、セレナが人質に取られていることに。

バードソンはセレナの体を引き寄せると、広山に見える位置に連れて行き、耳元に銃を突きつけた。

「これが見えるか、起動歩兵の操縦士。」

「セレナ!」

人質を取られていることを知った広山は、起動歩兵を動かすことができなくなった。

「ひ、卑怯者!」

セレナの目には涙が浮かんでいた。命をいつ奪われるかわからない恐怖で声も出ないのだ。

「その機体から降りろ。従わなければ、わかるな。」

太郎も敵の隊員に銃を突き付けられ、動けない。広山にも選択が迫られた。仲間か、それとも使命か。

広山の起動歩兵は動かなかった。

太郎は、何もできない歯がゆさでこぶしを強く握る。しかし、とあることに気づき、太郎は叫んだ。

「広山!後ろ!」

「太郎?!」

遅かった。起動歩兵は爆発した。後方から音もなく近づいた、戦車によって。

そう、セレナを人質にして、広山の動きを止めたことで大型兵器を用意する時間を稼いだのだ。

「バードソン!お前!」

怒りに震える太郎。銃を突き付けていた暗殺団員に構わず太郎はバードソンに向かって走り出した。

案の定、至近距離で銃弾が放たれたが、太郎はこれをよけきる。

「まだ、人質は解放されていないぞ太郎。」

バードソンはセレナに突き付けられた銃の引き金に指をかける。

「そこから1歩でも動けば命はない。」

そう言ったバードソンだが、太郎は止まらなかった。

「セレナを返せ!」

怒りが頂点に達した太郎に冷静な判断力は残っていない。敵を倒し、仲間を救う。広山を失った後悔と、これ以上奪われたくないという願いが彼の動きをかつてないほど速くしていた。

太郎の形相はまさに鬼そのものである。バードソンさえもその姿に恐怖し、硬直するほどだった。

間に合わせる。セレナを助け、バードソンを倒し、彩矢を救出する。簡単な話だ。太郎の中には確信があった。

これ以上何も奪わせないという確信が。

しかし、銃声は無慈悲に轟いた。




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