5章B 逃げろ!
新宿。
一人の少女がビルの裏手を逃げるように走っている。彩矢だ。外出先から急いでリムジンに戻った途端、黒い鳥と同盟を組んだ暗殺団の襲撃を受けたのだ。
彩矢の足は速い方だが、ボーグたち屈強な戦闘員の前では、それもあまり意味をなさない。
「見つけたぜ,来い!」
ボーグは彩矢を発見すると仲間に大声で伝える。ドスの利いた低い彼の声に周りにいた男たちが反応する。
ボーグのような筋骨隆々のもの。道化師のような者。スーツにサングラスのスパイのような者などだ。彼らはバラバラの服装をしているが、一応、仲間のようだ。
彼らは一斉に少女を追いかける。少女は顔に涙を浮かべながら走っていた。後方からハンマーや銃を持った男たちが追ってきているのだ。
「お嬢様こちらへ!」
「木之元さん!」
彩矢はどうにか執事のもとへたどり着くことができた。執事は彼女の手を引き,用意した車に乗せる。
「お嬢様どうか御無事で。」
「ええ、さあ木之元さんも早く。」
少女は執事にも車に乗るよう促す。しかし、執事は銃をポケットから出し、言った。
「いえ、しんがりがいなくてはどうにもなりません。」
「え?」
少女は、言葉を失った。彼女が止める間もなく、車のドアは自動で閉まってしまう。
彼女は車の窓に張り付き言った。
「待って,木之元さん!」
彼女はそう叫びながらも、本心では理解していたそう,執事は一人で追手の足止めをするつもりなのだ。少女を乗せた車は発進する。
「待って,止めて!」
少女は叫ぶ。彼女は先ほどとは比べ物にならないほど涙を浮かべている。しかし運転手は車のスピードを上げる。それでも,運転手の顔も苦難と苦渋の表情に満ちていた。すべては彼女を守るため。執事は壮絶なる覚悟で残ったに違いない。
執事は追いついた追手に発砲して、応戦していた。車が進んでいき、その姿すらも見えなくなった。少女は泣くことしかできなかった。運転手もそれも一緒だった。運転手が涙をこらえて話す。
「木之元さんは死を覚悟していました。お嬢様は私がお守りいたします。」
「わかっています。でも、でも、もう嫌なんです。私一人のために、また犠牲が生まれるのですか。」
彩矢は過去にも1度、とある組織から命を狙われたことがあった。その時、彼女を守るため多くの者が目の前で散っていったのだ。
しかし、彼女がそう叫んだところで、何も変わらない。
「お嬢様、片山さんのためにもこの片山、命に代えてもお守りします。ですからご安心ください。」
運転手は絶対に執事の覚悟を無駄にしないため、彼女を守り抜こうと心に誓っていた。
それでも彼にどこか恐れがあった。少女を無事に守り抜けるか。気の迷いで見捨ててしまうかもしれない。表情に現れていなかったが、運転手の心は大きな恐れを抱えていたのだ。
そんな中、突如,運転手は 突如ハンドルを投げ出した。爆弾が車に向けて投げ込まれたのだ。避けきれそうにもない。
今、運転手にできることは一つだった。
「え!?」
彩矢は何が起こったのかわからないまま、運転手に庇われた。次の瞬間、彼女を乗せた車は爆発した。




