5章A 妙な動き
「お前ら、最近黒い鳥の動きがおかしい。」
参次郎の黒い鳥という言葉に、境川と立津人は目の色を変えた。
「黒い鳥団。俺達の宿敵だねえ。」
「好敵手だろ!今時、世界を支配することによって平和が訪れるなんて考えている連中はあいつらぐらいだしな。」
赤い鳥にとって黒い鳥団は、長い間戦ってきた相手だった。もともと同じ組織だったのだが、考え方があまりに乖離していたため、参次郎が一方的に赤い鳥を立ち上げ離脱したのだ。
「これを見てくれ。」
参次郎は指令室のモニターにとある画像を映し出した。そこに映っていたのは彩矢だった。
「市ヶ谷彩矢、財閥の令嬢。この女子大生が黒い鳥と暗殺団によって狙われているらしい。」
「なるほど、現状この子が狙われている理由はわからないんだな。」
黒い鳥は世界を支配し、すべての人に平和を与えるという壮大な目標を掲げている。
暗殺団と手を組んだ以上、資金繰りが危ういというわけでもないだろう。特にこの女子大生が狙われる理由がわからない。
「わかったぞ!黒い鳥の奴ら、モテないから清い女子大生をさらって“ピ―――”して“ピ―――――――”を入れて“ピ―――”する気だな!許さんぞ!」
(“ピ―――”の部分は放送禁止用語です。具体的には卑猥な言葉です。)
「それはないと思うねえ。」
境川の指摘通り、黒い鳥が私利私欲のために誘拐事件を起こすことは考えにくい。黒い鳥の隊員の多くは、世界を平和にするという使命感を持って動いている。
世界の支配という目的は受け入れがたいが、黒い鳥の隊員の人間性に関しては好感が持てる者が多いのだ。
「んまあ、さすがにそれだけのためにやるには大規模すぎるか。」
参次郎たちはしばらくあれこれ議論したが、結論が出ることはなかった。
「良かった。怪我はもう大丈夫みたいですね。」
ゴードンの様子を見て、少女は満面の笑みを浮かべた。
「本当に迷惑をかけてしまった。でもそれも今日で終わりだ。」
ゴードンは立ち上がると、今後のことを語る。
「また仕事を探して、必死に働いて。必ず、返り咲いてやるさ。真っ当な金が入るようになったら、お礼をさせてくれ。今は何もないけど、いつか必ず。」
ゴードンの希望に満ち溢れた瞳。それは、沈んでいた少女の心を明るくさせた。
「いいえ、私はあなたが幸せになってくれればそれで。折角手当したんですから、また大けがしないでくださいね。」
少女の忠告にゴードンは苦笑いをする。ゴードンは、戦闘の仕事ばかりしてきた。この先もその仕事をするつもりだったため、少女の忠告は守れそうにはないのだ。
「ところでさ、最後に聞いていいかな。」
「何でしょうか。」
これまで、少女に対し、ゴードンが何か聞いてくることはなかった。そのため、少し少女は緊張しているようであった。
「市ヶ谷彩矢って知っている?なんか、暗殺団と黒い鳥が探しているらしいんだが。」
ゴードンは、何か知っていたらいいな、程度で考えていた。暗殺団と黒い鳥が探している人間だ。どうせ、女子大生の皮を被った、裏社会のドン的な何かだと思っていた。
しかし、少女の反応は予想に反した物だった。体を震わせ、呼吸が荒くなっている。その目は恐怖が滲んでいた。
「どうした?なにか知っているのか。」
ゴードンは咄嗟にそう聞いた。しかし、少女はその返答をすることなく、小屋から飛び出してしまう。
「待ってくれ!」
ゴードンは引き留めようとしたが、それは叶わない。少女は逃げるようにスラム街の人込みに消えて行った。ゴードンは、少女に彩矢について聞いたことを後悔したのと同時に、嫌な予感がした。




