4章C 孤独
広間で食事をとっていた彩矢。テーブルに座っているのは彼女一人だけ。部屋には執事が一人いるが、広い食堂の中で彩矢は孤独を感じていた。
「木之元さん。ちょっといいですか。」
「何でしょうか、お嬢様。」
静けさに耐えられず、彩矢は話しかけた。
「母が雇った護衛部隊の方々をここにはお呼びできませんか?あの人たちにはいつもよくしてもらっていますから。」
彩矢の母、政子は護衛部隊を雇っている。暴力団がはびこるこの世界で、護衛は重要だ。彩矢にとってその護衛部隊の者たちは、気軽に話せる兄のような存在でもある。
「私は賛成いたしますが、奥様がなんと申されるか。」
「そう。そうですよね。お母さんは、この家に人が出入りすることを嫌っていますからね。」
彩矢の母は昔から、冷たかった。いつも仕事ばかりで、たまに帰ってきたと思ったら、学校の成績についての説教ばかり。彩矢はいつも学年トップクラスの成績だったが、政子はそれだけでは納得しなかった。
このような状況のため、学校以外での話し相手は、政子の会社に関係する大人たちばかりになった。彩矢はよく、差し入れという名目でサイフィル社本社を訪れ、会社の役員や護衛部隊などと親しくなっていた。
だが、ある時に気づいた。彩矢と親しくしてくれる人の大半は、彼女自身に興味があるのではなく、政子の娘だからこそ付き合ってくれるのだと。
そのことに気づいて、彩矢は自らの権威を妬んだ。誰も本当は自分を見ていないのだと。
だからこそ、彼女は自分自身の力で何かをしたい、そう思うようになった。権威の上に成り立つ付き合いではなく、自然と人々が話しかけてくるような、立派な人間になりたいと考えて。
「護衛部隊の方々は、私自身のことを見てくれるんです。サイフィル社の令嬢ではなく、一人の人間として。だから、あの人たちともっとお話ししたいです。」
彩矢が護衛部隊の人間を食事に誘いたいと感じたのは、彼らがほかの人間とは違うからだ。護衛部隊の面々は、気に入られたいというより純粋に一緒にいたいという思いで彩矢に接してくる。
常になれなれしいし、厚かましいが、それが彩矢にとってはよかった。作られた笑顔で、当たり障りのない話をしてくる連中とは違う。
「私も彼らのことは信頼しております。ですが、難しいでしょう。」
執事も彩矢の気持ちをよく理解していた。
しかし、あくまでも使える立場の人間なので、彩矢の願いをかなえることはできない。
雇い主は政子。彩矢が何を言っても、結局は政子の意向を組むしかないのだ。




