1章A この地獄から目を逸らすな
銃声、砲撃音、断末魔、走行音。
様々な雑音が非常に不快な騒音となって、ビル街に響く。ここで血しぶきが上がり、兵隊が一人倒れた。あちらで戦車の装甲が貫かれ、爆炎を上げる。
命をろうそくの火に例えるのなら、誰かによってひとつずつ吹き消されていくように。一瞬にも、永遠にも感じる争いの時の中で、確かに多くの命が散っていく。この惨状を一人の老刑事は決して目を逸らすことなく見ていた。
稲垣四郎。白髪交じりのメガネをかけた男だ。顔には深いしわが刻まれており、悲惨な争いの中で確かに生き抜いてきた苦労が出ていた。
彼は現在、後方で指揮車に乗り込み、部隊の指揮を執っていた。
「こちら第5部隊。第4部隊が壊滅!救援を速く!こちらもやられる。」
前線で戦闘中の隊員からの通信だ。
今、稲垣たち警察部隊は自衛隊と共同でとある敵と戦闘を行っていた。
反社会的勢力、人民解放共同団。汚職が蔓延した日本国政府を打倒し、国民の解放を掲げていた暴力団である。
この組織の本部の位置が大手町にあることを突き止めた日本政府は、国家戦力を導入し、組織の殲滅作戦を行うこととした。
「第8部隊を向かわせる。それまで耐えきってくれ。」
稲垣は通信を介して指示を送る。
現在、戦況は数で勝る国家側がわずかに優勢だ。しかし、前線では激戦が繰り広げられている。特に、先ほど通信が入った第5部隊や壊滅した第4部隊では、敵の強力な兵器によって多数の死傷者が出ている状態だ。
「このような状況には、やはり第8部隊に頼るしかないか。我々のエースがいる部隊に。」