4章A 横須賀支部
横須賀、ノースアメリカユニオン(USA、カナダ、など、北米や中米の国々が合併してできた国)の軍の基地や自衛隊の駐屯地に近いこの町に一角に、古びた2階建ての焦点がある。最も、シャッターは閉じられており、営業している気配はない。
大半の人が気にも留めないこの場所に、怪しい仮面の男が現れた。太郎がスラム街で出会った、あの男である。
シャッターの横にあるドアを開き、中へと入った男。玄関に入ってすぐのところには、エレベーターが1台あるだけ。本来あるはずの部屋へつながる廊下や、靴箱はない。
男はエレベーターのドアが開くと、その中に入る。ドアが閉まると、そのエレベーターは2階ではなく、下、つまり地下へ向かって降りていく。
どれくらい下っただろうか。エレベーターが停車し、ドアが開く。そこには奥へと続く長い一本の廊下があった。
「ああ、寒いよ~。」
仮面の男はそんなことを言いながら、長い廊下を歩き、部屋にたどり着く。自動ドアの先にあったのは、様々な機器が置かれた、広い空間だった。
「おう!お帰りだねえ。」
仮面の男に話しかけたのは、禿げ頭の男。広山が入院していた病院にいたあの医師だ。
「境川、この基地の暖房設備増設しない?寒いんだけど。」
仮面の男は体をさすっていた。彼の言う通り、この基地の暖房設備は仮眠室とこの部屋にしかついておらず、しかも効きが良くない。
境川と呼ばれた禿げ男は、あくびをする。
「別に俺は寒いのは気にしないけどねえ。まあ、参次郎が言うのなら致し方ないねえ。」
仮面の男、参次郎はどちらかというと寒がりな男だ。気温が5度を下回れば必ず風邪をひくし、夏場でもアイスやかき氷を食べようとはしない。
「ああ、くそお、いつもは本部でぬくぬくやっているのに、横須賀支部はこれだから来たくなかったんだ。」
この基地は、暴力団、レッドバードアーミーの横須賀支部。バカの居場所を守るためバカを集めて戦うという変わった組織、赤い鳥。決して大きな組織ではないが、この基地以外に、本部といくつかの支部を持っている。
「数より、性能だ。参次郎は分かっていない。」
「うるさい立津人、性能がいい奴を1台買うより安い奴を多く買う方が、安上がりなんだよ。」
立津人と呼ばれた童顔の男は、参次郎に不満げな視線を送る。立津人は、太郎が流山で会ったあの看守だ。
「まあ、どっちでもいいじゃないかねえ。それより、太郎のことだけどねえ。」
「現状では、何とも言えないな。」
赤い鳥の中で太郎は、何かしら重要な人物らしい。太郎の話題になるとこの場の雰囲気が、急に真面目なものになった。
「看守の仕事をしていた限りでは、太郎は警察の中ではエース扱いらしいぜ。戦闘能力は申し分ないらしい。」
「そうか。」
立津人の報告に参次郎はどこか嬉しそうであった。
「でも、当分は様子見だねえ。太郎は警察官、俺達赤い鳥とは対立する立場にあるからねえ。」
境川は太郎に対しては慎重に対応すべきと考えているらしい。しかし、参次郎は気にしていない様子だった。
「安心しろ。太郎は必ず、ここに来る。仲間になっても、敵になってもな。」
参次郎は確かな自信があった。彼こそが、赤い鳥のリーダーであり、立津人も境川も彼に絶対の信用を置いている。
「敵になったら、厄介だなあ。」
立津人のボヤキで、部屋の中が笑いに包まれた。




