3章D 救い
スラム街の裏路地。人気のないこの路地の奥には小屋が連なる。その小屋の一つで体を休め、傷を癒している者がいた。
「本当に死にかけたな。」
大手町の戦闘で深手を負ったゴードンである。あの戦闘で瓦礫の下敷きになったゴードンは、どうにかそこから抜け出し、この町まで逃げてきた。
しかし、歩くのでやっとだったゴードンを手当する者など現れず、この小屋についたときは、死を覚悟していた。
もともと、順風満帆な人生ではなかったが、あの時ほど三途の川に近づいたことはなかっただろう。
だが、状況は変わった。
「ゴードン、戻りましたよ。」
小屋の外から一人の少女が入ってきた。麻薬取引所での警察の襲撃を振り切ったあの少女である。
ゴードンは今、この少女に手当て受け、食料をもらっている。
「本当にいつも、ありがとう。こんな俺を助けてくれて。」
長い間、組織の仕事仲間とばかり関わってきたゴードンにとって、見ず知らずの相手を助ける少女は天使のようにも思えた。
「いいんです。私もすべての人を助けられるわけじゃない。なら、せめて目の前の人だけでも助けたい。そう思っていますから。」
少女の目は、どこか悲しげだった。ゴードンは彼女の名や身分を知らない。
自分と家族を養うので精一杯なこの町で、人助けをしている時点で貧困層の支援団体か、訳ありの人間だ。この少女は、一人で動いているようなので後者であろう。
ならば、詳細を聞くのは迷惑でしかないだろう。ゴードンはこう考え、あえて彼女の事を何も知ろうとしなかった。
「それじゃあ、ささっと作りますね。」
彼女はそういうと簡易調理機に小麦粉や水、重曹をセットし起動する。この町ではよく食べられている、カルメ焼きのような食べ物だ。最低限の穀物で腹を満たしている者も多い。
ただ、彼女の場合は麻薬の仲介業という比較的手取りのよい仕事をしているため、これだけではない。小型のガスコンロに鶏肉と切り刻んだ鶏肉とキャベツを投入し、炒める。料理は手馴れているのだろう。手際が良い。
ゴードンも手伝いたいが体の怪我が完全には癒えておらず、動けない。
「麻薬の仲介やっていたら、警察の目が面倒だろう。もし、捕まりそうになったら、俺なんて放っておいて、逃げろよ。」
ゴードンは麻薬の取引所が警察に襲撃されたことを知らない。少女は、ゴードンを不安にさせないためにも麻薬の仕事はもうできないとは言えなかった。
「そんなこと言わないで下さい。私はあなた一人だけでも絶対に見捨てたりしません。」
彼女は強い少女だ。ゴードンは、料理の準備にふける少女に微笑みを向けた。




