3章B 日常
「グおおおおお!」
「おりゃああああ!」
「何しているんですかお二人さん……」
広山の病室に行ってみると、いい年下大人二人が大声を上げて何かを開けようとしていた。どうやら、広山とギンルの二人で、ジャムの瓶をこじ開けようとしていたらしい。
「どうしてこんなにこのジャムの瓶固いんだ!」
「詐欺ですか!お見舞い用に買ってきた高級ジャムが開かないとか詐欺なのですか!」
ジャムの瓶が開かないのは、多くの人に経験があるのではないだろうか。彼らは今、その困難に直面しているのだ。
「二人で開けようとしてそれでも開かないのか。一体どうなっているんだ。」
太郎は、開け方が間違っているのではないかと考えた。しかし、彼がそれを言う前にセレナが前に出た。
「ちょっと貸してください。」
「固いぞこれ。」
広山からジャムの瓶を受けとったセレナ。蓋を回して開けようとするが、確かにびくともしない。
「確かにすごい固さですね。やりがいがあります。」
「やりがい……とは。」
太郎がセレナの言葉の意味を理解する前に、セレナは、再びジャムの瓶を開けようとする。
鬼の形相で。
「おっりゃああああああああああ!」
太郎たちがこれまで聞いたこともないような、重低音が病院を駆け巡った。セレナの周りには炎のオーラがメラメラと燃え上がる。その様子に、太郎たちは完全に言葉を失っていた。
「どりゃあああああああああああ!」
瓶の蓋とセレナの格闘は続き、彼女の目は獲物を狙う狼のように血走っていた。すると、ジャムの瓶と蓋の間を火花が散らされながら、蓋が回っていく。
「嘘……だろ。」
「二人がかりで開かなかったのですよ。一体何が……」
驚愕する広山とギンル。
そして、ついにジャムの瓶は開いた。
「ふ~。久しぶりですよ、こんな代物。」
セレナはすがすがしい笑顔で振り返った。一方の太郎たちは余りの衝撃で、動くことすらできない。
「一体、どこでそんな馬鹿力を……」
太郎が恐る恐る聞いたところで、セレナの表情が曇った。
「あれ、もしかして私。とんでもなく怖い顔していました……?」
セレナの問いかけにその場にいた男衆3名は全力で首を縦に振る。
「もしかして、物凄い声出していました?」
こちらも速攻で、首を縦に振る。セレナはここにきて、自分の行いがいかに周囲に衝撃を与えたか理解したらしい。
「いやあああああああ。違うんです違うんです。」
顔を真っ赤にして全力で、取り繕うセレナ。どうやら、今の光景はセレナにとっては見られたくないものだったらしい。
しかし、最早手遅れ。太郎たちは、強面のヤクザが、慌てて逃げだすレベルの恐ろしい光景を見たのだから。
「気、気にしなくていいですよ。」
「俺たちはナニモミテイナイ、キイテイナイ、シラナイ。」
「記憶消去、記憶消去、記憶消去……」
汗をだらだら流すギンル。言葉が片言になる広山。呪文を唱え始める太郎。
三者三様ではあるが、そのリアクションはセレナを絶望させるのには十分だった。
「いやあああああああ!」




