2章D 断行
「動くな!」
太郎が声を上げた。警察は数か月間の操作によって、ついにこの取引所の位置を割り出したのだ。
店内にいた者たちは、どよめき、その顔は青ざめていた。
「クソ!」
客たちは、太郎の言う通りおとなしく指示に従う。彼らに抵抗する力はない。
しかし、ボスとその部下たちは違った。
「ここをなんだと思っている。ここがなきゃ、ここにいる連中は飯を食えないんだぞ!」
そう、こんなところでここをつぶされては、この先、彼らはどう生きていけばいい。ボスたちにとって警察は、人の命よりも法を順守する悪魔だった。
「手を上げろ、さもなくば撃つ。」
太郎は聞く耳を持たない。国内における麻薬中毒者の数は増えている。中には、大量殺戮を行う者すらも現れ始めた。
ここで元栓を止めなければ、この先も残忍な事件は増えるだけ。人々の命を守るためには一刻も早い措置が必要なのだ。
「ふざけるな!お前らやっちまえ!」
ボスの指示でその部下たちは、警察官に向け銃撃を仕掛ける。し
かし、警察もある程度の反抗は予想しており、すぐに背中に背負っていた盾をかまえ、身を守る。
「盾の間からタイミングを見計らって攻撃しろ!いいか、状況はこちらの方が有利だ。」
太郎の指示通り、隊員たちは敵の銃弾から身を守りながら、こちらも銃撃を行う。
警察部隊と違い、突然の襲撃に対応できなかったボスの部下たちは次々に倒れていく。
「くそ、くっそおおおお!」
ボスはマシンガンを取り出し、最後の抵抗とばかりに特攻をかける。その目には警察と歪んだ社会への憎悪が映る。
その姿に、太郎はひどく心を痛めた。しかし、情けをかけることはできない。
「悪いな。」
太郎は心を殺し、ボスに向けて銃弾を浴びせる。ボスは口から血を吐くと声を出さず、倒れた。
この取引所で戦闘可能な者は全滅。一方、警察側はほぼ無傷である。太郎は、死体となった、ボスに近づいた。
「本当に悪いな。お前らが麻薬業者以外の道がないことは知っていた。だけど、麻薬はやはり根絶しなればいけない。いつか、こんな歪んだ社会が終わる日を静かに祈っていてくれ。」
太郎は、結局のところ、冷徹な戦闘ロボットにはなりきれない。任務の中で殺してしまった相手の顔を忘れることはできないし、その命を奪った罪悪感から逃れることもできない。
だが、太郎には大切仲間がいる。広山、セレナ、稲垣。ほかにも多くの警察隊員たち。
太郎は市民と彼らを守るためなら、心の凍らしてでも敵に銃口向ける。仮にそれが義に反する行いであったとしても。
取引所にいた客は全員が逮捕され手錠をかけられていく。
「あとはあなたですね。」
セレナは、先ほどの10代後半の少女に手錠をかけようとする。
しかし、咄嗟に少女は後ろに飛ぶと、ナイフを取り出した。
「無駄な抵抗はやめなさい!」
セレナも対応してピストルを取り出すが、少女によって投げられたナイフによって弾かれる。
そのまま、セレナの腹部にパンチを食らわせ、セレナを気絶させる。周囲の隊員が発砲するが、セレナが邪魔で威嚇射撃しかできない。
この状況に気づいた太郎は、急いで向かうが、捕まえることは出なかった。そのまま少女は出口で走り抜けると、屋根へ飛び乗る。
太郎が、出口にたどり着いた時にはもう遅く、少女は姿を消していた。
「逃がしたか!」
太郎は唇をかんだ。




