2章C 取引所
日本では大型化した暴力団の多くが麻薬の使用、販売に否定的である。組織が大型化していくほど、無茶が利かなくなり真っ当な組織になっていく。
特に日本最大の暴力団、暗殺団の目的は市民の平等の実現。この組織の存在に怯え治安の安定している地域も多い。
しかし、このスラム地域に大型組織は存在しない。様々な勢力が対立する無法地帯である。よって麻薬取引所も周囲により大きな物となっている。
スラム街の一角にあるバー。日中は、この地域で職にありつけた者たちが集うたまり場となっている。しかし、夜10時にもなると、ここは別の一面を見せるのだ。
「お前ら、今日は大量入荷だ!どんどん買って行け。」
黒い肌に禿げた頭。このバーのボスが、ドスの利いた声で呼びかける。
「おっしゃあ!今日も助かるぜ!こいつがないと俺たちは生きていけない!」
「そうだよ、この人のおかげで俺達は食わせてもらっているかな。」
ボスの声に呼応して、上機嫌に話す者たち。彼らは、ボスにユーロを渡し、白い粉の入った袋を受けっとっていく。
このバーのもう一つの一面。それは、この地域最大の麻薬取引所だ。
このボスの人相は悪人そのものだが、内面はあくまでも一人の経営者だ。
異常な値上がりを見せていた麻薬市場に、ありえない低価格で殴り込みをかけたこのボス。最初は同業者から目を付けられ、店も潰されかけた。
しかし、麻薬市場の高騰に歯止めをかけた彼の功績から、様々な人間が彼の店を守った。結果的に今では、この町最大の麻薬取引所に成長した。
「この薬を実際に体の中に入れる奴らの気分はわからん。だが、この薬が安くなったことで、需要が増え、この町にいる仲介業者が潤うようになったんだ。」
そう、この町には大金持ちから裏ルートで麻薬の仲介を行う者が多い。仕事にありつけないこの町での貴重な収入源である。
彼らの生計を成り立たせるためにも、このボスはできるだけ安く麻薬を卸している。
ボスが中心となって、麻薬取引が進む中、一人の少女がその中に現れた。
10代後半の見た目をした、端正な顔立ちの少女だ。長い髪は後ろでまとめられている。
「おじさん、いつものお願いします。」
「え?ああ、お前か俺は今手が離せない、そいつから受け取れ。」
ボスの指示で彼の部下が現れ、少女に麻薬の入った袋をわたし、金を受け取る。
「いつもここには助けられています。また来ますね。」
少女はそういうと出口に向かう。彼女のように、犯罪とは縁がなさそうな物でも麻薬の仲介を仕事にしている場合は多い。この町の厳しさがにじみ出ている。
そんな時だった。
数名の警察官が銃を構え取引所に突入してきた。




