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65話 反撃開始

――鉄沓公園――


「何奴っ!」


 ここに居た者をほとんど屈服させたディラガエッセは、木々のまみれる山の麓を向く。地は舗装され、その上を悠々走る紫色の巨大な機体、ボーンインザパープルが煙をふかしてこちらへ向かってくる。


 公園のグラウンドの入り口に滑り込んだボーンインザパープル。その上に乗るミドラッシュは操縦桿、といっても飾りのようなものだが、を握りしめ、足を素早く動かして体勢を立て直す。


「ザラキエル・シルド、吹き出せ」


 ディラガエッセはこれを見るや否や、盾を投げつけ回転させてミドラッシュの乗る操縦席にぶつけようとする。あまつさえその盾は瘴気を吹き出し、周囲に毒を撒き散らす始末だ。


 もう少しで操縦席、というところでミドラッシュは腕でその盾を撃ち返す。しかも、この腕というのは錆万装を装備した腕ではない。わざわざ錆万装を外して、素手で打ち返していた。腕は白い肌に対し部分的に黒く染まり、まさしく星蝕者の毒を受け止められるような混沌さだ。


「そうか、まさか」


 ディラガエッセは何かを悟ったような首の動きをすると、ブーメランを投げた後のように盾を掴む。そして、わざわざミドラッシュに歩み寄るような姿勢を見せた。


「見張るぞ目を、その技術。なりはしないか、仲間へ我らの」


 ここに他の人がいれば、突拍子もない反応に見えただろう。人間を星蝕者が仲間に迎え入れようとするなど、ありえない現象だからだ。


 しかし、ミドラッシュはこれを一笑した。


「悪いけど、私はこの地を育む者を好んでいてね。その地を踏み荒らすような輩に手を貸すつもりはないんだ」


 そうしてミドラッシュは再度錆万装を接続し、シャベルを取り出すと、前進して振り回す。しかし、ディラガエッセは頑強な盾でこれを受け止める。そして、シールドバッシュの要領で、弾き返して相手の武器をひん曲げようとした。


 それを読んでいたようにミドラッシュはシールドバッシュのタイミングと寸分違わず力を抜きシャベルを後ろに下げると、地面に近づき体の後ろまで届くほどの大振りにシャベルを振りかぶり、足元に一撃。シールドバッシュがあくまでも腕のリーチまでしか届かない故のカウンターだ。アーマーに覆われているはずのディラガエッセでも、この衝撃には少し驚いてるように見える。


「だが覆らぬ、勝利が、一方的な!」


 ディラガエッセは盾を軽々持ち上げ、天に掲げる。そして、それを相手の操縦席目掛けて振り下ろした。


「我が盾は魔手シルドオブデーモンハンド、ひしゃげろ」


 しかし、それすらもボーンインザパープルは腕で受け止め、せいぜい機体にヒビが入るくらいで済ませた。よく見るとその入ったヒビには紫色の液体が染み込み、漆喰のように継いでみえる。


 そして、ボーンインザパープルはそれを打ち返し、鎧のディラガエッセを仰け反らせる。そのまま鎧に向かってシャベルを突いた。


「受け止めよう、わが肉体でこの程度」


 ディラガエッセは防御の体制を取ろうと、黒き液体をその部位に集中させようと全身を波打った。しかし、ミドラッシュのシャベルは奴の予想より早く身体に到達し、突き刺さる。ガードを固めようと力を抜いてから緊張させた故、よりダメージは大きくなり、彼の鎧は破壊されて内部の皮膚のような滑らかな部位が丸見えになった。


「伸びたのか、その取物が!」


「リーチを見誤りすぎではないかな、我が紫万は伸ばすなど造作もない」


 しかし、いくらミドラッシュが余裕綽々とはいえ、いまだ鎧の黒騎士は底を見せない。奴は地面についた盾の先端を持って振り回し、大回転をした。


「まるで竜巻、いやtyphoonとでも言うべきか」


 どこか人ごとのように眺めるミドラッシュは相手の動きを観察する為冷静に奴を見つめた。ここまで近づくにはあと5秒程度、いや、もう少し伸ばせるか、その間までに策を練る、そう考えていただろう。


 急にバックステップで距離を取ったミドラッシュ。すかさずディラガエッセはそれを追う。いくらなんでも身体能力の差は歴然。ディラガエッセが追いつくのには時間はかからなかった。


 しかし、追いつく直前というタイミングでミドラッシュは振り向き、そのままの勢いでボーンインザパープルのシャベルを黒騎士の頭へ火花出るほどの強さで叩きつけた。


 回転の勢いは徐々に失われてゆき、黒騎士は、仮面の中こそ見えないもののその兜を大きく傷つけた。


 周囲には今まで取り囲むだけであった星蝕者の群れが、じわりじわりと距離を詰める。しかし、その星蝕者が数メートルの範囲に入った瞬間、押しつぶされて戻らなくなる。いや、ただの毒性の液体と化してしまったようだ。


 不思議がってその様子を見るディラガエッセに、ミドラッシュは答えを惜しげもなく言う。


「これは紫万の液体を注入したことにより、星蝕者を再構築したんだよ。効きもしない安物の漢方薬に比べれば、間違いなく効果的だったらしいな」


 この状況は、未だ星蝕者住む歪鬼宿イビルオニヤードの有利な状況は変わっていなかった。しかし、ディラガエッセは幾つ未来を見たか、納得したように引き上げの合図を出す。


「頃合だろう、そろそろ。しよう、引き上げると、皆のもの」


 集まり固まった星蝕者どもは、公園の端から端までずらずらと現れ、巨大な円盤に不思議な力で吸い込まれて行く。ミドラッシュらは、この吸い込みの力に堪えることで精一杯といったところだ。そして、その円盤の穴からホバークラフト程度の飛行艇が、ジェット機のような速度でにディラガエッセの前まで来ると、空中にある状態のまま奴は飛び乗り、空の穴に去っていった。


 一気に空気が澄んだこの公園、しかし、多くの怪我人や死者の集まる血生臭さまでは拭えなかった。


「援軍、今参りました!」


「遅かったじゃないか」


「あっ、世界栄鎮の方……」


 援軍に来た特殊部隊の男は、やや無骨で個性のない鈍色の錆万装を纏っていた。他にも、似たりよったりな機体が、続々と公園に突入する。


「しかし、貴方はなぜこの公園にいらっしゃるのでしょう?」


 真っ先に来た援軍の男は、ミドラッシュに純粋な疑問をぶつける。それに対して、ミドラッシュは明快に答える。


「それは、この辺りに私がアトリエを構えているかさ。私の行う産業には、どうしてもこの辺りの地質が必須でね」


 そして、錆万装のハシゴを降りると采配を振るうように、公園に倒れる人々を指刺す。


「それよりも救護班はいないのか? 今は戦力より、手当のできる人間を評価しているのだよ」


 そう言われて、特殊部隊は人手を集めて各所に担架を走らす、その中には長き戦闘で疲れ果てた江沢やザキュントスの姿もあった……。



――豊翼大橋――


 ブレスタと鈴木美奈萌の操るコメッツ・バスタードナイトは、大橋に撒かれた歪鬼宿の戦力を大きく削いでいた。


「もうだいぶ倒したはずだぞ……」


 口から炎吐き続けるブレスタは、早く終わってほしい願いからかまばらになった星蝕者の群れを見渡す。そして、その目には星蝕者をばったばったも切り刻む刀の姿が映っていた。彼女はつぶやかれたその言葉にも反応も見せずに、橋のアーチに足の固定するための部品で捕まると、橋の根元に居た星蝕者に刀を入れ、すっと押すようにして切る。普通は斬撃はそこまで効果のない星蝕者だが、その中にも揺蕩う液体を張るための筋のようなものが存在している。彼女は、それを迷わず綺麗な断面で切ってしまうのだから神業だろう。


 しかし、そんな風にしてまるで貴族の狩りのように無情に殺戮を続けていた鈴木の顔が、明確ににやけるのがわかる。向く方は橋の奥、中心街から遠い方向。確かに巨大な演劇の舞台が、車みたいにして突っ込んでくるように見えた。そして、その上にはいかにも飛び道具で狙ってくれというように、一人の人型の星蝕者が、武器を構えて立っていた。その地にも届くほどの長髪は光も通さない漆黒で、肌も暗黒色、しかし、その目鼻立ちは白く、逆にその美しさを醸していた。


「多分、今までの星蝕者は比べ物にならない。あれに侵入されたら終わり。早めに仕留めるよ」


 そう言い終わるよりも早く、鈴木のコメッツ・バスタードナイトは橋のアーチを飛ぶようにして蹴り続けて向こう岸に渡ろうとする。あっけに取られたブレスタは、ついて行こうと必死になって走る。


 このままあの幹部級の星蝕者が走り続ければこの橋まで到着に2分弱。こちらから向かっていけば、もっと短い時間で奴に遭遇するだろう。奴の乗る巨大な舞台は幅を取るようで、ばったばったと街路樹を薙ぎ倒していく音がする。


 ブレスタが追うのを諦めて、引き返した頃だが、すでに星蝕者は広い道路の1kmほど向こうに視認できた。そして、その左前には鈴木がビルを蹴り、相手の乗り物の広い幅を生かして前に前に蹴り、敵のボスのいる頂上を目指そうとした。前進しながら進む機体に乗る幹部級も、決してマヌケではなく、空を飛ぶ羽虫のような機体を見逃さずに薙刀のような武器を構え左側に走り寄り、その取物を振りかぶる。


「するか、邪魔を、前進の我らへ。相手どろう、サファロ・レイラットナーキリ、私が!」


 液体が混じったようなくぐもった声ではありつつも、力強い女武者のような声だった。


 弱き虫を叩き潰すかのように、力強く薙刀が振られる。その場所は、先ほどから斜めに壁を蹴っていれば鈴木が辿り着いていた場所だった。しかし、手応えがなかったようで、サファロと名乗る星蝕者は薙刀を確認する。


「いないだと、斬れて!」


 地面を見つめるサファロ、その予想は当たっていたか、やや後ろ、高速で前に進む乗り物がトラックだと仮定すると、位置的には荷台の辺りへ鈴木が刀を突き立てると、真っ直ぐに切断しながら地面へ落ちる。はなから敵のボスを叩く気はなかったようだ。


「気づいたか」


「これ、本体叩いただけでダメージでしょ。星蝕者を固めて作ってるんじゃない?」


 やがて走り続けて橋の手前まで辿り着いたサファロの舞台は、進撃を止めない。それに追いつくようにして鈴木美奈萌の錆万装が駆ける。どちらも極めて早く、星蝕者側から手を出さず、中心へ走ることを優先していることもあって、並走の形をとっている。


「竜の人! 橋の上から炎!」


 刀で車体を傷つけつつ、急に鈴木が遠くから声を張る。彼女がそういう性格をしていないように思っていたブレスタは、言葉の意味を理解しようとしたが、彼は、そういう頭の回りは遅かった。


「橋の上って、流石に登れないぞ!」


「そうじゃない、そこ、階段!」


 刀を振り、刺した先には橋の橋脚には、点検用のエレベーターがついていた。


「でも、あの階段は専門の人じゃないと入れないだろ!」


「さっき、見てきた、扉一枚隔ててるだけ、橋のレールを乗り越えれば、行ける!」


 もう橋に入って来てしまった星蝕者の集団、ブレスタは腹を括り、近くにあるレールの上に登る。しかし、扉一枚隔ててるだけとは言っているものの、その隙間はせいぜい窓程度しかない。竜種と見ると小柄な方とはいえ、ごつい鱗の体をした自分には少し厳しいかもしれない、そう判断したブレスタは、急遽扉の前まで走り、前にした段階で拳を振り抜いた。


「だぁっ!」


 扉は一応鉄でできていたものの、その拳一発であっという間に向こう側に倒れ落ち、ブレスタはすかさず階段を登る。足で踏んだ床の金属音がリズム良く鳴り響く。


 その間も鈴木美奈萌は黒の舞台に無駄のない動きで刀を刺しては、走りながら斬りつける、これを繰り返していた。


「大分台座の背も低くなったんじゃない?」


「減らず口を!」


 何度も台座を削られるサファロは、その上から鈴木目掛けて薙刀を構える。舞台が低くなったは、逆に長い薙刀が届く可能性が出て来たということだ。


 ついに、舞台は橋の真ん中までたどり着く。ブレスタも橋脚の頂上に辿り着いており、準備は万端だ。


「しまったな」


 しかし、ブレスタは誤算を生じていた。星蝕者の舞台はすでに削られすぎており、かなり低い位置になってしまっている。最初の状態なら上から吐いた炎が届いたかもしれないが、この状況だと相当怪しいところだ。


 彼はポケットから何かを漁る。中にはクシャクシャになった鉄芯華錆万装舞踏のパンフレットが入っていた。これを見て、ブレスタは閃いた。


「これを投げつければ、いけるか」


 ブレスタは口で火打石である歯を噛み合わせ、油をあらかじめチラシに吐くと、くしゃくしゃに丸めてそれに向かって口から火を吐く。燃えつきないように、慎重に。


「くらえファイアボール!」


 燃えた状態で全力で投げられた紙クズは、ちょうど真下まで来た舞台の上へ落ちてゆく。その下は丁度敵のボスであるサファロがいた。


「っ、何だ!」


 しかし、相手もバカではない。サファロは舞台下の鈴木に手を焼いていた中、ようやく上から振る危険物に気がついた。そして、振り向くと薙刀を大回しして、その炎の紙クズを弾いた。


「ああっ、防がれた」


 しかし、防いだ紙クズは決して大きくは跳ねなかった。そのまま舞台の端っこに落下し、炎を燃やす。無論その足元は鈴木の分析通り星蝕者の塊。その炎上は大きく広がり、大火事レベルになった。サファロはそれを鎮火しようと、その剛腕で何度も薙刀で風を起こす。


「小癪な、仕方ない、ならば」


 そこでサファロは薙刀を振り回すのをやめると、突然空中に飛び出した。そして、空で前転を決めると、正面に踵揃えて着地する。そして、そのまま道路を自力で爆走しだした。


「逃がさないっ!」


 敵の突然の思い切りに、二人は一瞬ふいをつかれたが、鈴木の方は、すぐさま追いかけるために錆万装を走らせ、飛ぶように動き、刀を空に掲げた。まるでスキップが派生したかのようなその動きは、身軽な機体のコメッツ・バスタードナイトだから出来ることだろう。


 しかしその錆万装は、急に足を折り曲げたまま、前に進もうとしなくなってしまった。


「しまった、ガス欠……!」


 コメッツ・バスタードナイトは、燃料タンクをジェットエンジン用と本体を動かす用で分けてある。そして、ジェットエンジン用を取り外した今、燃料タンクの大きさは軽量化のため小さくなっている。無論、決して燃費の悪い機体ではない。むしろ軽量なため、ジェットエンジンを使わなければわずかな燃料で動かせる部類だろう。ただし、鈴木美奈萌は、本日にこのような激しい戦闘の機会を想定していなかったからか、燃料補給を忘れていた。おかげで、完全に動きを停止してしまったのだ。


「このままじゃあ、追いかけられない、か」


 鈴木は離れていくサファロを目で追っていくしかできなかった。あまりにも速すぎて、走って追うのも無理があったからである。このまま行けば中心街、その前に大熊門へ行くだろう。やれやれ、といった反応の鈴木は合理的な飾りっ気のないカバンから、端末を取り出し、どこかに電話をかけた。


「はい、ああ、ミナモ! 今どこにいるのかい〜?」


「大志、そっちの方にやばいのが一体、なんとかなる?」


「えっ、いきなりすぎじゃない〜? 具体的にどんくらいやばいのさ?」


「よろしく」


「ちょ……」


 一方的に電話を切った美奈萌は、橋の上を改めて眺める。さっきよりかは星蝕者の消滅で開けているが、未だこそこそと星蝕者はこちらに近づき、侵略を成そうとしてくる。


「あとは、こいつらをどうにかするかな!」


 彼女は像と変わらなくなってしまったコメッツ・バスタードナイトから手に握られた刀のロックを外し、引っ張り出す。人間が握るにしては大振りで、大の大人でも振り回すには苦労しそうだけど、迷わずそれを握って構える。


「……仕方ないか!」


 ブレスタは高い位置から飛び降り、風を切る。地面に落ちた音はビル一棟分ありそうな高さと鱗の割に柔らかい。なぜならば足裏からふくらはぎ、太ももと体の上へ上へ着地するようにずらしていく5点着地で地面に降り立ったからだ。


 そのまま体の調子を試すため足を踏み鳴らす。彼らの見る先の星蝕者はおおよそ10数体といったところ。群れに刀振り翳し突っ込む鈴木の後を追い、ブレスタも炎を口から吐き戻して威嚇した。この殲滅は決して長くはならなそうだ。

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