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62話 機器怪塊

――鉄芯華国中心街 大熊門――


 大熊門は鉄芯華中心街の中でも平地が多い地域だ。それ故、星蝕者がわらわらとくる様子が目に見えてわかる。


 そこに、太く短い足を踏み鳴らして来た錆万装があった。丸っこいが手足のそれぞれが太いボディは小さい印象を与えるが、その全長は意外と大きく、建物2階に差し掛かるくらいはある。機体からは、黒、しとしとと油が漏れているが、変わらず動く剛健さだ。彼は、星蝕者を腕についた円形の鎌のような盾のような、ただ丸になることを補助するような部品で殴りつけている。


「地平線を埋め尽くすほどの黒い影、見えているからこそ、萎えてくるね〜」


 彼はまだ余裕そうにしているも、実際は連戦に及ぶ連戦で動きに鈍りが出て来た。現に、今も攻撃を当てようとしても、妙に足もとがふらついて外してしまっている。


「しかし、お前も錆万装使いだったか! 大会に出ぬものにも実力者あり、侮れぬ!」


 ンドロード王は、わざわざここまで来て、この戦いを視察していた。その顔は満足げでありつつも、流れくる星蝕者には睨みを利かせていた。


 複数の星蝕者が固まり、錆万装を囲うようにして1列を形成しつつあった。前方後円墳に近いその形は、殲滅にはふさわしい形だろう。それは、どちらにとっても。


「そろそろ動くか」


 長らく機体の椅子に座っていた種市は腰を上げ、操縦桿に手を伸ばす。乗っている錆万装こそ、大会で使用したバイエンDとは異なるが、大会で惨劇を引き起こした焼熱砲、南蛮制圧砲は背負っている。


「その機体、案外動けるだろ。ちょっと暴れてどこかに行けるか」

「ちょっと待ってくださいよ、避けることは出来ても、この平らな場所であれを打つのはまずいですよ〜」


 確かに平地で、斜線に失って気に病むものが何もないなら、この砲は至高のものだろう。しかし、ここには少なからず避難者もいる。無闇に撃つのは、それこそあの時の繰り返しになる、彼はそれを危惧した。


「いいからやってみろ、格好のチャンスを潰すわけにはいかない!」


 丸機体の彼は首を縦に振らず、同意をしかねた。おのずから種市が砲の溜めを始めると、彼にもさすがに身をのけぞらす。


「そうだったね〜、奴はやる」


 星蝕者の苛烈な攻撃に、丸機体はそれらを無理矢理体で推しのいて回転するようにして突進する。それは、さながらアルマジロ。しかし、攻撃に転ずる激しさは、ボウリングの球のようだった。


 砲も打ち込めるであろう頃、種市は急に飛び上がる。そして、低空から斜め下に向け、轟音と共に炎が広がる。しかし、扇形に広がる炎は、ほとんどが地に吸収された。逆に、星蝕者のほとんどは、この急襲に焼き尽くされる。


「うわぁ、やっぱり恐ろしいよね〜」

「こうやって地に向かい撃てば範囲を狭めることもできる」


 種市はしゃがみ、天に登る硝煙を見て仕事をしたことを明確にする。ほとんどの星蝕者が焼き尽くされたことにより、次の襲来までしばしの余裕が出来る。


「やはり、あの威力。侵略という意味で言えばどれほど恐ろしいか。それと学生の丸い機体も、その形を活かした動きもできる。天晴れ、というべきかな」


 感心するンドロードの目先、種市は丸機体の彼の方を覗く。


「お前、その機体、油漏れてるが大丈夫なのか?」

「多少の漏れは誤差ですよ〜。バスのダイヤも、10分くらいまでなら誤差でしょう?」

「……上手いような上手くないような例えだな」



――工業地帯鉄囲炉裏地域――


 山の麓に栄えるこの辺りの工業地帯は鉄脈重工、つまり鉄家の管轄だ。避難も済んだのか人気はあまりなく、普段ならうるさいくらいの機械音は、茶道のような静寂を帯びていた。


 静寂の分、地を蹴る音は逃せぬものだ。一人のデニムの羽織を来た女性が、懐に人を抱え駆けてくる。息も切れてきた彼女は工場の入り口に一人佇む小さな影を見つめると、疲れも毛ほども知らぬような安堵の顔になった。


「やっぱり、ここに来てたんだね。レア」


 レアはアイスミッドに振り向くこともせず、ただ工場の搬入口を見つめていた。


「ふと思ったんだ、黒い機体をたどって行ったら、どこにつくんだろう、って。けど、ようやくわかったぞ!」


 搬入口から出て来たのは、メカ、メカ、メカ。錆万装が山のように現れた。しかし、その錆万装は黒く、油を被ったような見た目して、ベタつきが地面に垂れる。そして、パイロットはおらず、その挙動は酩酊したようにどこか安定を欠いている。それはまるで、吊り糸に操られる人形が、そのままの動きを覚えて生き人形となり糸から解放されたが如くだった。


 その機体はレアに向かい、不気味に距離を詰めつつあった。威圧するようなその編隊は、やがて壁のように立ちはだかった。


 レアは何かを探すかのように、おろおろと周りを見る。そして、目に入ったのはアイスミッドとぐったりとしたモーンレッドの姿。彼女はレアの様子を見て、全てを察した。


「大丈夫さ。ここならなんの心配もいらないよ。やっちまえ、レア・ジェンキンス!」

「……わかった!」


 レアは腰をかがめ、見上げるような形で錆万装もどきの星蝕者を睨む。相手の星蝕者は殴りつけるように手を伸ばす。


 すると、機体とレアの間の空が靡いた。光は虹の色に反射し、あたかもその空間には何かがあるようだった。


 星蝕者は手を振りかぶる、その時に手は切り離されたように音を立て落ちた。奴はそれに気がつくこともなく空振りしたから、隙だらけだ。


 瞬く間に相手の本体もぐらつくと、中心から折れて崩れ落ちる。そのエンジンの内部からはネジがいくつもこぼれ落ちた。


 しかし、それでもほかの星蝕者機体が簡単に補い、編隊は崩れない。侵略以外の意志を持たない星蝕者はレアを覆い隠してしまう。


 しかし、その機体は皆、次の瞬間には四肢エンジンが別離し、多量の金属片の落ちる音だけがした。


 ネジは空を蝶々のように舞い、レアの手元まで引き寄せられる。その引き寄せる空間の間には、糸のようなものがあるように見える。ついに辿り着き握りしめられたネジはなんの変哲もなく、黒くもないただのネジだった。


「これがレアの『ねじ式』だもん! ねじることには誰にも負けない! さあ、何体いるのかしらないけど、全部分解してやる!」


 工場の奥からは、幾つもの錆万装が星蝕者色に染まり出て来た。しかし、レアの自信満々な態度に、改めてアイスミッドは胸を撫で下ろした。



――鉄芯華中心街 豊翼大橋――


 この橋は、鉄芯華中心街を流れる中で最も幅の広い川であり、この地域、この気候にとってありがたい水源である。橋は鉄脈重工渾身の一品となっており、大きさは最も陸と陸とが離れた部分にある分巨大だが、氾濫の多いこの川でも落ちたことはない。もし落ちても彼等ならすぐ修復してしまうだろうが、それだけ、この橋は重要な生活道路なのである。


 その橋の上、陸よりかは狭いこの場所は、多くの星蝕者にとって外と中を繋ぐ気道とも言える場所だ。奴らにとってこの場所を通ることは絶対で、出行く影はまさに闇そのもの。


 しかし、決して橋の外に出られる影は少なかった。ひとつの影は橋を渡るため、真っ直ぐに陸へ向かっていた。しかし、その脳天は氷をアイスピックで突くかのようにあっという間に刃物の餌食になる。そして、音もなくその暗殺者は次の獲物に手をかけ、一体の星蝕者がマカロンのように中割れし、次の星蝕者は梨割にされた。


 まるでありとあらゆる倒し方を実験しているような錆万装は軽装ではあった。しかし、まるで元々は後ろに巨大なものが載っていたかのように前に重心を寄せている。そのパイロットは刀を逆手に持ち何度も切りつけつつも、笑みを浮かべていた。


「嘘でしょ、やっぱ無理だよ。こんな本気の戦い、心臓が耐えられない!」


 その言葉は真実か否か、確かめる間もなく星蝕者は触手のように長い糸を張る。それも、紡績のように、何体もがその動きをして見せた。斜線にいた鈴木のコメッツ・バスタードナイトは、その全てが避けられる場所を定めると、飛び退き、橋の上部構造に捕まり、そのまま虫が飛びつくように相手の頭を踏みつけ、同時にその内部を抉り出した。


 その様子に一人の少年が口の炎で星蝕者を焼き払いつつも、ひそかに眉間に皺を寄せていた。相手のその舞う刀捌き、それによりいとも容易く切り刻まれる意志を持たないとはいえ生命……。


 あっという間に殲滅が終わり、腫瘍のような奴らからひとまずの距離は取れた。地に足つけず、舞いながら殺陣を行うよう見えた鈴木は、凪のように静かに足を平らにすると、すかさずその頭に石乗せた竜種の少年ブレスタが怒りを押し殺し彼女に近づいた。


「その刀捌き、狩人か」

「狩人って? ああ、こいつらを狩る様が狩人っぽいってことね。それで?」

「星蝕者だけじゃない、多くの生物を屠ってきたんだろう。その中に人型と姿をしたやつはいたか?」


 すっとぼけた顔をする鈴木に、ブレスタは歩みを進めてまた追求する。この追求にもなお鈴木は何も感じてないようだった。


「人型? 人の命を奪ったら捕まっちゃうでしょ?」

「人と認識していない奴はいくら手にかけてもいい、狩人は皆こういう思想だ。あんたの言うことも全く信頼が……」


 ブレスタは気づいて身を仰け反らす。その首元には刃物。刃が掠った首は鱗が一枚剥がれた。


「こいつ、まさか本当に……」

「竜種だの狩人がどうだのわからないけどさ」


 鈴木は自らの錆万装で間合いをあっという間に詰めて、その首元を狙ってみせたのだ。彼女は機体に乗ったまま、彼にひどく冷淡な目線を向けた。


「あまり私の間合いに入らないでよ」


 その声は恐怖をそそられ寒気を覚えるほど低く、身を引いたブレスタは思い出した。こいつはまずい、狩人がどうこうじゃない、竜種だからとかじゃない、人を殺めることに何ら躊躇いない、精神的怪物だ……と。


 次の瞬間、彼女のこちらを見つめていたその目は、急に柔和になると、先程の殺意の刃が嘘のように、手を差し伸べてきた。


「ほら、今はそんなことしてる場合じゃないでしょ? あなたの炎は退治に役立つかもしれない、素直に、協力してくれるよね?」


 ブレスタはこの恐ろしい相手に、今は従うしかないと、強がりつつも震えながら手を取った。

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