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57話 鳳雛は休まず

「それでは、空実ちゃんの勝利の祝杯と、決勝の祈願も兼ねて、乾杯!」


 空実さんのイッツローファイをしまうガレージ近く。時間としてはまだ昼下がりだが、皆は真慈さんの合図を始めに、宴を開いていた。今日の空実さんの試合は終わり。明日の決勝ですべてが決まる。一見緩みつつも、白岩家は気は抜けないだろう。


「いやはや、ありがとうございます。わざわざ私達をご招待いただき」

「いやいや、わたしとウェストウッドちゃんとの仲じゃない? このくらいはわけない、ってことよ」


 わたしの感謝に、真慈さんは、手を招き謙遜して見せる。真慈さんは赤いリボンのついた黒いドレスを着ていて、あいかわらずおしゃれだ。


 軽くテーブルを組み立てただけの、簡易的な食事会。わたしは、皆をここに連れてきた。ゆかりさんも部外者だし、誘いをかけてもそこまで迷惑になるわけにはいかないと言ってたけど、挨拶も兼ねてとわたしが言ったら、付いてきてくれた。


「ところで、空実豪士はどちらデス?」


 ゆかりさんは、隣に座っていた先に声をかけた。先はゆかりさんを見ると、少し目を逸らし、なんとか目を合わせようと努力しながら話し始めた。


「えっと、ああ、兄貴ならここに来てからはずっと錆万装の修理をしてるな。あれだけボコボコにされたんだ仕方ない、かな?」

「それはすごいデス!」


 先は、目の前にあったオードブルのチキンを食べようとするも、どうにも食が進まないようだった。そんなに次の試合が心配なのだろうか。


「しかし、先ほどの試合は、久々に暑くなったじゃんね。心の中に火が灯るような……」


 シドは前のポテトに手を添えつつ、自分から話を始められるくらいには心に余裕ができたみたいだ。それだけの試合を繰り広げられたのは、あの大会では空実さんとレアにしかできなかったのかもしれない。


「このポテトおしゃれな塩使ってんじゃん♡ 生意気ー」


 パイパーはポテトを持ちながら、甘いジュースの垂れた紙コップを左手で持ち上げた。


「この塩は鯰園ねんえん街でとれた塩と、トリュフを混ぜた美しきものです。このように褒めてくれなくては困りましょう」


 中さんは、ボトルに入った飲み物を注ぎつつ、詳しく原材料から話してくれた。


 日の当たる方から、アイシャが呆けたモニーと共に戻ってきた。流石にレアは連れてこなかったけど。そうして、この昼間からカクテルを入れる真慈さんの前で手をかざして礼をした。


「遅れて申し訳ないね、レディ」

「前も気になってたけど、あなたも随分とお洒落なのね! こんなにかっこいいなら、きっと男装とかも似合いそう! それに、隣の子も」

「ありがとう、レディ。興味が湧いたよ」


 わざわざこんなことを真慈さんに対して話すものだから、ノリに乗ってしまった。


「ふふ、おしゃれー」


 モニーは明晰さは薄れた、いつものモニーだ。


 この話題、多分、アイシャは合わせている。本当は以前から男装の経験はあると、わたしは知っているからだ。少し、何処かに預けられていた時の話、だったっけな。


「と、ところで」


 何か聞こえた気がした。か細く、くぐもった声だ。その声の主をよくよく考えてみれば、杖持つ少女のキエロで間違いなかった。


「どうした?」

「いや、邪魔しちゃうと悪いかな……て」

「そんな気にしなくてもいいのに!」


 わたしはキエロの肩を平で叩く。すると、こう言ったコミュニケーションには慣れてないのかキエロはよりすくんでしまった。ううん、何か間違ったかな。


「話したいことはある?」

「そろそろ次の試合が始まる……じゃないかって」


 急いで時計を見ると、もう13時30分を回っている。しまった、もう試合は始まってる!


「ここまで来たのに、テレビで悪いね、ウェストウッドさん」

「途中からだけど、見ようか……」


 幸い、ここにはテレビの設営がある。現場ほどではないとはいえ、迫力のある映像ではあるはずだ。確かこのチャンネルに……。


「試合ならもう終わった」


 後ろから迫力のある声が急にかけられた。しかし、その声には張りこそあれど、調子の落ちる感じだった。


 そして、テレビに映された映像は、ミドラッシュ・トムソンの勝利を示すサイドスーパーが付いていた。


「英二さん! いつの間に!」

「テレビのチャンネルを変えている間に来たんだ」


 その顔を見ると、試合の汗だけではない。普段に比べ、それとは別の余裕がすり減っているように見えた。まるで、試験を受けた日の夜のような。


「空実、決勝戦は気をつけろ。あいつは相当食えない相手だ」


 ただならぬ様子に、わたし達は息を詰まらせた。英二さんは普段は自身の実力もあってか、余裕綽々な人。彼がそこまで追い詰めた相手。空実さんの顔も冷や汗が流れる。しかし、その拳を固め、宣言した。


「どれほどの相手だろうか。しかし、ここまで来たからには!」



 この日の試合は終わりを迎え、夕方にも関わらずわたしが出る時には会場はガラガラだった。わたしたちはバス停の前で待っていた。


「あっ、来た! バス」


 パイパーは手を振っていたその車両が止まると、乗って整理券を取って振り返った。


「それじゃ、バハハーイ♡」


 扉は閉まり、このままわたしの住んでいる辺境の街まで進むだろう。なぜ、ここで送り届けたかといえば、その実パイバーからのお願いだった。今は学校に通ってるから最終日前には帰らせてほしいなー、とのことだった。わたしは不真面目そうな彼女なのにと不思議には思ったが、勉学に熱心なのは褒められる。昔を思い起こせば、勉強にはわたしの方が不真面目だったな、とこそばゆくなる。


 シドも普段なら帰っているだろうけど、一応はウェストウッド家の仕事中、ということで帰ることはないみたいだ。在学中といえばキエロは……まあホームステイみたいなものなんだろう。まったく、彼女の本音は思った以上に伺えない。


 わたしはホテルに着くと、1人にはもったいないくらい広い部屋の床に座り込んでいた。引き出しを覗くと、一部章をかいつまんだバイブルがあった。主要な宗教でないのに、これを置いているなんて感心感心。


 モニーには本気で戦えだどうの色々言われたし、世論を知るため、夕方のニュースくらいは見ようかと、テレビをつける。画面は照らされ、暗めの部屋には眩しいくらいだ。


「小世界全体で問題とされているアルビノ狩り。小世界国連保護区は、各国と共同でアルビノ狩り問題に取り組んでいく方針です……」


 そうだ、あまり怠けてるのも悪いな。憲兵をしている時の鍛錬を忘れてはならない。広めに場所を取り、フルスクワットをすることにした。


 正直、本気でトレーニングを行う場合、周りに気を取られてはいけないと思う。しかし、大きな画面は見ずとも、耳へ流れる情報は逃しようもなかった。


「本日午後13時ごろ、鉄芯華辺境の猛邪馬たけるやまにてウェストヒッポ社に所属する幹部会社員20代男性が何者かに襲われた模様です。犯人はその場から逃走。犯人は170cmほどで黒いフード付きコートを着用しており、人相まではわからなかった模様です。被害者は縄で締め付けられたような跡がありましたが、意識は回復しており、曰くサンドイッチを食べに来ていた。以前のこの店には迷惑をかけ怒られるとは思ったが、このような目に遭うのは予想外、とのことです」


 テレビを見てみると、その位置は以前行ったサンドイッチのおいしい店そのものだった。この店を知ってるウェストヒッポの人間となると、あの人だろう。以前東のおじいさんに祟られるとか言われてたけど、ご愁傷様だな。


「続いてはトピックです。我が国の行方不明者は、周辺国と比べても多い数値を記録しています。その中でも不可解と呼ばれた事件、かつて英雄とまで呼ばれた一人の自警団員が忽然として消えた事件について……」


 急にベッドからメロディが流れた。その大きさ以上にけたたましい音はテレビの音をかき消した。電話だ。わたしは携帯端末を取り、画面を見ると非通知。つまり公衆電話からかけたと考えるが妥当だろう。改めて耳に当てる。


「もしもし? キーリー?」

「知ってる人か? 名前は?」


 わたしはそのわざとらしいくらい可愛こぶった声には聞き覚えがあった。


「わたしよ! 魔法少女メグ! 忘れてもらっちゃ困るわ!」


 やっぱりか。電話だと声って変わるから、確信持てなかったけど。


「魔法少女なら、頭に直接テレパシー、とかできないのか?」


 電話を、しかもわざわざ公衆電話からかけてくるなんて……。わたしは彼女をからかってみた。


「それは……まあ……練習中よ!」


 全く、かわいいやつだ。これが小学年だったらどれほど微笑ましいか。結構身長もある彼女を実際に見ると、なんとも言えない顔になることうけあいだ。


「とにかく! わざわざ仕事中にかけたのには理由があるの! ちょっと来てもらえる? ここから東の鉄沓公園下水処理場に! よければ夜中まで余裕を持って!」


 改めて地図を見ると、車で30分という所か。幸い、パイパーは帰ったので今残っているのは特に心配のいらない奴ばかりだ。口頭で伝えさえすれば、わたしはそれなりに自由に動ける。


「わかった、すぐに向かう」


 わたしは端末を置くと、テレビにリモコンを向ける。


「皆からなんて言われても、私にとってはかわいい我が子でした……。けど、今はその笑顔も、その名前も、靄がかかって思い出せないんです……」


 ブツ、と音を立ててテレビの電源が切れた。取物と証明書と、少しの食料を入れた小さなバックを跳ね上げて持つ。さて、現場へ向かおう。わたしは他の部屋に一瞥して、扉を後にした。

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