52話 流星大三角
「さあさあ、錆万装舞踏もついに三試合目! 出場するのは、数々の国をその技術で救った小世界の偉人、ミドラッシュ・トムソンのボーンインザパープル7ndEdition! 対するは、錆ノ坂本工業大学屈指の奇才! 鈴木美奈萌のコメッツ・バスタードナイト!」
「ミドラッシュ・トムソン。素晴らしい無骨な機体、だがあの手元、見えるか? なんてわかりやすい、吾輩のようなにわかにもわかりそうだ! 逆に鈴木とやらの方は詳しく知らないが、一芸特化と行ったところだろうか。先ほど見た限りでは刀を振るだけでもなかなか手慣れだな」
「トムソンさんの機体のあのボディ、我がメテルツベツェクのような寒冷地でも機能しそうです。継ぎ目が本当に美しい」
試合前、2人の選手が顔を合わせる。一人は背の高い、髭を剃った歳を重ねてもなお若々しさの残る西洋系の男だった。不自然でない笑顔を絶やさず、相手の目もとにできる限り目線を合わせている。彼が、ミドラッシュというのか。
それに対する女学生くらいのもう一人の選手、鈴木美奈萌は決して背は低くない、むしろわたしと比べたら頭一つくらい抜けて高いけど、ミドラッシュという選手と並ぶと流石に小さく見える。けど、舐められないようにか、あえて腰を落とし、下から見上げるように相手に睨みをきかせる。髪は長めだけど、横で結んで危なくないようにしていた。
「よろしくお願いします、トムソンさん。貴方のような相手と戦えて光栄です。けど、悪いですが、この時間、長くは続きませんよ」
「そうかもしれないな。スズキくん、君の機体には取捨選択の覚悟が刻まれているように見えるよ。その心、誉高いな」
やがて最初の挨拶を終えると機体に乗り出し始めた。ミドラッシュのボーンインザパープルは大きめの機体だけど、乗りやすいように足をかける所がとても大きく、手すりも付いていた。
一方、鈴木の機体は小さめだけど、乗るのには不便そうだ。そして小さからぬ大きな装置がなにやら後ろについていた。筒状のあれはなんなんだろう。
ふと、見渡すと、普段なら憲兵をしている奴らもしばしばいる。休みのやつもいれば、こんな日にも仕事に励んでいるやつも。
近くを通った憲兵、確か名前を知っているぞ。
「澪!」
「仕事中にあまり話しかけないでもらえるかな」
と、いいつつも澪は振り返ってくれた。
「なんだよ、つれないなあ。試合は見てる?」
「見ながら仕事なんて不真面目だろう」
なんだよ、やっぱりあんまり話が出来ない。仕事に真面目なのはいいことだけど、苦手な相手だな。
「それでは、試合開始です!」
細身な機体の上に乗った鈴木って学生は、額の汗を拭うように機体の腕を動かす。そして、顔は何をしでかしてやろうという企みが見えていた。
「トムソンさん、ご覧に入れますよ。私の渾身の技を!」
ミドラッシュは何が出るのか怪訝そうに鈴木の機体、コメッツ・バスタードナイトを見ている。
すると、コメッツの後ろの筒は火を吹き、錆万装は足元がぐらつき、小刻みに揺れた。まるでその様は本当に名前の通り、彗星のようだった。
次の瞬間、鈴木のコメッツは走り出した。そしてしばらく走り、空へ跳躍した。
「なんと、信じられません、人型の錆万装が! 空を飛んでいます!」
「伝承の鳥人間、現実で見るとこんなになるか……! 小柄ながらなんたる神々しさ!」
空に駆け出すように直線に飛んだそれを俄かに信じがたかった。人が乗った人型の機体が、空を飛ぶなんて!
「バカな、自殺行為だぞ!」
「澪さん……デスか? そんなにまずいデス!?」
「ああ、あんな最小限のプロテクターで空を飛ぶなんて、Gだけでなく風圧がどれだけかかるか」
コメッツは空を流るように飛び、小回りをきかせてボーンインザパープルの外殻を一回りして見せる。今まで人型での格闘と異なる戦いに、ミドラッシュは驚いているようにわたしは見えた。
すると、コメッツは地上に一度降りる。しかし、ボーンインザパープルは何もしないまま、また彼女を空中に飛ばすよう見逃した。
コメッツは飛びながらついていた刀を握る。その刀は殺意でも示すかのように刃の付いていない側が凸凹としていて、まさしくノコのようだ。
そして、彼女はそれで巨大な紫の機体を縦に切りつけた。鋭く、鋭角に抉ったその一閃は、金属にすら深い裂傷を残した。地面スレスレを飛んだコメッツは急上昇をしてまた対空した。
「ふふふ、あははは! いいねぇ、この緊迫感!」
飛びかいながら、まるで何もせず喋っているのと変わらないように饒舌に、かつ恍惚と漏らす鈴木。まるでこの戦いすら楽しんでいるようだ。わたしはその刀の手元を見てあることに気づいた。
「やっぱり、逆手持ちだ!」
逆手持ち、器用さを捨てた分だけ殺傷力を高めるのに向いている持ち方。一撃一撃で決める気だ!
鈴木はさらに高く、バリケードどころか、照明すら越えるほどの高さのところを漂っていた。
やがて目を光らせた彼女は、静止し刀を振りかぶり、刹那の間空に紛れた。
「燦華流星大三角!」
次の瞬間、雷が落ちた。いや、ここでは流星と言うべきか。
「な、何が起きたんデスか!」
瞬く間に行われた切先の踊り、わたしは見逃さなかった。鋭角を描くように一点後斜め後ろの一点を目指して描かれた二線は、辺の欠けた三角形のように見えた。刀傷は側面、次いで正面を切り裂くように残り、一閃に含まれた配線は見るも無惨に切断されている。
「ええっと、一瞬でしたまさに青天の霹靂、昼間の隕石というべき早業! それは切断したと言うより光線に灼かれたかのようです!」
しかし、息すら吐かせない。コメッツは地面をスレスレを仰向けに飛んで近づくと、ミドラッシュの機体を切り上げながら上空に飛び去る。正しくアッパーカットのような一撃は中心骨を大きく傷つけた。
そして、ボーンインザパープルに乗るようになったコメッツは、叩き斬るように何度も刀を打ちつけた。ちらりと覗く操縦士の顔は、狂気的な笑みに見えた。
「ふふ、もっと抗って見せてよ!」
「まさにひき肉を作るかのような粗雑さ! なるほど合理的だ! いかにもお嬢様という面持ちとはギャップが凄い!」
事実、紫の錆万装の配線はいくつか切断され、動きもやや鈍ったように見えた。しかし、それにもかかわらずまだ目立った行動を見せない、せいぜい目で追ってるだけのように見えるミドラッシュには不気味なものを覚えた。
ボーンインザパープルは手を大きく、蜘蛛の巣でも払うかのように振り払った。しかし、相手は軽量の機体。その上、空まで飛べるとなれば、簡単に高くまで逃げられてしまう。ここまで、翻弄する鈴木の錆万装のダメージはほぼ0だ。
「さあ、楽しい時間も、終わりかな!」
ハキハキと言い放った鈴木は、遠く離れると、逆手持ちの刀を前に翳し、突進を始めた。振りかぶった刀を見るに、一撃で終わらせる気だ!
直線を描き、吸い寄せられるように飛ぶコメッツ・バスタードナイト。ミドラッシュにとってあまりに近い、もう腕を伸ばせば届くほどに。
つんざくような強い衝撃の音がした。次の瞬間、その小型の鈴木の錆万装は、大きく水平に飛んだ。いや、飛ばされたと言うべきか。見ると、ボーンインザパープルは今まで袂に隠していた掘削用のシャベルを振り切った後だった。
近くではその大きな音に、シドが震え出した。何やらボソボソと呟き続け、恐ろしい何かに取り憑かれたかのようだった。けど、わたしにとって安心できるのは、アイシャがいることだ。彼女が心に寄り添ってあげれば、きっと怖くない。
砂埃が消えて、飛ばされた鈴木の錆万装が見えた。わずか一撃、けど確かに機体は大きくひしゃげていて、腕も、外骨格も、脊椎の位置に値する金属骨もひどく歪んでいた。
動かすたび、すぐ戻ってしまうそれぞれの部品、錆万装は立つことすら困難のようだ。けど、操縦席から飛び出した操縦士、鈴木美奈萌に大きな怪我は見られなかった。
「操縦を離したということは……勝負あり! ただいまの試合、勝者はミドラッシュ・トムソン選手! 遠くから来ただけはある圧巻の一撃決着です!」
「一撃、確かに一撃、そして生かされた……。ああ悔しいなあ」
何やら独り言を呟く鈴木に、トムソンは歩み寄った。
「しかし、貴方の錆万装は随分と尖っていたじゃないか。その挑戦的な精神は、生きていく上でも大切なものさ。そんな輝きを感じる、いい試合だったよ」
「いえ、こちらこそ。対戦ありがとうございました!」
軽く礼をした彼女。しばらく談笑しているが、試合の終わり、迎えにいくためか後ろで盛大に迎えに行こうと準備が始まっていた。
「あちゃー、負けちゃったかー」
「けど、まあ、実りのある試合だったよ〜! それに、大会はまだ終わらないしさ」
走っていく学生の姿のそばに、明らかに学生とは違う大きな影があった。しかも、その戦った選手の一人を目で追い続けている奴は知っている人だった。
「素晴らしい……なんたる武人……。是非とも今のうちに知ってもらいたい……」
その影は紛れもない出場選手にして世界栄鎮・鉄英二さんだ。いや、こんな観客席にいて大丈夫なの?
「ちょっと行ってくる」
「英二さん!? 行ってくるって、プロポーズ?」
「いや、そんなわけ、まあ、似たようなもんか。スポンサー契約だよ!スポンサー契約! 彼女、多分まだそんなに目をつけられてない。今のうちに知ってもらえれば、良いパートナーになれると思うんだ! 私欲だが、オレも彼女の操縦技術と素晴らしい機体をもっと見たい!」
「ほんとかねえ」
わたしは訝しげに、走る大きな影を見送った。
澪はあんなに熱くなっていたのも忘れて警備の仕事をしていた。まあ、熱くなっていたっていっても、安全性の面でだけど。
振り返ると、怯えるシドは繋がれた手を離していた。隣のアイシャは……うつらうつらとしている。嘘だろ、まだ夕方だぞ!
「ちょっと、アイシャ! 大丈夫か?」
「う、うん……大……丈夫……」
そのままアイシャは立ったまま眠ってしまった。全く! こんな済ました顔して寝ちゃってさ!
けど、それと同時に、隣では頭を掻く人がいる。目を擦りゆらりと背筋を伸ばしたのはモニーだった。
「ああ、こんな早く寝てしまったのか相棒……。まあ、ワタシも悪い気分じゃあ……」
寝覚めのぼんやりしてそうなモニーは急に真剣に、息を呑んでいた。
「おいおい、嘘だろ……?」
その目の先、一見普通だ。ただの日常風景じゃないか。
「澪……だったか?」
わたしに耳打ちしたその声に余裕はなく、絶え間なく呼気が吹きかかる。
「澪? なんで今更……」
「気をつけろ。特にパイパー、キエロやシドニー、あと、キーリーの友達のゆかりさんもだな。共通する奴からは目を離すな」
「共通……ああ、なんでそんな回りくどくいうのさ。白……」
「バカバカ! わざと隠したんだ! とにかく細心の注意を払え!」
はは、嘘くさい、澪がそんな凶悪な相手なわけない。
「ああ♡ もしかして拙者、神経を使う世界に生きてきたから、敵がいないと辛いでござるって奴ぅ?」
小さな彼女はふざけて堅苦しい感じにしてからかった。
「パイパー! まぁ、けどわたしも気にしすぎに思う。いわゆるPTSDって奴かな?」
「……もうそれでいい」
けど、そうじゃないとしたら? モニーは少なくともわたしには真実を話してくれていたはずだ。わたしが、それを裏切っていいのか?
「……モニーもだろ?」
「ワタシは自分で守れるさ」
乾いた風が、モニーの短く灰かかった髪を揺らした。
「……ウェストウッド家の方、ですよね?」
ふと、後ろから声かけられた。そうだ、細心の注意。
「誰?」
振り返ってみた顔はどうにも思い出しきれない。どこかで見たとは思うのだけど……。
「サムソン・ベイリント、メテルツベツェクの使者です」
ああ、あの人か。来賓にいた。ずっと冷やそうとスプレーをかけてた人だな。現に、今も超小型のファンを服に蜂の巣のように着けている。
「マルファ・ウェストウッド様のお姉様ですね。彼女の伝説はかねがね耳にしております」
うっ、急に頭が痛くなった。マルファ、彼女はもうこの世には……。
「なんでも、ドラゴンと戦い、見事鎮圧したとお聴きしました。なんと素晴らしい! サインでも頂きたいものです。手紙で伝えていただけますか?」
「いやそうじゃなくて……」
わたしにはどうしても言えなかった。烏窟城であったあの事件は完全にうやむやにされている。だれも、居なくなった彼女の真実を知らない。だからこそ、どうしても言うことはできなかった。
しかして、彼は首を掻くと、悔しそうに握り拳を出した。
「しかし、惜しむらくは積極的に竜を狩ろうとしないことです。近頃は竜種の国への襲撃も多く、我が国も、随分と悩まされています。全く、あのような、粗暴で! 野蛮で! 知性のかけらもない白痴なぞ、彼女のような者が狩り尽くしてしまえば! この世は幾分ましになると……」
握り拳を振り下ろし続けて力説する彼の腕。それはいつのまにかひどく発火していた。
「うわあっち!」
手に塗りたくった冷感ジェルが蒸発したのか、火はやむ気配を見せない。試合の余韻に浸っていた会場はこのボヤ騒ぎにようやく気づいたらしく、ざわめく。
すると、わたしの腕は何かに引っ張られた。シドかと最初は思ったけど、それにしては岩のようだ。けれども、その手は決して強くなく、あくまでも付いていくはず任意という風な強さで握っていた。
手の焼けたベイリント卿はこちらを睨みつけていた。疑いを晴らさなきゃあ、いや待て、そんなすぐに人間が火を燃せると思うか? ライターも何も、わたしは持っちゃいない。となると最初からシロなわけだ。よし、興味を優先しよう。わたしは潔白の手のひらを見せると、腕を引くものの正体すら確かめず、そそくさここから去った。
おまけ
ある大会前夜
ミナモ「まっず、機体の調整全然終わらない……もう2徹……」
ホンダ「学業との兼ね合いも厳しいな……」
男子工業学生「じゃあ、あれしかないね〜(ていうかなにこの名前〜」
ホンダ「……あれだよな」
裏からアルミ板を持ってきて男子二人それぞれ持つ
2人「外の熱をアルミの力でババババーン!(一斉にさまざまな方向に手を伸ばしー」
ミナモ「何やってんの」
2人「シャットアウトだ」
3人「ババババーン!(ノバシー」
彼らは限界であった




