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ウェストウッド家に栄光あれ!――君に家督を譲りたいっ!  作者: 青瑪瑙ナマリィ
第4章 魔界を廻ろうと気圧されないっ!
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46話 魔王顕現

「随分と災難だったね、キーリーさん」


 果音さんに招かれた会談、それがこの後行われる。わたしは、果音さんと空実さんが持ってきたボードゲーム を三人でやっていた。


「しかし、今回の会談相手はそんな白万を治める魔王ですよ。果音さんも人ごとではありませんよ」


 空実さんは赤いコマを真ん中へ向かい進めた。空実さんは今のところはこのゲーム、悪くなく回っているように見える。


「そうだね! 気合い、一発! ってね!」


 果音さんは頬を叩き、気持ちの良い音を響かせた。

 その時、扉は開いた。覗きにきたのはこの国の国王陛下にして果音さんの弟、正典陛下だった。


「随分と生産性のないことをしているんだな皆で」


 この一声に空実さんはすこしムッとしたように見えた。けど、すぐに元に取り繕った。


「姉さん、時間です。会談に向かいましょう」


 そうおっしゃった陛下は声だけかけられると、職務に戻るためか引き返してしまった。


「このボードゲームは一旦中断! それじゃあ、行こうか!」


 果音さんは立ち上がり、掛けてあった上着を羽織ると、扉を開け、魔王のいる場へと向かった。わたしたちもそれに付き添って。


 廊下を歩んでいる間、果音さんは真剣に振る舞いつつも愚痴をこぼしていた。


「まったく、マサは昔っからこうなんだから!」

「まったくです。陛下とはいえ……」


 空実さんもそれに同調した。わたしは、置いてかれた気分に鬱屈とする。なんだよ、二人だけで話して。そうだ、なんの話をしているのか、聞きだそう。


「陛下の行動、そんなに奇異でした?」

「そうだよ! マサは生産性のないことを本当に嫌うんだ。だからよく徹底した合理主義、なんて言われたりしてるんだよ」

「粋世教が国境に定められているのも、今の王家と思想が合致しているから、というのも大きいですよね」


 そうだったのか。合理主義……そんな風な認識だったんだな。そこまで深く考えてはなかった。


 さて、そろそろ会場だ。中を覗くとすでに鉄英二さんが待機していた。


「果音さんと……おおっ空実! それと、桐の字! まさか桐の字までお呼ばれするなんてな!」

「ああ! また会えて光栄だよ!」


 皆で円卓に着席し、わたしは見渡してみる。夜もふけてきた頃で、闇夜が一面に貼られたガラスから覗く。その外には小さな庭に繋がっていて、その庭は本庭と異なり空中庭園といった感じだ。こんなものはウェストウッドの本家でも見なかった。


 薄明かりに照らされながら、客人を待つ。10分ほど待っただろうか。


「魔王様のお通りー!」


 外からそんな鬨が微かに漏れた。足跡は壁にかき消されども、確かに気配の近づいてくることを感じさせる。そして、扉に手がかけられたようだ。


 扉は開いた。そこには、魔王は護衛を連れ入ってきたところだ。魔王を拝見した第一印象は、確かに背は高めだけど、思ったよりは小柄だということだ。それは大人の男、というより線の細い少年のように思えた。もしかしたら女性かもしれない。しかし、顔を仮面で隠しているのでなんとも判断のしかねる。


 魔王は四人の護衛が囲っている。後ろを見ると、本当はもっと控えているみたいだ。そして、その護衛に見慣れた影を見つけた。薄味ながらも、しっかりとした鼻通りのその男は! 


「あ! なんだっけ名前……」

「おっとお!? 俺の名前を知らないと見る。ならば名乗ろうじゃあないか! 名は影賽! アルケーズじゃあちっとは名の知れてる名将だ!」


 そうだった、影賽。その口調は芝居がかったいて、誰かに聞かせるようだった。彼の話に、少しは気が緩んだ。


「そちらは?」

「ああ、キーリー、キーリーだ!」


 しかし、魔王と呼ばれる存在がこちらに歩み寄ってくるのに、わたしは身が引き締まった。そうだよな、この場はあくまで会談だった。そして、わたしはあくまでもただの付き人だ。目立たず、ひっそりとしていなくちゃあ。


「この度、会談の場を設けてくれたこと、感謝する。我は万皇酩歩というものだ」


 その声を聞いた時、不思議と安心を覚えた。見た目通りの少年のようであり、女性的でもある、低くもやさしくなだらかな声だ。音楽で言えばアルトが近い声域だろうか。


「いえいえ。私、深華果音と申します。本日はどうぞよろしくお願いします」


 あまりに仕事面な果音さんに、ちょっと引いてしまった。そういえば、最初はこんな印象を抱いてたっけな。


「こちらもそちらも、あまり気の入りすぎぬようにに、な。む、あれは空中庭園か。まだ準備は出来ていないのか? それならば、あちらで会談をしたい。いいだろうか」

「ええ、それではそちらに移りましょう」


 果音さんに続いてゆらりと歩む魔王酩歩、それに続いて真剣に私たちが歩んでついていった。


 空中庭園は夜の風に吹かれ涼しかった。それは目の前の模様穴のついたその机に沿うように、丸い形に城から出っぱった庭園だった。


 金属で出来た椅子に腰掛ける魔王と果音さん。そして、姉王果音は英二さんに合図をした。それを見た彼は了承し、手元から紙袋を出した。そして、それを机の上の浅い角盆の上に撒いた。


 その中から出てきたのは不思議なものだった。黄色く固められた花のようなそれは、わたしにはお香かお灸のように見えた。または火薬の塊のようにも見える。なんだろう、あれ。


 すると、魔王はこれを手に取り、その固められた花を感心して見つめた。


「ほう、またこれか。しかし、我はこの菓子を好む。神事に使われし美しき花、いただくとしよう」


 そうつぶやくとそれを口に投げ入れた。何やら砂を混ぜるような音が聞こえる。それはどうにも楽しく聞こえた。そして、果音さんもその菓子を食べた。


「ほら、皆の衆もいただけ」


 そういうと、周りも喜んでそのよくわからない菓子を取り出した。一人一人と手を伸ばし。


「おおっ、やっぱり美味しいなぁ」

「ですよね! 私もこう言った特別な機会には頂いている有名な菓子なんです!」


 空実さんが向こうの付き人に話す。どうしよう、わたしも取るべきか。すこしおっかなびっくり手を伸ばした。


 なんだ、触った素材はまるで砂のようだ。砂の塊のよう。不思議と手にはついたりしない。けど、こんなものおいしいわけ……。会釈をし、主への礼儀としていただきますと小さく口にすると、その口に菓子を放る。


「……! 美味しい!」


 硬いその花を口に入れると、口の中には芳醇で濃い味がした。これは、そうだ、きな粉だ! それで大豆の風味がしたんだろう。そして、菓子が口内で湿るにつれ、しっとりとした甘さが口に広がった。これはなんだろうか!


「果音さん! これは!」

「これ? 神事の際に用いられる落雁でさ。昔は本当に神事だけに使われてたものなんだよ。けど、今はこうやって買うこともできる」


 なるほど、じゃあどこのものか、後で聞いておこうかな。


 影賽は、そんな中喉を撫でる。


「しかし、こうなると茶が欲しいな。何か、粗茶でもいいからないか!」


 その呼び声に後ろから現れたのは空実さんの部下、あたる陽さんだった。スーツを着て、お茶を持ち、すこしカッコつけてるけど、真面目な雰囲気だ。元々は詩歌好きなのは知ってたけど、もっとおちゃらけた雰囲気のあった人だと思ってただけに意外だ。これも空実さんの性格故なんだろうか……。


「そのようなご要望のためにあらかじめお茶を用意しておきました。失礼します……」


 そう言って、まずは賓客である魔王酩歩に、そして続いて果音さんに、そして次は空実さんに、と入れた。


 しかし、それに噛み付いてきたのが影賽だ。下から見上げるような目、しかし、その目は睨んでいるようだった。


「おいおい、喉が渇いたって言ったのは俺だよなあ? それなのにこんなチンケな国のチンケなやつを先にするのかよ?」


 唾を噛み、指で机を叩いて落ち着かない様子だ。


「私は、私のなすべきことをしたまでで……」


 中さんは優しく装ってはいるも、その目は明確に相手に疑いを向けていた。


「納得いかねぇなぁ」

「やめておけ、影賽!」


 不満を露わにする影賽を、手で遮ったのは魔王酩歩だった。魔王は柄にもなく礼をする。


「申し訳ない。我としては事を荒げるようなことはしたくないのだ」

「そうですね、私としても」


 果音さんはそれに応えると、手を差し出した。その手は、すぐに握り返された。


「もう一つ、私がもてなしとして出したいものがあるんです。こちらを」


 果音さんが指を鳴らすと、中さんはいつの間にか新たなものを持ち出していた。お椀にたおやかに浮かぶ小豆からは湯気が。それはしるこで間違いなかった。


「なるほど、しるこか。我の好物だ」


 かの魔王はその椀の一つ、ふちを掴むと、すぐにそれをすすった。そして、ゆっくりとそれを机に戻す。

 見るやいなや不思議とにこやかな果音さんは、しるこの椀を触るも、熱さからか手を椀から離す。


「しかし、そこの彼」


 英二さんは急に話に出てきて、そちらをちらりと見た。


「オ、私でしょうか」

「世界栄鎮だろう。なんとなく雰囲気でわかる」


 魔王はその世界栄鎮に一瞥した後、果音さんに向かい、


「彼からも信頼されるとは、素晴らしい偉才の持ち主とわかる。そこまでならば、この国の王になる気なぞはないのか?」


と訊ねる。


 果音さんはそれに真っ直ぐ正面からの笑顔で、


「いえ、私は王のような立場にはなれない、たとえなれたとしてもなりたいとは思いません。何せ」


そういうと、さらに少し息を置くと、


「私は、並び立って生きる方が性に合ってますから」


笑みをこぼしてそう語った。


「そうか」


 これを聞き、向こうも自然と笑顔になったみたいだ。


「やはり素晴らしい才覚を持ったものだな。鉄芯華国は。貴公は汚泥に咲く睡蓮のようだ」


 そう言ってまたしるこを啜ると、肘を机につけ、ついに本題を話し始めた。


「では、語ろうじゃないか。この国との未来を」

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