43話 ジョン・マスト・ゴーオン!
そうだ、今わたしの目の前でトランプで遊んでいるのは、ジョニー・フライデイと、その友人ウォルフラム・グナイゼナウ牧師で間違いない! なぜ、わざわざこの街に。もしや、刺客か。
「あの時の復讐か?」
わたしには以前ジョニーに恥をかかせてしまったことがある。わたしは後ろから思い切りドロップキックして、ジョニーは変な声で気絶した。正当防衛とはいえ、それで?
「まさか。俺はそんなに盃の矮小な男ではないさ。俺はシンプルに遊びに来たんだ。破天荒娘が、迷惑をかけてないか見に来るついでにな」
やっぱ恨んでんじゃないか。逆恨みもいいとこだよ。
「賭してみるって、そのトランプ?」
「ああ、そうだ。テキサスホールデム。先にチップの無くなった方の勝ち、という勝負だ」
アイシャの問いかけに、ジョニーはそう答えた。しかし、わたしは、賭すわけにはいかない。
「何か、受けるメリットでもあるのか?」
相手が刺客の可能性が高い以上、この疑問の解決までは、受けられない。
すると、ジョニーはニヤリと口元を曲げた。
「そうだな、利の存在するものでなくては、受理するわけにもいかぬだろう。されば、俺とそこのウォルフ!」
指を刺されたウォルフラムは、急なことにびっくりしていた。
「俺たち2人との勝負に勝てたら、俺が吐ける情報は三つまで吐露してやる、ってのはどうだ? 無論、負け泥に塗れたらCEOの言う通り、ウェストウッド家に対し黙りこくり、家督を継承してもらおうじゃないか」
この話を聞いたウォルフラム牧師は、オロオロとするしか出来ないでいた。
バカにするな。こんな条件で受けるなんて、あり得ない。情報代だって? あいつにわたしにとって有益な情報があるというのか。
いや待て、あいつはウェストヒッポの社内エース。CEOであるイクスマグナから大事なことを聞かされていたも不思議じゃない。もし企業秘密や、ウェストウッド家の闇を暴くことが出来たなら、相手への脅し文句になる。これは、受けても……いいんじゃないか?
「受けて……立とう!」
この瞬間、キエロはよりおろおろとし出した。
「キーリー、大丈夫……大丈夫……?」
もちろん、大丈夫かはわからない。けど、不思議な自信が胸の内にはあった。なにせ、これには天運も絡む。わたしが本当に、主に愛されているのか、試してやろうじゃないか。
「excellent! しかし、乙女一人だけじゃあ、おぞましき現実に叩き潰されるのみだ。乙女を補佐する、清濁併せ持つ、天地開闢の戦士のような存在が召喚に応じねば、俺は勝負を受ける気にはならない。素晴らしき補佐がいるのならば、なんなら3人がかりで挑みてもいいぞ?」
「ところで……リクリッサはいないのですか? 彼女なら、こういったことも強いでしょう」
確かに、あいつはウォルフラム牧師とは血縁にある。彼の母、フォノン・シャハトが離婚して教会を離れる時、そのまま残ったのが彼だ。可愛い妹のことは気になるのも仕方ない。けど、わたしは彼女を自らの意思で烏窟城に置いていった。あの時は、もう愛想が尽きてたけど、今思えば感情的すぎた気もすると、思ってはいた。後悔はしていないけど。
「ああ、もう別れたから。どこにいるのかも知りやしないよ」
「そう……ですか……」
その時、彼の顔からは明確な失望が見えた。しかし、冷徹というよりかは、何かがない喪失感、というものが強く見えた。心配、なんだろうな。
「ならばあたしと、モニーが協力するよ。ジョニキ、いいよね?」
彼の要求に、アイシャは身を乗り出して答えた。モニーはよくわかってないみたいで、周りをしきりに見渡している。確かに彼女はジョニーと何度も競ったこともある。しかし……。
「キエロ、いい?」
「うん……僕にはなにもできないから……」
そうは言うがキエロはなかなか秀才だ。今は休学扱いとは思われるが、選りすぐりである大学でもよい成績を収めているという。できれば、彼女のような人に任せたかった。
そうして、ジョニーが席を退き、ウォルフラム牧師の隣に座ると、わたしは彼らの席の向かいに座った。モニーが座ろうとしなかったので、アイシャが引っ張る。座った席は、わたしの隣にモニー、アイシャという順番だ。
「準備はいいか、ウォルフ」
「まぁ、大丈夫かな……」
「ようし! それでは、テキサスホールデムと洒落こもうじゃないか!」
ジョニーは指を鳴らすと、何か不吉な空気が肌を撫でる。空間が何かに支配されるのを感じる。
ただならぬ予感を感じ取った後ろでは東密が、分析を語っていた。
「ほう、あのトランプ自体が白万。そして、概念系ルール目の能力か。凝った能力しとるのう」
「なるほどそれは一体?」
「新たなルールを作り出す能力じゃよ。何かしらのルールを破ったものに罰を与える、そう言った能力じゃな。界隈で著名なものには、ルールの狩人というのがあるな」
「詳しく聞かせてくださいよ」
「言われんでも言うつもりだったわい!」
ジョニーは手癖でトランプを縦に混ぜていた。
「されば、手札2枚と、チップだ。恩恵に感謝せよ!」
そうしてトランプを持ち上げると、そのトランプはまるで砂塵のように舞うと、一斉に混ざり出した。そして、綺麗な束になった。
「一抹の不安があるなら、混ぜてくれ」
彼はそう言ってカードを渡す。と言っても、わたしには何をすれば……とか思っていたうちにアイシャが机の上に3つの束に分けると、それを組み直していた。
「これでいいかな?」
「よしっ。ならば札を受け取るといい!」
ジョニーは、それを上から何枚か指で挟み、投げると、わたしたち3人の手元に、そのトランプは来た。それは、2枚ずつ、3人に分けられていた。このトランプが分けられたのは白万の能力だろうか。けど、掴んだ時に枚数を把握したのは能力によるものだって考えづらい。やはり、手慣れてるな。
そして、チップもまた、わたしたちの手元に来た。数値は全部足すと、ええっと、100か。
しかし、無垢なモニーはこれを見て、首を傾げた。
「どうすれば、いいの。なにすれば、いいの」
いいことを言ってくれた。それは、薄氷のような記憶の持ち主で、何も知らないが故に聞けることだ。わたしだったら下手に記憶がある分、知らなくてもなぁ、なぁで済ませてしまっただろうな。すかさず、アイシャが立候補した。
「それなら、あたしが説明するよ」
しかし、ジョニーは哀を帯びた声で、
「よしてくれ、オタクは喋りたい生物なんだ」
と、卑下した。
そして、一息を置くと、待ちかねたように話し出した。
「……別の山札を使うか。これは白万の影響を受けていないカードだ。まず、テキサスホールデムの大元のポーカーについてだが……」
そう言って役やゲームの目的について、長々と話し続けた。
「……さて、役は大体わかったかな」
「うん、すとれーととふらっしゅがつよくて、はいかーどがよわいんだね」
ハイカードっていうのは、日本語圏ではブタと呼ばれることも多い役なしのことだ。
「けど、おぼえてられるか、しんぱい……」
「こう言うの時のために、ルールブックも用意しておいた。自由に見てくれ」
最初からそうしろよ……と思うわたしは風雅でないんだろうか。そこには、ご丁寧にテキサスホールデムのルールまで書かれていた。
「このルールブックを読めばわかるが、念のため話しておこう。テキサスホールデムでの賭けは、まず参加料を払わなくてはいけない。ここに、ディーラーボタンがあるだろ?」
確かに、飴の缶のような丸いものがあった。
「これを持っている人が親で、場に5枚、それぞれの手に2枚カードを配るんだが、今回は俺の白万、『54人のサークル』に任せてもいい。とにかく、最初のベット、賭ける時、親の次のプレイヤーが一番小さく賭け、さらに次のプレイヤーがその2倍賭けなくてはいけないんだ」
なるほど、機を待ち続けるってのはできないんだな。
「そして、最初に手札を見たときに1回、場の3枚を公開したときに1回、残りの2枚を1枚ずつ捲るにつれ1回づつ合わせて2回、賭けを行う。そして、賭け金は同じにならなくてはいけないんだ」
なるほどな。けど、詳しい賭け方は曖昧だ。
「賭け方ってのは?」
「賭け方は、賭けチップがない時は、様子見のパスのチェック、最初の賭けのベット、賭けチップがある時はすべて同じになるようにコール、さらに上乗せして賭けるレイズ、降参してチップを明け渡すフォールドのようなアクションがある。他にもないわけじゃないんだが……。やりながらわかっていけばいいだろう」
アイシャは、モニーの肩を触れていた。
「どうだい? わかった?」
「わかったかな。わからないかな」
「そうだなぁ。ジョニキ、彼女の補佐のため、カードの確認などを行ってもいいかな? あたしとしては吝かではあるけどね……」
「ああ、許可しよう」
ジョニーは快諾した。そして、カードが5枚、舞い上がり伏せられる。
「それじゃあ、奏でようじゃないか! 最低ベットは不変。俺がディーラーボタンだから、ウォルフが10、キーリーが20の賭けだな!」
ウォルフラムはチップを置いた。わたしもチップに手をかける。ううん、やっぱり理不尽感ある。配られた手札は……。❤︎4と、♠︎8か。どうなんだろう、これは。
「どうすればいい? あいすみっど」
「この手札か……。とりあえずは乗ってもいいんじゃないかな?」
「そうする」
隣の二人もコールしてチップを出す。それ以降の相手も皆コールし、20チップを全員で出して終わった。
3枚のカードが捲られる。❤︎5、❤︎の8、♠︎のJ。
やった、これはチャンスかもしれない。8のペアは確定だ。それに、フラッシュの可能性も出てきた。これは、強めに見積もれるかもしれない。
ウォルフラム牧師はチェック、わたしに手番が回ってきた。
「ベット!」
わたしは、10のチップを賭けた。ジョニーはそれを見てニヤリと笑う。
「攻めるねえ」
それからは、順にコールをして、ウォルフラムのターンだ。
「私は……。降ります」
フォールドか。とにかく、これで次のカードが捲られる。ゆっくり捲られた時、わたしの心臓はさらに脈打った。
❤︎の6……! ストレートフラッシュさえ目に見えてきた。勝てる、勝てるかもしれない! わたしはとりあえずはチェックだ。隣の2人もそれに倣う。
するとジョニーは不気味に、声を上げた。
「ベット……! 40……!」
嘘だろ……? もうすでに20のチップが賭けられている。それに及んでさらに40……? しかも急に。ハッタリだ、ハッタリに決まってる!
「コール!」
「キーリー、本気なのかい!?」
アイシャはこちらに注目を集めた。
「なに、きーりーってひと、すごいの?」
「ああ、すごいさ。あんな勇気は」
そう聞くと、モニーは、カードをざっと散らして、フォールドした。アイシャの入れ知恵だろう。実際、次のアイシャはフォールドだった。
次のカードが開かれる。それは、♣︎の8。そこまで良い役は出来なかったけど、スリーカードなら及第点。ここはお互いチェックだ。しかし、どうしてか、カードを打ち合わせ、鳴らすジョニーが不気味で仕方なかった。
「さあ、ショーダウンだ!」
比較の時だろう。さて、わたしは8のスリーカード。さて、相手は……。
その時、見えたのは真っ黒な手札だった。嘘だろ、いや、いやまさか。なんと、ジョニーの手札は全て♣︎。フラッシュが成立していた!
「なんとなく、良くない手だと思ってた。しかし、4枚目の公開カードが♣︎だった時、有利に立てると確信したよ。さぁ、チップを徴収させてもらう!」
いきなり60もチップを奪われた。それに、相手のチップの合計は2人合わせて300にもなる。対するこちらは220だ。大丈夫だ、まだなんとかなる。
*
「というわけで、こういう勝ち方もあるんだよね」
ウォルフラムはカードを見せる。ジョニーもそれを許可していた。見せたカードは♦︎の4と♠︎の2。場と組み合わせても、何の役も出来ていない。それなのに、あんな強気だったんだ。
「ああ、しまったなぁ」
わたしは途中まで乗りに乗ってから降りたため、無駄にチップを取られ、20になってしまった。
「気に病むことはないさ」
そういうアイシャは早々に降り、損は0だ。モニーはビッグブラインドの20を失っている。どうしようか……。
「わぁぁっ!」
急にウォルフラムが叫んだ。それも、本当に怖いことでもあったかのように。見ると、モニーは彼の頬をつつき続けていた。
「ぷにぷに」
「ちょっ、やめなよモニー!」
わたしはモニーの腕を掴んで止めた。こういうのはアイシャの仕事……と、隣のアイシャを見ると、笑っていた。それも、不敵に。
「ははーん、これは使えるぞ」




