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ウェストウッド家に栄光あれ!――君に家督を譲りたいっ!  作者: 青瑪瑙ナマリィ
第4章 魔界を廻ろうと気圧されないっ!
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37話 スリラーナイツ

 実家の義母から送られた手紙を読んだ。そこには妹が亡くなったことに対する恨み節が積もっていた。


 いや、わかっている、わかっているんだ。だからこそ、あの時、わたしの恋人だった女を止めなかったせいで、妹のマルファの命を間接的に奪ってしまった。そんなことを考えると、自分が嫌になってきた。


 そうだ、もう1通手紙が来ていたんだ。宛先はあの時別れたあいつ、差出人は……フォノン・シャハト。


 よりにもよって、あいつことリクリッサへ宛てた、彼女の母からの手紙。しかし、リクリッサのいない今、この手紙の返事をするものはいない。確認するものがいないよりは、元恋人のわたしが確認した方が、いいよね、いいってことにしよう。ペーパーをナイフで切るも、むしろ切り口はビリビリになってしまった。本文は何だ。


――


リクちゃんへ

やっほー! 元気してた?

ママはね、元気^ ^

キーリーちゃんとは、仲良くやってる? 

あなたのことだから

必要以上に束縛してないか心配だよ。

だから……今度遊びに行くね!

ママ・フォノンより。


――


「ただいまー♪ あれ、キーリーいるじゃーん! サボり〜♡」

「あまりからかうのもよせ、パイパー。キーリー、疲れているのか?」


 鬱屈とした気持ちは冷め、ひどい電流が頭を流れた。その電流の前では、パイパーの帰る声も、モニーが珍しく起きている事実も、馬耳に流れる東風だった。あまりに恐ろしい現実を受け入れまいと、色々考え、あたふたと走り回ったが、やっぱりもうどうしようもなかった。


 リクリッサのママが来る、別れたってことは伝えてないままに。一体、彼女が来たら、なんて言い訳をすればいいか……。



 結局、対策などうやむやなまま、ゆかりさんたちとの夕飯の約束に向かってしまった。


「へー、外食! どこ行くのさー♪」

「わたしがいつも行ってるところさ!」

「キーリーの行ってるとことか、女っ気なくてセンスなさそー!」

「そんなことないや!」


 パイパーと、他愛のない会話をしながら、歩んで向かう。隣には、アイシャを背負ったモニーが、ゆったりと、ながらも健脚で進んでいた。腰には、この間の殺生沙汰で没収されたカトラスの代わりの偽刀を添えている。


「なあ、モニー、アイシャも連れて行くのか?」

「ああ、勿論だ。ワタシとアイシャは2人でひとつ、ワタシが眠れば、アイシャも目覚める。そうすれば、皆含めた割り勘でも損することはない。割り勘にしようなんて言ったことを後悔させてやろうじゃないか」


 モニーは不敵な笑いを口元からこぼした。パイパーが、わたしの袖を意味もなく引っ張り、服を伸ばそうとしている……。



「おおっ、やっぱり、よく食べるねぇ。若いうちはダイエットもいいけど、健啖よ!」


 店主は、ゆかりさんの意外なまでのすごい食べっぷりに、豪快に笑っていた。その隣で、パスタをすすめながら、果音さんが微笑んでいる。むう、そんなに食べるなんて想像してなかった。今までのゆかりさんの食事は、せいぜい人並みくらいに思ってたから。


 ぐうぐう眠ったアイシャの隣の、モニーが問いかけてきた。


「キーリー、話が違うな。もっと、少食な人って聞いたが」

「知ーらーないよ!」


 あっという間に、前にあったサンドイッチの皿は、白い面の輝くものが3つにもなっている。前、ゆかりさんは調子がいいって言ってたけど、本当なんだな。


 けど、普段から腹空かせて厳しい鍛錬励んでるわたしだって負けてないさ。赤く広がるジャンバラヤの特大なやつをスプーンの上に展開して、口の中に流し込もうとした。


「しかし、シャハトさん、短い付き合いだったけど、急に居なくなると寂しいもんだねぇ」


 店主のそんなぼやきが聞こえたその時、急に暗がりに襲われた。


「おっと、これはブレーカーかねぇ。戻してくるよ」


 店主が去る音が、暗闇に響く。


「暗がり、悪いことするならいいチャンスだね♪ けど、あんたらはそんな勇気もないヘタレだね♡」


 パイパーの言う通り、この中では、どうにも不安だ。なにか、起こる気がする。


 耳をつんざく大音が暗がりを破いた。その表紙に何かの破片が足に刺さり、触れてみるとぬるりと沼のようだった。


 そんなことを気にする間もなく、ずしんと、大きな音が響いた。それと比べると小さな音も次々に響いた。


 電気が点く。いきなりの光に、暗夜に生きるものでなくとも慣れるまでに数秒かかる。そして、目に飛び込んできたのは、黒いマントだった。


 黒いマントは誰かが着ていたものだった。その裏地は血のように赤い。背はどのくらいだろう、ゆっくりと見上げると、ああ、この顔は! ミラ! ミラが、5人の者を連れ、典型的吸血鬼のような見た目をして腕を組み、立っていた。


「あかんわー、こないなことしとったらわややー」


 彼女は、確かニノベー・ビショップ。髪にはメビウスの輪の飾りをつけて、心配そうに周りを見渡す。


 周りを見渡していたのは彼女だけじゃない、魔女のような帽子を被った背の低い人も、オロオロとしていた。わたしは、彼女を知っている、彼女も来ていたのか。そして、彼女はなんとか声を絞る。


「あっ、あの、だから、反対したのに……」

「なんか言いましたか?」

「な、なんでもないですぅ〜……」


 聞き直されただけで気弱な彼女は、しゅん、と縮こまってしまった。逆に、聞き直した相手、ロマーネは上機嫌に講釈を垂れる。


「いやいや、私の派手に突っ込んで意表を突く作戦は大成功ですね。これなら、相手も対処に困るでしょう」

「手段のために目的を選んでるようにしか見えない……です。だから、大義名分も目標もなくてからっきし……なのです」


 調子に乗っているロマーネに小声で少女が毒づいた。誰だろう。


「ヴァネッサ、嫉妬ですか?」

「嫉妬できればどれほどよかったか……です」


 そうか、そう言われれば。あの、可愛らしい丸顔の割に、世を憂うような目、確かにヴァネッサだ。彼女、あの頃は小さかったから、ここまで背の大きくなっていることにびっくりした。彼女もロマーネも、もちろんミラも、わたしの愛する妹だ。


「まぁ外に出してもろたからなぁ、応援くらいしかできんけど、せいだい気張るでー」


 ちからこぶを作るようにしてやる気を見せるニノベーは、ふとフードを被った奴の方を覗き込む。


「なぁなぁフードの人、正体教えてほしいわぁ」


 そいつは、ニノベーの声かけを無視。フードの者。確かに気になっていた。奴は名前もわからないし、顔も完全に覆っていて、正体も何一つわからない、目的も、何も。


 ミラは、血を吸うように口を啜ると、ニタリと笑った。


「さぁ、繰り広げましょうか、血湧き肉躍るナイターを!」


 そうして、彼女は手元から小さな球を持ち、手の上で跳ねさせた。なんだろう、あれは野球ボールほどの大きさに見えるが……。そんなこともつゆ知らず、店主はのっそりと帰ってきた。


「いやいや、ブレーカーが落ちてて大変だった……。いやいや、待ちなさい待ちなさい、店はおもちゃじゃないんだよ! 弁償金くらいは払ってもらうかい」


 金をせびる手の形にした店主だったが、その顔の横をものすごい勢いでボールが横切った。店主の横に広がった髪は、少し散ったように見える。


 こんなことをするミラに、わたしはちょっと文句を言いたい。


「なんだよ、ミラ、スポーツマンシップもあったもんじゃないな」

「なんだい、なんだい、今度は店の中で球遊びかい。許しておけないね。バイトくん、やっちゃって! 姚は、お客さんの避難を!」


 店主の一声に姚は、急いで会計から出ると、手を振り、退避のための誘導を始めた。


 その横から走るは、肉体には自信のありそうな若い現地人の、バイトくんと呼ばれる青年。彼の走りは力強く、並のものなら前に立つことさえできなそうだ。


 相手も怯まず、ボールを2連続、剛速で投げつける。向く先はバイトくんと、無防備な姚に向かって。


 バイトくんはその重い球すら、空気でできたグローブでもあるかのように走りながらも素手で取ってしまった。


「おおっやるねぇ!」


 果音さんの口からはそう漏れた。


 しかし、姚は、そんな様子にすら全く気づかず、誘導をしている。ボールが頭に直撃する……。


「やぐるむ、すとろぉく!」


 と思った時だった。空を切ったのはまるで霊、しかし、それはよく見ると実体があり、犬のような形をしていた。その口には、投げられたボールが咥えられている。


「ゆかりさん、と、末期丸!」

「今日は調子がいいんデス。ワタシだって、やってやるデスよ!」


 そうだ、ゆかりさんがやってくれた。彼女は、腕を前に伸ばし、何かを掴み取ろうとするようにして、白万犬の末期丸を誘導した。末期丸は接着剤。伸ばしたかのような足を床につけながらも、空を舞い、食卓の下をくぐりながら、ゆかりさんの手に食らいついた。彼女は、そうされて痛そうに手を振り回したけど、どこか、嬉しそうでもある。


「さぁ、次はどんな球デス? 生憎、末期丸はこういうのは大・大・大得意デスよ!」


 そう声をかけた瞬間、木製の物に何かが打ちつけるような、鈍い音がした。わたしは心の中で祈った。ごめん、妹たち。バイトくんは手荒かもしれないけど、こうするしかなかったんだ。


 幸か不幸か、予想は外れた。


「いっち!」


 バイトくんのうめきが聞こえた。声の聞こえる方を見ると、バイトくんが床に倒れ、足から血を流している様だった。その傷は、何かで切られたように、真っ直ぐついていた。バイトくんの倒れた机の裏をよく見ると、得意げな顔したロマーネが、糸を引っ張り、曲げていた。


「まっ、私のトラップにかかれば、こんなもんですかね」


 その糸は見る限り、どうにも硬度がありそうな反発をする。この糸で、机の合間に簡易的な罠を仕掛けたらしい。軍事的な目で見ても、効果的な罠だ。


「大丈夫かい!? バイトくん!」

「ええ、なんとか。しかし、これじゃあ動くこともままならない」


 机の椅子から、モニーが立ち上がる。


「なるほど、少しは考えるらしい。しかしウェストウッド家の姉妹の参謀を、舐めてもらっては困るな!」


 そう宣したモニーは、真っ直ぐ、突っ切って言った。なんだよ、参謀って言っても、


「行き当たりばったりじゃないか、とか、思ってるでしょう?」


 うわ、心を読まれた! 見透かした果音さんはモニーに向けて指差す。


「よく見て」


 なんだ、ただ走ってるだけ、いや、よく見れば、偽刀! あれを前に持って、引っかかる糸を探知しながら走っているんだ! 


 そうして、糸が引っかかると、強く切り返した。いくら偽刀とはいえ、強く張られた糸を切るくらいはたやすい。


「さあ、おいたは終わりだ!」


 ロマーネは、もう危機が目の前に迫っているのに罠に夢中で気づきもしない。これは、もらったか! 


「なんだ、また糸か。同じ手は通用しない!」


 そう、もう、彼女は糸を攻略した。なんら、怖くない。偽刀を振り上げ、糸を切断する……。


 しかし、その刀はあまりに強すぎた。勢い余って、剣の舞のようになり、モニーは体制を崩す。


「そこ……です!」


 勢いよく飛んだ球状は、モニーを大きく吹っ飛ばした。


「おー、妹ちゃん、かっこええでー」

「ボールを投げるのが、ミラだけだと、思わないこと……です」


 ニノベーの気の抜ける声援。その先には、頬を拭うヴァネッサがいた。そうか、彼女もここまで!


 しかし、どうしても、納得できない。いくら、ヴァネッサが強くなったとはいえ、あの威力はおかしすぎる。それに、あの糸だって不思議だ。モニーの実力なら、力加減なんて簡単なはずなのに、なぜ、ああも空回りした? 


 すると、球はまた、おかしな挙動をする。飛んだ後、机の上に乗り、カップに当たって均衡を保ったその球は転がるのにもゆったりのはず。


 しかし、それは急に強烈なバックスピンをかけると、投げたヴァネッサ向かって流星のように突っ込んだ。そうして、彼女はそれをグローブもなしに掴む。あれほどの速さの球を、だ。


 客の避難の終わった今も多くの球が投げ乱れている。ヴァネッサは今度はゆかりさんを標的にし、末期丸はその処理で手、いや口一杯だ。


「もうっ! 次から次へと、しつこい男は嫌われるデスけど、しつこい女もタチ悪いデスよ!」

「ああ、このままじゃあ改装閉店もやむなしかねぇ」


 周りからはネガティブな声が口々に聞こえる。


「埒が開かない! パイパー! 相手の切り札はあの球だ! 投擲禁止の命令を!」

「へー、頼らないとやってられないんだ〜♡ 悔しそー♡」

「いいから!」

「じゃあ、ルールを制定する……投擲を……」

「させない!」


 ミラがまた、速球を投げる。今度は、パイパーに向けてだ。まずい! ここは、わたしがトンファーで! ボールは予想通り! わたしに向かい飛ぶ! 軌道を読み、今ここで、落とす! 


 わたしはトンファーを振り下ろした。しかし、それは、ボールに当たってはいない。なぜ、なぜだ。


 鈍い音も何もない。心配に思い振り向くと、パイパーは、なんとかボールを避けたみたいだ。しかし、そのボールの転がる方向を見て全てを察した。


「カーブか!」

「そう! 勘が鈍ったんじゃないキーリー? 昔のキーリーなら、手の握り方で、軌道を読んでたし!」


 くそっ、迂闊。けど、これなら! 


「パイパー!」

「せっかちさん♡」


 そう言って、パイパーは、命令のため、わざわざかこつけた印を結ぶような指をした。


「投擲の禁……」


 その瞬間、鋭い音がした。怖くなり目を瞑る。何か、肉の塊が小気味よく切れる音だ。恐れを忘れ、ゆっくりと目を開けると、その前のパイパーの喉には、浅い傷ができていた。わたしは彼女のそばに駆け寄り、後ろ手を回し、喉を支える。


「パイパー! 大丈夫、傷は浅い! 喋るくらいは出来るだろう! 頼む!」


 しかし、パイパーの喉は虚に震うだけで、空気の音しか出ない。おかしい、あの傷じゃあ、そこまでの怪我にはならないはず……。もう一度確認のために見る。


 すると、ひどい光景が目に映る。なんと、その甲状腺はあまりに重篤に腫れていたのだった。このままでは命すら危ういほどに。いくらなんでも、こんなに早く進むなんて!


「こりゃあ、やるしかないか……」


 隣で、果音さんが、不服そうに呟く。そうして、パイパーの喉にやさしく手を触れる。その喉の上の肉は触れたところから整っていった。


「キーリーさん、背に腹はかえられない。わたしの白万でこの子の手当てをする。キーリーさんは、構わず戦って」

「……分かりました!」


 この傷、これは、誰の白万だ。周囲を見渡す。


 さっきと違うのは誰か、フードが怪しいか、いろいろ考えたが、犯人はおそらくはわかった。あの杖を握る魔女のような気弱な少女。顔も恐れにわなないているが、それは、何かがバレて狙われることの恐怖に見える。あ、その少女と目があった。そして、さらに不安な顔になった少女は呟く。


「と、取手矢・エア!」


 ああ、そうだ、思い出した! 


 腕に当たるは戦場の麻酔のない荒療治ですら感じないような鋭い痛み。腕が切断されたような感覚に襲われる。わかっている、彼女とは長く知り合い、付き合って、わかっているから、なんとかなる! この痛みはまやかしだ。取手矢・エアは、まやかしの刃。感覚に作用し、攻撃を錯覚させ、感じた傷の深さに応じて自衛作用で深くなる傷。こんな能力だったはず。


 この能力、応用すればもっと複雑に使える。感覚に作用する、ということは、当たったかもしれない、といった状況も作れるわけだ。もしかしたらモニーがよろけたのも、あれで感覚だけの偽の糸を切ったから、かもしれない。


 そうだ、わたしが知っているのは、明らかなチャンスだ。このことを口外してしまえば、パイパーも錯覚に気付けるかもしれない。言ってしまえ、キーリー! 


「……。……。……あれ?」


 声が、出ない? いや、声は出る。あの白万について、喋ろうとすると、喉が枯れてしまう。こんなオカルト、白万の影響に違いない! しかし、どうやって?


 書物のめくれるような、耳障りのいい音がした。フードの者の手のその書物は解かれた巻物のようになっていて、よくわからぬ文字がびっしり。


 それを見たか、モニーは遠くで立ち上がり、興奮して声を上げる。


「ああ、あれは、秘封の書文!」

「知ってるのか、モニー!」

「ああ、白万の文化は、秘密主義なのは、キーリーもわかっているだろう。そんな白万を表沙汰にしないために使われたものがあの秘封の書文だ。あれを誰かが所持する限り、白万のことは口外できない! 白万界隈では普遍的なものとはいえ、まさか、これを使ってくるとは!」


 モニーは感嘆の息を漏らす。しかし、このような戦略を思いつくあのフードの奴は、本当に何者だ? 


 フードの者は、近くにちょこまかと罠を張っていたロマーネをひと撫でする。まんざらでもなさそうな彼女に秘封の書文を投げ渡すと、フードの奴はついに何かを訴えるため、わたしに向かい指をさした。


「I want to…… hug keeley……」


 訴えはこうだった。なんだって、ハグ? 聞き違いかな。いや、間違いなくハグだった。正直、今はハグに応じるくらいなら、いいと思っている。なにせ、ハグなんて挨拶みたいなもの。それに、わたしも最近恋人の不在でハグ離れ気味だ。パイパーじゃいくらなんでも子供っぽくて、リードする感じだし、パイパー以外の誰かの中に包まれたい気持ちもある。


 これでお互いいい思いをするなら、と心を許しそうになったところ、末期丸を戦わせたまま、ゆかりさんがこっちにずけずけと歩み寄っていることに気がついた。そうして、わたしの前に立ち、啖呵を切る。


「おいおいおい、顔すら見せないで正気デスかぁ? キーリーちゃんは妹みたいなもんデスよぉ? ゆかりさんの許可なく抱きしめるなんて、許さないデスからねぇ!」


 ゆかりさんは、同じような背の相手にも関わらず、わざわざ背をかがめて、上目に睨みつけていた。妹みたいなものって、いつわたしが妹になったんだよ! 気恥ずかしいけど、胸の底ではドギマギして気持ちが脈打っていた。


 これは、相手も怯むか、と思ったときだった。相手は、ゆかりさんの背に手を回し、引き寄せ、フードの布に引っ付けた。そして、彼女の顔にその頭部の闇穴を近づけると、ブチュウといやらしく音が鳴る。


「エッ」

「マジかよ……」

「わーお、大胆っ」


 唾液の交わる汚らわしくも、色っぽい音の鳴るたび、ゆかりさんは紅潮した。まあ、確かに挨拶かもしれない。けど、相手の彼女が鉄芯華国の淑女である以上、わたしは黙ってられなかった。


「そんな、見ず知らずの女の子にディープキスだってぇぇ!」


 



 




 





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