34話 急決起
――数日後、ウェストウッド家の屋敷にて――
「ほら! シド! 出てきなさいよ! 学校にも行かないで、何日引きこもってるの!」
扉の前では、ミラが、シドニーを起こそうとしている。いつものサスペンダーで金髪の彼女は眩しいけれど、その声には心配の湿りとわずかな怒りの渇きがあった。
「いやだ! 外に出たら死んじゃうもん! どっかいけ!」
部屋の中の彼女は、布団をかぶり、くすねてきた食料を溜め込んで籠城をしていた。もう、その姿に熱さは欠片として見えない。
「人間、誰だっていつかは死ぬんだよ! あたしだって!」
この瞬間、彼女の面は涙でまみれた。あの時、あんなことが起きたことを、その時、何もできなかったことを悔やんだ感情だ。
「マルファが、ウッ、マルファが死んで、どれだっ、ヒグッ、どれだけ悲しいか!」
もう、彼女にはこんな奴のこもりに構っている余裕はなかった。足を引きずり、涙を引っ込めようとしながら、この扉の前を去る。
彼女の前からは、小さな、白い影が見えた。ネイトセクトンだ。彼女は、いつだって笑顔を絶やさない。そうして、他人にも笑顔でいてほしいと、いつも言っているような人だってことは、ミラも分かっていた。
「あっ、ミラさん!」
凍てついた耳を熱い炎で裂くような明るい声で、ネイトは声をかけた。
「いつになく、鬱屈してますね! 妹が死んだくらいでくよくよしないでください! ほら! 笑顔笑顔!」
ああ、これだから、デリカシーのない奴は。そんな嫌そうな顔をしたミラをネイトは突っつき続ける。しかし、無自覚な悪は長くは続かない。
「ちょっと! ミラなんて反応していいか困ってるじゃない! ネイトさん! 戯れるのも大概にしなさい!」
そこには、夜勤でピンクの髪を傷ませ、帰ってきたメグがいた。しかし、その服装はあいも変わらず痛々しいセーラードレスとウサリボンだったが。
「ワタシはとびきりの笑顔が欲しかっただけですよー。いやぁ、辛気臭い顔してると楽しくないでしょう?」
「辛い時は辛気臭くなりたい時もあるわ! ほら、行きましょう!」
そう言ってピンクがかる髪を振る彼女は、ミラを引き連れ去っていった。後ろからは、笑顔は万能薬なんですよ、と負けた気のしない捨て台詞のように発せられた。
ずんずん、廊下を進む。それと共に、話も円滑になっていった。
「メグ、急に強くなったよね」
「そっちこそ」
「怖くない?」
ふと、メグの呼気が静まった。
「怖いに決まってるでしょ! クオリアさんがマルファに手を下したって言ってた。けど、そんなんじゃない。その死そのものじゃない! もっと強大な何かが、キーリーにあるんだよ!」
その感情は、無心でも、余裕でもなく、死への恐れでもなく、また違った恐怖だった。彼女の中の正義の像がブレるにつれ、リスのスラッシュは訝しい顔になった。
「はは、冗談。魔法少女メグはこんなことでくじけないわ!」
魔法少女は強がっていても、膝は笑っていた。背の高い膝が笑っている。
「それじゃあ、すぐに会議に向かうから。ちょっとだけ休ませてよ」
お屋敷特有の小リビングに向かい歩んでいく高い背の側に、小さな影がすれ違った。
「ミラ、怒りは静まったですか?」
小さな影はヴァネッサだった。その後ろには姉のように使用人見習いのニノベーが真っ白なタオルを抱えて微笑んでいる。
「せやなー。うちは、のんびりとしとるほうええさかい。優しいミラちゃんが戻ってくれてうれしいでー」
そのようすは、おっとり、という言葉があっていそうなくらいゆったりとしていた。そんな反応に、ミラは少々緩んでしまった。
「うん、ありがとね。ニノベーは本当に優しい子だよ。あたしの妹に欲しかったなぁ」
「わかるわぁ。うちもミラちゃんの妹として生きたいわぁ。さぞかしポカポカしとるんやろなぁ」
「そうだね……」
しかし、この妹という発言はミラにとって自爆と同じだった。また、彼女のことを思い出すと、鬱屈として顔に陰りを見せた。
「じゃあ、これから会議にいくから……」
「ニノベーは、白万を移植して、何か変わった……ですか?」
その別れの言葉は、偶然同じ時に出た言葉で遮られた。もとより噂好きなミラだ。足並みをわざとらしく緩め、こっそり盗み聞きした。
「そやなー、うちは、ええことはあらんかったなぁ。体は痛むし、苦労はしょうし。白万は移植せんほうが幸せやったんちゃうかなー」
「そう……ですか」
「やけど、ヴァネッサちゃん、心配せん方が世の中はらくやでー。深こぅ考えずにゆったり、のんびりと生きてくほうが、気がらくよ……」
*
会議室は円卓になっていた。人の数はそれほど多いわけではなく、十数人といった所だろう。この重要な会議。円卓を囲む者達は、真剣かと思いきや、思ったより気の抜けている者も、ちら、ほらと見かけられた。その中、静粛に、との声が聞こえた。マジェストこと、イクスマグナが、会議の号令をかけようとしていたのだ。
「おっと、今日はキルケーは不在か。まあいい。ただいまより、緊急会議を行う。進行は私、イクスマグナが自ら行おう」
「書記は私、クオリアが担当させていただきます」
クオリアは、右腕にペンを持ち、ノートに向かって病的なくらいに綺麗に持った。左腕には、包帯を巻いているが、その見た目は、不思議と痛々しくはなかった。しかし、その様子にミラは違和感を覚えた。
「あれ、クオリアさん、右利きだったっけ?」
「有事の為に使えるように、両方使えるようにしておくのは、不束メイドの嗜みです」
「いや、そのようなことはありません!」
ズレた片眼鏡を直しながらヘイゼルはキッパリ否定した。
ああ、そういえばこいつ、昔も右で書いてたこともあったな、とミラは思い出した。
「隣、失礼するわよ。ミラ」
開始数分前、ようやくきたメグはミラの右隣、空いていた方の席をゆっくりと引き、座った。
クオリアの数席向こうには、背の低いネイトが手を組みながら、未だに笑顔を絶やさないでいた。しかし、目だけはキリッと見開いている。そのも一つ隣に、頬杖をついている者がいる。活動的で家庭的な雰囲気を保った彼女は名をワルスラという。しかし、今は全く不機嫌だ。
「しかし全くこのようなことが起きてしまったことは嘆かわしいよ娘を二人も失ったアタシの気持ちを分かってほしいものだね弟子も一人失ってさおかげで厨房は火の車さしかも今ソータの奴は留学という名の軟禁中だろ?こんなのアタシは生殺しだよ」
話を聞けば分かっただろう。彼女はマルファの実母である。彼女は途中、なんと言っているのかネイティブでも聞き取れないほどの早口で捲し立てた。まあ、これはいつものワルスラである。
しかし、その言葉の最後を聞き、はじめてクオリアは彼女の方を軽く見つめる。
「失礼ですが、ご主人様は勉学の才能あるソータお嬢様がご自身で留学を決めた為、寛大なご厚意で受理したに過ぎないとの所存です」
「だからと言って小学年まるまる帰ってこないなんてことがあるかい!もう二度と帰ってこないなんてのは嫌なんだよアタシのこと恨んでいるだろうね娘たちはなんで助けてくれないのってさ」
クオリアはもう反応しなかった。
「しかし、ミラ、随分恥ずかしい成果ですね。皆がここまで協力してくれて、やったことが覗きだけで見返りはなしですよ。まぁ、私が最初からいれば、こんなことにはならなかったでしょうけど」
ミラの座る右隣にはメグ。その反対の席では、わざとらしく手のひらをぴたりと机に付けた少女が、皮肉ったらしく嘲った。
「ロマーネ。事はそんな簡単じゃないし」
「いやいや、ミラのきもちになるとあまりに恥ずかしかったもんでつい……」
最後まで癪に触る。けど、ミラは言い返さなかった。その心には、マルファの死、そして自分の作戦にどこか負い目を感じていたんだろう。
クオリアは、書類を机に立て、叩いて整理する。小気味良い音が部屋に響く。
「それでは議題に……」
その時だった。扉は破壊されるくらいに強く開いた。実際、ひびは入っただろう。ミシミシと扉が軋む。開いた相手は鎧を着込んだソーディアだった。顔は見えないが、錯乱の様子は体の震えからわかる。
「ああぁああああ! あのSNSのSNSの漫画に! わらわのことが書いてあったんだぁぁあ! これもまた秘密結社マグナ一派の仕業だよぉおおお!」
明らかに落ち着きが見られない。また、躁症状か、と、周囲は絶句した。
そんな中、今のところ目立たない存在だったネイトが立ち上がった。そうして、彼女を警戒させないように近づく。怯えの様子はソーディアから伝わったがすぐに気を許し、ネイトは肩をがっしと掴む。
「どうしたの? ソーディ。詳しく話してくれない?」
「これだよおぉおあ! この漫画! この人に向かってあれこれ批判してるけど、相手は気にもとめてない奴! この露悪は絶対わらわを露悪的にかいてるんだよぉおおお!」
「大丈夫、ソーディ。けど、それはどうしてそう思ったんですか? こうなったのも、ソーディアに原因があるんじゃないですか? ゆっくり考えましょうよ。時間はたっぷりありますから!」
「それは……これは、明らかに悪人っぽく描かれてて……それが、わらわは気に入らなくて……。もっと優しい話が読みたくて……」
「うんうん、じゃあ、見ないふり、すれば良いんだよ!」
「でも大ゴマ使っててよく目に入るし……」
「それは、きっとソーディの検索に原因があるんだよ」
「そうか、秘密結社が履歴を辿って……」
ネイトは肩から手を離すと、指を一本立て、ぐるりぐるりと彼女の前で回した。
「こういうのは不可逆だから、考えないのが一番さ! ほら、笑顔になる魔法。あなたはだんだん笑顔になーる!」
この魔法は思ったよりは効き目があった。ソーディアは安堵のため息を漏らすと、ブツブツ言いながらも、金属音を立てながら部屋を真っ直ぐ去った。
「あの子は変わっちまったねえ昔はもっとはつらつとした子だったのにさそれにラミエリーも客観的に自分を見れないのかいあの子らは」
「ラミィ……」
早口であるが、ワルスラは彼女らを自分の子のように心配している。それにも、ミラは答えられなかった。彼女も、明らかに変わってしまった。明らかに人を見下すようになり、昔の彼女が望んでもいないような相手と結ばれた。
そして原因は、ミラには分かっていた。白万の移植による豹変。それで気が強くなったのだろう。彼女が望んだこととはいえ、ミラの自責の念は尽きなかった。
「それでは、改めまして、議題に移らせていただきます。今回の議題は……」
わかっているだろう。ここにいる誰もが。しかし、この瞬間は息がつまるもののことに変わりはない。
「『キーリーお嬢様の奪還について』、です」
「これには私から意見させてもらおうかな」
イクスマグナ! イクスマグナが喋った。空気はもう瞬きすら許されないほどだった。が、イクスマグナはこれを憂いに思ったらしい。
「いや、そんなに引き攣らないでくれ。私もいつも通りしゃべる。皆も、普段通り、くつろいでくれよ」
くつろいでって、言われても、この会議の中くつろげるやつはそうとうな図太さの持ち主だろう。その反応は妙にズレているため、殆どの者はゆったりなどできなかった。ただ、ネイトは間違いなく気を休め、伸びをしていた。
「ほら、もうイクスマグナさんも本当は気さくな人なの知ってるでしょ? 今休んだって苦労しないよ」
「ネイトさん!」
ヘイゼルはそうやって静止したが、
「いいんだ、彼女にはいつも助けられているよ」
イクスマグナは上機嫌だ。その様子は、歳を重ねど、キーリーのような爛漫とした雰囲気があった。
「話を戻して、だね。我々は彼女をあまりに舐めすぎていたよ。たった一人連れて帰るだけのことにこれだけの時間をかけている。しかもキーリーに味方する者は数知れずときた。これじゃあ、笑い草もいいとこだ。何か良い案のある人はいないかな? 労力は惜しまないからさ」
これに対し、最初に口を割ったのは、あの時伸びをしていたネイトだった。
「参謀がいないのは痛いですよね。モーンレッドもいない、キルケーさんは頼れないなかどうするんですか?」
「そうよね。今の状態では無敵の魔法少女でも無茶があるわよ」
メグはこれに賛同した。
「そうですね、私も持ち場を離れる訳にはいきませんし、どう致しましょうか……」
ヘイゼルは、頼れそうなクオリアを見つめた。見つめられた白いメイドは頷くとゆっくりと手を机に置き立ち上がる。
「私が行きましょう」
「ダメッ!」
その瞬間、多くの目線がミラに集い、視線はあまりに鋭くミラを刺した。
嘘だ、ありえないとミラは思った。いくら私怨がある相手とはいえ、こんな言葉が自分の口から発せられるなんて思ってもなかった。まったくロジカルじゃない、本能が思考を上回っている!
「そうですか。ミラお嬢様がお望みとあれば、私は引き下がるほかありません」
立ち上がったクオリアは目線の先の彼女に会釈をすると、ゆっくりと座り直した。イクスマグナは、強気な反応のミラに、むしろ興奮気味だ。
「ほほう、ミラ。いい作戦があるみたいじゃあないか。私にも聞かせてくれよ」
いや、無理だよ。そんな作戦はミラには存在すらしていない。脊髄での反応から即興で思考するなんて、到底時間が足りない。俯いて、黙りこくるしかできなかった。
「ああ、またいつものですよ」
「急にカッとなって、行動して、やっぱりあの子らは癇癪持ちの血ですね」
黙っていれば、周りは口々に悪く言った。
無力なミラに対し、エウリュディケは胸に手を当て強く主張してみせた。
「おい、ミラ! ウチは腹に傷の残る酷い目にあったんだ。なんかいい案を出してギャフンと言わせてやんないとウチの気が済まない! なんとかしやがれよ!」
「下っ端は黙ってくださいよ……。そうやって増長してるから、能力を活かした最下層の人員管理しか任されないんですよ」
「そちらも、よく知らないくせに口出すんじゃねぇよ!」
ロマーネのぼやきにエウリュディケは怒る。それにさらに追随したのはメグだった。
「そうよ! わたしの分まで、やって見せなさいよ吸血鬼!」
姉妹や使用人たちが責める言葉に、脳漿は擦り切れるようだ。ああ、こんな時、キーリーならきっと持ち前の勇気で切り抜けられたに違いない。ああ、なんであたしはキーリーじゃないんだろう……。涙は頬をつたい、唇は寒くもないのに震えた。
*
会議は結局、とりあえずはミラに全任することに決まった。しかし、周囲の協力はほとんど得られなかった。
正直、ミラは期待していた。最近のメグは白万を得たことにより調子がいいから、協力してくれるだろうと。しかし、根はうじうじして引きこもっていたあの頃と変わらない様を見せつけられたのは、ミラにとってひどくショックだった。
「レイチェル……。早く帰って来てよ……」
呟きながら、中庭を歩く。どこに行くあてもなく、守られる場所を探してぶらりと歩く。
中庭では、先程会ったヴァネッサとニノベーがキャッチボールをしている。大きな日の下、なんとも爽やかな汗が、彼女らの首を伝う。
「なんやヴァネッサちゃん、ごっつい肩しとるなぁ」
「女の子にごっついとか言うな……です」
「ああ、勘違いせんといてやー。褒めとるんやで、これは」
「それでも、ごっついはない……のです。これは、ミラに鍛えてもらったです」
「そかー、ミラちゃんはすごいなぁ。ぎょうてんして腰抜かしてまうわぁ」
ここだ、ここが居場所だ。彼女らに混ざってしまえば、辛いことも忘れられ……。
「おやまあ、ヴァネッサお嬢様。それと……ビショップさん! 仕事もせずに何しているんですか!」
遊ぶ使用人見習いに、しかめっ面をして腰をかがめたのは教導の立場のヘイゼルだった。
「すまんなぁ、かんにんやでーヘイゼルさん。これは、あれやー、妹ちゃんとの遊びも一つの仕事っちゅうことやでー」
「はぁ、そうですか……。そういうことなら……」
ヘイゼルの顔は余計に凄みを増した。そうして、怒号でも飛ぶか、仕置きでもあるか、と思いきや、ヘイゼルは落ちていたボールを拾い、
「私にも、少し付き合わせてください。僭越ながら私、ミラお嬢様に野球をお教えしたこともありますから」
そう言って手のひらの上でそれを弾ませて見せた。
「それじゃあ、お願いするのです……」
普段なら、ミラの顔の広さと明るさなら、あたしも混ぜてよと声もかけられただろう。しかし今の心の参り具合では、ああ、もう、ここにも居場所はないな、と、とぼとぼと去るしか出来なかった。
「うわー、魔球やー! えらい曲がったでー」
「シンカー……ですね。こんなのミラでも投げられないです」
*
ミラは疲れ果てていた。周囲の期待に答えられない様に、気落ちしたのだ。もう、だめだ。今日はゆっくり休もうと、もう、あの頃の三銃士のいない自室に向かっている最中だった。けたたましく響く泣き声が聞こえて来る。その方向を見るとラミエリーが、抱いた赤子に軽くはたき触れ、あやしている様が見えた。
「おお、よしよし、いい子いい子」
その様子にミラは、赤子がかわいいというよりかは、ミラにとってのあの頃の彼女から離れてしまった様に、どうにも表現せえぬ不安というのが先に出た。
「ラミィ!」
「ん、ああ、どうも」
反応はしてくれたが、それはどこか他人行儀だった。考えてみればそうだ、赤子に構わなくてはいけない母としての彼女は忙しなく、他に構う暇もないのだろう。そんなことにすら気づかず、良い返事を期待していたあたしは冷血なのだろうか……。ミラは自分の愚かさと、昔の彼女のいないことへの悲しみとに暮れ、顔を覆い、泣こうとした。
――
「やって見せなさいよ吸血鬼! 冷血公よ!」
「あの子らは癇癪持ちの血ですから……優しい血をしていないんです……」
――
その時、ミラはふとあの時の言霊が頭によぎった。そうして、覆っていた手を、仮面を外すようにそっと離す。
「ああ、そうだ、そうだよなあ……」
何かに気がついた彼女は、足早に自室に戻る。去り際に何か心配するような一言すら、ラミエリーはくれなかった。
部屋には正午の日の高い明るさが窓から満ちていた。しかし、彼女は窓の前には立たず、窓の脇に寄ると、そっと厚手の遮光カーテンを閉める。部屋は、白昼とは思えないほどの暗黒と化した。
そうして、暗闇の中、タンスを漁ると、黒い外套を見つけると、それを大袈裟な動作で羽織って見せた。桃色の可愛らしい服は、血の滲んだような印象に変わり、その姿は闇に紛れる。
「さて、眷属を連れ来よう。そして、棺桶の中で眠り、鉄芯華に血湧き肉躍るデッドナイターをしようじゃないか。なぜならあたしは」
そこいた闇の化身の苦々しく笑うその口には、八重歯が鋭かった。
「冷血な吸血鬼なんだから」




