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ウェストウッド家に栄光あれ!――君に家督を譲りたいっ!  作者: 青瑪瑙ナマリィ
第3章 烏の目からは逃れられないっ!
33/65

33話 烏、跡を濁して

おまけ

(実話を元にしたフィクション)

例のごとく過去編

ラミエリ「あれ、今月って8月だよね? 8月って何日あったっけ?」

クオリア「不肖私から月の日付の覚え方の助言を致します」

ラミエリ「なになに? いい覚え方でも?」

クオリア「所詮俗説ですのでお伽噺程度に覚えていただきたいのですが……。まず、日付を奇数月は31日、偶数月は30日、ひと月ごとに数値が変わるようにします。この内2月のみ29日にします。2月が29日の理由はそういうものだって覚えてください」

ラミエリ「?」

クオリア「そして9月、これはセプテンバー、セプテン。これは北斗七星セプテントリオンなどの例から分かる通りラテン語で7です。つまり9月の数字は7のわけですね」

ラミエリ「???」

クオリア「となると途中の7月ジュライと8月アウグストは何かと思いますが、これは皇帝の名前から取っています。となると両方31日の最も多い月にしたいですね。すると8月が31日になります。そこからは法則通りひと月ごとに31日と30日の月が来るようにすると、9月が30日になって、10月は31日、ひと月ずれることになります」

ラミエリ「??????」

クオリア「そうすると1年の日付が1日多くなってしまいます。そのあまりを元から減っていた2月から取ってきて2月は28日、これですべての月の日付の数が分かると思いますよ」

ラミエリ「????????????」

 ここは、烏窟城の外れ。そこでは、ウェストウッド家のお嬢様や使い、社員等大勢の人が集まり、撤退を始めていた。


「お嬢ーーーー!!」


 遠くからは、声を平野に響かせ、やや癖のある黒髪の男が、砂を蹴散らしながら凄まじいまでの速度でその中の一人の少女に近づく。


 その少女は魔女のような帽子を被った、背と顔だけは子供のような女子だったが、控えめそうな動作に似つかわしくなく、妙に色気のある体つきをしていた。服も、胸元とそれより下とが別の素材でできていて、世の男どもは殆どが嫌ではないだろうが、嫌でも目立つ。彼女も髪は黒く、前におさげのように垂らされている。が、それは後ろ髪ではなく、肝心の後ろ髪は短めに切られていた。


 黒髪の男は少女を抱きしめると涙をポロポロとこぼす。


「心配しました。あんなスラム街に一人で向かうなど。全くイクスマグナは人の心がない!」

「大丈夫……。僕も心細かったけど……」


 少女は小慣れているようだけど、その声は小さく、そして曖昧だった。


「お嬢、辛いならオレに言ってください! イクスマグナに抗議くらいしてみせます!」

「……うん。大丈夫……」


 少女はしばらく抱きしめ返した後、ゆっくりと後ずさった。その目は虚だったが、明るかっただろう。彼女の名はキエロとは言うが、これは名前であり、決して悪意のある言霊ではないし、そもそも日本語でもない。留意のあるように。


「ちっくしょう、やりやがったなあいつ!」


 近くでは、巻いた髪のエウリュディケが、負の感情丸出しに拳を握り、悔しがった。もうすでに連結された男共は切り離されたが、ボロボロの服をめくり腹を見せると、くっきりと肉が剥き出しの、ツルツルな痕が残ってしまっている。


「お元気そうで何よりです」

「あんたさぁ! もっと丁寧にできないわけ!?」


 クオリアは向けられた怒りに笑って返す。

 これに気になったかネイトはクオリアの話に首を突っ込む。


「結局、どんな治療だったんですか?」


 しかし、答えたのはクオリアではなく、手癖でトランプをシャッフルしていたジョニーだった。


「ああ、俺はあいつらの治療中に眠りから覚めたから、明瞭に覚えている。たしか、自身の氷玉、ホップビール・ロックという名前だったか、それを使ってつながった患部を凍らせて、俺の8切りで切っていたようだ。ちょっと蛮骨ではないかという思いも抱いたが、塞翁が馬のようだったな」


 エウリュディケは俯いて左手で頭を掻き、


「くそう、これどうやって誤魔化すか……」


不機嫌そうにそう呟いた。


 それを見て、気がかりそうに近づいてきたのは、まだ中学生といわれる6学年なったばかり、というような少女だった。


「リディ、大丈夫なのですか? わたしは心配なのです」


 その慣れてない敬語も、またいじらしかった。しかし、エウリュディケはこういったことが好きか嫌いか、わからないように黙り込んでしまった。


 となると、次に少女はとてとてと、転びそうなくらい足を小さく激しく動かし、ミラの所に向かった。


「ミラ、どうです? 白万は、怖くないですか?」

「あ、そういえばヴァネッサはそろそろ白万移植するんだっけ……。怖くないっていうと嘘になるわね。けど、怖がることはないよ。そりゃあ、マジェストは……あれだけど。けど、助けてくれる大人はいるしさ! とにかくやってみようって、やつっしょ!」


 嘘は言わず、かと言って落ち込ませ過ぎず、という香りのする言葉だった。


「うん、がんばってみるです」


 ヴァネッサと言われた少女は小さく、手前でガッツポーズして見せた。しかし、そんなヴァネッサの口元にいきなり、なにか長細い瓶のようなものが添えられる。


「おおー、その意気よ。いざって時はワタシを頼ってもいいからねぇ! ほら、これ景気づけのジュース」


 そう言われて、傾けてドロっとした液体がヴァネッサの喉を伝った。その瞬間、飲ませた張本人、キルケーが、


「はっはっは、実はこれここで買った薬でねぇ!」


なんて言って高笑いした。


「あー! ヴァネッサ! キルケーさんからもらったものは飲んじゃダメって習わなかった!?」


 ミラも、ヴァネッサも青ざめた。


「そんなの知らないです! 怖い、怖いよ!」


 ブルブルと震えるヴァネッサの肩をキルケーはリズム良く叩く。


「ジョーダンよジョーダン! ワタシが試験結果も出さずに薬を処方すると思うかい?」

「いや、やる。絶対やる」


 ヴァネッサは胸を撫で下ろしていたが、ミラは全くこの冗談を信じられなかった。が、ヴァネッサを怖がらせないためか、小さく呟いていた。


 そんなヴァネッサとミラの合間に、メグが割り込む。


「うんうん、白万っていいわよね。この魔法少女メグも応援してるわ!」


 ステッキを前に出し、決めポーズをしたメグに、ヴァネッサは引いているようにスゴスゴと後ずさる。


「メグ、仕事は?」

「今日は休みよ。それにさ、特殊部隊って居場所がなくってね……」


 メグは照れたように俯く。


 その奥で、膨れっ面の妹、パリスを宥め続けているのがシドニーだ。行きの服装は、焼き捨ててしまったので、近くで買ったカジュアルな上着をサラシ

を隠すように羽織っている。しかし、よく見ればちらりと包きれ布が見れる。


「ほらほら、あの時は無理矢理連れてって悪かったじゃんよ! お菓子奢るから!」


 パリスは、そっぽを向いて一言として話を聞こうとしない。完全に拗ねている。


 メグは顔を上げると、キョロキョロと周りを見渡す。


「そういえば、マルファは?」

「……ずっと、気になってた」


 先程とは異なる真剣な面持ちで、ミラもそう言った。


「ああ、マルファお嬢様なら……」


 クオリアはメグたちのグループに早歩きで寄る。そして、その方を向いて口を開いた。


「亡くなられましたよ」


空気が変わった。ゾワっとしたさぶいぼのたつような寒気が、熱い大地に立つ者たちを、残酷に撫でた。ミラの顔には明らかな陰りが見えた。


「マルファが!?」

「死んだ!? ウェストウッド家単体戦闘力最強の?」

「嘘でしょ……」

「そういうことか……。クオリア……俺のいない間にそんなことを……」


 周囲には、えもいえぬ不安へのざわめきが口々に漏れた。しかし、なおも、クオリアは言葉を続ける。


「私が殺しました。あまりに錯乱していて、話し合いではもうどうにもならないと思いましたので」

「どうして……」


 あまりの恐ろしい言葉を簡単に使うクオリアに、メグは口に手を当て、わななきの声を漏らした。


「方法でしょうか。それならば、ゆっくり、ゆっくりと締め殺して、息の止まった所を爆発で木っ端微塵にしました。手に伝う命の奪われる感触は、大変素晴らしきものでしたよ」


 ミラの陰りに満ちた顔は明らかな怒りに変わった。


「このようなことを、支配欲って……」


 その瞬間、クオリアの胸ぐらはミラによって掴まれた。自分よりも背の高い相手を掴んでいるので、拳が上を向き、少々不恰好だ。


「これ以上喋らないで。貴方の立場を考えなさい」

「立場を考えなさい……とは、私がご主人様に無礼を働きましたでしょうか。私のご主人様はマジェスト、イクスマグナ様以外にはおりません。私の首を握るのも、彼女以外にはあり得ませんよ」

「あんたって人はぁああああ!」


 拳が、まっすぐのその顔を狙う、がそれは届かない。


「やめるのです! 今殴ったら同類なのです!」

「止めないでヴァネッサ! 人が死んでるのよ!」


 なんとかヴァネッサが小さな体で抑えつけたのだった。見ていられなくなったジョニーは飛んでくると、ミラを少女と共に抑えつけ、帰るために手配した車に乗せようとする。


「いいから乗れ! クオリアとは別の車にだ!」

「ミラお嬢様。不躾ながら、私から進言させてもらいます。腐ったリンゴは、取り除かないと広がるのですよ」


 クオリアは錯乱したミラに、そう、言葉を残した。この言葉を聞くか聞かずか、何人かを乗せたその車は去っていった。


 残りの者も、車に乗り込もうとする中、シドニーは、放心していた。それは、気にかけていたパリスがこの場を去ろうとも、そのままだった。砂漠の風が、頬を撫で、砂をつける。しかし、頬に砂がつこうと、目に砂が入ろうとも、擦ろうともしなかった。


「死んだ? あの時、そばにいたマルファが? 死ぬ? 私も……? 嫌っ、嫌……!」



 マルファのいなくなった悲しみは、帰ってきても続いた。肩に乗った辛さを背負いながら、ゆっくりと重い扉を叩いた。空実さんにお土産でも渡そうかと思い、この空実さんの仕事場に来た。返事はない。ただ、扉の向こうでは誰かと話す声が聞こえていた。


「開けますよ」


 相手の返答を待たずに、扉を開ける。すると、会話の相手を知ることができた。


「ところで? 空実? 向こうでは元気にやれてるんにゃあ? ヒデオも、英二がつつがなしってやつか心配だにゃあ」

「うん、元気さ」

「それじゃあ、今日のおさらいだにゃお? 君子も、危うきに近寄れ。ただし、もしもの時の備えは忘れるな! それじゃあ、大会を楽しみにしてるにゃよー。弟にも会いたいなぁぞくぞく」

「わかった。私の友よ。切るね、電話」

「ばいにゃー」


 英二さんの話をしきりにする、ラジオでも聞く嘘くさい喋り、ヒデオという名前の相手。この電話は、世界栄鎮、鉄英雄との可能性が高い。彼の話はニュースで何度も知った。鉄脈重工の現在の若社長であり、その会社の技術力は機械技術に置いて素晴らしく、世界に広まっている。特に、錆万装なる一人乗りのロボットに関しては、他の追随を許さないと言っていいだろう。しかし、なぜ、そんな大物と電話を? 


 回転椅子に乗り振り向いた空実さんは平常を装おうとしていたが、顔は紅潮していた。恋、ってわけじゃないよな。多分、興奮によるものだろう。


「恥ずかしいところを見られてしまったね。私の友人と、少し電話をしていたんだ」

「空実さん、その相手っていうのは、世界栄鎮?」

「そうだよ。私なんかと話をしてくれるのがあり得ない位の大物、鉄英雄さんさ」

「友人、って、どういうコネさ?」

「偶然、かな? 向こうの気まぐれだろうね」


 空実さんは、笑っていた。真面目、ピュアで真っ直ぐな笑顔だった。


「そうだ。渡しておきたいものがあるんだ」


 空実さんは、ゴソゴソと懐をあさり、紙切れを2枚差し出した。


「これは、1ヶ月後に私が出る大会でね。鉄芯華錆万装舞踏って言ってさ、名の通り錆万装で戦う大会なんだ。チケットはいくらでも渡せるけど、とりあえず2枚。要らないなら捨てちゃっていいよ。ウェストウッドさんの分と、ほら、恋人いたでしょう? リク、でしたっけ? 彼女の分もね」


 この時、今の自分の侘しさを知った。相手はとんでもないクズかもしれない。けど、何年も恋人だった。そんな相手に区切りをつけることが、果たしてわたしには出来るのだろうか。無言でそのチケットを受け取り、失礼しますとだけ言ってこの部屋を去った。空実さんは、きっちりと別れの挨拶もしてくれた。


 外の風は夜らしく非常に冷たい。その心もまた、大変冷たかった。暗く、わずかに灯る夜光は、わたしを指刺すのに十分だった。


「恋人のいないクリスマスってさ、こんなにも冷たかったんだな」



――烏窟城・烏の心臓より


「やっと……やっと見つけた」


 ホームレスの集うこの路地には、相変わらず嫌なベタつく熱気をしている。その路地を闊歩するのは、以前逃げた田中澪だった。


 セメントを救いにしてもたれるホームレスたちの中には、汚れだらけの服ではありながらも、まだ小綺麗な長い髪の女性が床に座していた。手入れのされていない髪は傷みはじめ、枝毛が顔を覗かせる。ただし、その腕は歪で、何かの支えに無理やり筋肉をつけたという風だ。彼女こそが、澪が長らく探していた異端の存在だった。


 怒り、憎しみ、少々の憐れみを堪え、息を殺して近づこうとするも、怒の呼気が漏れてしまっている。


 もう、目の前に人ひとり入れないほどまでその女性に近づく。今まで澪の存在に見向きもしなかったが、ようやく気がついたらしい。そうして、座りながら、自嘲の笑いをしだしたのだった。


「ほら、あたしを見なさい。愛を信じ続けた結果がこのザマよ。笑いなさい、笑いなさいよぉっ!」


 しかし、澪にとってそんなことはどうでもよかった。頭に手を当て笑い、壊れてしまった彼女に対する目は、肉食獣の獲物への眼と同じだった。


 澪は懐から銃を突きつける。彼女はそれに反応しない。目の前の女性も反応しない。どこにも怯えのない無感動な殺意がここにはあった。


「粋世の教えに従い、異端を執行する」


 銃声が響いた。目の前の女性はぐったりと壁に背をつけたまま崩れ落ち、額から血を流していた。後ろには銃弾が綺麗に突き刺さり、その周りは赤く染まっていた。何が起きたか、明白だった。周りの奴らは気にも留めない。このスラムは人殺しなぞ稀にあることだからだ。


 そんな中、携帯端末が震え出す。薄暗い画面には、空想世界の偶像が、狼狽していた。


「え、リク、嘘ですよね? どうせ死んでないんですよね? 返事してくださいよ……」


 ここで、充電が切れた。やはり、画面にキャラクターを動かすというのは電力の負担が大きい。


 静かになった女を背に、澪は電力の負担の小さい、通話にしか使えないような端末を取り出し、連絡する。


「こちら田中澪。異端執行、完了。これで異端も報われることでしょう。直ちに帰還します。over」


 

ストックがなくなったのでおまけは一旦一区切りです。

(そろそろタグも整理しないと……)

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