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ウェストウッド家に栄光あれ!――君に家督を譲りたいっ!  作者: 青瑪瑙ナマリィ
序章 この辺境の街で暮らしたいっ!
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3話 友人にだって秘密あり

 あの日以降、ゆかりさんはこれでもか、これでもか、どうだ参ったかという位にわたしをいつも昼ごはんに誘うようになった。わたしは普段弁当とかではないから別にいいけれど。


「キーリーちゃん、キーリーちゃんの家族って、どんな人がいるんデスか? 」

「結構な大家族だね。もうすっごい大家族。姉妹もたくさんいてね、開放的で自分に正直な妹もいれば、シャイで口下手だけど運動神経抜群な妹まで。性格もいろいろだよ。そして、わたしが一番のお姉ちゃんなんだ」

「いやはや、大家族デスか〜……。憧れちゃいマスねぇ」

「ほとんどが養子だけど、みんな誇れる家族なんだ!大家族は大変だったけど、それでも仲良く暮らしてたから、別れるのはちょっと寂しかったかな……」

「本当に憧れちゃう、ゆかりさん、一人っ子で、親も今はいないデスし……」

「そ、そんな重い過去があったのか……。ごめん」


 すると、ゆかりさんは家族について語り始めた。


「ゆかりさんのお母さんは、本当に優しくて、強い人だったんデス。まだ幼い頃、父を亡くしてから、ずうっと一人でわたしの面倒を見て、家計を支えてくれたんデス。さぞかし忙しく、休んでいる暇もなかったはずデス」


 なんというかわたしの母とは随分と違う。わたしの母は仕事にずっと行っていて、面倒を見てくれることはなかった。


「すごい……人だったんだね」

「ハイ、デスがお母さんも超人、鉄人ではありません。ワタシが中学校を卒業しようという時に、苦労が祟って、病気で倒れてしまったんデス。そんな時、ワタシはお母さんに謝られたんデス。ゆかりのこと大人になるまで見守ってあげられなくてごめんねって。ワタシは謝ることじゃない、むしろこっちが謝らないといけないのにと後悔していました。その時、お母さんはお守りを渡してくれたんデス。大きさは巾着ほどもありマシタ。どうしても困った時に、これを開けてと言って」

「優しいなぁ……」


 ゆかりさんの話を聞くたびになんとできた人だろうと、そして自分との対比で怒りと悲しみの混じった複雑な想いになる。


「その後、ワタシは親戚に育ててもらい、高校に進学したんデス。けれども、親戚の叔父さんは突然の面倒ごとが嫌なのか、ワタシへはなんというか冷たい印象デシタ。そんな後ろ指を刺される日々を過ごしているのは心が刺される思いデス。そんな中でも、ワタシは学校に通い続けマシタ。カバンにお守りをつけて。そんな風にカバンにお守りがぶら下がっている様を見ると気になる人もいるものデス。キーリーちゃんも見えないものを見たい気持ち、分かるデスよね?」

「まあ、人ってそういうものだしな」

「そうデスそうデス。ある日に、何人かの男子たちが寄ってたかってきて、そのうちの一人が、そのお守りどうなってんだよって言ったんデス。けど、ワタシはあの日の約束があるので見せる気がありマセン。彼らの中の原住一族の男子は痺れを切らして、ワタシのお守りを奪って、中を見たんデス。全く、根明な男ってのはこうも強引でいて、遠慮を知らないから困りマス」


 まあ、今のわたしたちも女二人でも姦しいだろうけれど。


「しかし、原住一族の彼は、何も理解できない様子、そうして英語でつまんねーといい、ワタシに中身を返して、そそくさと行ってしまったんデス。中身は一枚の紙デス。そして、そこに書かれていた言葉を見て、ワタシは言葉を失いマシタ。景色がにじむほどの悲しみがワタシを襲ったんデス」

「それは……どんな紙だったんだ?」

「そこにはただ5文字、日本語で、自分の見知った懐かしい筆跡でこう、書かれていたんデス。

――ゆかり、死ね――

と。」

「っ……。陰湿だな……。嫌いなら表立って言ってもいいのに……」

「ハイ、その時はもう悲しくて悲しくて仕方なかったデスよ。なんで、そんなにワタシが嫌いだったの、恨んでいたのって。けれどね、時間が経つにつれて母がへそまがりだったんじゃって思ったんデスよ。おそらく母は、ワタシの強さを信じていたんデス。こんなことを書いたら私を嫌うだろう、そんな私のことは忘れて一人で強く生きてほしい。そういう優しさだったって考えてマス」


 わたしはそう聞いて、そんなふうに考えられるなんて、この人は卑屈に見えてすごくポジティブな人、思慮深いのに諦めない心を持った人と思い、尊敬の眼差しでゆかりさんを見た。わたしならきっと表面しか見ず、母のことを恨んでしまうだろう。というより、現在進行形で母が嫌いだ。なんだあなたに家を継がせたいのってうるさいのうるさいの。


「やっぱすごいやゆかりさんは、きっと、そうやって孤独にずっと生きてきたんだから」

「まあ、ずっと孤独じゃなかったデスけどねー。ワタシも彼氏がいた時期くらいはありマスから。ヤッたことないわけじゃねーデスから!」


 どうしたんだろう。ゆかりさんのこの反応は、孤独という言葉が嫌だったみたいな反応で、聞いてもいないのに経験について話していた。


「で、今はどうなのさ。仲良いの?」


 そうやってわたしが聞くと、


「えー、実は……別れちゃいまして。理由は、ちょっと聞かないで欲しいデスね」


と、答えた。ちょっとデリケートな話だったかな。

 わたしは、話を続けながら暗い雰囲気を変えるため、自分の話をした。


「そ、そうだ! わたしは確か今も付き合っている人がいてね。中学校を卒業する時告白された時は驚いたなぁ。なにせ自分の後輩、それもあまり詳しく知らないし、しかも女子校で、つまり女子だったから」

「え、そういう先輩が好きすぎる女子というのはいても、あくまで学校での話で、大人になったら卒業するもんじゃないんデスか? というか、女子に告白される女とかどんだけイケメン風なんデスか……」


 わたしは過去にふけりながら、あの甘酸っぱいラズベリーのような思い出を話した。


「放課後、日も沈み始めた頃、突然下駄箱の近くで、あなたのあたしにはないまっすぐさ、バスケットボールをやっている時によくわかる強かさ、陽の光のような明るさ、全て好きです、付き合ってください、って告白されたんだ。さっきも言ったけど、本当にわたしには面識がなかったから、ここでは友達からならと言ったよ」


 ゆかりさんはその言葉に疑問を投げかけた。


「それって、一目惚れってやつじゃないデスか? 長く続かないんじゃないデスか?」

「うん、けれど友達以上恋人未満で居続け、彼女が本当にただの一目惚れじゃないと彼女の一途さを見て、少しずつわかってきた。なにせ、他の人には、わたしが心配してもっと友達を作った方がいいって言っても、全然目をくれなかったんだ。そうして同じ時を過ごすうちに、いつのまにか恋人同士になってたってわけなんだよ」

「でも、今は離れていて、寂しい思いをさせてるんじゃないデスか?」

「そうだな。やっぱり遠距離恋愛になってしまったのは申し訳ない気持ちでいっぱいだよ」


 今は離れて暮らし、一ヶ月に一度くらい、本当にときどき会う程度の関係になってしまっている。彼女は本当に気の毒だ。彼女は今のわたしを赦してくれるかな……。



 ううむ、まさか夜警を任されてしまうとは、想定外だった。生活リズム狂わなけりゃいいけど。そう思いつつわたしは夜の街並みを警備に目を光らせて歩いていた。


 夜の街並みは赤道近くといえど冷えるもの、いやむしろ下手に季節があるより冷える。そんな中で覆っていない頬を照りつける風。街もほのかな灯りだけで暗闇に包まれている。街並みには人が少なく、侘しさだけが漂っている。それでもまばらには人がいて、夜の動物の心配を大幅にマシにした常任理事達の力をまざまざとみせつけているようだ。


 そんな中で街並みを見ると、ふと見知った顔があった。そこにはゆかりさんが、もう一人の男とともにいた。何やら布でぐるぐる巻きの二人でようやく抱えられるほどもあるよくわからない何かを運んでいた。これは、あまりにあやしい。職質のため、話しかけてみることにした。


「ゆかりさん、あなた、何を運んでいるのですか? ちょっと確認させてもらってもいいですか?」

「いや、これはなんでもないデスよ」


 怪しすぎる。無理言っても確認しなければ。そう思い、わたしはこのよくわからないアンノウンに手で布の上から中身を探るように深く、手を沈ませて触れた。その感触は嫌なものだった。それは確かに硬かった。しかし、鉄のような無機質な硬さじゃない。そう、皮膚の感触があったんだ。恐ろしくなったわたしはなりふり構わずその布を剥がし、中身を見ようとした。


 恐ろしいものを見てしまった。それはもう、おそらくは男性と思われるまごうことなき人間の死体。彼女達は死体を運んでいた。なぜ?一体なぜ、将来のこの国を支える存在がそんなことを。


「なぜ、なぜなんだ! わたしに隠して!」


 わたしは怒りで打ち震え、叫んだ。こんな夜にこそこそと死体を運ぶなんて、きっと殺人を誤魔化しているに違いない。心苦しいけれど、捕まえるしかない。しかし、まだ証拠が足りないといったところだった。


 その時、男が自分の行っていたことがバレたとわかったか、わたしに近づき、


「バレちゃ仕方ねぇ、女とはいえ容赦しねえぜ」


そう言って大腕を上げ、掴みかかるように向かってきた。わたしは挙げた手のひらを合わせるように掴み、抵抗した。


 しかし、これじゃ分が悪い。あちらは最低限は力のある男。こちらは体格面では大きく劣る。なんとか掴んだ切り離して、後ろを取れないか。


 刹那、その時だった。


「いちっ!」


 足元に痛みを感じた。見ると、わたしの足首を何か犬のようなものが噛んでいた。わたしは足を挫いたように崩れ落ちた。


 男はそこまでは想定してなかった、しかし、その犬に対して知っているかのように、


「おっ、サンキュー! それじゃ、ずらかるぜ!」


と犬に言ってゆかりさんに近づき、あの死体を抱えた。


 ゆかりさんは、申し訳なさそうに、


「誰にも……言っては駄目デスよ」


と言い、死体を2人で担いでそそくさと去っていってしまった。


 わたしは足を痛めたまま、


「なんだったんだありゃあ」


そう、つぶやくしかなかった。足元を見た。もう、何もいなかった。

おまけ

ゆかり「たまには別の呼び方で呼びマショウか」

桐の字「ゆかりん、みたいな?」

ゆかり「いやー、照れるデスねそう言われると。じゃあキーリーちゃんは……」

ゆかり「キーリーたんとかどうデスか?」

桐の字「そ、それはまずいですよ!」

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