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ウェストウッド家に栄光あれ!――君に家督を譲りたいっ!  作者: 青瑪瑙ナマリィ
第3章 烏の目からは逃れられないっ!
24/65

24話 そろそろ遊んじゃおうかな

85-5-5階


「そうか、福三はそうやって生きたのか」


 老年の男は、腕を組み頷きながらしっかりと話を聞いている。


「そうです、残念ながら」


 英二は、重い顔つきをしていたが、正直当事者ではないので今ひとつ感情輸入できないと言った風だ。


「あいつは……、最後まで白万を研究しておったか?」

「はい、間違いなく」


 しかし、英二は、厳密に言えば鉄家と東福三は親交があった。鉄家の白万の技術を福三に教えていたのだ。だから、彼が白万の研究していることは確信を持てた。


「親不孝者め」


 そう言って老人は声を絞り出した。


「親よりも早く死ぬことが親にとってどれほど辛いか、わかっておったのか、あいつは」


 より一層、その老人は顔を俯いた。しかし、すぐに前を向くと、


「あいつは、決して不健康な生活を送っていたわけではないと信じとる。知ることは悪いことではない。けど、知りすぎることが問題になることもあろう。つまり、白万に深入りしすぎたことが体調を崩した遠因かと考えておる。あいつの研究していた白万、それはどれほど素晴らしい者じゃったろうな」


思っていた以上に誇らしげな態度を取った。


「東さんには、この桐の字もだいぶお世話に……、あれ、桐の字は?」


 そう、ここまで、キーリーがいないのである。そんな一番東を知っている者の不在の中で話をしていたのだ。果音は、照れながらもゆっくり口を開いた。


「いや、確か公園までは間違いなくいたんだけど……」

「くっそ、あいつ空気読めないのか! どこだ! どこにいる! 探せ! エンキュリス!」

「まったく、おれは部外者っすよー」


 エンキュリスはやれやれ、と呆れかえってしまった。



85-6-5階


「ゴール! まただ、すごいルーキーだ!」


 飛び蹴りで決めたゴールに周囲からは歓声がこだまする。フットサルのようなスポーツで身体を動かすのはやはり楽しいものだ。


「元気ね、ケリィ。昨夜の疲れも感じられないくらい。うるおってるっていうのかしら?」

「もうっ、子供の前で!」


 からかうリクを一喝すると、わたしより少しだけ背の小さい男の子が、側に寄っていることに気がついた。


「すごい、お姉ちゃん、どうしてこんなに動けるの?」

「それは、大分鍛えあげてきたからね」

「それって詳しく言ってどう?」

「まず足を使うなら走り込みだな。そうして、腹筋と背筋を……」

「それはわかっているよ。フットサルで、どうしてあんなにゴールに入るのかってことを教えて欲しいんだ」

「まあ、それを言われては仕方ないな。こういうのは足を読んで……」


 そうして、色々長く語ってしまった。そうして、実践練習も、何回も行った。疲れ果てたところに、ゆかりさんが、スポーツドリンクを持ってきた。


「お疲れ様デス。はい、スポーツドリンクデス」


 しかし、それを見た子供たちはあまりの目線の悪さに、


「怖い、この人!」

「どっかいけ、不審者め!」

「そのスポーツドリンクだって、もともとうちのだろーが! 人のもので釣って恥ずかしくないの?」


と、明らかにゆかりさんを恐怖の対象として見ていた。


「うわー、怖がられちゃいましたよー!」


 ゆかりさんは走って、ぐしゃぐしゃに泣きついてきた。わたしの手には涙の筋が残った。


「キーリーちゃん、子供に好かれるコツとかあるんデスか?」


 ゆかりさんは、よほど気にしているらしい。


「やっぱり笑顔、笑顔だよ。ゆかりさん、笑顔が素敵でしょ」

「そうデスか……。笑顔ってこうデスか?」


 その顔はわたしに見せた、慎ましやかな笑顔ではなく、ひきつった、無理に笑顔にしているような顔をしていた。本人はそのつもりはないんだろうけど。やっぱり、日頃からはあの笑顔は見せられないんだろうか。わたしにも、苦笑いが移った。


 裏路地からドタドタ足跡が小刻みにやかましくこだました。見ると、英二さんが走ってこちらを探していたようだった。


「あー! いたいた、桐ーのー字ー! ほんと、こんな時に限って! 話し繋ぐの大変だったんだぞ!」

「いやぁ、楽しそうな子供の姿を見たら、さ?」

「さ? じゃねぇよ!」

「ちょっと! 文句があるなら、あたしが受け付けるわよ!」


 リクが、勝手に突っかかり出した。しかし、英二さんの後ろにいる、老人は初めて見た。今回の用事を考えるに、おそらく、彼が東さんの親族なのだろう。腕を組み、気難しそうな雰囲気だ。彼は重く口を開いた。


「まぁ、よいじゃろう。子供は未来人じゃからな。なかなか天晴れな子だのう」


 しかし、その口を勝手に重いと思っていただけだった。老爺は、認めてくれていたのだ。彼はわたしに近づき、笑顔で手を伸ばした。


「わしは、東密じゃ。あんた、目標とかあるか? 聞かせてくれんかのう?」


 やはり、東佐官の父というだけあって、熱い思いを持った人だ! そう思い、わたしはがっしと手を握った。


「はい! わたしの目標は、イクスマグナの非道な人体実験をやめさせ、姉妹を解放することです!」

「ほう、イクスマグナとは?」

「母です。認めたくないですが」


その瞬間、笑顔のまま彼は手をサッと離した。あまりに唐突に引っ込めたため、わたしはよろけ、床に膝をついてしまった。


「何するんですか!」

「いやはや、そんなに親不孝者だったとは。子は親の言うことを聞くものじゃよ。協力する気も失せるわ」


 無性に腹が立ってきた。子は親に従え? 東佐官はだから逃げてきたんじゃないか? あまりに束縛が強すぎる! まるでおもちゃのように扱って! 


「頑固者め!」

「頑固で結構」

「なにおぅ!」



88-7-5階


「いやはや、アシェンがあそこでボケてくれて助かったよ。ドラムを叩いてさ。道化してくれなかったら、どうなってたか」


 パリスはリクの携帯の側面を平手でボタンを押すように叩いた。アシェンは、完全に胸を張って調子に乗ったような見た目をしている。


「注目を集めるのは、スターの得意技だよ! それが例え道化だとしてもね!」

「おお、最近の携帯はすごいっすねぇ。俺のはおんぼろだもんな」


 エンキュリスがかがんで携帯を覗き見る。


「でも、やっぱりあの密とかいう奴は信頼できないな。ゆかりさんも連れて行っちゃうし……」


 わたしは、ふてくされていた。今でも、ちょっと突けば、怒ってしまいそうだと、我ながら思う。


「けど、密さんはああ見えて白万には詳しそうだった。だから、一を預けられたんじゃないか」


 こう言われてしまうとぐうの音もでない。性格に難があるって言っても、人なんて多かれ少なかれ難点があるもので、傑物なんていないからだ。けど、わたしは密を信頼はしたくない。


 先ほどから何歩歩いたか、大体10分くらい歩いただろう。そろそろお腹も空いてくる時間だ。リクは耐えかねたか、リコリス菓子を口に含んでいる。わたしも、携帯デーツに手を合わせ敬意を払うと、そっと舌に乗せた。甘くて乾いているけれど、妙に粘度のある食感が口に広がる。


 そんな時、道端から声が響き、耳に届いた。


「皆サン、ランチタイムデスよ。大団円踊のカレーはいかが」


 見ると、白いローブを纏った濃い顔の女性が、チラシを手に客引きをしていた。見たところ、ネパールの雰囲気を醸している。せっかくだから、チラシを手に取ってみた。チラシの下にはバッテンのついた植物の葉のマークがついていた。これは、スパイスのイメージだろうか、それともただの店のマークか。ほうほう、ドリンク、サラダ、スープ、カレーナンが付くAえいランチが8ドル、チーズナン付きのBランチが10ドルか。他は店で参照……。悪くない選択かもしれない。


「ねぇ、パリス。あれ? パリスは?」



85-10-5階


 しまったなぁ、とパリスはキョロキョロと周りを見回した。道端で売っていた綺麗な服に見惚れていると、いつのまにかお姉ちゃんこと、キーリーと逸れてしまったのだ。


「どこいったんだろ……」


 一人、路地をさまよう。陽の光の差し込まない道は、昼間にもかかわらず薄暗い。か細い思いで、とぼとぼと歩く。


 すると、道の角にパペット人形が、こっちにおいでと言うように、しきりに動き、すぐに引っ込んだ。か細いパリスには、こんな信頼の置けない誘導にもすがる思いだった。


「どこいくの?」


 角を曲がると、また同じ人形だ。純真な思いを弄ぶかのように人形はパリスの誘導を続けた。次の角、また次の角へと。


 なにやら明るい路地に着いたようだ。周りには光で満ち溢れている。しかし、何かがおかしい。あまりにも不自然に赤い光をしている。そう、これは陽の光ではなかった。気のせいか、どんどん体に熱が溜まっていく。それほどまでに室温は暑い。


「暑い……。溶ける……」


 やけつくような皮膚の痛みに耐えるパリスは、にわかに人形を疑い出した。あれは、誰なのか。回らない頭で考えている中、その人形の裏の、パリスより背の高い誰かが会釈をしながら姿を現した。


「ごめんね、パリス。こんな所に連れっちゃってさ。けど、帰ってきて。ウェストウッド家のためにも」

「……シドニー!」

「相変わらず、つれないなあ。で、答えを聞こうじゃん?」

「答えは……NOだよ!」


パリスは、強く言い放った。


「やっぱり、強いよパリスは。じゃあ、仕方ない」


 そう言って、シドニーは、着ていた法被を脱いで投げ捨てた。その先にあったのは溶けた鉄。法被はたちまち溶けてなくなった。そう、ここは溶鉱炉のある工房だったと、パリスは今ようやく気付く。シドニーが法被を脱いだ下はサラシを胸に巻いていて、それ以外は素肌を晒していた。


 彼女は、腰からバチを取り、空を叩く。して鳴った音は、空を斬るようなひ弱な音ではなく、空で何かが破裂するような強い音が鳴った。その音はまさに空にある太鼓のようだ。華麗にバチで連打し続けたながら、シドニーが話す。


「パリスは、アタシの能力、知ってるじゃんね。共振って知ってる? 力の与え方が上手ければ、エネルギーはどんどん、どんどん大きくなるってことさ。このバチの白万は、どんなものでも最高効率でエネルギーを伝えられる。だから、こうやって音を鳴らすこともできるんじゃん。そうして、この音を鳴らし続けていると……」


 足音が聞こえる。パリスの後ろから、溶鉱炉の様子を見に来た職人が来たのだ。


「おい、あいつら、不法侵入だぜ。どうひっとらえる?」

「まあまあ、ありゃ姉妹喧嘩みたいよ。喧嘩は烏窟城の名物の一つさ! 見物しようじゃないの」


 音につられ、この工房の職人全員と言っていいほどの大勢の人が集まり、関係のない通りすがりも、侵入し、様子を見に来た。


「こうやって、人が集まる。そうして、人の目線が集まると……」


 そうして、シドニーは渾身の一打とばかりに、右腕を強く振り抜いた。すると、そこから目に見えるプラズマが飛び、パリスの肩に当たった。


「うわぁあああ」


 プラズマを受けたパリスは全身が痙攣し、すんでのところで立てていた。鉄の皮膚は電気を通し、全身に伝わる。そして、皮膚の下は本場のフランスパンのようにやわらかな組織が守られている。それを直接なぶられたのだ、辛くないはずがない。


「絶好調になるじゃんね! これがもう一つの私自身の能力! さぁ、祭りだ祭りだ! 乗り遅れたやつまで焼き尽くす!」


 続きを話し終えたシドニーは、持っている片方のバチを回転させながら投げ飛ばした。それをしっかりとパリスに命中させる。先程の電気を纏ったままだったバチに当たり、パリスは苦しんだ。そして、苦しめたバチは回転を生かしながら素早くシドニーの手元に戻る。それはまるで、ラジコンで動かしているかのようだった。


「まずい、鋼鉄の鎧の魂が通じない。それに、こんな相手がいたんじゃ……」


 避ける人だかりに逃げ出すパリス、それを、ブーメランのようにバチを飛ばしながら追うシドニー。その様子は、誰が見てもわかるように一方的だった。


「大じょーぶ。一撃で仕留めてやるじゃんね!」


 パリスは、ウェストウッド家を心底恐怖した。自分の姉妹であれど、命を奪おうとするのだ。なおさら、


「捕まってたまるか!」


こう思ったのは仕方ない。しかし、もう全てが、


「遅い!」


首筋に強い一撃。パリスはその衝撃に耐えられず、昏倒してしまった。


「おおー! 勝負ありー!」


 周囲の盛り上がりは最高潮に達した。しかし、シドニーは、まず息をしているかを確かめた。しっかりと息をしていた。


 シドニーには、元より殺すつもりなんてはなからない。パリスを送り届けようと、その硬肌に触れるが、


「あっつ!」


 その表面は、動けていたのが信じられないくらいに高温になっていた。それは、ちょっとした衝撃で硬い鉄の皮膚がひん曲がってしまいそうなくらいに熱い。


 こんなこともあろうかと、折りたたみ担架を持って来ていたのが救いだった。倒れているか弱い少女と床の間に担架を滑り込ませ、なんとかして一人で持ち上げる。そんな時、シドニーはこれだけ人がいても、誰にも聞こえないような声でつぶやいた。


「ごめん、こんな不器用な姉で」

おまけ

ゆかり「嫌われちゃったデスよー」

桐の字「大丈夫だって」

ゆかり「キーリーちゃんだってスポーツを楽しむ子供に混じって本気出す大人気ない大人じゃないデスかー」

桐の字「いや、コツを教えてただけだから!」

ゆかり「というか、子供グループって言われても違和感ないデスよね。童顔だし」

桐の字「言わないでよ!」

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