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ウェストウッド家に栄光あれ!――君に家督を譲りたいっ!  作者: 青瑪瑙ナマリィ
第3章 烏の目からは逃れられないっ!
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23話 粋な世のために不要なもの

 壮観だった。街の人は、あるものはコンロ、あるものはライターなどの火のつくものでたいまつを作り出し、街で暴れる星蝕者を次々に燃やしていった。黒き塊は次々と蒸発し、辺りの空気は毒と熱で非常に悪くなった。


「あとどれくらいだい?」


 三角巾を被った中年の女性が、たいまつを振りながら、疲れを兼ねた声で尋ねた。


「わからん。だが、随分と減ったきたように見えるぞ!」


 バンダナの男は、火炎放射器を放ちながら答えた。確かに数は減ったが、今や星蝕者の被害を受けた者も少なくない。いつまで持つかは時間の問題だ。


 かくいうわたしたちも、小さな身体のパリスを庇いながら、たいまつを振りかざし、星蝕者を蒸発させていった。


「あ゛づい゛……」


 パリスは、グロッキー状態だ。鉄の皮膚を持つ、汗をかく作用もろくにない身体だ。無理もない。


「もうすぐ! もうすぐ終わるから!」


 パリスに励ましの言葉をかける。彼女は少しだけ微笑んでいた。


「すごい盛り上がりですね。ほら、リクリッサもファイト!」

「ただ、こういうのには慣れてないだけよ。画面の中からならいくらでも言えるわよね」


 リクは空気の温度で先が自然発火するたいまつを作り出していた。焦って、手元が狂っているようにも見える。


「お、おい、なんだあれは!」


 セメントで固められた壁、その両端に渡り埋め尽くし、蠢いてくる黒色の塊。あれは、なんて大きな、星蝕者なんだろう。


 すると、奴は小さくしぼんだかと思うと、なんと黒い瘴気をばら撒き出した。近くにいた者は先とは比べ物にならないほど強い毒に倒れ、阿鼻叫喚の景色と化した。


「くっ、ここは密閉されていて換気に時間がかかる! これは朝までかかるか?」


英二さんは、顔色が紫のナスじみてきつつもまだ立ち向かうといった様子だった。


「無茶しないでください! 英二さん!」


そういって、わたしは一旦引くことにした。ただ、逃げることだけを考え、パリスを連れてどこかへ。


 その時、ふととなりで桃色の髪がなびいた。


「あとは任せて」


その一言が耳元で聞こえ、振り返ってみると、昔、ずっとふさいでて、いじめられがちで、運動も勉強も落ちこぼれで、かろうじて魔術の勉強はしていた、同級生で姉妹であるあの子、メグの後ろ姿が見えた。


「え、嘘、危ない!」

「桐の字さん、逃げますよ!」


 小林さんに引き止められた頃には、もうその姿は忘れ去られてた記憶のように消えていた。けど、忘れられた記憶は、また戻ってくるかもしれない。そう信じて逃げ続けた。


 メグや英二さんが帰ってきたのは思ったよりも早かった。あの後、本当に一瞬で終わってしまったらしい。


「でよ、メグはあのガスに近づいても顔色一つ変えねぇの! しかも、なんか燃える水まで持ってるしよ!」


 メグの能力、聞いておいて損はないかもしれない。万が一にも敵に回るかもしれない相手だ。しかも、情報がまるでひとつもない相手。できれば何か知っておきたい。しかし、喋り出したのは、肩に乗ったリスだった。


「そうさ、メグは本当に偉大な魔術師マギ、このスラッシュも認めるマギ!」

「いやいや、この力だって貰い物だもの……」


メグは、急に表情を険しくし、振り向いた。何かあったのだろうか。


「まだ、いたのね」


 すると、メグは白万と思わしき巨大な塊、ただし、スラッシュと呼ばれるリスとは異なる、大きな水を身体から出した。水は素早くそこにいた残党の星蝕者にまとわりつき熱を帯びたように蒸気を発した。


 しかし、奴も諦めない。星蝕者は、メグに向かい黒い塊を飛ばした。危ない! という間もなく、それはメグの身体に引っ付いた。ああ、もう助からないかもしれない。そう思うと、駆け寄りたい気持ちが勝った。


 だけどメグは、腕を伸ばしこちらを制止していた。理由はすぐにわかった。星蝕者の飛ばした身体の破片は、ツルツルと滑石の面のように滑り落ち、床に吸い込まれたからだ。そして、星蝕者に向かい、


「メギドフレア!」


と叫ぶと、招かれざる客は完全に燃え尽きてしまった。なるほど、そんな能力、炎系か。手加減した攻撃には一工夫が必要そうだな。そして、ツルツルと落ちた理由はなんだろう。そこまではわからない。


 画面の中からアシェンが壮観そうに眺めた。


「いやあ、すごいですね。メグ」

「ふう、それじゃあ、わたしはこの辺で」

「メグ! メグは、わたしが目的じゃないのか! 絶好のチャンスだぞ!」


 わたしはどうしても気がかりだった、なぜ、メグは敵対もせずに帰ってしまうのか。絶好のチャンスをなぜふいにするのか。しかし、その答えは非常に単純だった。


「いやぁ、持っててよかった、緊急コール。これで呼ばれただけだから、これはあくまでも特殊部隊の仕事、だよ」


 去っていく人影を見送る夜市は、少しずつ元の活気を取り戻している。


「ライター、買っておこうかな」


 英二さんは、こそっと呟いた。



88-9-3階


 モーンレッドは、アイスミッドをおんぶして運んでいる。特に重そうには感じず、手慣れた様子だ。


「まったく、難儀な体質だな」


 しかし、その様子を見て、澪は不審げな顔をして歩いていた。右手で顎を触りながら。


(背負われたアイスミッド、彼女は急に眠った。そしてそれと入れ替わるように彼女は起きた……。しかもその性格もアイスミッド・ウェストウッドが起きていた時のものと異なるようだ……。怪しい……)


 そう小声でぶつぶつと呟いていた。


「夢遊病ってのも大変なんだよ、澪」

(夢遊病、夢遊病の範疇か?)


 未だに、澪は悩んでいた。


 伊藤が灰城に問いかける。


「しかし灰城さん、あなたも随分と話さないじゃないですか」

「新人相手に話すことなんてないからな、この世は結果が全てだが、それも結果を出す時間があってこそだ」

「そうですか、なるほど……」


そうは言った伊藤の顔は不満が残っているようにも見えた。


 すると、澪の持っていた手持ちカバンがスルリと腕の間を抜けた。幸い、カバンを取られたことに澪は気づき振り向くと、伸びた腕を縮めてカバンを自分の手元にスッと入れる黒いツバ付きの帽子の男の姿が見えた。


「追いかけるよ」


ただ、一言告げた澪はさっさと路地を曲がって走り出してしまった。


「分かった、ワタシも追いかける」


 モーンレッドも二つ返事で追う。人を背負っているとは思えないほどの健脚だが、人混みに隠れ、澪の姿は徐々に見えなくなる。


「あ、ちょっと待てって!」

「やれやれ、お転婆の子守も楽じゃねぇ」


 出遅れた伊藤、ぶつくさ文句を言う灰城もまた駆け出した。


 何分と追いかけただろうか。3人の距離の差はほとんど縮まった。3人と言ったのは、モーンレッドはあえての別の道を選んだからだ。3人の居る空間は今は、走るのに適した空間にもなった。しかし、逃げる帽子は、なかなか捕まらない。


 この帽子が、伸手を素早く伸ばし、殴りつけた。その伸手は灰城に飛んでいく。すると灰城は、


「ちょっと身代わりになれ」


そう言って、近くにいた伊藤をたぐり寄せて盾にして、相手の伸手を防ぎ切った。ぐああ、と衝撃が体を伝った伊藤は叫びをあげた。


「何すんだよ!」

「俺も死にたくはないからな、仕方なかった」


 あまりに自分勝手な言い訳だった。しかし、伊藤はそれでも理由があるだけよかったようで、


「まあ、おれ一人の被害で良かったと見るべきですか」


と、一人で納得をした。そう言ったところが甘いのだろう。


 灰城は、ポケットから、クルクルと回しながら、長細いスタンガンのようなものを取り出した。縛手、撃ち込むタイプの拘束具である。その縛手を逃げる相手に向かい放った。


 その縛手は、見事帽子の盗人を捉え、しっかと身体に巻きついた。


「よし! これは間違いなく捕らえた!」


 伊藤はガッツポーズをしていたが、灰城はまだじっと相手を観察していた。まるで、まだ何かあるかのように。


 果たして、それは真実だった。確かに、縛手は強く相手に縛りついた。しかし、その縛りついた縛手は、ひとりでに解けていったのだ。まるで縛手が縛りつくほどの凹凸もないようにツルツルと。


「やばい、逃げられる! 早く捕まえない……」


 鈍い爆発音と貫通音。銃弾は放たれた。伊藤が話し切る前に真っ直ぐに。帽子の男はゆらりとよろめき、生気を失い倒れ込んだ。即死だった。


 モーンレッドは、回り道から追いつくと、ざわつく空気と冷え切った中心にて、遺体が倒れている光景を見たことにより、何かがふつふつと湧き出したようだった。


「なん……で、なんで殺したんだよ! こいつとは、事情も分かってない、話してもないだろう!」

「あなたの噂は聞いている、灰髪の悪魔。あなたも同類でしょう。戦場で事情も聞かずに殺し、夜闇に消える。あなたに責める資格なんてない」

「なんだよ、これ、いくらなんでも、唐突に」


伊藤は、軍人とはいえ、この唐突な光景に混乱をしていた。逆に、灰城は、思った以上に落ち着いた反応をしていたが、靴先は震えていた。モーンレッドが問いかける。


「ならば問おう。この行為は正しかったか? 捕獲で済む話ではなかったのか?」


 周りの者が睨みを効かす。あまりに異端な光景を引き起こした元凶を捕らえようとじりじりと距離を詰める。澪は手をこまねき、逃げる準備を促した。しかし、誰もついていかない。


「ええ、正しい。なぜなら」


 詰められた相手を切り開くように手で払い、素早く逃げ出した澪はこう語った。


「異端は悪だから」


 この言葉の真意にモーンレッドは気づいたようだ。そうしてうつむくと、


「失望したよ、そんな理由だったとはな」


と呟いた。


「おい、あの女性に対して何か知っているか、同行者だろう!?」


 近くの自警団が問いかける中、3人はこの光景に呆然と立ち尽くした。



「リク、その腕、太い血管が走っているように見えるけど……」


 ホテルの中、わたしはリクの気になっていた右腕に触れた。その腕がピクリと筋肉の電気反応を示す。


「ああ、これは神経系よ。つるを使って再現しているの。大丈夫、本来の神経が再生したら吸収されるわ」


 しかし、わたしにはどうしても気がかりなことがあった。


「そうだ、メグのことだけど……」

「ああ、あの人ね。物分かりの良さそうな妹でよかったじゃない」

「うん……」

「エンタメ性も抜群でしたしね! ありゃあ、見栄えもいいなあ!」


 アシェンが、感心したように頷く。彼女が、あまりに強くなっていたのは話にもわかる。けど、心は、心はどうだろう。


「けど、心配なんだ。彼女はあの頃と何も変わっちゃいないんじゃないかって」



 話を一旦、鉄芯華国の白岩家に移す。


「よし、今日の仕事は終わり! さ、シャワー浴びて寝るぞ!」

「ちょっと、わたしより先に入るつもり?」


 空実は、鋭い動作で立ち上がり、テキパキと風呂場へ向かった。真慈と先が姉弟ならではの無遠慮な態度で話し始めたことにも気づかずに、去っていった。


「ねぇ、先ちゃん、あなた、ゆかりちゃんのこと好きでしょ。告白したら?」

「いや、それはしない」


 先は窓の外の夜の景色を見て、今、サッシに手を擦る。


「おそらく、あの人は告白なんてしたら嫌でも受けてしまいそうな気がするんだ。そういう人だと思う。だから、待つのさ。向こうから告白してくれるのを。本当に愛が勝つ瞬間を」

おまけ

あの頃

メグ「喧嘩の仲裁に、魔法少女メグ、登場よ! マジックアイテム(物理)で解決なんだから!」ポカー

パリス「いてっ」

昔のソーディア「ぶちましたね、マジェストにもぶたれたことないのに! ……これが『ようしきび』、でございますよね?」笑顔

通りすがりのミラ「なんで喜んでんの……」

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