19話 家族会議の時間だぁぁああ!
ここで視点を一旦変えることをお許し願いたい。
ここは、国連民族保護区ゼノン支部のウェストウッド家の所有する屋敷。そこを構成するのは女性がほとんどで、後宮といって差し支えないだろう。その後宮の医療設備の充実した部屋だ。さまざまな、一見使い道のわからない機械が、万が一の為に用意されている。その万が一というのは、母体の危機、そう、いまはラミエリー・ウェストウッドの出産の最中なのだ。彼女は、助産師にしばしば膨らんだ腹部をさすられている。
想像もつかない巨大な生物がクレバスを割く痛みは、経験した当人にしか伝えられないので、詳しくは割愛する。ただ、その悲鳴は、たとえどんな恐ろしい目に遭ってもでないようなものだった。
イクスマグナウェストが我が娘の出産を手を握るでもなく、ただ、じっと見守っている。新たな生命が、産声を上げる時を。
*
「待たせたねえ、キルケー・カンタレッラさんの到着だよ!」
肩あたりまでのストレートの赤髪と、ハイライトの潰された赤く大きくもつり気味の、そう形はキーリーのような目をした、背は平均といえどすらりとしたうら若き淑女といった見た目の女が、傲慢そうに前に手をかざした。彼女こそキルケー・カンタレッラである。
「お待ちしておりました。カンタレッラ様」
お出迎えにあがったのは、白髪と典型的なメイド服をした麗しき人であった。女性らしさを主張する見た目とはすこし趣を異にするように顔つきはシュッとしている。そして、腕を見ればわかる通り、美しさを保ちつつも、鍛錬は積まれている。メイド服の白い部分は、病的なまでに漂白されている、そんな彼女の名が、クオリア・シビリルである。
「キルケー賞を受け取られたカンタレッラ様のような方をお招きできることを誇りに思います」
「あんたもやるよねぇ。この歳で幹部だなんて。あの時はあんなに小さかったのにさ」
「僭越ながら、私には、年齢は関係ないと考えております。ただ、日々、修練するのみ。それが偶然結果を見せたに過ぎません」
「おお、真面目だねぇ。だけどさ、それで傷つく人がいることを考えた方がいいよ」
クオリアが振り返ると、まだ新人の老若様々のメイドが恨めしそうにこちらを除いていた。まさに物語のようにハンカチを咥えるものもいる。
「皆さん、歴史上の方々はそのほとんどが努力の元に成功をしています。そして、そのために、人の努力を見て自らを奮い立てるのです。例えば、モンゴルフィエ兄弟とシャルル教授も、お互いライバルとして競い合って、気球での飛行に成功したのですから。皆さんも、肝に銘じておいてください」
振り向いたその顔は大変美しい笑顔であり、女でありながらも見惚れるものも少なくなかった。しかし、中にはその内面を見て恐れたか、そそくさと逃げ出すものもいた。
「しかし、大変な時に来ちゃったなぁ。話は聞いたよ。ラミエリーが今頑張ってんだって?」
廊下を歩くキルケーがつぶやく。
「おっしゃる通りです。もし、ラミエリーお嬢様がお見えになられたら、その時はぜひ祝福してあげてください」
クオリアは、きびきびと動きつつも、綿の舞うような歩みを見せていた。
しかし、この家も、特別絢爛というわけではない。白と木の組み合わせに模様のつけた普通な壁。稀に黄色や青の壁もあったり、楽しいけれど、所詮それまでだ。豪華な装飾があったりはしない。ただ、ごく普通の家庭を伸ばしたようなこの家の壁には、美しい抽象的な絵画が稀にあり、不釣り合いに主張している。
「大変や、大変やー」
慌てていなそうなおっとりとした声が聞こえた。奥から、見習いのメイドが駆けてくる。おでこの髪をちょんまげのように小さくまとめ、年齢はまだ垢抜けないほどに若い。そして、その口調は、聞いてわかる通り大変になまっていた。他の国籍を持ち、その言語を学んできたものと比べても。
「どうしましたニノベーさん、まさかラミエリーお嬢様に何か!」
「あんなー、料理がまだ完成しとらんのや。時が経つのは早いなぁ」
それをキルケーは、手を頬に握るような形で添え、ほうほうと頷きながら聞いていた。
「それじゃあさあ、ワタシが料理を手伝うよ」
クオリアは、それを見てきつい表情になった。
「いけません。あなたはあくまで食客、もてなされることが仕事です」
「おいおい、いっとくけどワタシはぐうたらでだらしない研究者じゃないんだよ。料理だって、少しくらいならできるさ」
「……それなら私も手伝わせていただきます」
「おやおや、対抗心ってやつかい」
キルケーはからかった。
「違います。相変わらず声の響く方ですね、あなたは」
クオリアはきっぱりと否定した。それと共になじりもされたキルケーは、
「おお、そうかい、自分の好きなことになるとうるさいってよく言われててね。それでも、声量には気をつけてたつもりなんだけどな」
大袈裟に片手で口を塞いで見せた。
*
「いやー、メインディッシュの牛肉のワイン煮込み、我ながら最高だった! スパゲッティも良かったなぁ、我ながら!」
キルケーは満足げに、キッチンから食卓に出てきた。
これらの食事、ましてやそのキッチンには、とてもよく使われるものが入っていない。そう、ニンニクだ。白万使いはニンニクを食べることができないのだ。キルケーは自分自身もそうであるから、そう言った事情もよく分かっている。
食後のデザートが食卓に運ばれる。運ぶ者は最後だからか髪の入らないよう付けていた帽子を外した。そうしたら、耳は隠していても短い赤髪で猫のように跳ねたような髪の、クールな顔つきであれど、そこにどこか可愛げのある女性が顔を見せた。しかし、その眼は涙をこらえているのが遠目にもわかった。
「あっ、ラズベリーパイじゃないですか。わかってますねぇ」
白髪の髪先が上に来るように縦に結んだ、赤いヘッドドレスの映える背の低い使用人が、それを見てありがたそうな笑みを浮かべ、運ばれる皿の上のパイを見つめていた。
デザートの綺麗に切られたラズベリーのパイが先程の彼女とその他の使用人たちによって机の上に置かれる。他の使用人が、気品と余裕を保ったゆったりとした動作で皿を机の上に置いたのに対し、赤髪の彼女は、ぶっきらぼうにさっと置いた。
それを見て、目をつけた者がいた。その者は口元以外を鎧で覆い、側から見れば男女すらもわからない者だった。これを見て、鎧は慌てきって呂律も回らない様子で、
「おぉぉぉおめぇえええ! マルファ、おめえぇ、わらわのスープに毒盛りやがっただろぉぉおぉ!」
と鎧の上から、もっとも鎧の上からでは見えないが睨みつけた。
「そんなわけはない。正気になったらどうだ」
マルファと呼ばれた赤髪は、冷淡に、そっけなく返した。
「嘘をつくなぁぁああああ!」
鎧は、きっと気合を入れて足を踏ん張ると、何ということだ。マルファの体は宙に浮き上がった。まるで、それは念動力のように。
「そんなに、嫌か。それどころじゃないって言うのに、ソーディア」
そう言ってマルファは体から取手矢を作り出し、鎧に向けた。ソーディアは、ぶつぶつと何かを呟きながら掴まれた相手を降ろしどこかに行ってしまった。
降ろされたマルファも、食卓の隅に行ってしまい、うっうっと涙をこぼし続けた。
「ああ、フィアンセ、ボクのフィアンセぇ。ライバルとして、料理仲間として、切磋琢磨したのになぜぇ! 一緒に一流の料理人になるっていったじゃないかぁ」
それを見て近くに座っていたエウリュディケはクスクスとあざ笑っていた。
「一流の料理人? 確かに女の舌ってにゃあ時にとても鋭敏だ。けどよ、味覚が変化するんじゃ公平な料理人なんて無理無理。しかも、白万持ちで偏食と来た。まあ身内で振る舞ってるくらいが丁度いいんじゃない?」
マルファは、エウリュディケの自分よりも薄い胸ぐらを掴んだ。その腕は震え、怒りと悲しみが交差しているようだった。
「おまえ、おまえ」
「マルファ、あんたも彼氏でも作ればぁ? その方が楽だぜ?」
マルファは、胸ぐらを掴む手をより強く、固く握りしめた。いかにも、もう片方の腕が顔面に向かいそうだったが、本人の精神の強さか、すんでのところでこらえていた。
「ちょっと、二人とも! やめなさい!」
少し離れて壁寄りから、絢爛な装飾をしたステッキを持ち腕を組んで仁王立ちをする背の高い女性がいた。彼女は、黒いうさ耳リボンと桃がかったうねる長髪をしていた。そして、水兵のセーラー服のような雰囲気を持つドレスを着ていた。
「この国での悪いことは、この魔法使いメグが許さないわよ!」
メグは、左腕に持っていたステッキを根元から持ち、右側から左に先を向けるような、いわゆる捻るような持ち方をした。それは、端的に見ても魔法少女的でカッコつけた変人に見えるだろう。
「なんだ、メグ、すっかり白万の玄人面かぁ? 昔のうじうじしていた頃を思い出したらどうだ?」
「うじうじ?」
すると、どうだろう。カッコつけて立っていたメグは、眼にうすら涙を浮かべ、声も、立ち姿も気合で堪えるがごとく震える。
「そんな、そんなこと言わなくたっていいじゃない。うじ、うじって! そうだ、どうせわたしはうじなんだ……」
メグ、本名マーゴットにとって、その発言は地雷だった。自分の名前に似た蔑称で呼ばれるのが怖くてひどく反応してしまうのだ。だから彼女はよりうじ、マゴットから離れるよう、周りにはメグと呼ばせている。
「まあまあ、メグ姉は特殊部隊の隊員じゃんね。それはとってもすごいことじゃんよ!」
「シド……」
遠くの席を立ち、駆けてきた法被を着て、ねじり鉢巻を巻いた、熱い見た目のわりに目はくりっとした少女、シドニーが力強く肩を叩き、年上のメグを慰めた。
「せやなー、メグさんはとーっても頑張ってると思うでー」
訛りの強いニノベーが、優しくメグの肩の少し下のところに手を触れて優しい声をかけた。
「こらっ! ビショップさん! お嬢様に対して馴れ馴れしすぎますよ! もっと慇懃な態度で接するよう心がけてください!」
短めの薄髪、片眼鏡のいかにも厳しそうな初老メイドが、指で床をさし、歯切れ良く、そして鋭く注意した。そして、メグに向かって、ニノベーの頭を押さえつけながら自らも頭を下げた。
「すみません、メグお嬢様、ニノベーはまだ見習いで、たいへんなご無礼をお許しください」
メグは困った顔をしておろおろとした。
「私は彼女のおっとりしたところは好きですけどね」
クオリアが微笑みながら呟く。
「ヘイゼルさん、ほら、笑顔笑顔。笑顔は世界を救いますよ。ほら、メグもマルファも」
白髪の縦髪、仮にアップヘアーとする彼女は、口角に指を当て上げてみせ、それを往復した。年下にそう言われるのはプライド的に辛いものがあるだろう。しかし、ヘイゼルは微笑んでみせ、
「ネイトさん、お気遣いありがとうございます」
と、お礼まで言ってみせた。
ネイトは、笑みをヘイゼルに返した。
隣のニノベーとは違う新人のメイドがヘイゼルに耳打ちする。
「ねえ、あの人のことあまり知らないのですが、誰ですか?」
「ネイト・セクトン。仕事はまあまあできるけれど、特別目立っているわけじゃない。勤務時間が短くて、あまりその姿を見ない。その割にはうちの主人、ウェストウッドCEOにも気に入られていて、まぁその割には存在感の控えめなスイートだよ」
ヘイゼルはそのメイドの方向を向き、人混みに紛れる小声で答えた。
ニノベーに向かって腕を広げ、満面の笑みで胸ぐらを開けた。
「ニノベーも大変だよね、覚えることが多くて。けどね、私はそんなあなたにシンパを感じてるの。似てるなーって思って。ほら、辛かったら私の胸にドーンと来てよ。ハグくらいならしてあげられるよ」
その背丈は、ニノベーよりも小さく、あまりに頼りなかった。それだからか、ニノベーはもっと頼りがいのある胸を探して、抱きついた。
「マルファちゃん、ちょっと慰めてーな」
マルファはあふれる涙をぬぐい、震える使用人の頭を何も言わずにそっとひと撫でした。しかし、また涙が溢れる。
「うらやま、しいな」
「せや、マルファちゃんのことも慰めさせてほしいわ。最近のマルファちゃん、張り詰めてて見ててしんどいわ。2人ならな、辛いことは半分になるんやで。ほら、よしよし」
ニノベーは、マルファを胸の中に抱え込んだ。マルファは先ほどまで抑え込んでいた感情が解放されて、止まること知らず、服がぐっしょりになるまで泣いた。
「ところでさ、ミラ、遅いじゃんね。リクリッサさんとか、アイシャみたいになってなきゃいいんだけど」
シドニーが噂を広げる間もなく、
「ただいま帰りましたー」
「あ、ミラお帰り」
扉がゆったりと開き、後ろ髪を厚ぼったく三つ編みにした金色のミラが入ってきた。服装はいつものサスペンダーで吊ったスカートとピンクの服で、胸のあたりが強く歪んでいる。顔は俯いているけれど、その口元は笑っているのがわかる。やがて、顔をあげ、笑顔を見せた。
「ビッグニュース、ビッグニュースだよ! キーリーのことをさ、あたしのオポチュニティが偵察してきたんだけど、次の仕事で烏窟城に向かうって!」
「オポチュニティ、ああ、あのコウモリか。なあ、ミラ、それはなんかいいことあんのか?」
エウリュディケが呆れたように言い返す。
「あそこはスラム街だから、警備が薄い。怖いのは暴漢だけだよ。しかも、こちらのミッションはまだ向こうにばれていない。情報を得ているんだよ。それだけじゃない。烏窟城はお互いにアウェー。つまり相手も万全じゃない! これはキーリー奪還のチャンスとしか言いようがないっしょ!」
「そんなもんかねぇ、明確なプランでもあんのか?」
「それは……ないけど」
「プランなら現地で考えればいい」
突然、会話に入ってきた者がいた。背は到底高いとは言えず、150もないだろう。髪はキーリーとは逆側に跳ねているくらいしか違わず、顔つきも似ている。ただ、ちょっと歳を重ねて見え、赤いペイントを顔に施しているだけだ。服装は白衣を改造して前を開け、そこにネクタイをかけスーツに見せかけている。キルケーと比べると、似た服装をしているが、こちらの方が幾分しっかりと見える。
「マ、マジェスト!?」
「主人!?」
大勢がその場に似つかわしくない存在に驚いた。そう彼女こそがイクスマグナウェストウッド、マジェストである。
「よく頑張った、ミラ。ミラは偉い子だ。それに、ラミエリーも」
イクスマグナは、ミラを撫でた。しかし、ミラは最初こそ笑顔だったけれど、すぐに無表情に戻った。理由は本人のみぞ知るだろう。
「いやしかし、いい体験だった。やはり命が外に出ようと蠢き、出たり入ったり、壁を押しのけて生まれる様は美しいな」
その場が完全に静まり返る。静寂の中、エウリュディケが手を翻し、ベロをだしてそっと一言。
「気持っち悪りぃっ……」
「とにかく、ラミエリーは頑張ってくれた。生まれてきた子の名前もすでに2人で考えてあるよ。ラミエリーが子が産まれてつぶやいた。この子は、わたしの中で大きくを占める存在。タイタンベル。タイタンベル。略してティッタ。ありがとう。わたしの運命を変えてくれて。だ、そうだ」
「ラミィとティッタは今はどこに?」
問うたのは、ミラだ。
「安心して。部屋で一緒だよ」
そうして、イクスマグナは咳払いをした。
「とにかく、今回集まってくれたのは他でもない。その烏窟城での作戦のためだ。この作戦では実戦でプランを考えることのできる精鋭で挑みたいと思うんだ。ここにいるみんなで招集したいのは、クオリアシビリル!」
「仰せのままに」
クオリアは軽くスカートの裾を持ち礼をした。
「ネイトセクトン!」
「頑張ります!」
ネイトは、二つの拳を前に握り、構えた。
「メグ!」
「魔法使いの力、見せてやらなくっちゃ!」
メグは、先程のような杖を構えるポーズに、残りの右手をピースして右目に重ねた。
「ミラ!」
「りょーかい。適度に頑張っちゃうよ」
ミラは手を横、小さく翼のように広げた。
「エウリュディケ!」
「まぁ、ウチが行くんだったら、すぐに終わっちゃうと思うけど?」
エウリュディケは、片側、先程と同じような姿勢でため息をつきながら答えた。
「シドニー!」
「祭りだ、祭りだぁ!」
シドニーは太鼓のバチを出し、上の腕を曲げ、下はまっすぐ、突進をするサイのような姿勢を取った。
「この部屋にいる者は以上!」
「ちょっと待ってくれ……マ、マジェスト」
「どうしたんだい? マルファ。珍しく」
マルファがマジェストと呼ぶことは珍しく、大抵は何かしら二人称をぼかすことが多かったため、イクスマグナはこの反応は意外に思ったようだ。
「復讐……したい奴がいる。ボクもこの作戦に参加してはいけないだろうか」
その目はあまりに真剣で、殺意が奥底にこもっていた。
「マルファには、あまり向かない地形だと思うけど。それに、無意味な被害を出さないでくれ。特に、ターゲットを殺すことは、絶対にあってはならない」
マルファは、一つ、息を飲み込んだ。そうして、声を絞り出した。
「もちろん、そのつもりだ」
しかし、それを見て、同年代であるミラは、悲しそうな目線をマルファに送っていたことに、マルファは気づいていないだろう。否、気づく余裕があれば、このような発言はしていないのかもしれない。
「他にも、この部屋に呼んだ人以外で、さまざまな仲間を連れて行こうと思う。例を挙げると、秀才・キエロ!」
周囲からおお、と声があがる。このどさくさに真っ先に寸評を示したのはエウリュディケだった。
「ああ、あのヘタレちゃんか。あいつは、味方にしちゃあ頼りないが、敵には回したくない。相手にしちゃあ面倒だろうな」
「ウェストヒッポの会社からもだ。呼び出した中でも一番のやり手は、ミスターイビルサンドウィッチ、ジョニー!」
「ああ、あの人、あの人は、ねぇ」
ヘイゼルは難色を示す。彼女の真面目さにとって、彼の存在は耐え難いのだろう。
「そう? いいお兄さんだと思うけど。長く付き合ってると分かるよ」
逆に、ミラは好意的だ。いままで、三銃士が組まれていた昔は、彼と遊ぶことも多かったからだ。
「けど、あの人は……、なんていうのかしら、キザっていうのか……」
本来よりしわがれた声でそう言って、ヘイゼルは頭を抱えてしまった。
キルケーはここまでの話を聞いて、はてと首を傾げた。
「なあなあ、その中に、ワタシは入っているのかい?」
「いや、オブザーバーであるあなたを連れて行くことは、私には強制できませんから」
それを聞いて、キルケーは自分を親指で指した。
「じゃあ、ワタシも一緒に行くよ。旅は結構好きでねぇ。引きこもってちゃ見れない、おもしろいものも見れるからさ」
「原典のキルケーと違って」
クオリアは瀟洒な笑いを見せた。その声にはからかいの意味もあるだろう。
「なにさー」
キルケーは年柄もなく膨れて見せた。ただ、本気では怒っていない。からかわれて、反応を見せただけだ。
イクスマグナは結びを高らかに宣言し、腕を前に突き出した。
「いいでしょう。それでは、例日より作戦を開始する! 作戦名は……ウーロンズゲート!」
*
「ちょっと、マルファ、本気なの?」
ミラは、姉妹たちのコンディションを把握するため、それぞれの部屋を回り、今、マルファの部屋にいた。三銃士の自然解体後、寝床を共にした部屋はなくなり、別々の部屋で暮らしている。マルファはついこの間までは、その口で言うフィアンセが部屋の中に居たが、今や、この部屋はがらんどうだ。
「ああ、本気だ。ボクはどうしてもフィアンセを殺した奴に復讐したい。あいつは何も分かっちゃいない」
ミラは震え、声を荒げて、警告をした。
「ねえ! そんなことしたらどうなるかわかってるの!? 復讐は新たな罪を生み出すだけよ! マルファの気持ちはわかる! けど!」
「わかって欲しくなんかない」
「それに! キーリーのことはマルファ昔好き好きちゅっちゅってくらい好きだったじゃない! 彼女に背く気!?」
恥ずかしがり、慌ててそこまで言ってないというふうな、ちょっとした冗談へのツッコミを入れる余裕すらないマルファは握った拳をわなわなと上にあげた。
「今は、あの顔を見ると、怒りに打ち震えて止まらない。ボクは、フィアンセがいなくなる原因を作ったあいつ、キーリー・ウェストウッドに復讐してやる」
アフリカ特有の寒い隙間風の夜だった。
ラミエリ「タイタンベルって言うけど、タッパタッパでか美みたいな名前控えめに言ってひどいと思うよ」
ミラ「自己否定しないでラミィちゃん」




