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14話 人生舐め舐め少年BOY

「どうやら、本気で覚えてないみたいだね」


戎とかいう男は、そういうと、突然出現した弓を構えた。だめだ。本当に彼が誰なのか、なぜ嫌われているのか思い出せない。しかし、分かるのは、これは公務執行妨害。署で話を聞かなくてはということだけだ。しかし、今聞いておきたいこともある。


「なぜ、反乱軍にいるんだ、それに、その白万はどうして手に入れた?」

「そりゃ、ここが居心地いいからさ。ここにいることは親公認だし、しかも、ここの偉いさんが役立つからって白万っつうものまでくれた。これのおかげで今はイキれる」


 相手は、思ったより素直に答えてくれた。この虚はなんだ、彼の話に中身を感じない。なにか気持ち悪いものがある。


「まあ、ニンニクが食べれなくなったことだけは、ちょっと悲しいけどねぇ!」

「反乱軍のお偉いさんなんて全然偉かない!」

「うるさい! 取手矢とるてや!」


 弓は、放たれた。山なりに、緩慢に。私は容易に避けて、急加速して近づいた。


「なんだ、その取手矢は、へなちょこだなぁ。わたしの妹なら、もっと速く強い取手矢が撃てるぜ!」

「むかつく、腹立たしいんだよその反応!」


 素早く、しかし白万使いにしてはもたもたと彼は弓を消し、近接向けに伸びる白万の腕、伸腕を出し、大きく振るい薙ぎ払った。


「よっと」


 わたしは後方に飛んでかわし、距離をとった。しかし、この際空中に逃げるのは、熟練した白万使い相手なら、さらなる追撃から逃れらない場所に逃げる悪手になりかねない。これも、相手の熟練度が低いから出来たことだ。


「腹立たしい!」


 しかし、この距離ならまだ奴の攻撃は届く。ならばと、わたしは懐にしまってあったトンファーを取り出した。これなら、受け流せるはずだ。


「キーリー! がんばれー!」


 アイシャは、応援なんかして、全く他人事のようだ。まったくもう、これじゃあデクノボーじゃないか! 


 伸手はまっすぐ飛んでくる。それは必ず人間としての腕の先から。非常にわかりやすい。例えそれがしなってしたとしても、トンファーで流れるように受け、するりといなせる。いわゆる、力を殺すってやつだ。


「あー! イライラする、当たれよ」


 しかし、実際、万に一つも当たらないというわけではないだろう。おそらく、気を抜けば簡単にその腕に呑まれてしまう。ここからは向こうとの我慢比べになるだろう。幸いにもこちらには縛手がある。これは、相手を縛るのに最適な飛び道具で、発射された縄が、動いている相手ですら、縛るような装備だ。これを撃つことができれば。


「まったく、しかし、そちらもそちらで大変だなぁ、障碍者の相手ばっかりしてよ」

「何を……言ってるんだ……?」


私は相手の突然の言葉を理解できず、硬直した。その隙を見逃さず、相手の伸手は飛んできたが、頭を下げ、奇跡的にかすっただけで済んだ。


「だってよ、うちの反乱軍のうるさい人がしきりに言うんだよ。キーリーちゃんは、すごい。強いし、節制もしっかりできるって。その名前って、そちらのこと? だとしたら大変だなぁ、あんな欠陥白万持った障碍持ちと腕が片っぽな人なんて連れてさ。がんばってるなって」

「そんな、心ない言葉が出てくるなんてな、彼女たちだって、生きてるんだ。断じてそんな言い方していいものじゃない。もしかして、見下してる相手にすらコンプレックスを抱いてるからそんな言葉が出るんじゃないか?」

「? なんて言った。わからない。要約してくれ」

「お前はプライドの塊、かな?」


 すると、彼はゆらゆらと横揺れし出した。


「ぼ、ぼ、ぼ、ぼ、ぼ、ボキをバカにしたな、ボキをバカにしたな」


彼は大きな声で狼狽を現すと、


「バカにしたなぁー!」


いきなり、飛びかかってきた。しなる伸手で打つように。さっきと同じように、トンファーで受け流すけれど、さっきより近いし、速い。この速さの伸手はしばしば見ていなかったから、対応が追いつかない。なにより、これでは、縛手をうまく撃てない。縛手は動いている相手にも当たる。白万持ちにも、一度縛ってしまえば、伸手は、少なくとも腕から出すものなら勢いがつかず、取手矢は撃てない。しかし、大きさが大きく縮む、例えば伸手が広がっている状態で伸手に向かって撃ったりすると、するりと抜けてしまう。だから、相手が伸手を伸ばさない状態にしなければ捕まえることはできないだろう。しかし、今は防ぐだけで精一杯、どうすれば。


 バンッ


 突然銃声が響き、相手はその銃弾の飛んだ先に目が移り、伸手を引っ込めた。わたしは、銃の音に慣れすぎたところもあるのかもしれない。相手が体勢を崩したことに注目してしまった。


「しめたっ!」


 素早く、一寸の狂いもなく、わたしは縛手を白万使いに撃ち込んだ。撃たれた男にぐるりと縛手が巻き付き、男は勢い余って倒れた。


「ぐわぁ」


 わたしは、後ろをここで初めて振り向いた。そこには、Vサインをキメたアイシャが、オートマチック片手に持って笑顔だった。


「あんまり、そういうものは持たない方がいいな。この国では、基本的に銃は禁止だぞ」

「でも、助かったでしょ?」

「まあ、そうだけどさ……」


 わたしは、そこで無様に転がっている戎とかいう男の元にじりじりと歩み寄った。


「さあ、もう観念して事情聴取に応じてくれ」


 そう言って屈んだ時だった。頭が大きく揺れ、わたしはくらりと倒れてしまった。おそらく、顎に強烈な頭突きを受けたものと思われる。まさに最後っ屁をかました彼が、何かを話している。


「今に見てろ、援軍を呼ん……」


だめだ。意識が遠く……。



「……丈夫か、……か」

「お……援軍は……」

「援軍……れの……か?」


 声が、聞こえる。人影も見える。人数は結構いる、10人はいるか。あいつの言ってた援軍ってやつかな。この人数でこられたんじゃ2人じゃどうしようもない。年貢の納め時かな。いや、待て、確か空実さんが……。


「大丈夫かい、ウェストウッドさん!」


 揺り起こされ、わたしはばっちり目が覚めた。一体どれくらい、と思い、時計を見ると、1時間は昏倒していたようだった。


「援軍って、彼は言ってたけど、それは……」

「大丈夫、援軍は皆捕まえた」


 床に転がり、抱えられた戎は悔しそうに歯を食いしばった。


「ところで、空実さん? でしたか? あたしのモニーを探す約束は?」


 アイシャにとって、確かにこの話は関係のない話だ。


「しばらく、忘れてくれ。私たちはこれから家宅捜査をする。反乱軍ということで情け無用だそうだ」

「そんな」


その顔は、四肢を奪われたかのような絶望に満ちていた。


「なあ、アイシャ、このマーク、見覚え無いか?」


 わたしは念のため、念のため聞いておいた。すると、嬉しい返事があった。


「なんか、見覚えあるような、そうだ、そうだよ、壁に書いてあったっけ。やった! 手がかりがあるぞぉ!」


 急にガッツポーズをしたその顔は先程とは変わって晴れやかになった。


 しかし、老若男女さまざまな年代の人がこの反乱軍に参加しているらしい。それと同時に、憲兵の援軍もさまざまなところから呼んできたようだ。わたしの直属の上官である山城士官もいる。手錠を繋げられ、送検されそうになっている人がたくさん見えた。その中に、山城士官にお姫様抱っこされ、しくしくと泣いている女性が見えた。それを一眼見て、誰なのかわかった。


「ゆかりさん!」

「ああ、キーリーちゃん。ゆかりさん、捕まっちゃたんデスよぉ」


 山城さんが意外そうに口を開く。


「なんだぁ、こいつの知り合いかぁ」

「はい、しかしなんで捕まって」


ゆかりさんは、泣きながら事情を説明した。


「なんてことはないデス。休み時間中に近くで援軍を呼ばれたから、せっかくだしってことで行った矢先に捕まっちゃったんデスよ」


まだ、ゆかりさんはしくしく言っている。


「おぉ、挨拶は済んだか。じゃあ、行くぞ、署までな」

「いやあ、キーリーちゃぁぁぁん!」


 連れていかれるゆかりさんを見て、わたしは心の中で呟いた。ゆかりさん、強く生きて。



「これであらかた探し終わったな。あとは待ちかねたこの地下だけだ」


伊藤は汗を拭いて、わたしに声をかけた。


 わたしはこの捜査を経て、戎の人となりが少しずつだけどわかってきた。彼はどうやら薬を服用していたらしい。全体的に危ういと思われていたのだろう。その部屋にはアナログゲームや本がたくさんあった。しかし、どれもろくに手をつけておらず、ほぼ新品のまま残っていた。


 彼は、失敗したくなくて逃げて、その結果さらなる失敗を重ねる。自分で動く力もなく流されてばかり、そのくせ与えられた環境には文句ばかり言って、その結果何も愛せず、自分以外は考えない。そのためかプライドは高いから人は見下すし傷つきたくもないガラスハート。こんなやつを見てわたしも妹のラミィもこういうだろう。


「大虚……」

「ん? 桐の字、なんか言ったか」

「いや、なんでもない」


 こうして、捜査は最後の地下に差し掛かった。そこには座敷牢のような部屋があり、そこに、緑色のコートとボロボロになったシルクのスカーフをつけた、殴られていたのかあざだらけのモーンレッドの姿があった。その姿は、まるで没落した貴族のような雰囲気を湛えている。そして、こんな扱いを受けていても、スカーフの上のネブラディスク、古代の星座盤のペンダントは健在だ。髪は、アイスミッドの茶髪より、すこし灰かかった丸みを帯びたショートヘアをしている。


 アイシャは、鍵を素早く開けて、モニーに駆け寄り、手をしっかと握った。


「モニー! 大丈夫、もうあたしがいる」

「アイスミッド、アイスミッドなの」


 虚な目をした彼女はうつらうつらとした様子で答えた。


「ああ。ここにいるのはつらかったろう。帰ろう、帰ろうよ」


 アイシャは彼女の縛られていた手枷を、捜索で見つけた鍵を使って外してあげた。


 しかし、解放された牢の中にいる彼女は、わたしの顔を睨みつけると、


「キーリー……、ウェストウッド」


その声が聞こえた次の瞬間には、たまたま、捜索中に見つけた伊藤が持っていたカトラスをひったくると、わたしめがけてそれを振り払いながら近づいて来た。それはもう、明らかに傷つける気満々だ。


「うわぁああ」


 わたしはその場を逃げ惑った。その刀の元に斬られないように。しかし、いずれは捕まえなくてはならない。


 伊藤は鎮圧する協力を仰ぐため、アイシャに声をかけた。


「アイスミッド、アイスミッド、協力してくれ……、て、ああっ! こいつ気絶してやがる!」


 アイシャは、立ったまま気絶し、そのまま横に受け身も取らず倒れてしまった。


「仕方ない、俺一人でもなんとかなるだろ……」


伊藤は、素早く手錠を持ち出し、飛び出した。


 しかし、これはむしろチャンス。なにせ、アイシャが意識を失った。それは彼女が目覚めるサインだ。たしかに、モニーことモーンレッドは廃人になってしまった。しかし、その意味は、日常生活を普通に送れない人間、という意味だ!


「やれやれ、今日はやけに騒がしいな。何かいいことでもあったのか」


 檻にもたれかけたモニーの様子は先程とはあきらかに違って見えるだろう。実際、伊藤は不思議であることに気づいていた。


「おいおい、こりゃなんだ」

「キーリー、助けに来てくれたのか。ワタシは敵にも関わらずな」


わたしは、できる限りの笑顔をあえて作って語った。


「ああ、だけど、敵ってのは現在、だろ? わたしに協力して欲しい。頼むよ」

「なぜ、協力する必要がある」

「逆に、なんでイクスマグナに肩入れする理由があるんだ?」

「そりゃあ、優遇してくれているからな、ワタシを」


 そう落ち着いて言ったモニーはふふっと不敵な笑いをして、


「自分の母親を恨まなくてはいけないなんて、なんて悲しい人生だと思わないか」


と嘲った。そうだ、彼女はこういう性格をしていたんだ。いかなることも鵜呑みにせず、常に疑いを持ち、隙あらば人の認識を崩そうとしてくる。天邪鬼の如く。


 だけど、わたしの決意は固い。こんな寧言一つに惑わされない。難しいことはわからないけど、今出せる最良の答えを! 


「人が道を誤ることはあると思う。けどもしそれを正すとしたら、一番にできるのは親族なんだ。まず、親族が最初の壁にならなくてはいけないんだ」

「そうか。しかし、それなら自分が間違っていないという証拠がどこにある。それはただの独善じゃないのか」


 わたしは、イクスマグナが家族にしてきた所業を思い出してみた。なるほど、思い出せば思い出すほどはらわたが煮え繰り返る。


「家族への価値観の強要、強制白万移植、そして、おそらく望まない相手と結ばれたであろうラミエリー・ウェストウッドの存在。こんなことが善ならば、わたしは喜んで悪にだってなりたい!」


 その言葉を聞いたモニーの様子を伺うため、見上げて、彼女の目を見た。しかし、その前に目に入った口元は笑っていた。


「ふふふ、はっはっは! 面白い、面白いよキーリー・ウェストウッド。わかった、ワタシもできる限りの協力をしよう。ワタシはキーリー、あなたに興味が湧いた」

「そ、それなら、協力してくれるのか」

「ああ。ただ、契約書を用意した方が安心だろう。ワタシは、気まぐれだからな」


 無論、そんなものがあるわけがない。どうしようかと思っていたところ、伊藤が、何かを懐から取り出した。


「おっと、忘れているのか桐の字。捜査の際は、これが、あるだろ?」

「ああ、そうだった!」


 伊藤が手に持っていたのはメモだった。彼はそのメモを1枚ちぎり、わたしに手渡した。そして、わたしは手渡された安い素材の紙を、


「あいにく、これしかないんだ。いいかな」


と頭を掻き、モニーに渡した。モニーは顔を手で抱え、見当違いの方向によろけた。


「いや、悪かった。無茶言いすぎたかな。ワタシが最低限のことを契約内容を書き記した紙にサインする。これが仮契約。後で、正式なものを作るとしよう」

おまけ

氷中「しっかし、なんであいつ(戎)モニーにやらしいことしなかったんだろうな。美人だぞ、相棒は」

伊藤「その理由は間違いなし! あいつの恋人は床にいるんだよ!(意味深)」

戎「(すごい顔をしながら)」

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