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13話 忘れ物は何ですか? 

「悪いけどキーリーに味方することはできない。ウェストウッド系からの解放って、そんなに和を乱したいの」


 ミラへの誘いの電話への返答はNOだった。今まで仲良くしていただけに、こうキッパリとバツを突きつけられるとは思ってもいなかった。心の中ではわからずやめと思いながらも彼女を傷つけまいと建前を使うことにした。


「そうか、ミラもくれぐれも体には気をつけてくれ。それと」

「なに?」


 わたしは少し聞きたいことがあったので付け加えることにした。


「三銃士は、今も活動しているか? 彼女たちみんなと一緒ならわたしも安心できる。ラミィも、ミラも」

「……三銃士は、もうとっくに解散したよ。ラミィが変わってしまったあの日から、もう話題にも出ない」


 憂げにつぶやいた彼女は、いきなり電話を切ってしまった。


 部屋の中は静寂に包まれた。けれど、暖かみはある。わたしは、リクとたまたま巻き込まれてしまったパイパーと暮らしている。よそもので暖かみを暖かみとも思えなかったあの時とは違う場所にいるんだ。



「へぇー、キーリーちゃん男装したんデスか。ちょっと見てみたかった気もするデス」


 お互いに仕事の間の休み、ゆかりさんは随分と食いいって話を聞いていた。 


 正直あの時の感覚は恥ずかしいけど、込み上げるものがあり、忘れられない。普通の家庭なら、おふくろの味ってものと思う感情は似ているんだろうなって思ってみたりする。


 もう食事も終盤だ。料理が来るまでの話は世間話ばかりで、こういった個人的な話は最後の方までできなかった。


「まあ、またの機会にね」

「おっ、そういうってことはやる気バリバリデスね?」


 その時、ふと机の上に影ができた。その大きさの元を辿ればものすごく大柄というわけではなさそうだ。見上げると、そこにはツヤの輝かしい茶髪のサイドテールにした妙齢の女が立っていた。より詳しく見た目を説明すると年齢は大学生くらい、デニム生地のボレロとホットパンツに、タンクトップのような上着を着て、へそは出ている。目のやり場に困る人もいるかもしれない。その上靴下は短く、足はほぼ生だ。だいぶ刺激的な見た目をしていると思う。首からはアンティキティラマシーンのペンダントを下げている。随分と奇異な趣味をしているとは思ってる。


 右腕は見て分かるほどの義手だ。けれど、その中でも随分と動かせるタイプの義手をしていて、先程から、機械的ながらも指先の動きまでわかる。その義手の存在はまるで別世界から来たかのような浮いた雰囲気を醸し出す。そして、わたしは彼女を知っている。


「キーリー、ちょっといいかい」


 彼女は、色とは別の色気を感じる唇からそう切り出した。彼女はアイスミッド・ウェストウッド。わたしの妹……いや、義理の妹などという言葉では説明しきれないほどの複雑な関係だ。彼女は、何かを警戒するかのようにわたしの目を見つつも、チラチラと視線を逸らす。


「あたしたちは、標的ターゲットとしてキーリーを見ている。なんとしてでも連れ戻す、その使命で動いている。けど」


 そこで区切ったアイシャことアイスミッドは、悲痛な面持ちを浮かべ、腰を礼をするように曲げ、頭を下げた。


「折り入って頼みがある! キーリー、相棒を、モニーを取り戻してくれ!」


 その声は、ビブラートをかけたかのように震えている。頭はまだ上がらなかった。


「モニーは今、この街に来たっきり失踪してしまった。どこかに幽閉されている、それだけはわかる。だから……」


 モニーことモーンレッド。彼女はアイシャの相棒にして鏡、生写しの存在だ。そして、彼女こそが真に妹、いや義妹に真にとか不思議な気もするけれど、とにかく彼女こそが妹だ。そして、アイシャ、彼女は……。


「あたしのこと、嫌っているのか? 気持ち悪いってさ」


 頭をまだ下げたままのアイシャは他に聞こえぬように小声でそう聞いてきた。


「あたしはモーンレッドのことはあまりわからない。噂によればモーンレッドは博学な知識欲の化身で、若くしてウェストヒッポには欠かせない存在だったらしい。けど、そんな彼女はある白万を移植した。それは心の底からの意思疎通を図るためのもので、1つの白万を2つに分けて使用する万だった。しかし、彼女は義理とはいえ、マジェストイクスマグナに似て知識欲に旺盛だった。そのために、白万を、分けずに移植した。その結果白万の影響で左腕が膨らみ出し、ろくに使えなくなった挙句腐り落ちた。そうして、彼女の心は欠け、左腕からあたしが生まれたって聞いた。やっぱり、このことは、恨んでるの?」


 なんというか誰かに説明するような口調で彼女は話をした。この話はわたしも知っている話だ。あの時のモニーの様子は苦痛に歪んでいて、挙句生まれたアイシャとは肉体的に対面することはあっても精神的に対面することはなかった。彼女は、廃人になってしまったからだ。このことはわたしがウェストウッド家を嫌う決定打とも言える事件だった。


「恨んじゃいない、恨んじゃいないよ」


 罪を憎んで人を憎まず。あれは、モニーの知識欲の暴走だった。そう心に言い聞かせ、こう返した。モニーがどこにも居なくなった、そういうわけじゃない。彼女は廃人になるつつも存在している、そう考えると幾分慰めになった。それに、アイシャも生きているんだ。


「わかった! アイシャ、協力しよう。それも今日からだ」


 アイシャは顔をあげ、涙に顔を腫らしながらも笑顔になり、


「ほ、本当か。ありがとう」


と、言って、顔を上げ、すぐ下げた。


「ちょっと、いいんデスか? キーリーちゃん、今日はまだ仕事があるじゃないデスか」


 ゆかりさんは、座っていた席から半分立ち上がって、心配をするように聞いた。だけど、


「これも、街の平和のため、だろ?」


わたしは、この選択に間違いはないと信じていた。


「さてと、とりあえず一通り話し終わったけれど、そこのメガネの照れ屋な格好な君」

「えっ、ワタシデスか?」


 そう言ってゆかりさんが反応してまもなく、アイシャはゆかりさんの顎を指でクイッとあげると、


「君、ほんと可愛いねぇ。どうだい、いつか時間を取ってデートでも……」


と、口説いた。また、こいつはぁ。けど、事情を知らないゆかりさんは、いきなりほてった顔になり、手を顔に当て照れた。


「え、ええっ、そんな、ワタシたち同性デスよ」

「同性、異性、愛の間ではそんなもの関係ないさ。あたしが好きなのはあなた、あなたにはあたしを好きになってもらいたい。それ以上でもそれ以下でもない」

「でもぉ……」


ゆかりさんは、どうも調子が狂うようだ。なにせ、いつも以上に照れ照れしている。しかも、いつも見ているゆかりさんの照れ照れは人をおだてるような態度なのに対し、今日は、完全に攻め込まれて揺らいでいるようだ。そろそろ言っておこうか。


「ゆかりさん、あんまり、間に受けないほうがいいよ」


 だめだ、照れ照れしすぎていて何も返事がない。


 遠くに、以前この店に会計にいたトランジスタグラマーな東洋人の店員さんが、皿の上にお冷を乗せてこちらに向かってくる。


「お冷のおかわりはっ、わあぁ!」


その店員さんは、足元を急に崩し、こけてしまいそうになった。しかし、それにすばやく気づいたアイシャは、それをすばやく支え、結果的に転ぶことはなく、水もこぼれなかった。


「大丈夫ですか、マドモワゼル」

「あ、ありがとうございます」


感謝を述べたその店員さんは、その後、お冷が必要かを聞いてきて、わたしたちが断ると、すぐに持ち場に戻ろうとした時、アイシャは彼女の手をそっと握った。


「美しい。やはり、働く女性というものはとても美しく見える。その覆い被さって守りたいボディも素敵だ。どうです、いつの日かあたしと一緒にどこかに出かけません?」

「お断りします」

「おお、そりゃないよセニョリータ!」


アイシャはあえなくフラれた。まあ、いつものことだ。


「えっ、ワタシがいるのに、何で?」


 ゆかりさんは少しずつ夢から覚め始めている。けれど、まだ確信は持ててなさそうだ。


 盛り上がっているのを見て、居ても立っても居られなかったのか、店主の女性が、仕事中のリクを連れて混ざろうとしてきた。


「おお、またウェストウッドちゃんの家族かい。また、大胆な子だねぇ。いろいろと」

「ケリィ、迷惑してたら言ってもいいのよ」


それを見たアイシャはアフリカ系である店主の前に立ち、手を前に軽く礼をして、


「あなたが店主ですか?」

「まあ、そんなとこかねぇ」

「素晴らしい。毎日を強かに生きている様が滲み出るようだ。結婚はしていますでしょうか?」

「そうだねえ。あなたにとっちゃ残念かもだけどねえ」


店主は、大体様子を察しているようだった。


「ああ、あなたが青春している時に会いたかった」


 ここで、ゆかりさんは完全に夢から覚めたようだ。


「やっぱり、デートは無しデス」


 そう、アイシャ、彼女は、紳士的、いや、女性ならレディの鏡というべきなすばらしくできた人だ。しかしそうでありつつも、女で未婚なら誰にでも、見境なく愛する軟派な性格だ。それは、もう人種どころか、話が通じると思えば人間ですらなくても、友達の犬ですらデートに誘うほどの見境のなさだ。


「アイスミッド、ちょっといいかしら」


 リクは、アイシャに耳打ち、と見せかけわざとわたしたちに聞こえるような声で、


「ケリィに手ぇ出したら承知しないわよ」


と釘を刺した。まあ、多分性的な意味じゃないだろう。さすがに姉にまでは手出ししないと信じている。


「少なくとも今は、停戦だよ」


アイシャはその場限りの笑いで誤魔化した。



「なんで私も……」

「いや空実さんが頼りになるからですよ」


 これは事件だということで、こういった仕事ができそうで、仲良くもしている豪士である空実さんに頼むことにした。彼は、やや不機嫌に俯き歩いていた。


「しかしさぁ、アイシャ、場所の検討とかついてる?」

「なんとなくは、あたしの能力でわかる。けど、壁しかわからないなぁ。よくいる場所は何か石のような壁ってことだけだね」


これではあまり手がかりにならない。探す、なんて言われてもこれではどうしようも無い。


「妹さん、そこはどんな感じだい? 建物の中とか風もないとか」

「窓とかは通気口だけ、日の当たらない場所ってのはわかる」

「となると、地下あたりだろうか」


空実さんは握った腕で顎を押さえた。この推理が合ってるかは別として、この推理はいい点を突いていると思う。


 こうなったら、この辺りの地下のある家をしらみ潰しに探せば確率としては高いかもしれない。けれど、それではだいぶ時間がかかる。モニーの無事がいつまで保証されるかもわからない。あわや迷宮入り、そんなことを危惧していた。


 その時、何かが落ちた音がした。見ると、地面に財布が落としっぱなしになっていた。まだ、落として間もない。


 わたしはその財布を拾い上げ、念のため持ち主が誰か、確認するために中身をざっと見た。そこには、何か小さな紙が挟まっていた。


 まあ、誰にバラすでもないしね、秘密は守るよ、とこっそり、こっそりその二つ折りにされた中身を覗き見することにした。


 中には、まったく想像だにしないことが書かれていた。まず、書かれていたのは革命の紋章。これは、この街にはびこる革命の意思を見せる反乱分子が組織的にこぞって使う紋章だ。そして、その下には雑で汚い字のメモが書かれていた。そこには、襲撃事件の日程や、密談の時間などがざっと、箇条書きで書いてあった。


 おそらく、この財布を落としたのはあそこの猫背の眼鏡の男だ。わたしは、彼に近づいて、肩を叩き、振り向いた所にメモを見せつけた。


「怪しいものじゃない。憲兵のものだが、ちょっと、これは何かな。何か企んでんじゃないかな。家宅捜査に乗り出したい。ちょっと、時間はいいかい」


 これは、犯罪の尻尾かもしれない。そう思うと、自然、語気は強くなった。


「いや、これは」

「誤魔化しても無駄だよ、反乱軍だろ、あんた」


 大分、勝手に決めつけていると思う。けど、このくらいしないと、本当だった時、なあなあになってしまう。もし、違えば、謝ればいい。国家権力ってのはそれだけ偉大だ。


 その瞬間、この男は、スタコラとその場から逃げ出した。


「あっ、逃げるぞ。追いましょう! 空実さん! あと、アイシャも!」

「いや、私は今から援軍を呼んでくる。場所だけ連絡してくれ」


 そういって、空実さんは道を引き返した。そうなると、今頼れるのはアイシャくらいだけど、彼女はしっかりとグーサインをしてくれた。


 路地へ、路地の奥へぐいぐいと進んでいく。その奥から声が聞こえる。


「あ、戎、ちょっとこれ運んでくれない」

「ちょっと待って!」


彼は、逃げながら話していたようだ。


 わたしたちは、話していたであろう女性の横を通り過ぎた。


「なんなんだありゃ」


その女性は不思議そうにつぶやいた。


 相手の足は思った以上には速く、スタートで大きくついていた差がなかなか縮まらない。じわじわと近づいてはいるけれど、わずか数m先が大きく見える山のように遠い。


 しかし、終わる時は来るものだ。相手は疲れ果て、もう走れないようだった。足を曲げ、肩で息をしている。


「もう、観念するんだな」


 完全に追い詰めた。と思った時、矢が、前から山なりの軌道で飛んできた。


「うわっ!」


 なんとか間一髪、矢は肩の上を通り、避けることはできた。これを射ったのは、いやしかし、考えられないと考えつつも、前の男を見ると、手には弓を持っていた。それは、荷物の中から出てきたというよりは、突然どこからか出てきたという風だった。実際、その後、その弓は溶けてなくなるように消えた。


「……白万使いか!」

「さっきから下手に出てれば好き勝手言いやがっておまわり」

「おまわり“さん“な!」


彼はきっとこちらを睨んだ。


「まさか、僕の顔を忘れたとでも言うのか」


 そう言われたので顔を見てみたが、全く思い出せない。猫背で、ちょっと小太りで眼鏡をかけた早口の人物、そのむすっとした下ぶくれの顔も何もわからない。


「誰ですか、あなた」


 その至極当然の反応に、彼は頭を抱え、手を震わせて、あきらかなイライラを見せた。


「こっちは見たら嫌でも思い出すのに。戎だよ。忘れたか!」

「……本当に誰?」

おまけ

パイパー「パイパー・どきわくクーイズ! 問題! この人の年齢はいくつ? 誤差3歳までで賞金、当てられなかったらあたしにお小遣いでーす!」

氷中「ふふ、レディたち、見てるかい?(ワイングラスクイー)もっと、注目してくれ!」(キザなポーズ)

ゆかり「こういう問題は、失礼な気もするデスけどね……。でも賞金のためデス! やってやるデスよ! 聞いた話によると彼女はキーリーちゃんの妹、つまりキーリーちゃんよりは大人っぽい見た目によらず21よりは下デス。そして、ワイングラス! これは、20以上って言いたいデスけど、これはブラフ。向こうでは18で飲めるんデス! なら、ワタシの答えは、19歳、デス!」

パイパー「ざんねーん♡ 本当は9歳でしたー♡ ざーこ♡」

氷中「ふふっ」(ぶどうジュースを飲む)

ゆかり「ふざけんなー!」(緑色の棘玉を投げながら)モヤっとモヤっと

桐の字「悪質すぎる」

バイトくん「誤差3歳とか真面目にやっても当てられないよな」

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