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ウェストウッド家に栄光あれ!――君に家督を譲りたいっ!  作者: 青瑪瑙ナマリィ
序章 この辺境の街で暮らしたいっ!
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10話 世界を牛耳る者

「ねえ、キーリー、ちょっといいかな」


 夕食後にわたしがひとりで、リクもそばにいない状態のまさにひとりの時、廊下でわたしは後ろから声をかけられた。その声の主とは仲がよく、随分と聞き慣れてた声だった。振り向くとそこには、茶色の髪を二つ結びにしてたらし、タレ目気味で、そばかすのチャームポイントな妹のラミエリーがいた。


「なんか用か?ラミィ」

「今夜さ、星でも見ない? 2人きりで、語り合いながらさ」


その声は、とっさのことではない。前から決めていたかのようにはっきりしていた。



「ほら、あそこに見えるのが北斗七星、あそこには春の大三角が見えるよ」


 ラミエリーは楽しげに空を見上げ、指差して見せた。


「夜空の星は遠くから、ずっと遠くから存在しているという証を送ってくるんだ。その光はたとえ自分が消滅しても、遠く、遠くの人に届く、なんか、それってロマンチックじゃない?」

「ああ、確かにな」


 そうは返したけれど、わたしは今はその光に夢中だった。改めて、星々に囲まれた空を見ると、身近で遠い存在の美しさに息を呑む。


「ねえ」

 ラミエリーは声をかけた。その場返事がバレたかと思ったけれど、それは、話題の切り替えだった。


「この家のこと、どう思ってる?」


 わたしは、別の方面で見透かされた。この家、ウェストウッド家のことは本当に嫌いだった。


「ああ、大っ嫌いだよ。自分の養子に生き方を押し付けてる。白万移植だって、うちでは義務だけど、それって別の、しかもある程度大きな生物を体内に飼いならすも同然だ。エゴにまみれてる。本当に気持ち悪いよ。わたしもそんなことしたくないし、もし移植をするくらいなら家出する」

「強いんだね、キーリーは。わたしは白万を利用する家の方針を悪いとは思わないけど、キーリーみたいに、そういった既存の環境に甘んじないのは、すごい勇気がいることだと思うよ」


 わたしは、そう言われて、嬉しい気持ちとともに、この家が異質であることを改めて確認した。


「ところでさ」

「なんだ?」

「キーリーはさ、将来、どうなりたい?」

「もちろん、この家から出ていくことだよ。このままだと白万の移植も家督を渡されるのも時間の問題だ」

「ああ、そうじゃなくってさ、もし、家のしがらみとかがなければさ、何になりたいの?」

「そういうのはそっちから言うべきだろ」

「ああ、そうだったね。わたしは、やっぱり国際交流部に行きたいかな。それぞれが良さを認め合うことができれば、世界は平和になると思ってさ」

「相変わらず夢が大きいなぁ」

「そうかなぁ」

「それなら勉強ももっと頑張らないとな」


 そういうと、彼女は図星をつかれたように面くらい、すぐに乾いた笑いと共に続けた。


「へへっ、がんばるよ。で、わたしは言ったから、キーリーの番」


 そうだ、わたしには夢があった。でも、それは叶わないものだから。


「……笑わないでくれるか?」

「うん、笑わないよ」

「わたしは……」



「よっ、ゆかりちゃん、最近会えてなかったけど、末期丸とは仲良いかい?」


 東佐官やわたしたちは東佐官の家にお邪魔させてもらった。東佐官は思ったより料理のできる方で、披露も兼ねてのようらしい。正直、年頃の男の家に行くのは抵抗があった。家のあまりきれいでない様を見た時もなおそう思った。しかし、和室だけは、非常にきれいに整えられていた。使っていないだけなのかもしれないけど。東佐官の料理のバランスは一汁三菜揃っていて、なおかつおひたしと味噌汁を含んだ典型的和食で、料理の専門家がいたウェストウッド家を見ている身からしても、うなるものがあった。


「はい、まあ少しずつこの子のことがわかってきたデスよ」


 それに東佐官は感心していた。


「ほー、そりゃよかった、後で成果を見せてくれるか?」


東佐官とゆかりさんの会話に、割り込むように、伊藤が声をかける。


「いいですね、おれにも見せてくださいよ、桐の字の友達の、えっと、ゆかりさん?」

「はい、それでいいデスよ」


 ゆかりさんは、伊藤はあくまで下に見ているようだ。なぜなら、彼女はとても強いものにはもっと従うような態度だと思うからだ。そして、東さんへの態度は、それとはどうも違いそうだ。


「ところでお姉ちゃん、まだこの人と付き合ってるの?」


 パリスが露骨に不満そうな顔で尋ねる。


「何よ、悪い?」


 それにリクは平然とした態度で返した。パリスは御立腹だ。


「お姉ちゃんに聞いてるの!」


 そろそろわたしも何か言おうかそう考えている時、急にリクが倒れ掛かるように抱きついてきた。


「ケリィ、あの子がいじめてきて、心がまいりそうよ。優しくしてぇ」


リクはよよよと泣きながらそう訴えかけた。そう、よよよと、わざとらしく。


「リク、そういうのは恥ずかしいんじゃないか?」


 わたしは彼女の頭を撫でる。そうして、自立できるよう、しっかと支えてあげた。


「そうやって! そうやってさぁ! ほんと悪どい奴! お姉ちゃんも甘やかさないでよ!」


 パリスは机を叩いて怒りをあらわにした。


「ははは、やーよ怒っちゃ♡」


 さっきからずっと黙ってたパイパーは、ここぞとばかりにからかい始めた。無自覚か、わざとか、パリスに対し、これは間違いなく効いてしまう。火に油を注ぐ行為だ。


「とにかく、わたしは彼女を愛しているんだ。これくらいのことはするし、別れるつもりもないさ」

「ふふふ、悪いわね」


 パリスに振り向いた彼女のドヤ顔は見なくてもわかる。見たらもっとはっきりと、得意げではあれでクールな雰囲気を損なわない冷笑のドヤ顔とわかるだろう。


「そんなんじゃだめなのに〜」


パリスは苦いものを食べたかのような顔をして言った。


「負け組♡ よわよわ♡」

「いや、あんたは関係ないでしょ」


 パイパーの煽りにパリスは逆に素面に戻った。


 そういえば、今日はラミエリーが来ると電話で伝えられた日だ。ここのことは使用人の、確かシビリルって言った。あの人に伝えたから、おそらくはこの店に来てくれると思うのだけど。


 その時、襖が突然横にすうっと動いた。襖を開けたのは来る約束のあったラミエリーだった。


「久しぶりだね、キーリー」


 しかし、そこにいたラミエリーはわたしの知らない女だった。顔つきや髪型なんかは変わらない、彼女が気に入っていた大きい男物のコートも羽織っている。しかし、周りの視線を集めたそのお腹はとても大きく膨らんでいた。


「なあ、それって、もしかしてさ」


彼女は服をたくし上げ、その大きなお腹を見せた。


「うん、子供だよ。あと一ヶ月もすれば生まれるかな」


 周囲からは驚嘆の声が上がる。知らなかった、彼女が妊娠していたなんて。私よりも年下のまだハイスクールを卒業したばかりという妹が子を持つなんて、正直な話、複雑だ。しかし、悲しいのは、


「リク、パリスも、なんで教えてくれなかったんだよ!」


この話をリクもパリスも微塵も話してくれなかったことだ。


「いや、だって聞かれなかったし……」

「なによ、あの子の方が気になるの? あたしよりも?」

「リク! 姉妹仲は別だろ!」

「噛みすぎて、深爪しちゃうわぁ」


まったく、彼女たちは姉妹のことをないがしろにしすぎじゃないかな。


 だけど、まだ不可解だ。ラミエリーは、ラミィはこれを望んでいるのだろうか。少なくとも、昔のラミィではこんなに早く子供をこさえるなんてちょっとイメージと違う。


「ラミィ、ところでさ、相手は誰なんだ? その子の親だよ」


 ラミィはちょっと考えたように顎に手を当ててから、手を下げ、はっきりと、ぼかして答えた。


「実はね、マジェストイクスマグナにいい相手を紹介してもらったんだ。本当に不器用だけどまっすぐで、いい人なんだ」


なにかがおかしい。そもそも彼女には好きな人がいたはずだ。そして、その人をマジェスト、つまりマザーより上の一番の母を自称するイクスマグナが紹介するはずがない。


「ねえ、ちょっと出かけない、この子のために欲しいものもあるしさ」


 そう言ってラミィは手を合わせ、ねだった。もう彼女も母になると改めて感じさせる態度だった。こう頼まれては弱い。


「よし、じゃあ、街に出るか」


 そう言ってわたしは立ち上がり、ラミィの手を握り外まで歩こうとしたけれど、


「あ、ごめんちょっとトイレに行っていいかな」


そう言ってラミィはお手洗いに行ってしまった。


 みんな外に出た。しかし、ラミィがまだだ。入り口からお手洗いまでは短い廊下があって遠くない。来たらわかるはずだ。しかし、ずっと見ているわけにもいかず、今は外を向いていた。


 その時、ラミィの声がした。わたしが、おそらくわたしだけが聞き取ったほど微かな声だった。しかし、その内容は独り言のようなもので、


「ヘイヤレイ……オトティヤ!」


という、謎の言葉だった。だが、何が起こったわけではなかった。ただ、ラミィが廊下から玄関に出てきただけだ。


「ごめん、遅れちゃった。よし、行こうよ」


 全員外に出た事を確認すると、わたしとラミィのグループと、ゆかりさんの末期丸に興味を持つグループ、リクたちの特に用のないグループの三手に別れた。リクはわたしと離れたくないからか、ずっと親指を噛んでいたけど、わたしはどうしてもラミィと2人で話したかったんだ。


 わたしは、こういった赤ちゃん向けのものを取り扱う店に向かった。うちの家族はしばし赤ちゃんの世話をすることもあったから、こういったことには慣れている。

 ラミィは時々お腹をさすっている。息はを時々深く吐いて、その生への欲求には色気すら感じられる。その様子を見ると、彼女はもうあの時とは違うのだという気持ちと、わたしもこうなるかもしれないという気持ちで妙に湧き上がる気分になる。しかし、彼女はそれだけでなく、本当にもうあの時とは子供のこと以外でも違うのかもしれないと、先程の話で分かった。ここはカマをかけてみよう。


「なあラミィ、三銃士は元気か? みんな、どんな風な現状だ?」


 少しの間の後、ラミィがわかりきったかのように話す。


「そうだねぇ、わたしはさっき言った通りかな。ミラは、キーリーのいない分、頑張ってるよ。他の家族をまとめようとしてね。あと、マルファはすごい怒ってたよ。フィアンセが帰ってこないってさ。三銃士の3人はそれぞれの道を今でも歩んでいるよ」


 おかしい。絶対におかしい。だって、三銃士はその3人じゃない!


 おかしくなった彼女とともに歩き、しばらくしてようやく目的にしていたベビー用品の店に着いた。


「うーん、やっぱり粉ミルクとか買っておいたほうがいいのかな」

「そうだなぁ、オムツとかも素材が色々あるし地域によって違うから……」


 突然、携帯端末が鳴った。その端末は自分の元々いたゼノン支部で使っていたものではなく、ここに来て新調した、洗練された少ない機能のシンプルなデザインのものだ。わたしは壁の近くに小さくなって、電話に出た。相手は、どうも伊藤らしい。


「桐の字、桐の字か!? 大変なことになった」

「どうしたんだ、たしかゆかりさんに白万を見せてもらうって……」

「それが、ついてきた東佐官が突然倒れた。脈を測ってみたら……なかった」


一瞬その話が信じられなかった。先程まで、先程まで話して歩いていたんだ。そんな相手が今亡くなってしまうなんて。


「分かった。後で向かう」

「すぐ向かった方がいいんじゃない?」


振り返ると、ラミィが至って落ち着いて立っていた。


「善は急げっていうしさ。わたしは大丈夫だよ。ここでわざわざ買わなくても問題ないよ」

「わかった、すぐに向かおう」



 いざ現場に着いた時には、東佐官の顔には白い布が被せられ、担架に担がれ運ばれていた。


「死因も判明した。心筋梗塞だってよ」


 伊藤は沈痛な面持ちでうつむきながらそう語ってくれた。わたしたちは死に慣れている方かもしれない。しかし、実際にいなくなると、やはり喪失感が残るものだ。部品を失うと、屋台骨はグラグラと揺れる。その心配もあった。


「どうして、どうして、いなくなったんデスか! どうして……」


 ゆかりさんは、まだ会って長くないにも関わらず、涙を流していた。それだけ、彼には理解をしてもらったんだろう。わたしは息が詰まり、これといった言葉も出なかった。


「そうだった、そうだった、忘れるとこだったよ」


 この中では、関係ないからか至って落ち着いたラミィが、手紙をすっと差し出した。わたしは震える手で封を開け、中身を見ると、さらに、違った意味で手が震えた。


  決闘申込 キーリー・ウェストウッド宛

  私の代理人と一対一の決闘を申し込む……



「決闘、ねえ」

「どうでしょうか、空実そらみ豪士」


 あの時挑まれた決闘、そのことを相談するため、わたしは豪族として名をはせる白岩家の空実豪士のもとを尋ねた。


 豪族とは、いわば有力者の証で、仕事も、家柄のイメージを上げるためにも、様々な場所で働き、その名声をあげる、まさに豪勢な一族だ。その豪族の人のことを豪士という。しかし、親しい関係を保つため、豪士とは呼ばせないこともしばしばあるそうだ。この概念は今やこの戦乱の世に広まっている。


 こういうことは直属の上司の山城士官に相談すればいいと思う人もいるかもしれない。しかし、おそらくあの人に相談すると、自分のことはぁ、自分でカタをつけろぉ、と言われそうな気がしたので、どうにも相談しづらかった。それよりも、直属でない偉い人物に相談した方がいいと考えたんだ。


 空実豪士は、おそらくは男と思われるけれど、その身長はとても小さく、サバを読まないわたしと同じくらい、だいたい150cm弱の身長だ。ちなみに、普段わたしは158cmとサバを読んでいる。なにせ、実際の身長を素直に言えば舐められそうだからだ。メガネは銀縁で、いかにも真面目そうだ。しかし、真面目そうな印象と裏腹に髪は長く、肩にもかかるほどはある。


「こんなことを間に受けたら決闘罪で逮捕だね」

「確かにその通りです、しかし、これを……」


 手紙を空実豪士に手渡す。彼はゆっくりと舐めるような手つきで手紙をあけ、中身を見るとぞっとしたようだった。手先どころか、全身が震えている。


「こ、これは、ま、間違いなく」

「そうです。私もしばしば拝見したことがあります」


 彼は手紙をわたしにも見せるように平行にした。


「牛耳印だよ……!」


 牛耳印、それは世界の富豪の中でも特に恐ろしいほどの実力を持つ者、世界栄鎮に与えられる、絶対命令権とも言える印章だ。それは本当に凄まじいまでの富豪にしか与えられず、一国の主という程度では世界栄鎮の称号は与えられない。この印を押された時点で、もはや仮に牛耳印があったとしても譲歩の道しか示されないほど強力な効力を持つ。あまりに強い効力を持つがゆえ、短い期間、例えば一ヶ月に数回も押したことが判明すると効力が薄まるということを、公式にも定めているほどだ。


「こんなものが、こんなものが押されるなんて、一体どんな不敬なことをしたらこうなるんだ!」


白岩家の当主は取り乱している。無理もない。わたしの相手は世界栄鎮だ。


「ですから、この決闘が万が一にも罠である可能性を考え、兵力を貸していただきたい所存です」


 随分と無茶な要求だとは思う。しかし、相手は世界栄鎮、何をしでかすかわかったものではない。そのために、万全の準備はしておくに越したことはないだろう。


「……分かった。できる限りのことは尽くす。全兵力だ。私が使える全兵力を控えさせよう」

「あ、ありがとうございます!」


 これはありがたい。相手への牽制ができるようになった。空実豪士は、生真面目な人物と聞いたけれど、危機的な状況なら最善を尽くすというのは本当らしい。わたしの顔は結び目を解いたように緩んだ。


「ちょっと待ちな、兄貴」


 後ろから、別の椅子に倒れるように腰掛けた鍛え上げられた男が、空実豪士を呼び止めるように声かけた。これが、実の縁かというのは、まだわからない。この声に、空実豪士はくるりと椅子ごと振り返る。


「兄貴、それに率いる兵力はどれくらいだ?」

「大体200人くらいかな」

「150人、余力を残せ」


 はっきりとした口調で後ろの男は言い切った。それは一見見かけによらぬ策謀家のようだった。


「けどさき、相手はウェストウッド家だ、全力で行かないとどうなるかわからない」


これに対し、先と呼ばれた男は先ほどよりも強い口調で、


「ウェストウッド家だからこそ、だろ。何をしてくるか分からないからこそ、余力を残した方がいい」


そう忠告していた。わたしとしては、相手の強大さを考えるに全力で行かないとどうしようも無いと思っている。だから、先の意見には賛成できない。


「それにさぁ」


 先はわたしの方をしばらくじっと見ると、手を横向きに伸ばし、呆れかえったような顔をした。


「おれ、金髪嫌いなんだよ。しかも雑に染めたような金髪がさ」


 なんだ、こいつ。人を偏見の目で見やがって。許しておけない。


「あのなぁ、人をそうやって偏見の目で見るのは良くないことだと思うな」


 わたしのその行動に、小馬鹿にしたような態度を取る先。


「ふっ、やっぱこいつは信用に値しない。髪のまんまだ。兄貴も随分なお人好しだな」


くそう。あいつ好き勝手言ってやがる。これを叱るように空実豪士が目線を下げ、上目に見て喝する。


「しかし、これは牛耳印、ただことじゃないんだぞ」

「それはまあ、事実だ。けど、おれは行かないし、おれが声をかけりゃ多分20人はついてくる。とにかく今回は降りさせてもらう」

「……勝手にしろ!」


 空実豪士は目を瞑り、首を捻り、椅子を捻り、言い捨てた。


「とにかく、私もあらん限りを尽くす。牛耳印の通りにしてくれ」


わたしはその声に礼を尽くした。


「ありがとうございます。これで万が一にも大丈夫です」



 決闘は明日だ。ラミィはどこかに泊まると言っていたけど、今、どこにいるのだろう。この国は外からの敵以外、国内の治安は良いとはいえ、心配な気持ちが消えるわけではない。


 ふと、わたしたちの部屋にあずかっているパイパーが、わたしの手紙を見つけた。


「ねえ、これなぁに?」

「い、いや、大したもんじゃないよ。見てもつまんないから離しな」


しかし手は速く、簡単に手紙を盗られてしまった。


「ふーん、決闘、だって。リクリッサぁ、キーリーが決闘だって!」

「や、やめろ!」


 あのことはあっさりバラされ、リクは1メートルは離れているであろう位置から、わたしにずずいと顔を寄せた。


「これは、何かしら。まさか、あたしに内緒でこんな約束を?」

「いや、これは、仕事の話だから、関係ないよ」

「ふぅん、ケリィの嫌いなウェストウッド家と仕事、そんな話信じられないわ」


 そう強く言い切り、彼女はわたしの上に覆いかぶさる。数10センチは大きくしなやかな身体が、その高い身体を守るにはあまりに小さな身体を上から力を入れ押し倒す。


「あたしも、決闘に呼んでくれないかしら」


駄目だ。わざわざ巻き込まないためにこの話をしなかったんだ。彼女はあくまでも、あくまでも無関係でいて欲しい。


「ダメっ……」


 そう言おうとした瞬間、首筋に彼女の唇が触れた。それは弱く、それでいてしっかりと、吸盤のついた弓のごとく吸い付いている。


「な、なにをするんだ!」


 わたしは、抵抗しようと力を込めてリクに触れたが、妙に力が入らない。彼女はその間にキスを終えた。そして、彼女の目的はキスそのものではないと察するには時間がかからなかった。


「ふふ、キスマーク、今回は首筋。けど、もし断るなんてしたら、顔に大きな跡をつけてあげるわ」


 確かに大きな跡、それも内出血の跡がついていたら、目立つだろう。しかし、わたしは彼女を巻き込むわけにはいかない。たとえ、力づくでも止められるならいい。そう思い、逆にキスマークでもつけてやろうと立ち上がろうとした。しかし、その足はガクガクと震え、生まれたばかりの子鹿のようになってしまっていた。立ちあがろうにも、麻痺した足は上がらないんだ。


「あたしが白万の能力持ちだって事をお忘れ? 正直に言うとあなたよりも、あたしの方が絡め手込みなら強い自信があるわ」


 そうだ、彼女は強い。芯も、我も、能力込みなら実力行使でさえわたしより上かもしれない。この能力はおそらく快楽の座という名の白万。快楽計算を得意とし、それを利用し足を快楽による筋弛緩でもつれさせたのだろう。


「そうだよ、もっとさ、身近な人を頼って欲しいな」


一緒に泊まっていたパリスもその声に賛同した。


「わかった。連れて行く」


 わたしは、渋々死地に連れていくことを承諾してしまった。


「物分かりが良くてうれしいわ、リコリスでも食べる?」

「いや、いらないよ、ところでパリス、まさか本当に泊まる気か? 明日は学校は休みとはいえさ」

「もちろんだよ、お姉ちゃんと一緒だなんて何年振りだろう、昔は三銃士とかいう奴らに取られがちだったからね」


 説明が遅れたけれど三銃士、彼女らはウェストウッド家の姉妹の何人かが団結の為作ったグループだ。わたしはその三銃士の隊長、というよりマネージメントを任されていた。いまや、あの日も本当に遠い昔のように思える。つい3年前の話なのに。


「ああ、そうだった。これを渡しておくわ」


 リクは長く、細長い蔓を渡した。


「これは?」

「あたしの白万の一つ、『刻命者』で作った蔓よ。ある程度までなら操ることも、掴むことも、縛ることもできるわ。今夜中だけでも練習してみて」

「わかった。その気持ちだけでもすごく嬉しい」


 パイパーはこの話の間、近くにあった本を読み耽っていた。

おまけ

ゆかり「豪族って言ってますけど、要は派遣デスよね?」

伊藤「それは禁句じゃないかなぁ……」

先「派遣とは人聞きの悪い。せめてヤの者だな」

伊藤「余計にタチ悪い!」

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