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〆は異世界で・・・。

「曾根山社長、鬼島常務、最後に〆でラーメン行きましょうよ!」

「佐藤君は元気だねぇ。お子様ラーメンなら入りそうかな?」

「・・・馬鹿を言え。40過ぎの虚弱な胃を舐めるなよ。この時間の炭水化物は、明日のぜい肉だろうが」


「え~~?!ウケる。大丈夫ですよ~!美味いもんはゼロカロリーって歌、知りません?」

「駄目だ、こいつ完全に酔っているな。・・・付き合わなくて良いから、帰ろう」

「やだやだ!ラーメン付き合ってくれなかったら、会社辞めます!」

「いいぞ。辞表は郵送で送っておいてくれ」

「あ~!!嘘です!ごめんなさいいい」

俺の腕に縋りついて泣くこの煩い男は、新卒採用で秘書課に配属されたばかりの、佐藤 隆司だ。

酔うとガキみたいに成り下がるが、普段は無口で有能な男だ。見た目もまあまあ整っている。


「佐藤君、明日はお休みだし、今夜はうちに泊まるかい?明日のお昼に一緒にラーメン屋さんに行こう?」

「またそうやって、甘やかすな・・・俺は、誘わないのか?」

40代半ばを過ぎても、のほほんとした喋り方が直らないこの男は、曾根山 正道。こう見えても我が社の社長だ。

「誘わなくても、強制参加だよ?」

くっ・・・笑うと八重歯が可愛いのが、罪深い。酒で火照って赤くなった、正道の頬をムニムニと揉んでやる。

「ふふ・・・くすぐったいよ?さ、皆で帰ろう?」

「ああ・・・」

タクシーを捕まえ、3人で正道の家に向かう途中で事故は起きた。赤信号を無視したバカな車が、俺達が乗るタクシーに突っ込んできたのだ。

回る視界と、運転手の叫び声。出来ることは限られている。大事な親友と、手の焼ける新人の手を離さない事だ。

骨が砕けるような痛みの後に、赤い光と肌を焼く熱風・・・車が炎上しているのかもしれない。

意識が薄れる中、自分自身を叱咤した。寝るな、起きろ!このくそったれの状況から、抜け出す努力をしろ・・・!


***************


気が付くと、其処は激しい炎に包まれた戦場だった。数多の死体が転がり、周囲では男達が今も殺し合っている。

俺は腕に誰かを抱き締め、必死にそいつの名を叫んでいた。蒼白の顔を歪め、力無く横たわるその男は、俺が最も良く知る男だった。

「正道・・・?」

髪の色が違うが、確かに正道だ。額から左目にかけて血にまみれた顔は、苦しそうに固く目を閉じている。

呼吸が荒い。首元を緩めてやろうにも、かっちりとした詰襟に・・・中世の騎士のような鎧を着ていて、外し方がわからない。驚いたことに、俺自身も似たような鎧姿だ。


「どうなっている?」

逡巡している暇などない。このままでは、正道の命が危ないと本能的に感じた。周囲では激しい爆音と、怒号や悲鳴が止まること無く響いている状況だ。救援は望めないだろう。

正道を抱き上げて、立ち上がろうとしたとき、側頭部に強い衝撃を受けた。遅れて発砲音。狙撃されただと?!

幸い兜を被っていたから、酷い怪我ではないだろう。ズキズキとした痛みが、一瞬思考を奪う。

“無暗に立ち上がるな!身をかがめて銃兵の位置を把握しろ”頭の中で偉そうに支持する声が聞こえる。俺の声なのが、酷く不快だが、的確な指示に今は従うしかない。


“ザカランを呼べ。近くに居るはずだ”声と共に映像が浮かんできた。脳内で映画を見ているような気分だ。魔法使いザカラン?・・・この世界は、現実世界じゃないのか?俺が見ているか夢か?

“考えるのは後にしろ!このままでは、王が死んでしまう!急げ!”

「王?・・・正道が王なのか?!」

頭に浮かんだ荘厳な城の中で、唯一無二の主・・・俺の幼馴染で・・・命よりも大切な親友が笑っていた。正道・・・いいや、今はアルノルト・フォン・シュタウフェンか。

「この戦争が終われば、新たな帝国の王となる男・・・」

今の状況を考察し纏めるのは後で良い。俺は迷うことを止め、声の限り叫んだ。

「ザカラン!来い!!」


俺の声の余韻が消えぬ間に、眼前に突如として黒い陽炎が現れ、やがて年若い少年の姿を取った。長い黒髪が顔を覆い隠しているが、隙間から覗く赤い目が俺と正道を見つめ、大きく見開いた。

「お前がザカランか?早く王を・・・」

「うわっマジすか?!曾根山社長と、鬼島常務ですか?!俺っ佐藤です~!!会いたかったでずぅ・・・!!」

現れた時の陰鬱さは消え、顔をクシャっと歪めて泣き出した少年が、俺達に抱き着いてきた。

「待て、今・・・佐藤と言ったか?佐藤隆司?秘書課の?」

「そうでずよう!ズズ・・・ッタクシーに乗って、それから・・・」

「わかった、待て!今はそんな話は後だ!正道を見ろ・・・お前に治せるか?!」

「あ?!曾根山社長?!酷い怪我を・・・待って下さい。この身体なら、治せると思います!」

状況を瞬時に読んで意識を切り替えたな、佐藤を秘書課に採用した理由だ。即戦力で役に立つ男だ。


「あった!いきます!」

目を閉じて息を整えた佐藤が、何かを呟いた。周りで戦っていた敵の残党が、此方に気づいて駆けてくる・・・正道をそっと地面に横たえた(本当なら、膝枕をしてやりたいのだが)。

腰に下げた剣を抜き、構えて迎え撃つ!剣道経験者の俺の力ではなく、今現在間借りしているこの身体・・・強いな。

無駄のない足さばきだ。最小限の動きだけで敵を切り捨てている。人を殺したことなど無い、平和な日本育ちの俺が・・・何も感じない。この身体は、殺し合うことが当たり前の世界で生きてきたのだろうな。

血を振り落とし、剣を納めて振り向くと、横たわる正道を白い光が包み込んでいた。きつく閉じられていた瞼が緩み、穏やかな寝顔になっている。

「ふぅ・・・危なかったですが、間に合いましたよ!」

顔を上げた佐藤が、見慣れた顔で笑った。見た目は随分違うが、中身は間違いなく佐藤隆司だな。

「良くやった。状況整理と考察は後回しだ。取り敢えず、この戦を終わらせるぞ!」

「はい!!」

その後は、やる気を出した佐藤が特大魔法?とかで残党を殲滅し、我がたぶんが時の声を上げ、終戦した。

“新たな国の誕生だ。王が・・・アルノルトが新しい世を作るのだ”俺の中で泣いている男が居る。この身体の本来の持ち主、ヘルムート・フォン・ハーデクヌーズという男が。



鬼島常務目線のお話しでした。

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