クーデターから始まります。
「愚かな王はこの国には必要ない。古い王の時代は、今日で終わりだ!!」
新興貴族に担ぎ上げられた第一王子ミカエルが、恋人である子爵家の娘アンジェラを抱き寄せ、声高に宣言する。
皇帝アルノルト・フォン・シュタウフェンは玉座の上から、クーデターで押し寄せた逆賊たちを悠然と見下ろし、最後に王子の顔を眺めた。
「言いたいことは、それだけか?」
穏やかでありながら低く重厚な声が問いかける。一見優し気な面差しを持った王の皮が剥がれ、獲物を食い殺そうと狙う、獣の如き黄金の目がギラリと光った。笑みの形に歪んだ唇から鋭い牙が見える様だ。裏切り者の貴族たちが息を呑んで震え出した。
この国の王は数多の戦場を駆け抜け、自ら勝ち取った国々を纏め上げ、帝国を築いた強者だ。
戦場で戦鬼と恐れられたアルノルト・フォン・シュタウフェンは、皇帝の座につき穏やかな笑みを浮かべる統治者となったが、戦火を逃れた諸外国の者たちはアルノルト王のことを陰では虐殺王と呼び、恐れ敬っているのだ。
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「クーデターを先導したグスマン子爵及び、賛同した貴族たちの一族は例外無く平民に落とし、国外追放とする。
主犯のグスマン子爵および、娘のアンジェラは斬首刑の後、晒し首とする」
捕らえられ処刑場で跪いた元貴族たちは、王に許しを請い、減刑を求めて悲鳴じみた声を上げていたが、
元王子ミカエルだけは唇をきつく噛みしめ、何も言わずに深く項垂れていた。
おそらく突きつけられた証拠品を前に、己の愚かな行動を思い返し、貴族たちが吹き込んだ甘言を妄信した自分を恥じているのだろう。
「元・第一王子ミカエルは王族から排籍の上、平民に落とし国内追放とする。尚、追放先からの無許可の外出は逃亡とみなし、見つけ次第処刑とします」
宰相が罪状を読み上げた後も、ミカエルは抵抗する事無く、判決を受け入れた。建国祭の夜会での断罪劇から、翌朝の刑執行まで異例の速さで行われた。
ひと時の恋を誓い合った娘の首が晒される中、ミカエルを乗せた馬車が流刑の地を目指し、静かに走り出したのだった。
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「は~・・・やっと終わりましたね」
俺は欠伸を噛み殺しながら、死刑執行諸々の書類を、決裁済みの箱に放り投げた。
「一晩で裏切り者の一族郎党、残らず処理したんですから、特別手当出ますよね?後は、元王子を送り出すだけかぁ~」
文官でも無いのに魔法使いの俺までこき使われて、徹夜だったよ・・・宰相はマジで人使いが荒いわ。
最後の書類を確認した宰相が首元のタイを緩め、外した眼鏡を胸元のポケットに差し込んだ。
「・・・何時まで、そうしているつもりだ?いい加減に泣き止め。侍従たちが呆れているぞ」
眼鏡を外せばキャラ変だ。転生前の素が出ているから口が悪いんだよね。
「だって、だって!可愛い息子が・・・ちょっと、反抗期がきただけの息子が・・・!国内追放だなんて、惨すぎるでしょ?」
「いや、お前が裁いた結果だろうが」
「そうですよ、曾根山社長が決めたことですよ~?」
「そうだけどね・・・2人共、僕に優しくないなぁ」
このグズグズと泣き腫らしている可愛いおじさんは、この国の王の体に転生した、前世で俺の上司だった曾根山社長だ。
んで、冷徹クールな宰相が、前世でも鬼上司だった鬼島常務だ。どういうことかって?流行りの集団転生ってやつだよ。
「もう泣かないで下さいよ、曾根山社長!お目目が腫れちゃいますよ?」
「グスッありがとうね、佐藤君は優しい子だね」
曾根山社長の涙を優しくハンカチで拭ってあげたら、蕩けるように甘い笑顔で、頭をよしよしされた。女好きのはずの俺だが、この笑顔には股間にクルものがあるんだよね・・・。
「貸せ、俺がやる」
鬼島常務が俺からハンカチを奪い取って、曾根山さんの顔を顎クイして(いる?その顎クイ必要?)泣き腫らした目を覗き込みながら、涙を拭ってやっている。
俺は壁際に控えた王専属の侍従とメイドを手招きして、お茶と軽食の用意を指示した。素早い動きでテーブルに用意された紅茶をひと口飲んで、お上品なサイズのサンドウィッチを口に放り込んだ。
今日の午後には元・第一王子のミカエルが国内追放される。追放先は最北の人も住まない荒地とされているけど・・・実際は違うんだよね。
「充分、激甘やかしな処罰だと思うけどな~」
ミカエルがこれから追放される先は荒地では無い。国の外れではあるが、小さくて平和な農村だ。そこで反省して、穏やかに暮らせっていう親心だよね~。
「あ~あ、ミカエルが羨ましい。俺が曾根山社長の本当の息子だったら、ちゃんと親孝行な息子になったのになぁ~」
俺のぼやきが聞こえたのか、まだ目の赤い曾根山社長と、眉間に深い皺を刻んだ鬼島常務が振り返った。
「何言ってるの、佐藤君・・・ザカランは僕が育てた大事な息子だよ?」
あ、ザカランて転生した今の体の名前だよ。王専任の魔法使いをしています。
曾根山社長・・・今の体は、アルノルト・フォン・シュタウフェン皇帝陛下が駆け寄ってきて、俺をギュッと抱き締めてくれた。前世では俺の方が背が高かったけど、転生した今は俺の方が低く華奢になってしまった。
でも厚い胸板に埋もれて、背中と頭を優しく撫でて貰えるのが気持ち良くて・・・すごい幸せ。
「・・・お前は昔も今も、手のかかる可愛い・・・新人だぞ」
鬼島常務・・・ヘルムート・フォン・ハーデクヌーズ宰相閣下が、精一杯の慰めを捻り出して、俺の頭をわしゃわしゃと掻き回した。
普段は俺の扱いが雑だけど、最後の最後には飴をくれるこの人を、尊敬してるし・・・飴を貰えるのは素直に嬉しい。
「へへ・・・俺、お2人と一緒に転生?できて良かったです!」
「そうだねぇ、これからも3人で力を合わせていこうねぇ」
「さもありなん。取り敢えず、ミカエルの輸送を見送るぞ」
俺達がどうして集団転生をしたのかは、おいおい話していくよ。先ずはミカエルを乗せた馬車が王城を出て行く姿を、窓からだけど・・・俺達3人は(曾根山社長が泣き出したのを、慰めながら)見送ったんだ・・・。
大変申し訳ないですが、不定期連載です。
今連載中の作品の合間に、息抜きのように更新されると思います。書き溜めてから連載しようと思ったんですが・・・我慢できませんでした^^;
おじさんが出てくる話が書きたい!可愛いおじさんが出てくる話が読みたい!BLじゃないけど・・・仲の良いおじさん達が書きたい!で、勢いで書いております。
もし気の長~い心で読んで頂けたら、嬉しいです^^;