3 それから
それから、私は朝起きてご飯を食べて寝るという自堕落な生活を続けた。
激しい魔力の消耗で立ち上がろうと思ってもできなかったからだ。
「レイ、今日は市場でいいものを見つけてきました。これは私の村では魔力回復に役立つといわれる食材を使った料理です」
そう言って出された料理は、人知を超えたなんとも形容がしづらい物だった。
紫色のどろっとした液体の中に一口大のスライムみたいな黄緑色の物体が3個浮いている。
料理のオーラが見えたのなら、きっと黒の靄がかかっているに違いない。
「えっと、(このブヨブヨした)黄緑色と紫のスープみたいなのは?」
「これはシオシオのスープで煮込んだマゴルーです。レイみたいに無茶する人用の特効薬なんですよ〜」
そう言ってニコニコピコピコしながら口の前にマゴルーというものを匙に乗せて差し出した。
今にも匙から垂れそうなほどドロドロしているし、匂いも見た目もお世辞にも美味しそうからはかけ離れている。
「今、食べなきゃダメ?」
叱られた子供みたいに上目遣いで可愛く聞いてみた。
「ダメですよー。時間が経つと効力が落ちていくんです。ほら、あーんして」
腹を決めて口を開けるとグイッと匙を口にねじ込まれた。
口の中に広がる、青臭い虫のような味。もちろん、虫は食べたことないけど。なんとなく、口に含んだイメージだ。
後味は苦く、粘りのあるゼリーが喉の奥に居座ってる感じ。
感想は、ただ一言気味の悪い味。
食べ物に気味が悪いってないと思うけど、本当に気味の悪い味なのだ。
子供の頃、両親の言うことを聞かずに風邪をひいた時に飲まされた薬を思い出した。
『そういえば、ポーションじゃなくて苦い薬だったのは、もしかして……」
そんなことを考えながら、やっと飲み込んだと思ったら
「まだ、あと二つありますよ。最後にスープも飲んでくださいね」
可愛いニーナが急に魔物に見えてきた。
それからニーナは『魔力回復に効くんですよ』と言っては、怪しげな野菜や肉の料理をふるまってくれた。
なぜポーションじゃいけないのかと聞けば、ニコニコ笑うばかりで答えてくれない。
姐さんもニヤニヤして『その方が効き目があるからだよ』としか教えてくれないのだ。
それにしても、見た目や色もだけど、歯ざわりというか、食感が耐えられないものが多いのは、何かの罰ゲームかお仕置きなのかと思う程。
それでも、噛まずに飲み込んだり、なんとも形容しづらい味に水で飲みくだしたりはあったものの、日々、魔力が戻るのを感じていた。
大分、魔力も回復して立ち上がれるようになった時、アドレイナ姐さんから手紙と剣をもらった。
手紙の差出人は父からだった。
「あんたが倒れたその日に、閣下がお見えになって置いて行かれたの。かなり心配されていたようだけど、シーヴさんが来たのを確認すると帰って行かれたわ。実は、奴隷商人の掃討作戦の指揮をとったのは閣下よ」
そう言って渡された手紙には、婚約解消はお前の意志も尊重するということ。正し、気持ちが落ち着いたら婚約解消の署名をしてあげなさい。剣は卒業のお祝いに馴染みのドワーフに鍛えてもらった一品なので大事にすること。などが、父上らしい箇条書きで書いてあった。
でも、最後の行に『1週間に一度は必ず便りを出すこと。便りがない場合は、つれ戻す』とあって頭が痛くなった。
週一では短すぎるから月一にしてもらうようお願いしたとしても、親に居場所がバレながらの旅になるんだと思ったらちょっと凹む。
それでも、連れ戻されなかっただけでも良しとしなきゃ。
「その剣は、あんたの魔力に反応するようにできてるみたいだから、まだ握っちゃダメ。魔力と剣の技とそれに見合う体力が圧倒的に足りなすぎるわ。まだまだ実力不足なのよ」
Cランク風情が扱える代物ではないと姐さんは言う。
かといって、ギルドで預かれる代物でもないらしい。
多分、姐さんの元に少しでも長く滞在させるべく剣をくれたのではないかと思う。
だって、兄が父上から剣をもらったのだって、討伐に参加できるようになってからだもの。
と、いう訳で姐さんと話し合った結果、暫くこのギルドを拠点にしてから他のギルドなり土地に行くことになった。
そして運がいいことに、最近、このギルドの近くに中級者向けとみられるダンジョンができたらしいのだ。
修行にはもってこいだが、今は上級者がマップの作成をしているようなので、出来上がり次第そこで鍛錬することに決めた。
それまでにはなんとか魔力と体力を回復しなければ
「うーん、そうなるとどこか住むところを探さないと。いつまでもここでお世話になるわけにもいかないし」
「そうねぇ。どこかいいところがないかしら」
「動けるようになったら探してみようかな」
そんなことを姐さんと話していたら、ニーナがニコニコピコピコしながらやってきた。
「それなら、もう見つけてきました。市場のはずれにあるブレアおばあさんの下宿屋です。レイは下宿代払わないといけませんが、私は下宿屋のお手伝いすることで話はついてます」
仕事、早っ。
さすが見た目は10歳ですけど、中身は28歳のお姉さんです。
「ああ、そこなら大丈夫だね。ブレアおばあさんは昔、勇者だったし、女性限定の下宿屋だから。閣下に了解を得られるわ」
やっぱり、ここでも父上がネックに。
でも、今の状況なら、その方がありがたいのも確かだけど。
「今日から移れますけど、どうします?レイ一人くらいなら抱いていけますけど」
「そうねぇ、私も明日から新しいダンジョンに潜ることになってるし。そうしちゃう?」
私の意見は?という虚しい抵抗をやめてお姉さん方にお任せすることにしました。
その日の午後には、毛布でぐるぐる巻きにされ、背中には父上から贈られた剣を背負った見た目10歳のニーナに抱きかかえられて、ブレアおばあさんの下宿屋に行くことになった。
まったり、書いていきます