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2 目覚め

 目が覚めるとそこは、馴染みのあるギルド内の治癒室だった。

 殺風景ではあったが、どこか暖かく、簡素なベットではあるものの寝心地は良かった。

 とは言っても、どれくらい寝ていたのだろうか。腰や手足の関節が痛かった。

 一人で起き上がり、ベッド脇のテーブルに置いてあった水差しから水を飲むと両手の指先でこめかみをもんだ。


『少なくともお父様には連れ戻されていないようね。それと、婚約者殿にも』


 安堵が空腹を呼び覚ます。

 どれくらい寝ていたのか、見当がつかなかった。

 時計はないが、外の様子からすると午後の遅い時間らしかった。

 

『気を失っていたのは3~4時間ってところかしら』


 部屋のドアがノックされ盥を持った見覚えのある少女が入ってきた。

 目を覚まして起き上がったグレイスを見つけ、少女は大声で叫んだ。


「アドレイナさん、グレイスさんが目を覚ましました!」


 そしてそのまま、盥を抱えて廊下を駆けて行った。

 ちらっと見ただけだが、彼女の首には首輪がなかったのと、アドレイナの名前を聞いて安心した。


『あの獣人の仔も転移できたのね。無事で良かった』


 暫くして、年の頃なら20代後半と思しき、ギルドの制服を身にまとった黒髪のショートヘアの女性が件の少女と共に入ってきた。


「グレーシー」


 女性は、入ってくるなり安堵の表情を浮かべて、グレイスを思い切り抱きしめる。自称、ギルドのお局様ことアドレイナだ。

 グレイスは、ギルドの制服の上からでもはっきりわかるソレに押しつぶされ息がうまくできなかった。それでも、


『ああ、アドレイナ姐さんの巨乳は健在だ。気持ちよすぎる』


 母の元へ帰ってきたような安心感に暫しうっとりしていると、アドレイナからのお説教が降ってきた。


「あんたねぇ、いっつもギリギリまで無茶するんだから。その前に遅効性ポーション飲んどけってアレほど言っておいただろ」

「ここに来た時はポーションでも効かないほどの魔力切れで危ないとこだったんだよ。たまたま近くのダンジョンにシーヴ(白魔道士)がいたから良かったけど」


 心なしかアドレイナの声は震えている。


「え、シーヴさんにわざわざ来てもらったんですか?」

「当たり前だろ。そうじゃなかったら死んでたよ」


 白魔道士のシーヴさんといえば、ヒーラーとして名高く、危険なダンジョン専門の白魔道士だ。

 聞けば、激しい魔力切れで回復しにくくなっていた為に、シーヴさんでもお手上げのところまで行ったらしい。

 現に、もう丸五日も寝込んでいたと言う。姐さんの助言はこれから胸に刻みます。


 そして、命がけで転移してきた私と首輪の獣人を見て、全てを悟ったアドレイナ姐さんが、その日のうちに少女の首輪の魔法を解除し、拘束魔法の痕跡を調べあげたという。

 うまく隠してはあったが、かけた魔道士は割れたらしい。さすがです。


「あの首輪にかけてある魔法の痕跡から奴隷売買の組織が大体絞り込めたよ。ギルドから関係部署に通報して、今は摘発の準備をしている最中さ。あんたが寝てる間にヤニーナちゃんの事情聴取も終わったよ」


 ヤニーナちゃんとは獣人の仔の名前らしい。


「それにしても、奴隷契約をする前で助かったよ。じゃなきゃ、ヤニーナちゃんは契約違反で転移途中で死んでたと思う」


 ぽつりと言ったアドレイナの言葉が重くのしかかる。

 奴隷契約とは、絶対服従もそうだけど、主人からの同意なしに離れると死んでしまう魔法も合わせてかけられると聞く。

 まだ移送中とのことで、契約前だとはわかっていたが、下手をしたらヤニーナちゃんは死んでいたかもしれないのだ。


「しかし、おかげで一部だけど組織の壊滅はできそうだよ」


 そう言ってヤニーナちゃんを呼び寄せる。はにかみながらグレイスのそばに来た彼女は、会った時の簡素なワンピースではなく、花柄の乙女らしいワンピースに着替えてあった。

『ピコピコ動く耳が死ぬほど可愛い』


「危ないところを助けていただきまして、本当にありがとうございました」


 大人びた言葉で頭をさげるも、どことなくあどけなさが残った少女だ。

 最初、黒っぽいグレイの毛並みかと思っていたが、今は輝くばかりの銀鼠色になっていて驚いた。お風呂に入れたんだね。

 同じ色の髪の毛は左右に一つずつ三つ編みに編んであった。

 それにしても銀色の毛並みって……。


「シルバーウルフ!?」

「はい」


 絶滅危惧獣人種だ。


「こんな小さい子がどうして?お父さんとお母さんはどうしたの?」


そう尋ねると、アドレイナ姐さんとヤニーナちゃんは笑った。


「私、こう見えても、もう、28歳なんですよ」

「ええ~」


 私の10歳も年上のお姉様じゃないですか。

 詳しく聞くと、ヤニーナちゃん、もとい、さんは、育った村に(つがい)がいなかった為、匂いを頼りに番を探す旅をしてる途中で奴隷商人に捕まったらしい。


「ちょっと油断してました。どうせ、人。すぐ逃げ出せると高を括っていたんですよね。まさかあの首輪に魔法がかけられていたなんて思いもしませんでした」


 そう言って恥ずかしそうに笑うヤニーナさんは可愛いけど迂闊すぎる。


「まあ、年齢的には人から見れば大人なんでしょうけど、私たちの種族は寿命も長いですし、発情期が来ないと体も大人になれないので、好事家からは狙われやすいって、先ほど、アドレイナさんに聞きました」


 そう言って、てへぺろ☆(・ω<)するヤニーナさん。

 迂闊にやっちゃダメだぁぁぁ。可愛すぎるから。

 そして聞けば、普段は集団で行動する為、滅多に誘拐はされないらしいが、

ヤニーナさんのように、番を探す為に単独行動する獣人を誘拐するらしい。

 そして、発情期が来ないようにして監禁する輩がいるらしいのだ。

 全くもって許しがたい。


「何れにしても、グレーシーはしばらく安静にしてなきゃダメ。まだ、魔力の回復は半分ぐらいだし、ヤニーナちゃんも、奴隷商人を摘発して捜査が落ち着くまではギルドにいるようにって通達が来てるから、今後のことは二人ともここでゆっくり考えなさい」


 アドレイナはそう言うと、二人を残して部屋を出て行った。

 二人きりになると、ヤニーナさんは椅子をベッドの脇に持ってきて座った。


「グレイスさん、年上だけど、私のことはニーナって呼んでくださいね」


 ちょっと、頬を赤らめながら言うヤニーナさんは可愛い。狙われるのも頷ける。

 そっちの趣味はないけど、猫、好きなんだよね。ヤニーナさんは狼だけど。


「私も、グレーシーでもレイスでも好きに呼んで。Gでもいいよ」

「じゃあ、レイって呼んでもいいですか?」


 見た目10歳でも28歳のニーナと見た目20歳オーバーの17歳レイとの物語が始まった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 あの後、こっそりニーナが言うには、


「アドレイナさんは年齢不詳ですよね。絶対、長生きしてると思います。もしかして―――」


 そう言って考え込むと黙ってしまった。


 アドレイナ姐さんの年もきになるけど、ヤニーナちゃんの話の続きの方がもっと気になるよ。

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