「鉄を引き付ける」という能力について
社会に『超能力』が蔓延した。
初めこそは社会混乱も凄まじく、各地でデモやテロが発生し、腰を据えることもままならない状況であったが、やがて1世代、2世代と時が進むにつれその混乱もだんだんと縮小していった。
そうなってくるとこの『超常現象』に目を輝かせるのは科学者たちだ。彼らはもはや社会常識とも化した『超能力』の多様さにまるで宝石を見る乙女のように目を輝かせ、続々とその研究を進めていった。
『超能力』の種類は多岐にわたり、「火を起こす」といった簡単なものから「水面に浮ける」といったニッチなものまで様々である。
しかしそんな中、とある学会中にある学者の発した言葉が研究者たちの間に波紋を生んだ。
曰く、
「もはや『超能力』の種類は億を使わなければ数えられないほどに増え、いつ使えば良いのかすら分からない能力まで多様性を極めているが、しかしそんな中で真っ先に出ても良いはずの「磁石」の能力者が一人として出てきていないのはどういうことだろうか」と。
この発表に、多くの人々は唖然とした。今や「電子レンジの必要時間を10%短縮する」といった100均の便利グッズかと疑いたくなるような能力まであるというのに、『鉄をひきつける』程度の誰にでも思いつくような能力が一人も出ていないとはどういうことなのか。
研究者たちの議論は例にないほど紛糾した。
ある者は、磁石といっても機能は鉄を引き付けるだけでなく、そういった点で『磁石』の能力が別のものに誤解されたのだと主張し、
またある者はその能力の有用性から、極秘裏に何処かに隔離され利用されているというとんでも理論を打ち出した。
しかし、どの主張も証拠となるものが一切なく、結果その会議は結論未定のまま終了した。
男はその帰り道、駐車場に停めていた車に乗り込み、キーをひねってエンジンをかけた。『自動運転機能』が確立し、一切のハンドル操作をせずとも進んでくれる自動車を進ませながら、男は先ほどの議論を振り返る。
何十億と種類を増やした『超能力』だが、そのなかで『火』に関連するものは全体の5%を占めている。メジャーな能力はそれだけ似たような能力を誘発するのである。ならば尚のこと『磁石』のような能力はあって然るべきだろう。何よりその能力が有ればどれほど社会に役に立つか…
そんな思考にふけっていたその時である。
決められた走行ルートを通るはずの車が突如歩道に向かって突っ込んだ。更に運の悪いことにその先には小さな子供がおり、そのまま一切の抵抗を許さず子どもは『ミスを起こさないはずの自動運転』によって命を落とした。
男は100万に一つの不幸に晒された少年に哀悼の意を捧げる。しかし、そこで男は自分を乗せていた車がちょうど少年の上で静止していることに気付いた。
男は全てを理解した。そして、少年に、また全ての『磁石』系能力者に同情の意を示した。
今の世の中で「鉄を引き寄せる」ほど恐ろしい能力もないだろう。せめて、車や電車のない世の中に生まれていればまだ救いようがあっただろうに
前の連載から期間が1ヶ月もあいてるってマジですか?




