衝動殺人者
「わかりましたァァァ! 犯人はこの中にいまァァァァァす!!!」
「だから、そういうゲームなんだよ」
ビシと指さし絶叫するドリルばんちょうを適度に受け流し、手近な草むらを調べる。
――今宵みんなで集まっているゲームワールド“インパルシブ・キラー”は、プレイヤーが推理小説の登場人物になりきって遊ぶ場所だ。
舞台は絶海の孤島。参加プレイヤーのだれか一人にランダムで “殺人犯”の役割が設定される。
プレイヤーはフィールドに散らばったヒントアイテムを集めると出現する“拳銃”を手に入れ殺人犯を殺せば勝利。
いっぽう殺人犯は自分以外のプレイヤー全員を殺せば勝利。フィールドのところどころに落ちているナイフを使えば、プレイヤーのパラメータに関係なく問答無用で《《一撃死》》させられる。
誰が殺人犯の役割になっているか分からないから、お互いに腹の探り合いをしていくことになる。
「けっこうさあ、静かになってきたよね」
「ああ。だいぶ殺されてるな」
フレンドと話しながらフィールドを探索する。
今回の犯人役はかなり立ち回りがうまい。
何食わぬ顔で他のプレイヤーと一緒に行動しながら、音もなく始末していっているようだ。
なお、さっきやったゲームは犯人役のドリルばんちょうが開幕即ナイフを手に取り「死ねええええええ!」とか叫びながら突撃した結果、眉間を撃ち抜かれて速攻で終わった。
「“拳銃”がでたぞー!」
探索をやめて“拳銃”の出現地点へ向かう。
すでに残ったプレイヤーのほとんどが集まっていて、その中心に銃を手にしたメガネ女医が居た。
「はやく私に銃を撃たせなさァァァァァァい!」
「銃口をこっちに向けないで! あのさぁ、ドリルばんちょう犯人の目星ついてんの?」
「犯人とかそういうのはまだ判りませェん! 私は、とにかく、誰かを、撃ちたいッッッ!」
銃を振り回すキ……ドリルばんちょう。
このままだと「今日は3日だから左から3番目のあなたを撃ちまァァァす!」とか言い始めそうなので、俺も口をはさむことにした。
「我慢しろ。そして銃をこっちによこしなさい。お前アメリカ人なんだから現実でも撃てるだろ」
「残念!!!! ウチの州では人に向けて銃を撃つと怒られまああああああああす!」
「んんん、ドリルばんちょうは名探偵ッス! 撃たせてやって欲しいッス!」
「あっ、お前! ひとりだけ助手ポジションにおさまって難をのがれようとしやがって!」
バーン!
ドサッ。
ドリルばんちょうに取り入ろうとしたフレンドは、いきなり後ろから撃たれた。
倒れたキツネ耳ロリアバターがスーッとフィールドから消えていく。
俺たちは絶句した。
「どうして」
「彼はいま一瞬、ナイフの方を見ましたからね!」
こいつゲームとか関係なく殺人犯風だな。
「実はお前が犯人なんじゃねえのか? このまま勢いで全員射殺しようってハラだろ」
ちょっと揺さぶってみる。
いつでも弾を避けられるよう体は半身だ。
この流れでもし俺が撃たれるんなら、いっそ話は早い――集まった残りの皆がいっせいに銃を奪いにかかってドリルばんちょうは排除されるだろう。
ドリルばんちょうが本当に“殺人犯”ならば、その時点で勝敗は決まる。
「私は善良な一般市民でェす! 怪しいのは――あなたですよッ!」
野郎、俺に矛先をむけやがった。
「セイバー夫人! 貴女が“殺人犯”なのでは!?」
「なんだと」
皆の視線が、俺に背負われた夫人に集まる。
夫人は落ち着いた調子で「あらあら。推理をうかがうわ、探偵さん?」とドリルばんちょうに促した。
「このゲーム、重要なのは“ナイフの行方”でェす! 殺人犯をつきとめるにはナイフが使われた形跡に注目すべェき! さっきまでどこにナイフがあったのか? ナイフが移動したとき一番近くにいたのは誰なのか!? ですがァァァ!」
「――夫人の攻撃力《ATK》ならナイフを使わなくてもこの場に居る全員を一発で殺せる、ってか?」
「私の名推理に口を挟みましたね! ですがその通りでェェェす! そしてェ、今度は私があなたのセリフを横取りしましょう! セイバー夫人は自分で動くことができない。攻撃力が高くても誰も殺せない!」
俺が黙ってうなずくと、ドリルばんちょうはもう一度指先を俺に向けた。
「そこで! あなたの存在ですよ、ルミナさァァァァァん! 実行犯はルミナさんだったのです! ダブル犯人!!」
「一回のゲームにそんな複雑な設定持ち込まねえよ! いや夫人ならやりそうだけど」
「やりそうでしょう!?」
「そうねえ、私ならそうするわねぇ」
「ほほう! ついに認めましたね!」
「でも、ごめんあそばせ。私は犯人ではないわ」
ドリルばんちょう、沈黙。
ぶっちゃけ推理っぽい雰囲気を出して勢いで犯人呼ばわりしてただけなので、こうしてバッサリいかれると後が続かない。
この状況――全員が動くに動けない膠着状態――だが、俺は信じているぞドリルばんちょう。お前ならきっと、どうにかしてゲームを進行させてくれると。
「……これはもう、ドリルで白黒つけるしかないようですねェェェ!」
ちょっと裏返った絶叫と共にドリルばんちょうがアバターを切り替える。
地中から黒鉄の巨大ロボット“ドリル28号”が飛び出して、腕の巨大ドリルを俺と夫人の方へ向けた。
「さあ“セントラル”を出してくださァァァい! ロボットバトル、レディィィゴォォォォォォ!」
ヤケクソじゃねえか。