送別戦
言い忘れてました、主人公の名前はダリアです。自己紹介っていうシーンがここまでなかったの忘れてました。
月が頭上へと登り、完全に夜とかした時間帯。宴はそろそろ佳境へと向かっていた。
「しっかし、まじでやるのかい?」
「先生がそう言ってるのだから仕方がないでしょ」
「今の私の力を知ってもらういい機会です。そろそろ試合で一本取りたいと思っていたのですよ」
村外れにある広い空間に村人全員が集まっていた。そしてその村人たちに囲まれるように3人の武装をした人物たちがいた。
そして、そこに対峙するように1人のローブを着て、木製の杖を持った男が転移してきた。
「ジュート、ライ、ウェル。既に来ていたか」
みすぼらしい格好をしているがここにいる村人全員は驚いていた。それは試合をやるにはあまりにも過剰な武具を纏っていることに。
「げ、先生のフル装備かよ」
「本気ではないが、十分だろう?」
「ねぇ、先生聞くけど……まさか私たち3人で挑めって、言わないわよね?」
「その通り、3人で挑め」
その言葉に3人は驚くも、それが自分たちを侮っているからでは無い。むしろこちら側が挑ませていただくようなものなのだ、異論はなかった。
「……村長、頼みます」
その言葉に群衆から村長が前へ出て、腕を上げた。
「分かった……それではジュート、ライ、ウェルによるダリア先生への送別戦、開始じゃ」
「送別なんて言う雰囲気かこれ!?」
腕が下ろされ、始まった。
片手しか使えぬがそれでもなお劣らぬ力と技をありったけに、上段に構えた斧でジュートは先生と慕う男へと走る。
それをサポートするようにライはありったけの呪法を使い先生を妨害していく。
「『麻痺』重ねて『圧迫』!!」
『麻痺』により動きが鈍くなり、『圧迫』により上部からの力に体が重くなるのを確認したダリアは前から迫るジュートへ向かい打つように片手で杖を下から振り上げる。
上段より振り下ろされた斧を受け止めたその杖には傷一つなく、受け止めきれていて、両者が姿勢を立て直しながら鍔迫り合いを始める。
「おぉぉぉらぁぁぁぁ!!」
「気迫はいいが、力だけで相手を押し切れるとは教えていないが」
「んな事わかってんだよ!」
鍔迫り合いをしているジュートの後ろから光で輝く矢が飛んできた。ジュートを影に密かにウェルが弓で放っていたのだ。
その矢は途中で軌道を変え、数を増やし、ダリアへと迫る。
「『降り注ぐ矢雨』か、量が増えている。更に腕を上げたようだな、ウェル」
「『硬質化』!」
ライから飛んできた呪法で体全体が金属のように硬くなったジュートは、降り注ぐ矢の雨を無視してダリアへと次々と斬撃を繰り出す。
降り注ぐ矢は自前の魔法障壁で全て弾き、ジュートによる斬撃は全て杖で受け流すダリア。
「なん、で!『麻痺』と『圧迫』が!効いて、るのに!そう機敏に動けんだよ!?」
「慣れだ」
「そんな、ふざけたことで!?」
矢の雨が効かないと分かったら即座に貫通力の高い技へと切り替えたウェルは目の前で起きている2人の戦いを見て顔を顰めた。
「これ、私達の攻撃ほぼ意味無いですよね……?」
「えぇ、そうですね……『毒霧』。私達には『健康体』。おまけです『過剰な恐怖』」
「そこまでしなくてはダメージ入りませんか……ならとっておき行きましょうかね。先生に教えられてからこの前やっと使えるやつになったやつがあるんですよ、ジュートくん!時間稼いで!」
「分かったァァァ!『火事場の馬鹿力』ァァ!!」
ライによる妨害は全て効いているが、それでもなお動きに衰えが見えないダリアを見てライは切り札を用意し始めた。
時間稼ぎを頼まれたジュートはこのままでは埒が明かないと切り札を一つ切ることに。全身の筋肉が隆起し、戦闘意欲が高まったジュートはダリアへと宣言する。
「先生……全力行くぜ!」
「まずいか、『全方位球化結界網』」
「スゥー……ォォォオォオオオオオ!!!」
その姿は見る人によっては鬼に見えるであろう気迫にて全速力で走る。地面を走り、ダリアが用意した結界を走り、挙句には空気を蹴り空を飛び始める。
「そろそろ反撃だ。『加速』」
杖を地面へ差し、走り出す。全力で走っているジュートの横を並走するように速度を調整する。
「接近戦と洒落こもうか」
「俺は!斧持ちだってぇの!死ぬぜ先生!?」
「当たればの話だろう?」
「上等っ!」
そして2人は並走したり、時には弾きあったり、結界内を縦横無尽に切り、殴り合う。
「男ってホント馬鹿よね」
「さすがに私でもあれは嫌かな……ジュート!!」
準備を完全に終わらせ、後はダリアへと弓を放つだけになったウェルは指示を出す。
「上に!」
「ぉおおお!」
「ん?」
その指示を聞き、ジュートはダリアの交差した腕を下から蹴りあげ空中へと浮かせる。
その意図に首を傾げるも横を見るとこちらへと構えるウェルを見て笑う。
「いいぞ、来い」
「〝天を貫くは我が一矢、雷を呼び、雲を越え、空へ轟く〟」
その詠唱を聞き、生半可な魔法では塞げないと察したダリアも詠唱へとはいる。
「〝断絶する 拒絶する 根絶する、それは全てを否定する〟」
そしてその後ろでジュートとライも詠唱へと入っていた。
「俺の全力だ……届け!〝敵を叩き潰すは我が戦斧、塵と化せ〟」
「私が先に行くわ。〝黄泉へと、死の神へ捧ぐ、死の歌〟」
ライ、ジュート、ウェルの順にそれぞれの詠唱は完成した。
「『四肢断絶歌』」
詠唱していたダリアの四肢へ呪いの鋏が攻撃を加え、一時的に肩から先、股関節より先が一切動かなくなる。
「『灰燼の焔戦斧』!!!」
いつの間にか目の前にいたジュートが燃え盛り、灰燼となった斧でダリアへと叩きつけ、地面へと落ちる。
そして、これが3人の中で最も威力が高く、技術難度が最高峰の一矢。それを扱えるものはこの世に片手で数えれるほどしか居ない大技。
「『雷神の一矢』!!!!」
光で、全てが塗り潰された。
「『全ては零へと戻る』」
その空間は全てを受け止める。ダリアの眼前で止まる焔で出来た斧と神の矢。そしてそれを握り潰した。
「まさか、お前たちがここまで成長してたとはな」
地面へと降り、疲労困憊と言っていい3人を見下ろす、成長した教え子を見て優しい笑みが浮かんでいるダリア。
「まじで……?あれ全部受け止める?」
「まだ、『四肢壊滅歌』は効いてるのに歩けるのっておかしいでしょ……」
「やっぱり届きませんか……」
下手したら村と村周辺を吹き飛ばすだけでは収まらないほどの威力を持った攻撃がこうもあっさり止められたのだ、3人はもう無理という気持ちで倒れていた。
「これなら安心してこの村を任せられる。むしろ過剰かもしれないが」
「おーう、行け行け……疲れたぁ」
疲れ果てて倒れている3人を放置し、ダリアは村長へと歩いていく。
「明日の朝。この村を出ます」
「凄い戦いだったぞ……寂しくなるのう」
「いつかは戻ってきますから、安心してください」
「そうかそうか……達者でな」
「はい」
そして宴は終わり、村人全員が就寝する。
ウェルは男の娘です。