30年後……
勇者から『聖神の祝福眼』を回収した俺はあれから世界中を飛び回った……なんてことはせずにとある村のそばにある森に家を建ててそこで暮らしていた。
最初村に行った時は歓迎されなかったが、村が天災に見舞われた時などに手助けをしていたら自然と村の一員となっていった。それは村に来てから3年目あたりの出来事だった。
10年経つ頃には村で勉強を教えるようになったりしていた。俺がこの村に来た年に生まれた子や、知識が欲しい若者に教えていった。内容は算数から道徳まで、場合には魔法を教えていた。
どうやら俺には教師の才能があるようで、彼らを教えて数年経ち、成年と呼べる歳になって大成する子供が多く出た。そして俺から教えてもらったおかげだと、そう言ってきた。
村に来てから30年。俺は『森の先生』という呼び名でみんなに親しまれていた。確かに狩りについても教えていたがそんなものか?
「自覚ないのかい、先生は」
「何かおかしいのだろうか?」
「ギルドが定める魔物の中でも上位の魔物を狩れるんだ、十二分に強いが、それを自覚してないのがおかしいんだよ」
「自覚はしている、だが努力すれば可能だろう?」
「それは才能があれば話だっちゅーの」
そうなんだろうか。確かに俺は今までずっと魔眼使いから魔眼を継承することしか考えていなかった。才能……俺に才能?そういえばそんなものはハッキリと考えたことがなかったな、この村に来てからだと、教師なんて言う才能を見い出せたから、1歩進んだようなものなんだろうか。
「違うと思うぞー」
そうケラケラ笑う男はこの森で木こりとして働く俺の教え子だった人物だ。名はジュート。齢は35歳。それで彼が18歳、その時に傭兵として活躍していたが、25歳あたりで受けたキズにより片腕が使えなくなったため引退して、村に帰ってきて木こりになった。
片腕だと木こりに慣れないんじゃ、と心配したがどうやらそうでもなく、片腕でも問題なく働くことが出来ていた。斧を扱う技量がとんでもないのだ。
「あ、そういえば伝え忘れてたわ」
「なんだ?」
「薬屋の婆さんがそろそろニュイ草が切れそうだってよ、補充しておいてくれってさ」
「分かった、明日には持っていく」
「そんな簡単に採れるもんじゃねぇだろ……」
ニュイ草とは魔物が忌避する匂いを持つ薬草である。自生してる場所は主に毒が蔓延しており、到底生身で行ける場所では無いのだが、俺には魔眼があり、解毒できる魔眼もある。
「それとほい、これも」
手紙……しかもかなり上等な物だ。それでこの紋章は確か俺が知恵を貸してやったアルトと呼ばれる人物が貴族になった時に作った家紋だったな。
「アルトからうちの学園で教師やらないかって話らしいぞ」
中身を開けてみる。確かにそうなのだが……じゃじゃ馬だらけのクラスを助けて欲しい、と。
「じゃじゃ馬だらけのクラスを担当してくれると幸いです……か」
「わざわざ面倒事を押しつけに来て受けると思ってんのかアルトは」
「ふむ……最近は俺が村で教えることはなくなったからな。たまにはいいかもな」
そう、俺は既に村に勉強を教えることをあまりしていないのだ。と言うよりなんか恩恵を出しすぎたせいか、もう働かないでくれと懇願されたわけなのだが……
「先生、あんたは完全に分かってねぇんだよ。俺たち村人があんたにどれだけ感謝をしているか」
「何か、そこまで感謝される謂れはあったか?」
「魔物による村の壊滅阻止。天災による飢饉でもあんたの魔法で乗り切れた。流行病なんかもあんたの知識によって助けられた。正直俺らは何度も絶望したんだよ、だがあんたはそれらを尽く跳ね除けてきてくれたんだ。だったら少しは楽して欲しいって思うのが俺らの気持ちなんだ」
「尚更なぜ働かないでくれと」
「見ていて怖くなるほどあんたが働くからだよ!なんで一日中常に村のために働けるんだよ……見てるこっちは何時倒れるのかハラハラしてんだっての!」
そんなふうに思われてたのか。特に今までの生活で苦に思ったことはほぼ無い。今までの戦闘漬けの生活よりは全然いい。
「ま、なんとあれ別に俺らは先生が好きに生きてくれて構わないんだよ。むしろ好きに生きてくれ、こっちが困る」
「そ、そうか」
「だからそれを受けたいってなら受けちまえ」
目線を手に持つ手紙に落とす。確かに今までの人生は俺がやりたいと思ったことがほぼなかった。魔眼から魔眼使い達を解放してやりたい、そう思い行動してたがそれはほぼほぼ使命感によるものだ。俺しか出来ないから仕方がなくやっていた。そう思っていた。
自由に生きる……か。今までは自由じゃなかったのか?そういう訳では無いのだろう。だがハッキリとした自分の意思なんて魔眼狩りに捕まる時までしか無かったんだろう。それと『聖神の祝福眼』を回収したかった、あの時もか。
「……受けようと思う」
「分かった、何時出る気だ?」
「そうだな、支度もあるから7日後辺りか」
「よし、7日後の夜に俺たちゃ門出の祝いをしてやるよ」
「そんな大袈裟にしなくても」
「命の恩人が好きに生きるってんだ、だったら俺たちの好きにもさせてくれや」
そういいとても楽しそうに笑うジュートが、昔の傭兵として活躍すると意気込んでいた姿に重なった。最近は彼のことをちゃんと見れてなかったな。どこか傍観者のように見ていた気分だ。
「ならその時に……今のお前の力を確かめさせてもらおうかな」
「……まさか、模擬戦?」
「この村をちゃんと守れるような戦力はお前とその幼なじみ辺りだろう?安心して行かせてくれよ?」
「う、うっす」
顔が引きっているぞ若人よ。