第1話:起動
「ねえー、なんで問題が出る前に答えの番号に指がかかっている訳?分かっちゃうの?」
クイズ形式の携帯アプリをプレイしているバンの真横からスマホの画面を覗き込んだラブの顔が割って入って来た。
「いや、わかる訳無いだろう?これまでの傾向からある程度予測してる訳。速押しだからその方が点数稼げるから。ほら、ステージクリアしてやったぞ。」
そう言ってバンはハート模様が可愛らしくデコレーションされたスマホをラブに返した。
「ありがとー。もう3日間もこのステージがクリアできなくて。あっお礼にバンのスマホにパパから貰った最新のゲーム入れといたから。でもこれどうやったらいいの~?」
昼休み。何時もの屋上に集まった3人の内で紅一点であるラブは隣に座る黒髪の少年の頬に借りていた彼のスマホをグイグイ押し付けた。
「痛いし、そして画面見えないし、そもそも何でいつもお前は俺に押し付けるし?」
バンと呼ばれた少年は迷惑そうに言いながらも携帯を奪い取ると慣れた手つきで画面を覗き込んだ。
「それはバンが有名なシュミレーションオタクだからじゃ無いのかな?」
もう一人座っていた少年が端正な顔で涼しく言った。細身だがバンと違って鍛えられた体つきである。
「俺はケニー見たいに人に褒められる様な事が得意じゃ無いからな。シュミレーションくらい得意でも許してやってくれよ。」
バンはそういうと直ぐにスマホに集中した。
「そう言えばケニー、碌でもない先輩たちってどうなったの?」
ラブが言う碌でもない先輩というのはケニーが所属する剣道部の幽霊3年部員たちの事で在る。
冬休み中の自主練にふらりと顔を出した彼らは受験準備で他の3年生が居ないのを良い事にそこに居たケニーたち下級生を整列させると稽古を付けると言って暴虐の限りを働いたという話だったのだが。
「ケニーがやっつけた後、仕返しに来なかった?」
最初は後輩の肩や尻を竹刀で叩いたりしてを弄り倒していた奴らだったが、途中で激怒したケニーが試合を申し込み、彼一人にボコボコに負けた幽霊部員一同が逆上して暴れ出したのを1・2年生総出で袋叩きにしたという爽快な話だったのだが。
「来たよ。次の日3人に待ち伏せにあって木刀で襲って来たからこれ使って容赦なく撃退した。」
すっと、学生服の裾から降りて来たのはキラリと銀色にメッキされた鉄のトンファー。
「しこたま脇腹を殴った後、木刀をお尻に差して今度視界に入ったら前の方の物も潰す言ったら逃げて行ったよ。だって最初は彼奴らがそういう事するから悪いんだし。」
「怖っ!」「ケニー凄い!カッコいい」
評価は二分されたがケニーは涼し気な様子を崩さなかった。
「所でラブ、なんだこのゲーム。何処で手に入れた?」
会話に参加しながらも指はゲーム操作に忙しげなバンが初めて顔をあげると尋ねた。
「パパの会社の取引先がどうのこうのでバンが喜ぶかなと思ってパパに頂戴っていったら珍しく渋ってたけど私がもう一緒に買い物行かないってゴネたらくれたの。オーナーはカード情報を登録するらしくてパパの家族カードで私名義になってるけど、領主ってのに登録するらしいの。バンのメアドにしといたから。」
「いや、お前この中身理解して言ってる?これ超有名なMMORPGモードの亜種だけど無茶苦茶な付録がくっ付いているぞ?」
「何?」
ケニーが麗美な眉毛を上げて画面を除き込むと其処にはこう書かれていた。
「世界初!ゲームマスターシュミレーション。自分だけの人気世界を作り出そう。」
◆ ■
「アカネ!また新たなターゲットが起動したわ。今度は近いわよ。」
「ママの近いって...こないだは香港だったじゃない。また出かけるの?」
「前の前がヨーロッパから地政学的には比較的近くで間違っていなかったわ?まって、今データーが降りて来てる。まったく情報通信基本法のお陰で一般通信はタダだしデーターは取り放題だから様様ね。あっ断って於くけどこっちのデータは一切漏れないわよ、態々高い金を出してブラックウエブを使っていんだから。」
ブラックウエブとは全世界総情報通信世代に於ける一種の秘密クラブである。
世界中で情報通信基本法が整備され国民はすべからく無償でwebにアクセスする権利を与えられた。端末は国民が望むなら最低スペックの品が国から無償支給され、通信料は税金で賄われる。
代償はweb上で情報を秘匿出来なくなった事。いつ、だれが、公共のネット上で何をしたのか誰でも簡単に簡単に裏が取れてしまう。webに接続するという事は丸裸になる事に等しく接続時のプライバシーという物は存在しなくなった。それに関しては様々な批判があって今なお抵抗する市民は多いのだが半面、世界中の人達が等しく情報やサービスを享受できる時代になっていた。
ブラックウエブはそれら情報の秘匿性を叫ぶ勢力が作った物である。私的な出資者が集まって政府の検閲を逃れる為に主に衛星網を用いた極めて匿名性の高いネットワークを構築した。それがブラックネットの始まりであった。公共通信の利用者からするとブラックネットの誰が利用しているかは一切見えない。そしてそれは月々目の飛び出るほどのお金を支払いさえすれば誰でも利用する事が出来たのだ。
「あら、都内ね。ちょっと転校の手続きを取るからアカネ行って来てくれない?ママは香港の件で暫く仕事に集中出来なかったから。ほら頑張って稼がないとブラックwebの料金が払えなくなったら大変でしょう?」
アカネの母であるツカサはデイトレーダーである。それも飛び切りハイリスクハイリターンの投資に特化したプロであった。
「分かったママ、任せといて。ターゲートの名前は?」
「えっと、領主登録は番屋大君。あらでもゲームの名義人は女の子の名前になっているわ、真浄寺 愛ちゃんだって。彼女さんかしら?」
「うわあ、彼女持ちか~。私の魅力で落とせるかしら?」
アカネの独り言に細身のツカサはクスリと笑ってアカネに聞こえない程の小声で言った。
「そうねえ、ダイ君が巨乳好きじゃ無い事を祈ろっか?」
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