表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラスメイト・ハント  作者: 埼島始
2章 覚醒の森
9/14

(2) 遊技ボーイの田端

田端陣・・・・第二のバイラフト→不明

       趣味→ゲーム、ネット

       友達→紙本卓


 一真は森の中で黒い騎士に指導を受けていた。

「バイラフトは蔓植物の如く形を変える魔術だ。お前たちが鞭と呼んでいたやつは蔓だ」

「なるほど、蔓だったのか」

「バイラフトの基本は蔓だが、蔓とは別に特殊なバイラフトが発現する。それは自分が求めている形になると言われている。一度発現したらその形で固定される。意識的に別の形にする事も可能ではあるが機能としては低いものとなってしまう」

「なるほど。じゃあ俺はこの不便なやつを使い続けないといけないのか」


 一真は光った拳を見つめた。


「まだ産まれたてのヒヨコみたいなもんだ。使いこなせばどうにでもなる。お前のは手甲ガントレットのようだが、何か思い入れがあるのか?」

「一応グローブだ。まあ思い入れは、なくはないかな——」

「そうか——不便ではあるが威力は確かだ。敵に当てるためにはどうすればいいか分かるか?」

「不意打ちを狙う?」

「それもそうだが、1番は仲間を使う事だ。最悪仲間に押さえつけさせて当てればいい。仲間もダメージを受けるだろうがな」

「それは分かってる。だから仲良くもない奴らと一緒にいるんだ——」


 一真は冷たく言ったが、その瞬間胸に痛みが走った。


「そうか、ならいい。それともう一つ。その技には欠点がある。単純なことだが、そこをどうにかする必要がある。それは修行が終わるまでに自分で見つけろ」


 騎士に課題を出され一真は少し焦ったが、すぐに気持ちを切り替え頷いた。


「戦いに大切なのは観察だ。特にバイラフトの戦いではな。観察して相手の弱点を見つけ出せ。自分の弱点は隠せ。いいな」

「は、はい」

「では次だ。とりあえず、あの岩を手甲ガントレットで破壊してみろ」


 一真は巨大な岩を見ながらバイラフトを拳に集めた。1分ほど溜め、拳大こぶしだいの光の塊が出来ると、岩に拳を撃ち込んだ。

 岩に亀裂が広がり、砕け散った。


「素晴らしい。お前の力なら復讐を遂げられるだろう」

「俺復讐したいなんて言ったっけ」

「見ていれば分かる。では次だ。バイラフトを溜めなければいけないということは、その間お前自身の戦闘技術でどうにかしなければならない。どんな手を使ってもいい。バイラフトを溜めながら俺を倒してみろ」

  

 騎士は剣を構えた。


「よし、やってやる!」


 一真は斧を構え、騎士に向かって行った。





「山田、こっちはいない」


 岩城が言った。山田は岩城優斗、多和部祐太、株木吉江を引き連れ担任の古関を探しに来ていた。バスはあったが、古関の姿はなかった。


「まともな精神状態じゃなかったからな。どこに行ったんだか……よし。そろそろ村に戻ろう」


 村に戻ると、凧見幸代たこみさちよが駆け寄ってきた。

 凧見は大人しく、おしとやかといったタイプの生徒である。それが今日は大きな声を出したので一同は驚いた。


「みんな、た、大変だよ」

「実香に何かあったの!?」


 株木が動揺して声を荒げた。


「か、紙本君が、宝箱を持って村を出ようとしてたの」

「紙本が? 宝箱? 何が起こってるんだ?」


 山田たちが寄合所に行くと、女子たちに囲まれうなだれている紙本がいた。

 腕を組んだ垂野霞たれのかすみが口を開いた。


「きょろきょろしながら歩いてるから気になって後を付けたら墓に行って、墓石をひっくり返し始めたから驚いたよ。そしたら宝の詰まった箱が出てきて。それを担いで村から出て行こうとしてたから捕まえたってわけ」

「紙本。どういう事なんだ」

「それは——うう、言えない」


 垂野はため息を吐くと、眉間にしわを寄せた。


「言わないと殺すよ」


 垂野の指から爪状のバイラフトが生えた。紙本は恐怖でのけ反った。


「わ、分かった言うよ——ビライに教えてもらったんだ。墓に宝箱が埋めてあるって。蛇人のリーダーが隠してたらしい」

「へえ。それで情報のお礼にビライを逃してやったってわけね」

「アーメイ家の都に行って宝を売れば一生平和に暮らせるって言ってた。だから僕は、僕は……」

「勝手な奴……でもこれでアーメイ家の都とやらに行けばいいって事が分かった。こんなシケた村に住んでるよりよっぽどいい」


 垂野は長い髪をかき上げながら言い放った。


「垂野、行くのか?」


 山田が尋ねると垂野は鋭い目を向けた。


「真野たちが都に着いたとして、私たちを迎えに来るとは限らない。自分たちだけで楽しい生活を始めるかも知れない。待ちたい人は待ってればいいんじゃない?」


 皆に不穏な空気が流れ始めた。

 山田は頭が重くなるのを感じた。





「見つけたよ鮫都君」

「あ? 田端じゃねえか。どういうことだ?」

「くふっ。何か凄いアイテムを探してるって聞いたからさ。情報屋に行くんじゃないかと思ってね」

「……なるほどな。それでお前も探しにきたのか?」

「予感。村組の誰かしらに会えるんじゃないかなとね。面白い事が起こりそうな予感がするんだ」

「戦うって事か? 俺たちの圧勝だろ。奴らは戦場を味わってないだろうしレベルが違う」

「村組内で戦いをしてれば強くなってる可能性はあるよ。とは言えなかなか見つからなそうだ」

「そうそう会えるもんじゃないだろ」

「うーん、とりあえず探しついでにレアアイテム探しを手伝うよ」





「はぁ、はぁ。強い——」


 一真は大量の汗を流しながら膝を着いていた。


「気を落とすな、これは正面からの戦いだ。お前は奇襲、闇討ち、狙撃、あらゆる戦略を駆使し敵を仕留めればいい」

「そうは言っても。これほどまでとは……」

「そろそろ飯にするか」


 騎士は腰の辺りから何かを出した。


「え——それは」

「干し肉だ。時間がないからな」

「あ、はい」


 一真は温かい物を食べたくなっていた。しかし今はそんな事を言ってる場合ではない。一真は勢いよく立ち上がった。

 

 倒木に座り二人は干し肉を食べた。騎士は兜を外さず、兜の隙間に肉を差し込みながら器用に食べていた。


「あんた、名前は?」

「名前か——スネイルとでも呼ぶがいい。お前はカズマ、だったな」


 本名とは思えなかったが、追及する気もなかった。一真は堅い干し肉を噛みちぎった。






 マークと春奈の前に盗賊風の三人組が立っていた。男と女、そして子供という奇妙な構成に二人は戸惑った。

 真ん中の男が笑いながら言った。


「おいお前ら。おとなしく金目の物渡しな」

「なんだあんたら」

「想像の通り盗賊さ。お前たち服はボロいが顔が裕福さを隠せてない。金持ってんだろ?」

「ふーん。まあちょっと前までは満たされた世界にいたからなあ。無理もないか」

「いいから寄越しな。死にたくなければ」


 男は短剣を出した。しかし短剣は一瞬にして手から消えた。


「あ?」


 短剣はマークの手にあった。蔓状のバイラフトで奪っていた。


「まだやる? 俺たち強いけど」

「このガキが! 潰すぞ」


 素手で殴りかかる男の体に蔓のバイラフトを巻き付け、マークは軽々と放り投げた。男はゴミ山の中に頭から突っ込んだ。

 女から笑みが消えた。


「魔術使いだって……どうなってる? おいグスタ。二人でいくよ」


 グスタと呼ばれた子供はうなずいた。顔は布で覆われよく見えなかった。

 女はナイフ、子供は短剣で襲い掛かってきたが、春奈のバイラフトが子供に巻きついて動きを封じ、女は男と同じようにマークに放り投げられた。


「クソこいつら! なんなんだよ」


 ゴミ山から顔を出し喚き散らす女。マークは勝ち誇った顔をした。


「こんな事してないで真面目に働くんだ。いいな?」


 春奈がバイラフトを解くと子供はゴミ山に向かって走って行った。


「まったく治安悪いぜ。一回一真の様子見に行くか」

「そうね。無事だといいけど」


 女が何か叫んでいたが、二人は無視しその場を後にした。

 二人は表通りに出ると、町の人々を見ながら歩いた。この世界にも平和な風景がある事に安堵した。

 しばらく歩くと、春奈は行き交う人々の中に見覚えのある顔があるのに気付いた。


「あれは、田端君?」

「え、田端? どこ?」


 春奈が指差す先に小太りな男が見えた。それは確かに渋賀たちと都に向かったはずの田端だった。


「田端、こんなとこで何してるんだ?」

「後を付けてみよう」

「そ、そうだね——」

「何?」

「いや、真野さんって意外とこの世界に適応してるなって」

「そう? ほら行くよ」

「あ、ああ」


 10mほどの距離を維持し、二人は尾行した。田端は店で何かを買い、それをかじりながら歩いていた。


「田端、この世界に昔から住んでたみたいに溶け込んでるな」


 田端は人気のない路地裏の怪しげな店に入って行った。


「なんの店かしら——不気味な雰囲気」

「ただの買い物ではなさそうだな」


 しばらくすると、店から田端が出てきた。


「出てきたぞ。なんかもう一人いる。うっ、あれは鮫都だ……」

「ますます怪しいわ。何を企んでるのか暴かないと」


 田端と鮫都は話しながらゆっくり歩いて行った。


「ちょっと店の中見てくるか」


 二人は素早く店内に入った。怪しい古物が乱雑に並べられていた。奥まで行くと、格子で仕切られた向こう側に人が倒れていた。


「これは!」

「……あの二人が殺したようね」

「分からないだろ。あいつらの仕業って証拠は——」

「この格子で中には入れない。そして首に赤い跡がある。バイラフトで首を絞めたとしか——」

「なんでだよ……あいつら、許せないな」



 マークと春奈が外に出ると、田端と鮫都の姿がまだ見えた。


「彼らを野放しにするのは危険ね」

「そうだな。一真抜きでやるか」

「いきなり攻撃するのは嫌だけど、話し合いで解決するとも思えない。一真ならなんて言うか——」


 二人が悩んでいると、背後に強烈な気配が現れた。二人は距離を取りながら振り返った。そこには鳥のような顔をした生物が立っていた。


(なんだこの烏天狗みたいのは! 一瞬で背後に? 速すぎる。いや、空から降りてきたのか。つまりこいつは鳥人)


 マークは思考を巡らせたが、思い付いたのは呼称だけだった。


「お前たちは何者だ。我が主人あるじを尾けていたが」

「上から見てたのか。こんな部下がいたなんてね」

「大人しくついて来るか。戦うか。決めろ」

「や、やってやるよ鳥人。お前なんか敵じゃないぜ」


 マークは間髪入れず蔓状のバイラフトを飛ばした。鳥人は翻りながらそれを受け流した。


(先制攻撃避けられた! まさか田端たちから対バイラフト訓練とか受けてる? それだと話が違ってくる……)


「お前たちはまだ育っていない。私でもいけるな」


 鳥人は背中からトンファーのような武器を出し両手に構えた。

 

「何だと? 舐めてくれる」


 マークがムキになると、今度は春奈がバイラフトを飛ばしたが、鳥人はそれを武器で絡めとった。春奈は慌ててバイラフトを切り離した。


「くっ。田辺君、油断しないほうがいいみたい」

「そうだね。でも二人なら勝てるはず」


 二人は鳥人の鋭い目つきに圧され、構えたまま次の動きに移れず、数秒間睨み合いになった。すると。


「なんか騒がしいから来てみれば。やあ二人共。何してんの?」


 田端と鮫都がいつの間にか後ろに立っていた。


「な、マジかよ……」


 マークの額に汗が伝った。後ろに立つのは単なるクラスメイトではなく、危険な殺人者だという事を肌で感じ取っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ