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クラスメイト・ハント  作者: 埼島始
2章 覚醒の森
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(1) 謎の老騎士

一真たちはガドゥに乗り森の中を進んでいた。


「まさか一真が三日も寝込むなんてな」

「悪い——」


 出発してすぐ、一真は倒れた。高熱を出し三日に渡り眠り続けた。右足の小指を失った上に長時間の緊張状態。限界が来るのも無理がなかった。

 マークたちは回復を信じてただ待つことしか出来なかった。


「もうすぐ町に着くはず。そこで色々買いましょう」


 春奈の言葉に一真は頷き、ガドゥの腹を蹴って加速の指示を送った。

 しばらくすると、巨大な壁が見えてきた。


「あれが町の門か。でかいな」


 マークが言うのとほぼ同時だった。一真が何かを見つけた。


「誰かいる」

「うーん、無視だ無視」


 薄汚れた甲冑を着た人物が岩の上に座っていた。顔を覆う兜のせいでどこを見ているのかも分からなかった。

 三人が横を通過した瞬間、騎士はマントを揺らしながら跳躍し、一真に剣で斬りかかった。一真は斧で受け止め、押し返した。


「何をする……!」


 騎士は軽やかに着地したが、剣を持つ右腕にマークが放った蔓状のバイラフトが巻きついた。


「今だ一真!」


マークのアシストに感謝しつつ、一真は拳を光らせながらガドゥの背を蹴り飛び上がった。

 騎士が左腕を振ると、手首から刃が迫り出し、巻きついたバイラフトを切断した。そして自由になった剣で一真のグローブ状のバイラフトを受け止めた。

 一真のバイラフトは破裂し、空中にいた一真は自ら起こした衝撃で飛ばされた。

 なんとか踏み止まった騎士だったが、一瞬の隙が生まれた所に春奈のバイラフトが接近した。しかし騎士は春奈のバイラフトを掴み、引っ張った。春奈の体は軽々と引き寄せられ、殴り倒された。


 「お前たち、まるで素人だな」


 騎士がくぐもった声を発した。


「あ、あんた何もんだよ。敵か? 盗賊?」


 マークは騎士に手のひらを向けたまま尋ねた。


「そんな事はどうでもいい。今のままじゃお前たちはいずれ死ぬぞ」

「な、死ぬもんか! 俺たちは、修羅場を乗り越えて来たんだ」


 子供のようにムキになるマークに騎士は冷たく答えた。


「お前たちはまだバイラフトを理解していない」

「バイラフトを知ってるのか? まさかお前も使えるのか?」


 一真は割って入った。騎士が何者なのかは興味がなかったが、バイラフトについて知っているなら話は別だった。


「使えないが使い方は解る。バイラフトは有限だ。お前たちは消費が多すぎる。だがその娘のは無駄がない。極限まで細くする事で消費を抑えている。視認性も悪いから反応が遅れた」


 そう言いながら騎士が手のひらを掲げると、指から血が滴った。


「関節の隙間を狙う精密さもある」


 突然の高評価に春奈は戸惑った。一真は質問を続けた。


「なんでそんなアドバイスしてくる?」

「お前たちはこの世界の人間じゃないだろう? そして他に何人もいる」

「なんで分かる? とりあえず顔を見せろ」

「追われている身でな。素性は明かせない」

「怪しいったらないな。一真、俺たちは三日無駄にしてる。とっとと倒して先を急がないと」


 マークが言うと、騎士の兜が微かに動いた。


「なぜ三日も無駄にした?」

「怪我して高熱が出ただけだ」


 一真が答えると、騎士は剣を鞘に納めながら言った。


「三日は大きいぞ。その間に他の奴と差が付いてるのは間違いない。俺が指導すれば一日で三日の差を埋められる」

「いきなり襲って来といてそれはないな!」


 マークが声を荒げる。


「言葉を交わすより剣を交わす方が手っ取り早いからそうしたまで」

「うさんくせー! 詐欺感すごいよやめよう一真」


 一真は騎士を見つめながら少し考え、答えた。


「マーク、真野さん。先に行っててくれ」

「この男を信用すんの? やめなよ」

「完全に信用したわけじゃない。だからまず俺だけ行く」


 黒い騎士はゆっくり頷いた。


「いいだろう。じゃあついて来い。お前たちは明日この時間に戻って来い」


 怪しい。それは確かだ。だが強くなれる可能性があるならそれに賭けたかった。

 二人が歩いて行くのを見送り、マークはため息を吐いた。


「一真大丈夫なのか? まあしょうがない。町に入ろう真野さん」





 大型のテントの中で渋賀圭人しぶがけいとと寺田光はくつろいでいた。大きな足音で中に入ってくる者がいた。男は全身に分厚い鎧を着込んでいた。


「田端。帰ったか」


 渋賀が言うと、兜を脱いだ田端はにやりと笑った。


「ああ。今日はかなりやったよ。いいゲームになった」

「あの悪趣味なゲームか」

「あれはやめられないよ。あれ? 鮫都はどこ行った?」

「深緑の町とかいう所に行った。宝探しするとか言って」

「深緑の町、ああ。ちょっと気になるな」


 渋賀は、町の事を知っている様子の田端に質問しようとしたが、人が入って来たことで会話は終わった。


「どうだ、今日の戦果は。反逆者共を狩れたか?」


 部下たちに囲まれ入ってきたのは、齢14、5の少年であった。


「はい、ジラミー様。なかなか骨のある奴がいましてね。やりごたえありましたよ」


 田端は丁寧に頭を下げながら答えた。


「遊ぶのもほどほどにな。まだスターグが見つかっていない。油断はできないのだ」

「時間の問題です。我々にお任せを」

「頼むぞ。お前たちには四師神しししんの称号を与えることにした。私が考えたのだ。この名を広めれば恐怖も広まるだろう」

「それは素晴らしい! ありがとうございます。その名に恥じぬ武功を上げてみせます」


 田端はわざとらしく再度頭を下げた。ジラミーと呼ばれる少年は満足そうにテントを出て行った。


「いつまでこの茶番続けるんだ? やっぱりあいつの態度気に入らねえな」


 渋賀は椅子に座りながら舌打ちした。


「まあまあ。もう少しこの暮らしを楽しもうよ。ここにいれば戦い放題。レベル上げには最適だよ。渋賀ももっと戦わなきゃ」

「異種族じゃないと手応えがなくてな。だいたいスターグって誰だよ」

「かつて王様に仕えていたアーメイ家の当主らしい。今もどこかで反撃の機会を伺ってるみたいだ」

「ジラミー率いるガシム家対スターグ率いるアーメイ家ってことか。まあジラミーに天下を取られたらこの国は完全に終わりだろうな」


 渋賀が笑うと、菓子のような物を食べていた寺田が口を開いた。


「王様を殺してジラミーが国を乗っ取りかけたところに異種族が乱入して来たわけだね。身内で揉めてる場合じゃないはずだけどな」


 寺田は笑みを浮かべながら菓子のような物を頬張った。

 田端は笑いながら


「素性も分からない俺たちをスカウトして使わないといけないくらいだからね」


 と言いながら甲冑を脱ぎ始めた。


「にしても、しししん? あれは四天王みたいなもんか?」


 渋賀が訊くと、寺田が含み笑いをした。


「そういうの考えたくなる年頃なんだよ」

「なるほどな。ご立派な称号、鮫都にも早く教えてやらないとな」





「一真大丈夫かな。あの怪しい男信用していいのか? 声の感じは結構なジジイっぽかったけど」

「さあ。何が狙いなのか——久住君を信じるしかないよ」

「ハナンさんたちも先に行っちゃったしな。黄石の隊だっけ? まだこの町にいるといいけど。 金は少し貰ったけどもっと増やしたいなあ」


 町の中心部に来ると、人が多く賑わっていた。


「出店がいっぱいだ。この町は平和そうだな。なんか買おうか」

「あの積まれてる果物、気になる」


 二人は果物が並べられている店に行った。


「兄ちゃん姉ちゃん。見ない顔だな。旅人か?」

「まあね。危険な旅だったけど。この町は平和そうで驚いたよ」

「そりゃ大変だったろう。この町はまだ異種族に見つかってないからな。でもまあ国が崩壊したし平和が終わるのも時間の問題だな。つうかお前らのその黒い目。昨日も見たぞ」

「え? 黒い目?」

「俺たちの目と色が違う」


 言われてみれば、店主の瞳はよく見ると赤みがかっていた。


「随分遠くから来たって言ってたな。同じ所から来たのか?」

「どうだろう……まさか渋賀たちか?」

「名前は知らんがお前たちと同じ年頃だったな。一人だったけど」

「まずいわね。ばったり会って戦うことになったら……」

「ひ、一人なら大丈夫さ。おじさん。この果物なに?」

「これはメイルラーン。めちゃくちゃ美味いぞ。今は食べごろの黄色だが、これが熟して青になったら要注意だ。青いのを食べると幻覚が見えるようになる。数時間経てば元に戻るがな」

「そんな危険なの食べる気しないなあ」

「青くなる前に食べればいいだけだぞ? 一個300ヴォルだが今回はおまけにもう一個付けてやるよ」

「まじ? サンキュー、じゃもらうよ」


 果物を買ったマークと春奈は他の店も次々に見て回った。見たことのない形の壺。嗅いだことのない香りの香辛料。黄金色の肉。

 一通り見終わると、二人は海外旅行で刺激を受けた大学生のような独特な意識になっていた。


「俺、元の世界に帰れても日本馴染めないかも」

「そうね……価値観とか色々変わってそう」


 二人がとぼとぼ路地裏を歩いていると、何者かが声をかけてきた。



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