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クラスメイト・ハント  作者: 埼島始
1章 戦乱の荒野
6/14

(6) 復讐の追跡

進む学級崩壊を一真は止められるのか。


「一真! ナイス速攻」


 マークが興奮気味に叫んだ。


「大丈夫? 二人共」


 真野が駆け寄ってきた。


「真野さん。助かったけど、まさか広須さんを殺したの……?」

「まさか。腕にちょっとケガさせただけ……」


 浦見は長椅子の陰から顔を覗かせた。


「久住やってくれたな……腹に、もろ入ったよ。真野が広須をやったのか?」


 ダメージを受けた浦見を見て、騎士たちは武器を構えた。


「今なら奴を倒せる。行くぞ」


 騎士たちが浦見に歩み寄って行くと、浦見は椅子の陰から丸い物体を放り投げた。それが床に転がると、ハナンは叫んだ。


「アカダマだ!」


 騎士たちは素早く後退した。それはすぐに破裂し、周囲に煙が広がった。


「ば、爆弾か? 浦見のやつ……」


 マークは床に伏せたまま言った。騎士たちは爆風で倒れていたが、すぐに起き上がった。

 視界が晴れてくると、浦見がいたすぐ後ろの壁に穴が開いていた。


「壁を壊して逃げたぞ!」


 マークは走り、壁の穴から外に出た。そこには広須の乗るガドゥの後ろに飛び乗る浦見の姿があった。


「最高のタイミングだよ広須。じゃあなマーク。村に帰れよ」


 ガドゥは走り去って行った。


「くそ、あれは追いつけないな」


 マークは拳を握りしめた。


「そうだな。悔しいが諦めて、お前に話を聞こう」


 ハナンは背後からマークに剣を向けた。


「ちょっと待った。俺たちは敵じゃない!」

「奴らと知り合いのようだったが」


 首に剣先が触れそうになり、マークは狼狽た。すると力ない声が聞こえた。


「ま、待ってくれ……詳しく話す」


 一真が足を引きずりながら外に出てきた。






 一真たちは自分たちが何者なのか説明した。話を聞き、騎士たちは次第に警戒を解いていった。


「他に何人もいるのか、魔術使いが。どうなっておるのだいったい」


 白い髭を蓄えた古参の騎士が剥げた頭に手を乗せた。


「暴走した者は捕らえてあなたたちに引き渡します。出来る限りは……」


 一真は言いながら実現可能か不安になった。浦見の凶悪さとしたたかさは想像を超えていた。


「お前たちはあまりに強い。味方になってくれるのはありがたい」


 ハナンが少し和らいだ表情で言った。


「話せる事はこれくらいです。後は食料ですが、十日分くらいありますが、分けられる量は限られます」

「十分だ。感謝する」


 


「奴らのガドゥが一頭残っていた。食料が積まれていたぞ」


 騎士の一人がガドゥを引っ張って来た。ガドゥには荷物がくくり付けられていた。


「これはギリックの干し肉だな。盗賊の常食だ」


 荷物の中に入っていた物体を摘みながら白髭の騎士が言った。


「盗賊から奪ったのか。あいつら」


 マークが舌打ちした。


「浦見、俺たちを殺す事も厭わない感じだったのに何で村に帰らせようとしてたんだろう」


 一真が呟くように言うと、マークは怪訝そうな顔で一真を見た。


「それは、やっぱクラスメートだから出来れば殺したくなくて……」

「俺たちが小指をなくして村に戻れば——みんなに恐怖心を植え付ける事が出来るかも」


 マークははっとした顔をした。


「そうか——俺たちを殺しちゃったら、いつまでも戻らなくて村のみんなが探しに来るかも知れない」


 真野は暗い顔で尋ねた。


「つまり見せしめってこと?」


 マークは頭を掻きむしった。


「俺もそんな仲よくなかったけどあいつは——そういう事考えそうな気がすんなあ。意外と抜け目ないというか」


 腕を組むマークの背後で白髪の騎士が口を開いた。


「ふん、さっきの奴らは頭も回るのか。たちが悪いな」


 クラスメイトが騎士の仲間を殺した事に一真たちは責任を感じていた。この白髪の騎士も内心は穏やかではないだろう。     


「それで、あなたたちは何者なんですか?」


 マークが質問した。白髪の騎士は肩の紋章を指差した。


「我々はタビトル王国を守るアーメイ家直属の部隊だ。今は状況が悪いがもうすぐ……いや、これ以上話しても仕方ないか。まあそういう事だ」



 一真たちはいくつかの武器を貰い、騎士たちに見送られながら出発することとなった。


「私たちもすぐに出る。奴らを、頼むぞ」


 一真は頷くと、ガドゥに跨った。ガドゥはのそのそと歩き出した。


「彼らの使う魔術を、俺は見た事がある」


 遠ざかる一真たちを見ながら、老騎士は言った。ハナンは驚いた。


「どうしてそれを?」

「前に出会った魔術使いも彼らのような子供だった。しかし容赦なく人を殺せる者だった。彼らなら大丈夫だとは思うが、しばらく様子を見るべきだと思ってな」

「そうなのか——何かあったみたいだな。分かった。マグソウを信じよう」






 河岸はただひたすらに北へガドゥを走らせていた。

 

(あいつらどこに行った? 絶対に見つけてやる)


 ガドゥの脇腹を蹴り速度を上げると、背後から四頭のガドゥが迫って来た。


「お兄さん、一人でどこ行くの?」


 追いつき並走するガドゥを横目に見ると、顔色の悪い女が不気味な笑みを浮かべて河岸を見ていた。


「お前たちは——何者?」

「犯罪者集団トリプスの一員だよ。知らないの?」

「知らないな。ただの盗賊じゃないのか?」


 河岸が無表情で返すと、別のガドゥが接近してきた。


「ジオースは反応していないな。こいつは違う」


 面長な男が手元を見ながら言うと、逆毛の男は鼻を鳴らした。


「でもこいつ何か怪しい。ちょっと遊んでから行くか」

「まったく。ここはヒビミとザオリに任せる。俺たちは先に行ってる」


 後ろを走っているスキンヘッドの男は呆れた様子で告げた。


「誰かを探してるのか。ちょっと気になるな」


 河岸が呟く。


「俺たちも気にしてくれよ」


 髪の逆立った男がガドゥを加速させ、河岸の進行方向に立ち塞がらせた。河岸はガドゥを急停止させ、軽やかに降りた。


「やる気になったね。それじゃちょっと可愛がってあげようか」


 女が服の袖を振った。袖から猿のような生物が顔を覗かせた。


「そんなペットで何する気だ?」


 河岸は円状のバイラフトを出した。


「それはまさか魔術かい? いや、そんなはずは——」

「今に分かるよ」

「……そうかい。行きな、シャスラム」


 シャスラムと呼ばれる生物は跳躍し、瞬時に河岸の肩に乗った。


「は、速い……! こいつ」


 シャスラムは河岸の体を縦横無尽に動き回り、少しずつ爪で肉を切り取っていった。


「うっ! ちょこまかと——」


 シャスラムを体から引き剥がそうとするが、素早く体中を動き回り触れることも出来なかった。そこに女がナイフを投げた。河岸はナイフをバイラフトで防いだが、その隙に背中の肉を切り取られた。


「どうだい? 全身から血が抜けて苦しみながら死ぬんだよ。あんたが何者か話してくれたら許してあげるよ」

「バイラフトが強力と言っても速さで負けてたらどうにもならないってことか。勉強になる」

「話す気はないか。じゃあ死んでもらうよ」


 河岸はバイラフトの蔓を振り回し、その勢いを利用して自身の体を回転させた。


「回転の勢いでシャスラムを振り落とす気? そう簡単に離れないよ」


 河岸はコマのように回りながら、跳躍した。高く舞い上がった河岸が、空中で傾きながら地面に迫る。


(地面に激突する気か? シャスラムなら安全な部位に移動するはず……いやこの勢いじゃ身体のどこにいようがダメージは——)


 河岸は地面に激突し、鈍い音が響く。土煙が激しく舞い上がった。

 女が目を凝らすと、倒れる河岸の近くにシャスラムが見えた。


「はっ! ギリギリで離れたか。一度飛びついた相手から離れるなんて、よほど危険を感じたんだね。奴は弱ってる。もう一度やるんだよ!」


 指示したが、シャスラムは小刻みに震え動けずにいた。


「う……ぐっ。そいつはもう心が折れたな。俺と戦えば死ぬ。それに気づいたんだ」


 血だらけになりながらフラフラと立ち上がる河岸。


「なんだとこの野郎、私には死にかけにしか見えないね。シャスラム、もう一度奴に飛びかかるんだよ! あと少しで奴を……」


 腹に違和感を感じ、女が視線を下に落とすと、すでに河岸の円状のバイラフトが体を通過した後だった。


「うぐっ、は、はや……」


 女は力なく倒れた。河岸は深呼吸し、見物していた男を見た。


「おい、お前も何か芸を見せてくれるのかい?」


 髪の逆立った男は笑った。


「お前やるな。しかし、俺の飼うヴァラ・リフは大群だ。相性が悪いと思うぜ」

「ふうん。それは楽しみ」


 男の体から黒い何かが蠢き出した。





 日が暮れ、一真たちは川で足を止めた。倒木に腰掛け、三人は不味い食料を食べた。


 「村のご飯が恋しいな。ギリックとやらの肉、ほんとに不味い。いったいどんな生き物なんだろ」


 マークは肉を咀嚼しながら呟いた。


「ネズミみたいな感じじゃない? 私は絶対食べたくない」


 春奈が言い放つ。一真は黙ってかき込んだ。


 朝になると、一真は弓を構えていた。木に向かって矢を放つ。矢は真っ直ぐ飛び、木に刺さった。


(当たるようになってきた。実用レベルにはなったか)


「久住君、朝から弓の練習? あんなに強いバイラフトがあるのに」


 起きてきた春奈が話しかけてきた。一真は無表情で作業を続けながら、口を開いた。


「俺のバイラフト、浦見に直撃させても大したダメージにならなかった。威力を上げるためには拳にバイラフトを溜める時間がいるみたいだ。そのためには節約してありったけのバイラフトを拳に集めないと——」

「普段は武器を使って、とどめを刺す時はバイラフトって事?」


 話の理解が早い春奈に一真は少し驚いた。


「そう。俺のバイラフトはどうも使い勝手が悪いみたいだ」

「私のバイラフトに比べたらマシでしょ。最初よりも弱くなってるしどうすればいいのか……」

「でも広須に勝った」

「え、まあそうだけど……」


 春奈は指先からバイラフトを出した。それを見た一真は顎に手を当てた。


「手の平からじゃなくて指から出てる。何か使い方があるような気がする」

「使い方……そうか」


 春奈は手を見つめ呟いた。何か掴めそうな気がしていた。


「日が昇った。そろそろ行こう」


 



「振動で手首が痛い。浦見、スピード落とすよ」

「駄目だよ。あいつらに追いつかれる」


 浦見は腹部をさすりながら拒否した。


「追って来ないって。久住の指切ったんだから。 私は手首に穴空いてんだよ」

「そう思いたいけどな。でも奴の目はまだ生きてた。きっと追ってくる。俺もかなり痛いんだ、我慢してくれ」

「何あれ」


 前方にガドゥが二頭いるのが見えた。


「こっち見てんな」

「ようやく見つけたぞ。こいつらだ間違いない」

「なんだあんたら」

「我らの、スゥー、仲間を殺しただろう」


 口にガスマスクのようなものを着けた男が壺を掲げると、トカゲのような生物が出てきた。


「俺が一人でやる。生け捕りにしてやるよ」


 マスクの男が言うと、残りの二人は頷いた。トカゲのような生物は口から煙のようなものを噴出させた。


「なんだ? ツバか?」


「空気中に麻痺成分が広がった。三分もすれば完全に動けなくなるだろう。もちろん俺たちには効かない」

「それはやばいな。まあ三分以内に倒して休めばいいか」

「出来ると思ってるのか。俺は三分間お前の動きを止めてるだけでいい」


 マスクの男は先端に重りの付いた鎖を懐から取り出し、浦見に投げつけた。浦見は斧状のバイラフトを出し、鎖を容易く切断した。


「お前、それはまさかバイラフト……」

「知ってるのか。その様子だとやっぱ凄いものみたいだな。バイラフトってのは」


 広須がブーメラン状のバイラフトを投げた。マスクの男は捕縛された。浦見は一瞬で間合いを詰め、マスクの男の首を切り落とした。


「マワリ、本気でいかないと駄目だな」


 マワリと呼ばれる顔の長い男は「仕方ない」と言うと、小さな木箱を開けた。中から小さな何かが飛び立った。


「蜂か? 一匹しかいないけど大丈夫?」

「まあ見ていろ」


 蜂のような生物は男のこめかみに留まり、尻の先端を押し付けた。


「うっ、ぐぁ!」


 男の顔は紫色に染まり、血管が浮き上がった。 


「マジかよ、死ぬ気か?」

「ハァ……このジオースは、他の生物に卵を産みつける……卵には宿主の肉体を強化する成分が含まれている。ジオースが成虫になるまでの7日間、宿主はジオースを命を削りながら守るわけだ。7日目に宿主は力尽き死ぬ……だから、出来るだけ早く終わらせ、卵を摘出しなければ、ならない……」


「へえ、そのガドゥは寄生されてるから異常な速さだったわけね」


 スキンヘッドの男は背中に背負っている黒い物体を放り投げた。黒い物体は動き出し、細長い8本の足で立ち上がった。


「それクモだったのかよ、気持ち悪いな。そいつは何をするんだ?」


 それは3メートルはある長い足でゆらゆらと歩き出した。


「そいつの名はランカー。お前を食い殺すとだけ言っておこう」


 スキンヘッドの男が告げると、肉体を強化されたマワリが浦見に接近した。マワリの拳が浦見の腹にめり込んだ。


「うげっ! このやろ」


 バイラフトで反撃したが、マワリは驚異的なスピードで離脱した。


「速いな。でもお前の今の状態、どう見ても病気だ。俺が治してやろうか」

「お前の……軽い口も治した方がいい、な」


 浦見がマワリに気を取られていると、ランカーと呼ばれる怪物が浦見に向け口から何かを吐いた。浦見はぎりぎりで避け、それは背後の木に当たった。幹が煙を出しながら溶け、やがて重さに耐えられなくなり折れた。


「ランカーは、溶解液で獲物をグズグズに溶かして啜る。体外消化と、いうものだ」


 スキンヘッドの男は淡々と説明した。


「へえ。こんな危ないペットよく飼……ぐはっ!」

「俺を見とかないと……駄目だ」

 マワリが蹴りを入れた。浦見は地面に尻を着いた。


「やべえ……広須、援護してくれ」

「もうしたよ。そいつも化け物も余裕で避けた。私は何もできそうにない」


 浦見は離れて見ている広須に舌打ちした。再び溶解液が飛んできた。なんとか避けたが、マワリの拳がみぞおちに入っていた。浦見は倒れた。


「くっそ……なんて馬鹿力だ。これは、降参かな」


 マワリは浦見を見下ろしながら呟いた。


「お前……どうにかして俺に、溶解液を当てる事が出来ないか考えて、いるな。無駄、だ。絶対に俺には当てない。ランカーはこう見えて賢い、からな」


 マワリは浦見の腹を踏みつけた。


「うぐっ。そうみたいだな……自分で当てるしかないな」


 マワリは倒れている浦見の右手が草で隠れていることに気付いた。


「まさか!」


 咄嗟に振り返ると、半分溶けてチーズのようになった木片が、目の前に迫って来ていた。鞭状のバイラフトが巻きついた木片は、マワリの顔面にぶつかった。


「グアアア!!」

「どうだ。バイラフトはこんな事もできんだよ」


 浦見はバイラフトを鉈状に変えると、顔を押さえながら逃げようとするマワリを斬りつけた。マワリの背中からは血が吹き出し、マワリは倒れた。


「利口なのも考えものだな、化け物ビビってるぞ。俺の強さが分かったみたいだな」


 ランカーの首に広須のバイラフトが巻きついた。


「俺しか見てないから。首が締まって溶解液も吐けそうにないね。もう駄目だよこいつは」


 浦見は飛び上がり、ランカーの首を斬り落とした。ランカーの頭部は無情に地面でバウンドした。


「俺の番か。仕方ない」


 スキンヘッドの男、ミドロはマントを脱いだ。両手が義手、右足が義足だった。義手の手の平から刃がせり出した。


「ランカーを手懐けるまでに俺の体はこんなになってしまった。もはやまともに戦えんが相手になろう」

「酷い有り様だな。まあいいや」


 浦見が歩み寄ると、ミドロは手の平を突き出したが、浦見は鉈状のバイラフトで義手を切断し蹴りを入れた。ミドロは呆気なく地面に転がった。


「殺す気も起きない。大人しく動物園でもやってなよ」


 浦見と広須はガドゥに跨り、去って行った。






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