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クラスメイト・ハント  作者: 埼島始
2章 覚醒の森
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(7) 怒りの狩り


「クエルがいない!」


 暗い森の中を走り回っているうちに春奈はクエルを見失なってしまった。


「何やってんの。まあ、すぐ見つかるでしょ」


 広須は気楽に言ったが、春奈はクエルの悲しみに満ちた目を思い出し、心配になった。





 鮫都は体勢を立て直すべく後ろに飛んだ。


(何だこいつは? まあいい、俺の敵じゃない。しかしあの時俺を拘束したバイラフトが久住のかどうか。そこが気になる。いや、やっぱり気にするほどの相手じゃねえな)


 鮫都は短剣を捨てると、蔓のバイラフトで一真に仕掛けた。一真は斧で攻撃を防いだが後ろに飛ばされ、何とか着地した。


(こいつやっぱ大したことないな。よし、第一段階は出来た)


 鮫都は笑みを隠せなかった。

 しかし、一真は突然方向転換し走り出した。鮫都は呆気に取られながらもすぐに後を追った。


(負けを悟ったか? いや、あいつは無謀な馬鹿だ。そんなあっさり逃げるはずはない。作戦か? そうか!やっぱりあの拘束バイラフトは久住のだったのか。あれは正面から当てられるもんじゃない。不意打ち向きの技だ。逃げながら当てる機会を伺ってんだな)


 距離は徐々に縮まり、蔓のバイラフトが一真の背中に命中した。


「俺の方が足が速い。諦めて戦えよ」

「そ、そうだな。遊びはやめとくか」


 一真はゆっくりと振り返った。


「かっこつけてんじゃねえよ、イライラするぜ。痛ぶってやるよ、この力でな」


 そう言いながら鮫都はサイコロを出した。


「今からサイコロを振る。一、二、三ならパワースピードダウン。四、五、六ならアップだ。一なら最低、六なら最強だ。分かったな?」


 鮫都はサイコロを振った。目は、"五"だった。

 次の瞬間、一真はなす術なく殴られていた。連続で殴られ、全身に打撃の痛みが広がっていく。一真は蹴りで何とか鮫都の拳を弾いた。

 鮫都は後ろに下がり、腕を捻った。


「いい蹴りだな。だが、今の俺の運気はやばい。次は六が出ると宣言するぜ」


 鮫都はサイコロを振った。六が出た。


「来たな、終わりだ。さようなら久住君」


 体に光を帯びた鮫都は一真に迫り、手に持つ斧を払い飛ばした。そして手刀で一真の首元を狙った。当たれば一真は即死だった。

 しかし。一真は避けた。鮫都は動揺した。反応出来るはずがなかった。

 下から光が見えた。それが何なのか分かる前に、鮫都は意識が飛ぶほどの衝撃を受けた。

 弾き飛ばされ、体が地面を跳ねた。


「うっ、げほっ。な、なんだこれは……お前のバイラフト、か」

「ずっと溜め続けたソニックブラスト・ガントレットだ。まさか咄嗟にガードするとはな。経験の差か」


 一真のバイラフトの欠点は、拳が光る事で敵に警戒されてしまう事だった。スネイルのマントで腕を覆い隠すという単純な方法で、その欠点はなくなった。


「くそっ、何で避けられた。完璧だったはず、うっ、まさか」

「気づいたか。最初の蔓のバイラフトの時、もう一つ目に見えないレベルの極細バイラフトを足に付けたな? それは草むらで足が隠れてる時に切ったよ」


 鮫都の表情が曇り出す。眉毛が僅かに震えていた。


「サイコロの目次第で強さが変わるなんて話はデタラメだろ? 細いバイラフトの線でこっちの体内のバイラフトを吸いとってパワーアップ。そんな感じじゃないか? 運次第とはいえ急激に異常なパワーアップするなんて信じられなくてな。絶対タネがあると思った。それでよく観察しながら戦ってたら足に極細のバイラフトが付いてるのが見えた。サイコロもバイラフトで動かして好きな目を出したってとこだろ? 全ては強運を演出して相手の心を折るため」

「ちっ。お前を舐めてたようだな」

「挑発して興奮状態にさせれば繊細なバイラフトの流れを感じられなくなるんじゃないかと思ってな。期待通り切ったことに気付かなかった」

「なんだと……そこまで考えてやがってたのか。じゃあ何で逃げた」

「俺は鮫都を不意打ちしたのが広須だと知ってた。だから作戦にはなかったけどとっさにやってみた。俺が逃げるだけで、経験を積んでるお前なら俺のバイラフトがあの拘束技だという考えに至るだろうと思ってな。ちなみに俺が武器を使ってるのはバイラフトの節約のためだよ」


 鮫都は舌打ちした。


「拘束した敵を仕留めるための武器だと思ったぜ。真逆の攻撃重視のバイラフトとはな。クソったれ」


 一真に裏をかかれ、鮫都は苛立った。


「お前のバイラフトが繊細な線とはね。心も繊細なのか?」

「知るか。まだ終わりじゃない。俺はまだやれる」

「澤野を追い詰めたお前が繊細なわけないか」

「澤野? ああ、あいつか。この世界に来れなくて残念だったな。マジに追い詰めたのは俺じゃねえ、渋賀だ。あいつは調子に乗りすぎてた。俺もあいつには不満が溜まってた」


 鮫都が渋賀に不満があったというのは意外な話だったが、その部分は一真は聞き流した。


「そうか。お前も追い詰めた一人って認めるんだな」

「そんな昔の話してどうするんだよ。損だぜ。今はこの世界を楽しまないと」

「それで許せるかは分からないけど、とりあえず謝ってもらおうか」

「謝る? はっ。馬鹿言うな。痛みが引いてきた。そろそろ再開だ」

「……この会話の間に俺のバイラフトも結構溜められた」


 一真はマントで隠れていた光る腕を出した。


「てめえ……殺してやる!」


 踏み出した鮫都の顔面に一真のソニックブラストが入り、鮫都は地面を転がった。

 今度こそ決まった。一真はそう思ったが、鮫都は立ち上がった。 


「なんてタフな奴……」

「俺は……最強なんだ。こんな所で死ぬわけがない。渋賀さえも超えてやるんだ——クソックソッ」


 鮫都は蔓のバイラフトを振り回した。歪んだ顔で視点も定まらず、もはや人には見えなかった。悪あがきかと思われたが、バイラフトをほとんど使い果たした一真には避けるのが精一杯だった。


「はっはっはどうだ! かかって来いよ久住!」


 腕にバイラフトが当たり、激痛が走った。鮫都は小細工なしでも単純に強い事を一真は思い知った。


「どうだ久住! 反撃してこ、うぐ」


 鮫都の手が止まった。肩から鋭いバイラフトが飛び出していた。


「ま、真野?」


 鮫都の後ろに春奈が立っていた。


「こ、この野郎……」


 鮫都は左手からバイラフトを出し、春奈の首に巻き付けた。


「やめろ!」


 一真は斧を拾い鮫都めがけて投擲した。斧は回転しながら飛んでいったが、鮫都はバイラフトで弾き飛ばした。そして一真の首にもバイラフトを巻き付けた。


「二人まとめてお陀仏だ!」


 その時、何者かが接近し瞬時に鮫都のバイラフトを斬った。


「くっ、お前は、誰だ?」

「俺は、スネイルだ。お前、見たところもう駄目だな」

「何だと? 俺はまだまだいけるぜ」


 鮫都は蔓のバイラフトをスネイルに飛ばした。スネイルは俊敏な動きで避けながら近付き、鮫都を斬りつけた。


「あ、うが、く、くそ——」


 血を大量に流しながらも鮫都は立っていた。

 鮫都は深く息を吐くと、飛び上がった。


「しまった!」


 一真は思わず声を上げた。鮫都は枝に蔓のバイラフトを巻き付け、ターザンさながらの挙動で逃亡を図った。

 しかし、鮫都はすぐに落下した。全身を地面に打ちつけ、動かなくなった。


「な、何だ?」


 鮫都の近くまで行くと、鮫都の首に小さな矢が刺さっていた。

 後ろを見ると、クエルが吹矢を持ち立っていた。


「くっ……お、お前ら、渋賀も殺す気、か?」


 鮫都はまだ生きていた。倒れたまま声を絞り出した。


「……渋賀は、多分殺す。あいつに味方する奴も許さない」


 一真が無慈悲に言い放つと、鮫都は僅かに笑った。


「無理だな……渋賀は、次元が違う。やめてお——」


 鮫都は目を開けたまま動かなくなった。

 一真と春奈はしばらく無言で立ち尽くていた。


「あれ、もう終わった感じ?」


 やがて広須がやって来た。一真は我に返った。


「広須? 何で?」

「その反応さっきも見たんだけど。真野、別行動してる間に久住とやっちゃったんだ。まさか鮫都を殺すなんてね。恐ろしいよ」


 クエルは倒れているアノに飛びつき、叫んだ。春奈も我に返り、アノの元へ走った。


「この傷なら私のバイラフトで何とかなる。大丈夫だよクエル」


 優しく微笑みかけ、春奈は縫合を始めた。





「あいつら、や、やりやがった。やばい、鮫都死んだよ」


 五里安治ごりやすじは興奮気味に呟いた。

 爆発音に導かれやってくると、鮫都と一真の戦いが始まった。鮫都が敗れ死ぬと、五里は異常な高揚感に包まれた。

 五里は草陰で一人笑みを浮かべ、その場を後にした。





 二日後。


「やっぱり倫理的によくないような」


 マークは心配そうに言った。しかし誰も同意しなかった。


「死者にまで気を使っていたら死ぬぞ。使える物は使え」


 スネイルが冷たく言う。  


「その通り。この世界に適応するのが大事」


 広須も同調する。

 死んだ鮫都の所持していた金は皆で分配する事となった。


 「よし、そろそろ行くか」


 マークが言うと、クエルは俯いた。


「一緒に行きたいんでしょ? 行きなよ」


 アノが優しくクエルに言った。


「でも、アノの怪我はまだ——」

「もう大丈夫だよ。一人でやっていける。あんたの本当の親に会えるかも知れないよ」

「アノ——。分かった。行ってくる」


 力強い足取りで歩いてくるクエルを見て一真は質問した。


「本当にいいのか?」

「私は、生き延びる」

「そうか——」


 一真たちはガドゥにまたがり、出発した。


「で、なんであんたもついて来るの?」


 マークは怪訝な顔で後ろを見た。スネイルは精悍な顔つきの老練なガドゥに乗っていた。


「俺の目的を達成出来そうなのでな。邪魔はしない」

「そりゃあ強いし指導もして欲しいしありがたいけどね」


 一真、春奈、広須、マーク、スネイル、クエルの六人は都に向かってガドゥを走らせた。





 二日後、鮫都の死を知った渋賀は目を見開いた。

 そして拳を壁に打ち付けると、亀裂が広がった。

 近くにいた寺田は渋賀に恐怖を覚え、部屋を静かに出た。


 

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