第8話 魔石は綺麗でした
初戦闘は怪我なく終われた。
闘ったのは少しの時間なのに、なんかどっと疲れたよ、主に精神的にね……。魔物とはいえ、初めて生きている命を奪った訳だし。
ううっ、それにしてもヤバかった。
リアルおっきいネズミ怖い! 何あれ、50cmぐらいあったし!
ポイズンラットって一見、チンチラ(猫じゃない方ね)を大きくしたみたいな姿で可愛くみえるんだよ? 足短くてコロコロ丸っこくて。つぶらな瞳はくりっくりだし、尻尾もショートテールでふさふさしてて、デフォルメされたぬいぐるみみたいで。
――ただ、戦闘時はデビルになる。
鋭い鉤爪とデカイ歯、っていうか牙?を剥き出しにして、キシャーッ!て襲いかかって来る姿は、とっても好戦的で全然可愛くない。いろいろ台無し。落差がひどい。
最後は間近で見ちゃって怖すぎて、魔法で滅多打ちにしちゃったからオーバーキルだったかも……。
でも、これで全部なんだよね? おかわりとかはないよね?
………。
うん、『索敵』にも反応ない。
ちゃんと倒せてるし周りも大丈夫みたい。
でも初戦闘が弱そうな敵でよかったよ……一度に六体は多かったけど。
連携とかして来なかったからなんとかなったけど、知能が少しある魔物だったらヤバかったかも、ゴブリンとかね。
しかしこれ、森をあちこち黒焦げにしちゃったや。ここの樹皮も真っ黒になってて、ううっ、ごめんよ。
ちょっと燻ってるところも残ってるから火魔法で『消火』してっと。
消火器より簡単に一瞬で消せてとっても便利だけど、やっぱり火魔法は気をつけて使わなきゃね。炎上したら洒落にならないし、練習して命中率をあげたい。
――でも私、思ったより落ち着いている。
もっとパニックになっていてもおかしくないのに、ちゃんと逃げずに戦えてた。頭の中ではパニクってバタバタしていたけれども。
結構血とか飛び散っててグロい事になっているけど吐くほどじゃないし。『精神耐性』のスキルがあるからそれがいい仕事してくれたのかな? わかんないけど。
まあいいや。考えるのは後にして、ポイズンラットの魔石だけ取り出してさっさと移動しよう。
解体中が危ないっていうし、血の匂いが他の魔物を惹き付けるかもしれないし。
毒があるから直接触らずにその辺の木の枝を使ってっと。
心臓の隣にあるらしいからこの辺を探れば……あ、このちっちゃいのがそう、かな? 微量ながら魔力を感じる。
宝石みたいにキラキラしてて、とても奴の中に入ってたと思えないくらい綺麗だけど……これ、本当ちっちゃいな。
小さくても魔石は売れるから、聖魔法でちゃんと『浄化』してきちんとポケットにしまっておく。肉は毒入りで食べれないって『鑑定』に出てるから放置でっ。錬金素材に使えるらしいけど触りたくないから放置で!
これ、仮に毒抜きすれば食べれるって言われても今は無理だからさ。まだ生々しい生肉を捌く覚悟できてない。
この魔石、売りにいくにはやっぱりあそこだよね。
冒険者ギルド。
『異世界知識』にもあったし。
この世界にコミュニティーがない私が就ける職は、冒険者ぐらいしかない。
そこで身分証明としてギルド証を手に入れて、危険な討伐や採取をしてお金を稼ぐ。
本当は安全な町中で働きたいけど、なんたって私、住所不定無職で、おまけに記憶がなくてお金もない状態だからさ。……自分で言っててなんだけど、こんな不審者雇ってくれるまともな所とかないわ――。
と言うわけで職業選択の余地なく一択で、今は危険が伴う冒険者にしかなれないってことなんだよね、残念ながら。
それにしても『鑑定』で簡易とはいえステータスが見れると、便利なだけに欲が出てくるなあ。
1回の戦闘でどれだけ成長したのか、経験値的なものが見れればいいのにとかね。努力すればレベルアップするって例の白い部屋の人も言ってたし、可視化できた方がやる気が出ると思わない?
身を守るためにも効率的にやりたいけど、どうすればいいのかが分からないんだよなぁ。実戦しかダメとか、何か制約があったりするんだろうか?
今回、初めて魔物を倒して、ちょっとワクワクしながら『鑑定』したステータスを見てみたんだけど、表示されたスキルレベルは変化なしで、スキルポイント表示とかも出なかったんだよね。
う~ん、この世界に来てからも努力すれば新たなスキルって取れるのか、白い部屋の時のように好きなスキルをポイントで選べるのか……どうなんだろ?
あそこでみたスキル一覧表、今も少しは覚えているけど欲しいのいっぱいあったんだよね。取れるもんなら取りたいなぁ。
色々検証したいのはやまやまなんだけど……でも、そういうのは安全な場所に着いてからかな。
今は生き残ることと、お金に換金出来そうなものを道すがら探すことを優先させる。軽くて持ち運びやすくて単価の高いものだと尚良いよっ。
――というわけで、まだ陽がある内に出来るだけ距離を稼ぐとしますか!
お読みいただきありがとうございます。