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第16話 異世界事情



 いやそれにしてもさっきは助かったよ。


 ゴブリンの集団にじわじわと包囲網を狭められちゃった時はもうダメかと思ったから。


 ナイスなタイミングで助けに来てくれてなければ、下手したら念願の町に入る前に死んじゃってたよこれ。危うく天国に召されるところだった。


 ラグナードには感謝しかない。また会えるといいな。特にあの素敵なケモ耳と尻尾に!!


 あのふわふわ、モフりたかった!


 いやだって本人には言えなかったけど、すごく感情に素直にピコピコ揺れるんだもん!

 お礼を言ったら本人はクールに返事してるのに、尻尾はブンブン振れてるし。

 カッコよく決めてたし、本人もこれ言われたくないだろうけど……でも敢えて言おう、めちゃくちゃ可愛かったとっ。

 とってもとってもモフってみたかったけど、親しい人以外が触るのはマナー違反だからちゃんと我慢したよ!




 ちなみに異世界事情としてあれ的なことで言えば、他人種にとって獣人族や竜人族ほど安全な種族はいない。


 種族特性として()()()()()()()()発情しない人達だから。


 異種族婚については、獣人族に限らず、他の長寿種族にも言えることだけど、する人はほとんどいない。


 全くいないわけではないけれども種族ごとに寿命が大きく違うのと、生まれてくる子の寿命が短くなるのが大きな理由かな。大抵、親より早く死ぬから。


 この世界の人族の平均寿命は六十才、獣人族だと人の四倍、エルフやドワーフだと人の五倍は生きる。


 過去には人族が、寿命を伸ばしたいが為だけに、様々な長寿種族を大々的に狩りまくって、子を作り実験等の生体実験をしたこともあったようだけど、結果は全て失敗に終わった。


 ハーフすら生まれず、すべて人族が生まれてきたのだ。それも寿命が人族の更に半分の長さになるという、理想とは程遠い最悪の結果で。


 このことは他人族との共存共栄を謳う人族の一派によって広く公表され、神を冒涜する行為として強く批判を受けたため、異種族狩りは表面的には中止された。

 しかし今も密かに王侯貴族や大商人の間で実験され、研究が続けられているという。人族怖い。


 長寿の種族から人族が恨まれているのは、こうした歴史があるからだ。


 その時期に大幅に減ってしまった人口は、随分経った今でもまだ、そこから増やせないでいる。繁殖期が短いからね、人族と違って。

 人族は寿命が短い代わりに年中発情できるから今も爆発的に増え続けてるらしいけど。


 加害者である人族達が死んで何世代か経ったあとも、長寿種族故に当事のことを覚えている大人たちがまだまだ健在で、子供たちに直接体験談を教え続けている。


 小さい内から、死ぬより辛い目にあいたくなければ人族の権力者には近づかないこれ絶対!と教えられて育つらしい。


 さっきの村の人族みたいに普通の庶民はほぼ問題なく友好的なんだけど、害意を持つ人が誰かとかいちいち判断つかないからさ。

 これから人族の街で暮らす予定なんだし、ほんと気をつけないとね。

 今の私がエルフだっていうこともついつい忘れそうになっちゃうけど、常に意識しとかないと。




 念のため、だいぶ本気でゴブリン達との戦闘の場から『俊足』スキルを活かして離れた。ここまで来ればもう安全かな?


 その後の町までの道のりは、聞いていた通りで順調で、魔物に遭遇したのは結局あの一回だけだったよ。


 予定外の討伐があったにもかかわらず、予定通り昼前には隣町に着くことができた。



 ◇ ◇ ◇



 この世界に来てから四日目でようやくたどり着いた町が今、目の前にある。


 そこは想像していたより大きな町だった。


 町をぐるりと取り囲む壁も見上げるほどの高さがあって立派だし、これなら魔物からもしっかり守ってくれそう。


 お昼前ということもあり、この時間、大きな鐘の付いた門前には誰も並んでない。


 割りと気さくな門番さんに通行税の銅貨1枚を支払うと、フードを目深に被った怪しい姿だったにも関わらず、拍子抜けするぐらいあっさりと中に入ることができた。よかった。


 冒険者ギルドは町の大通りにあるとの事で、その場所まで聞いた通りに町中を進む。


 途中、あちこちの物価を確認してみると、『異世界知識』と比べて平均的かそれより少し安いくらい。


 屋台もいっぱいあって賑やかだ。


 肉料理が一番量が多くて安く、次に果物、野菜入りの肉スープの順で、一番高いのがパンと他の穀物みたい。

 

 この世界では異常に成長の速い森を切り開いて街を作っている所が多いから、肉は狩猟で手に入りやすいけど、畑を作るのは大変ってことなんだろうな、この値段は。


 あ、パエリアみたいなのも売ってる! お米もあるんだね、食べたい。


 それにパンの実も売ってるよ! 森に生ってた実とは随分形が違うけどこれは安いね。パンの実二個と果実水付きで銅貨1枚とか。


 ねえちょっと待って。


 この屋台の隣に植えてある街路樹って、これパンの木じゃない?

 熟れてる実も少しなってるけど、何か皆勝手にもいで持ってってるんだけど。

 売り物のとは形も色味や大きさも違うけど、隣でタダで手に入るのに、わざわざ買ってくれる人いるの?


「ここにあるのは領主様からのギフトさ。この町にいる人なら住民に限らず誰でも取って食べていいんだ。ただ、際限なく採っていい訳じゃない。自分の食べる分だけ取ったら、残りは教会に納めに行くんだ」


 思わずじっと見てたら屋台のおじさんが教えてくれた。


 ボトルゴードの町を造るとき、何かあった時のための救済植物にと、領主様が街路樹にパンの木を植えた。

 備蓄に適した品種で味も見た目もそんなに良くないが、とても丈夫で年2回、大量の実が採れる。

 実際、過去には魔物が押し寄せて来て、町に籠城することがあったらしく、その時とても助かったみたい。


「中には領主様の好意を無碍にして、独り占めや転売するような奴もいるからな。こうして俺たちが、木の下に店を出して見張ってるんだ」


 なるほど、そうゆうことなのか。


 ここの領主様は住民にとっても愛されてるんだね。そしてこの町の住民は、この町と自分達とにとっても誇りをもってるんだ、素晴らしい!


 そういう経緯もあってこの町はパンの木の品種改良が盛んで、安価なものから高価なものまで色んな種類があるらしい。


 その中でも領主様のパンの木畑が有名みたい。

 料金さえ払えば、まだ出回っていない新しい品種が誰でも食べられる。

 おじさんも勉強の為に何度か行った事があるみたいで、中にはチョコパンやクリームパンに近い実もありとっても美味しかったとのこと。


 安全に楽しめる娯楽が少ない事もあり、このパン狩りはとても人気だそうです。

 余裕が出来たら行ってみたいなあ。  


「うちのは研究して普通のパン並みに美味しくなってるやつだよ。軽く焼くとまたいい色になって香りもいいだろ?バタつきパンみたいでさ」


 確かにバターをつけてないのに、何故かバターっぽい香りがする。

 ふんわりと美味しそうな匂いにはとっても惹かれるけど、お昼は最後の携帯食でもう済ませているから今は我慢しなきゃ。お金もあんまりないしね。


 色々教えてくれたおじさんに、今度買いに来る約束をしてから屋台を離れた。


 他にも買いたいものは沢山あるけど、その為にはまず、冒険者ギルドへ行かないとね! お金がないと何も買えないから!


 大通りを真っ直ぐだからもうそろそろ……。


 あった。


 3階建ての割りと大きな建物。


 そこにはいかにも冒険者ギルドですって言うような、剣と盾が交差したマークが書かれた看板が、掲げられていた。




 

いつもお読みいただきありがとうございます。

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