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異世界でお友達から始めよう  作者: 無限ユウキ
第一章『天に願いを』
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第一章幕間「蒼い月」

   第一章幕間「蒼い月」




 妖しく輝く蒼き月の夜、月光を背に浴びながら岩山の遥か頂に佇む二人の男の姿があった。


 断崖絶壁に腰掛けて足を投げ出しているのはタンクトップに髪を逆立てた、野性味を感じさせる男。

 無駄なく引き締まった四肢は力と俊敏性、双方を併せ持つ。


 男は人差し指と親指で丸を作って、ここからでは見えない遥か遠方の森を覗き込む。


「旦那、向こうはどんな様子で?」


 タンクトップの男は視線を固定させたまま背後に向かってぶっきらぼうに聞く。


「終わったな。」


 地面に頭の上(・・・・・・)半分をめり込ませた(・・・・・・・・・)大男が簡潔に答える。

 両手両膝を地面に付けて、その姿は水に頭を沈めているようにも見えた。


 返ってきた声は口元まで覆われた分厚いコートでくぐもっている上に低過ぎて聞き取りづらい。

 しかし付き合いの長さで、とっくに耳は慣れていた。


「それはまた、どういう意味で?」


 簡潔すぎて答えになっていなくて、逆立てた髪をポリポリと掻きながら真意を問い質す。


「勝敗はついた。自爆させろ。」

「〜〜〜〜」


 相変わらず欲しい答えをくれなくて、男は小さく唸りながら頭を掻きむしった。

 いつものことと言えば、いつものことだ。


 はぁぁぁ……と深いため息を一つこぼしてから、大きく仰け反って天地が逆さになったままコートの大男を見る。


「せっかく見つけたレアモンスターなんですよ? もうちょっと——」

「やれ。」

「あーはいはいわかりましたよもー。旦那は怒らせると怖いんだからホント」


 ぐちぐちと文句言いながら立ち上がる。ゴキゴキと首の骨を鳴らして「んっ、んっ」と喉の調子を確かめながらしゃがみ込む。


「お気に入りだったんだけどなぁ」


 タンクトップの男がぼやくと、空気が音を立てて軋むような錯覚を覚えるほどに、雰囲気が激変。


 瞳の色が真っ赤な緋色に燃え上がる。




 ——ワオォォォォォォォォン…………




 人の口から発せられた遠吠えは森の隅々にまで浸透するようにしっとりと響いていく。

 続いてあちらこちらからやまびこのようにオオカミの遠吠えが返ってくる。


「あーほら、全然関係ないところにいるやつも自爆しちゃいますよ。旦那のせいですからね、ニドルウルフが絶滅危惧種に指定されたら」


 コートの大男が四つん這いから立ち上がる。


 分厚すぎるコートは大男のシルエットを曖昧なものへ変貌させていた。その上背は優に二メートルを超えていて、まるで人の形をした壁がそそり立っているかのようにさえ感じるほど。


 頭を突っ込んでいたはずの地面は、何事もなかったかのように変化なし。


 タンクトップの男が指で覗き込んでいた方向から大きな爆発音が連続で響き、それに隠されるように別の場所でも連続して爆発音が轟いてくる。


「声に指向性を持たせろ。馬鹿め。」

「それができたら苦労はしないってやつでして。声が届いてないやつがいるのを期待するしかないかなぁ……あーあ」


 肩を落とし、残念そうに首を振る男の態度はどこかわざとらしい。

 コートの大男は腕を組み、見下す。


「我々の任務は捜索。監視。調査。——」

「そして審判、でしょう?」


 大男の低い声を遮って、何度も何度も聞き飽きた命令に耳の穴をほじくり、フッ、とカスを風に乗せた。


「ようやく見つけたから『捜索』は完了ですけど、残りはちと性急すぎやしません? もっとのんびり行きましょうよ旦那」

「監視はつけたな。」


 腰に手を当てて見上げるように抗議するが大男は聞く耳を持たない。

 これも、いつものことだ。


 慣れてしまって呆れない自分がいることに、呆れる。


「ま、そこは抜かりなく。怒られたくはないですからねー」


 男はふと思い出したかのように振り返り、ひときわ大きな爆音が響いた方角——眺めていた方向を見て、


「予定外だったあの少年はどうするんで? 放っておくのは良くないと思いますけど」

「勘か。」

「勘です」

「ならばそれにも監視をつけろ。それくらいできるだろう。」

「へいへい、人使いの荒い旦那だ」


 文句を言いながらも、互いの実力を認め合った繋がりで行動をともにしている。できることできないことは互いに知り尽くしていた。


 そして、本来信用できない他人の『勘』を信じるくらいには、この二人は確かな絆が結ばれている。


「それじゃー今日のところは任務完了ってことで、帰りやしょうか。ご飯なんにしやす?」


 タンクトップの男はコートの大男の傍へ移動すると腰を下ろした。その脚は大男のときと同じように地面の中にめり込んでいる。


「オオカミの肉は食えるのか。」

「肉なんで食おうと思えば……あ、さては旦那、自分の加護と似てるからって当て付けが過ぎやせんかね?」

「その脚。」

「へい?」

「切り落とす。」

「うわ、ちょちょちょちょ?! 冗談じゃないですかジョーダン! 怖いなーもー」


 言いながらも刹那の間に飛びのいて距離を取っている。


「冗談だ。」

「旦那の冗談は冗談になってないんですってば……」


 やれやれと安心しながら、改めて近づき地面に腰を落とす。

 膝から下は地面にめり込んでいたのではなく、大男の影の中に呑まれていた。


「オオカミの肉は獣臭そうだからな。」

「そっちが冗談だったんですか?! あぶな! 危うく脚が無くなるところでした! そうなる前に退散退散——っと」


 男は腰を浮かせると、影の中へ落ちて消えていった。

 一人きりになった岩山の頂で、コートの大男はぼそりと呟く。


「そっちも冗談だったんだが。」


 そして、自身も影の中へ落ちていって、岩山には誰もいなくなる。




 彼らを見下ろす蒼い月だけが、そんなやりとりを目撃していたのだった。

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