【4】-【5】例えると眼鏡を取ると可愛いあの子
【4】
多分、同族意識とかそんなの。
そんな感じの何かが僕と彼女をつないでいたんだと思う。
それは、言葉からもわかるように、曖昧であやふやで。とてもじゃないけど見たり掴んだりできない代物だった。
だからこそ、ただ数十分くらい話し合った程度の関係だったはずなのに、僕はすこし不安に駆られていた。
いや、嘘ついた。
なんとなく胸騒ぎしていた。不安というには淡い思いすぎる思いを抱いていたのだ。
だからこそ『「──あっ」と声を上げたのはどちらだっただろうか』なんて、ありふれた表現を使うつもりはない。
なぜなら僕とコノさんのどちらかが声を上げていて、どちらかが無言だったことなんて客観的に見たとしても、声色からして明白だったから。けれど、どちらが声を上げたにしたって僕たちの心内は同じだったはずだ。
恥ずかしげもなくそれを言葉にするなら、それはきっと驚きだった。まあ月並みな表現だけれど、そう、驚き。
僕は驚いた。彼女も驚いた。互いの姿を見て驚いた。
お互いがお互いのボロボロ過ぎる不恰好に言葉を失ったのだった。
あんまりにも美しい空の移ろいを見たせいもあったのだろう。彼女の装いがこんなにもみすぼらしく見えるのは。
コノさんは和装に身を包んだ少女だった。下駄を履いて、ちょこんと女の子座りをしてこちらを見る少女だった。
しかし、彼女の茶髪はそこら中に生ゴミが付いているし、顔も泥を塗りたくったように汚れている。彼女が身に纏う、本来この街によく似合うだろう和装も破れかぶれになっており、やはり生ゴミがまとわりついていた。
僕は実はここはゴミ捨て場ではない、という履かない可能性に見切りをつけて、恐る恐る口を開く。
「コノさん……だよね?」
「そう言う貴方はハーさんですよね?」
自信なさげな声色を聞くに、どうやら僕の方も同じような有様らしい。もっとも僕の顔に関していえば、現実からしても見られるようなものではないので、普段通りといえば普段通りなのだろうが。
ゴミ山からすこし目を逸らせば、統一感のある街並みや石畳が見える。
陽気なお日様の光を照り返す瓦屋根が今ばかりは恨めしい。
お互いの名前を呼んだはいいものの、なんと会話を続けたら良いのかが分からず二人してだんまりしてしまった。……が、ややあって、戸惑い気味にコノさんは口を開く。
「あの……ちなみになんですけれど、私の今の姿ってどんな感じですか?」
「こういっちゃオシマイだけど、まあ生ゴミだらけだよ」
「ですよねー」
いくら慣れたとはいえ、臭いは臭い。彼女は顔をしかめて(雰囲気を醸し出して)その後、服についた生ゴミを引っ張った。
「それじゃあ僕も。ちなみになんだけれど」
「勿論生ゴミです」
「それだと僕が生ゴミみたいだから」とは言わなかった。実際似たようなものだし、それに、その後彼女が言ったことの方が僕には重要だったから。
「それに、壊れかけています」
「壊れかけて?」
「はい。さっきまでは視界も悪かったですし、私もハーさんも這々の体でしたから気にもならなかったのですが、ほら。……ええと、なんというか、壊れかけてます」
見ればわかります、と言った彼女に従って僕は自分の体を見る。
着ているのはスーツのようなタキシードのような、いわゆる礼服。アンドロイドや人形がフォーマルな装いであるのはそう珍しいことでないので、そこに対する驚きはない。ただ、彼女の装いと違わず所々破れかぶれで泥や生ゴミが付いている。手首から指先を覆っていた手袋を外してみれば、なるほど、彼女の言っていた意味が分かった。
見えているのだ。
中身が。
僕の中身が見えているのだ。
別にかさぶたの下がずりむけていただとか臓器が吹き出していただとかそういうグロテスクな話ではなく。そう。部品。
僕の部品がむき出しになっていた。
手の甲の中に収まっていたバネや、腕の関節を繋ぐ歯車。
そういったものが、そういったものを包む皮膚を貫いて、もしくは皮膚が破けてしまってみえていた。
こう見ると、ロボットというより機械仕掛けの人形のようである。
「まあ、人形だしね。こういうタイプの人形もあるよね」
なんとも言えない気持ちで僕は言う。
「絡繰人形というやつですね」
コノさんも同じような顔をして相槌を打つ。
幸い、中身がみえているものの中に何かが挟まって動かないということはない。鯖や苔のせいで動きにくいことはあるのだが、それはまだ許容範囲内。
グギギ、と軋みを上げる自身を無視して僕はコノさんに一つ、提案することにした。
「風呂に、行きましょう」
【5】
「なんか見られてませんか?」
「そりゃあ、そこら中に生ゴミを貼ったつけたボロボロの二人組が歩いていたら注目も浴びるでしょ」
カランコロンとコノさんが歩き、カツカツと僕が続く。
空は憎たらしいほどに晴天で、家と家との間から美しい日差しを生み出している。大概やる気のない歩き方をするコノさんではあったが、それでも歩みを止めることはなく、むしろその速さをあげた。僕もそれに追いつこうと歩を進める。
カララとコノさんが早歩き、カカカッと僕が続く。
足を早める一方、しばらく僕の言葉を咀嚼していたコノさんではあったが、やがて頬を膨らませてうぅん、と唸り、
「そんなもん、ですかねえ」
と言った。
VRMMOを複数経験している彼女からしたら、何か腑に落ちない部分があるらしい。こんな状態でありながら注目を浴びない方がおかしいと僕は思うのだがどうなんだろう。生ゴミをそこら中にはっつけている程度では動じないのがVRMMOというジャンルなのだろうか、なんて。
それはないか。
【異常ステータス・異臭】
【特殊状態・纏『生ゴミ』】
なぜ、生ゴミをまとったまま歩いているのか。
その答えが上のステータスにある。
そして、これらは風呂場で落とすか浄化魔法あるいはそれに準ずる方法以外に手はないらという。つまり、手でいくら汚れを払おうが拭おうが、身を纏う生ゴミが落ちることはないということだ。
「風呂ですか……まあ、こんな日本風の街ですし大衆浴場なんてものがあってもおかしくないですよね。私、生まれてから一度も行ったがないので、ちょっと楽しみです」
「まあ、今は風呂自体を利用しなくてもいい時代だからコノさんみたいな人も珍しくないんじゃないかな。僕の場合は近所に銭湯があったしからよく行ったよ。家族も積極的に勧めてきたし」
「へえ、準回帰主義ってヤツですか?」
「ううん、どうなんだろう? 違うような気がするけど」
準回帰主義。昔は良かったと嘆く懐古主義をもじった俗語である回帰主義を更にもじった言葉。回帰主義とは古き良き日本を取り戻すべきだと日本の生活様式の回帰を唱えることで、準回帰主義とは人間はナノマシンに寄生した生活をやめるべきであると主張することだと言われている。
ミシ、と僕の脚が軋む。
歩くスピードを速めたこともあり、無機質でオンボロな僕の脚が悲鳴をあげたようだ。音がなったところで、さして歩く動作に影響はないので無視しようしたが隣を歩くコノサンは目敏くそれを聞きつけて心配の声を上げる。
「大丈夫ですか? さっきから時折聞くに耐えない歪音が聞こえてきますが」
「大丈夫……不思議と痛みはないんだよね」
「それは、やっぱりハーさんの種族が人間じゃないからなんでしょうか?」
「このゲームに『痛み』が設定されていない可能性は?」
「それはないと思いますが、けれど、もしそうだとしたら色々不便が出そうですね。今まで私がやってきたゲームは態度の差こそあれ痛みは設定されてましたから」
「へえ、そういうのって法律が厳しいって聞いてたけど」
「……これは、見下しというわけじゃないのですが、ハーさんってホントにこういうゲームした事ないんですね。法律云々はゲームをあんまり嗜まない層がよく言っているだけで、実際は相当に緩いもんですよ。なんならその仮想的な痛みを楽しむゲームがアングラにはあるくらいですから」
「へえ」
それは剣呑な話だ。
このゲームに痛みがあることも、どのゲームに痛みがあることも。
暫く歩く事数分、ようやくこの町の案内板までたどり着いた。生ゴミ山から離れて、30分が経過していた。
あと一歩で突き刺すような視線から解放されることもあって、コノさんはピコピコと角を動かして興奮気味にまくし立てる。
「ハーさん! 風呂場はこの道を右に行って直ぐだそうですよ!」
「そいつは上々。けどさ、こんなことを言うのはナンセンスなのかもしれないけど、MMORPGというのは随分と移動に時間がかかるんだね」
「はぇ? そんな時間かかってましたっけ?」
「そうなの? 僕の勘違いなら良いんだけど──ほら、パズルゲーってパズルやってるかマッチングを待ってるかだから。僕からするとどうしてもこの辺の移動時間が勿体無く、というかもっさり感じちゃうんだよね」
「ほえー。新鮮な感想ですねぇ、それは。けどね、ハーさん。VRMMOの醍醐味はこういった散策や移動中の会話にあるんですよ?……それともハーさんは私との会話がつまらないですか?」
「いや──確かにそうだ、そりゃそうだ。僕が間違っていたよ。うん、これはパズルゲームじゃない、VRMMOだったね。そう考えてみれば移動も楽しいね」
僕がそう言えば、コノさんは破顔して、
「ならよかったです。んじゃあ、行きましょうか。いい加減私も綺麗サッパリしたいですし」
早く風呂へ行きたいのか、コノさんは早々に会話を切り上げると僕の手を引っ張って道を進み始めた。
その後、10分にも満たないくらいで僕たちは風呂場に着くことができた。風呂場の前でやったことといえば、『風呂場も伽藍堂だねー』『そうだねー』といった他愛のないやり取りくらいなので、省略。
壁の向こう側でコノさんが同じ湯船に浸かっているんだ……なんて気色の悪い妄想を行うこともなく僕は早々に湯船を上がっていた。どうでもいい話だが、男湯には僕以外の客はいなかった。
「サッパリしましたー! あ、すみませんお待たせしました?」
「……」
男湯と女湯を分ける暖簾をくぐって出てきたコノさんを見て絶句する。絶句? いや、それは相応しくない。口を開けば、音を出そうと思えばいくらでもできた。僕は、つまり、僕は。
そう、言葉が見つからなかった。
『ペタペタと音を立てる足は透き通るほど白い。けれども不健康な感じは全然せず、むしろ健康的であり彼女が纏う赤い和装からすらりと伸びている。生ゴミに塗れてよく見えなかった服装もその特殊状態が取れて綺麗になっている。
そして、特筆すべきは彼女の顔立ちだろう。
こんなことを言うと、まるで僕が極度の面食いのようなのであまり好ましくないのが、しかし事実彼女の顔立ちはそう言うにふさわしいものなのだからしょうがない。
──艶風コノカは可憐だった。
細い眉に大きく透き通った瞳。すっと気持ちの良い鼻筋と整ったフェイスライン。綺麗に左右対称に配置された顔のパーツからは彼女の所作の公正さがうかがえる。
そして艶やかな金色のショートボブが赤の和装と相まって、とても似合っていた』
なんて、数十の母音と子音くらい、出そうと思えばペラペラといくらでも出せた。けれど、声が出なかった。
それは、彼女が可愛かったからだろうか。いや、それはないだろう。
大層仰々しい美辞麗句を並べてみたものの、彼女の容姿は言ってしまえばクラス1を争う程度。随分と上からな評価になるが、見ただけで言葉を失うと言うにはやや力不足だ。
さる哲学者の格言を借りるなら、『美は常に約束するけれど、決して何ものをも与えようとはしない』というのがちょうど良いかもしれない。魅せろ魅せろとせがんだわけではないが、魅せられて。けれども何かを僕に残すわけではない。飾らない、飾ろうという気がないというと少し野暮ったくて安っぽいが、そんな感じ。
なんというか、そこにあるだけの美しさ。
未知のものを見た。そんな体験が僕を黙らせていた。
「な、なんですか。そんなにじっと見て」
「……あぁ、いや。うん、そうだね。コノさんって半獣人だったんだね」
なんとか絞り出した発言は、そんな誤解の発見だった。
僕が山姥の角だと勘違いしていたのは、どうやら彼女の獣耳だったようだった。
昼間っから、それもVR空間に来てまで大衆浴場に来るような奇特なプレイヤーは中々いないと見えて、銭湯の待合室はガラリとしている。
「ステータスによるときつね型の半半獣人らしいです。その証拠に、ほらっ」
僕にコノさんはくるりと一回転して見せる。
「尻尾もないし、人の耳も付いています。四つ耳です……というか、今までなんだと思っていたんですか?」
「山姥」
「アレってマジで言ってたんですか?! 軽くショックなんですけど」
半分くらいは、あるいは。
というか、手放しで褒められる整った容姿を山姥クラスまで貶めることのできる【特殊状態・纏『生ゴミ』】の恐ろしさよ。現代の化粧は整形となんら変わらないというけれど、あの特殊状態は逆化粧と言うべき代物だ。
そもそも生ゴミを纏ったコノさんの髪色はくすんだ茶色だったし。
「まあ、街中を見る限り私よりも容姿が整った方は大勢いましたけれどね」
「それはそうだけれど、そうじゃない。予想していたコノさんの姿よりも数段上を行ったことに僕は驚いているんだよ」
「そんなこというなら、ハーさんだって大分スッキリしたじゃないですか。……ボロボロなのは変わりませんですけれど」
そう、そうなのだ。
僕だって多少は綺麗になった。顔の汚れは落ちたし、なぜか服の汚れも落ちた。しかし、身体中に入ったヒビやそこから聞こえる異音は治らなかったのだ。だからこそ、コノさんもそれ相応な感じになるだけだと踏んでいたのだが。
「とんでもない不公平を僕は感じているよ」
「種族の違い、というやつじゃないですか? 綺麗になったことですしそろそろ互いのステータスでも見せ合いましょうよ」
「その前に聞きたいんだけど、こういうのって軽い気持ちで見せ合ってもいいの? VRを題材にした映画なんかでは裸を見られるよりもステータスを見られる方を嫌がってたりしてるけど」
「ゲームによりますけど……このゲームはいいんじゃないですか。ほら、ランダム要素が強いですし」
「ランダム要素が強いのと、ステータスを見せていいことに一体なんの関係があるんだよ」
「あれ? ハーさんは知らないんですね。このゲームはステータス画面すらランダムなんですよ」
「はあ? それはまた手の込んだことを」
よく聞けば、初期設定のステータス画面がランダムであるらしい。つまり、ステータス画面はいくらでも後から変えられるということで、仲の良い友達同士なんかでお揃いにすることもできるという。
コノさんは植物を編み込こんだベンチに腰をかけ、扇風機に向かって「あー」と声を出す。扇風機の羽にあたる音と羽の間を通り抜けて行く音が交互に聞こえ、震えているように聞こえる。随分と時代錯誤的な遊びに苦笑した後、僕はコノさんの発言に頷いた。
「それじゃあ、ステータスってのも存外あてにならなそうだ」
「いや、共通ステータスもあるので一概には言えないそうですが。この辺の違いは私もゲームインストール中に少し聞き齧った程度なので。多分、互いに見せ合った方が早いと思いますよ」
「最近のゲームは難しいなぁ」
「いやいや、昔に比べたら楽になった方ですよ」
「自動マッピングがない時点で旧時代のレトロゲームの匂いしかしないけどね」
「それはご愛嬌です」
緩いよ、色々と。
コノサンは、ほらほらと僕にステータスの開示を促して自分もまたステータスウィドウを開いた。
僕のステータスは透明なガラスのようなウィンドウに黒い文字が浮かび上がるような形で、彼女のは若草色のウィンドウに濃い桜色の文字が浮かぶような形だ。容姿といい、コレといい、なんだか節々で凝り方の明確な差異、というか境遇の差を感じるなあ。
後から設定し直せるとはいえ、ズルイものだ。
ー・ー・ー
名前:齒轟惨號
所持金:3500
製作者:???・?????
概型:プロトタイプ
状態:(故障)(錆付き【大】)(苔付き【微】)(基礎体)(著しい腰部損傷)(著しい腹部損傷)
存在判定:1
種族:破損人形
職業
ハウスキーパー
STR 5(-5)
DEX 4(-3)
CON 10(-9)
INT 1
POW ー
APP 17(-16)
LUK 18
可能性の領域。。。《展開:歯車》
スキル
ー種族スキルー
《自己回復・超微》《空腹無効》《壊れやすさ+5》
ー職業スキルー
《挨拶》《家事》《気遣い》
一般スキルー
《魔力操作LV2》《工学LV1》《リングLV1》《パースペクティブLV1》
奥義
《[未習得]》
───
名前:艶風 コノカ
所持金:100
状態:(健康)(期待)
毛並み:なんかいいかんじ
感情:喜10・怒0・哀0・楽35
種族:半半狐獣人LV.1
職業
英霊【????】
存在確定率:1/10
STR 14(+2)
DEX 18(+1)【−3.5】
CON 14(+2)《+1》【+3.5】
INT 14
POW 14(+2)【+1】
APP 14《+2》【+1】
LUK 14
可能性の領域。。。《二刀【妖児】 :眠狸・慈狼》
スキル
ー種族スキルー
《隠蔽》《狐火》《[未習得]》
ー職業スキルー
《BOOST》《滅霊絶妖》《瞬刀》
一般スキルー
《看破LV1》《二刀流LV1》《綱渡LV1》
奥義
《[未習得]》
ー・ー・ー
「ね? ちょっと違うでしょ?」
「ちょっと違う、の一言で済ませるには済まない情報が多すぎて、ちょっとどうしたらいいか分からない」
「私の初期所持金の少なさとかですか?」
「ごめん、そこじゃない。いや、コノさんにとっては切実なのかもしれないけど。やっぱそこじゃない」
木の皮で組んだベンチに仰向けになってステータスを見比べるコノさんはふむふむなんて頷いているけど、これって僕がおかしいのだろうか。僕がこの系統のゲームに慣れていないだけで、他ゲーム経験者にとってはこの程度の未情報は取るに足らないものなのだろうか。
あ、着物がはだけそう。なんてコノさんを現実逃避に遠い目をしそうになる。
「ええと、どこから突っ込んだらいいと思う?」
「別に突っ込む必要もないと思いますよ。まだまだチュートリアルもやってないことですし」
「え、このゲームってチュートリアルあるの? 初手生ゴミ置き場のこのゲームに? チュートリアル?」
「いよいよもって、怒りが溢れてきましたね」
「風呂入って一息ついたらなんか溢れてきた」
「風呂だけにふつふつと、ですね」
僕はコノさんのくそほどくだらねえ発言を無視して知り得た情報を整理することにした。僕とコノさんのステータスの違いはとりあえず置いておいて、まずは共通項目から。
つまり、【名前】【所持金】【状態】【種族】【職業】【英語と数字】【アナザーワン】【スキル】【奥義】について。
とりあえず、ぱっと見でわかるところからいこう。
【名前】【所持金】【種族】【職業】についてだ。これらは見たまんまの意味合いに違いない。所持金に何も単位が付いていないのが気になるけれどそれは些細ななことだろう。
次に【状態】それに【英語と数字】について。
英語と数字は所謂ステータスを表していて、状態がそこからステータスにいくらかの足し引きをしているに違いない。括弧の種類を考えるとコノさんの【感情】と【毛並み】ももしかしたらステータスに影響を与えているのかもしれない。
問題なのは英語。
これが何を意味しているかだ。
「コノさん。ステータスに書いてある英語の意味ってなに?知らないのがいくつかあるんだけど」
「ああ、ええと。上から順に【力】【器用】【健康】【知能】【精神】【魅力】【運】を表す単語ですね。ただ、前調べによるとどうやら文字面だけを捉えるのは禁物らしいですよ」
「と、いうと?」
「いえ、まだステータスについては解明され切ってないため詳しいことは言えないのですが、まずもって、普通のMMOのステータスにはある【防御】を表すDEFや【俊敏】を表すAGIが存在しません。それに、このゲームで採用されているステータスは主にVRでない別種のゲームで採用されやすい形式で、その割にはスキルの形式がとてもVRMMO向きだというチグハグさがあります」
「ふうん」
RPGに馴染みのない人間から言わせて貰えば、別にこういったステータス形式であろうとコノさんのいうステータス形式だろうと感じることに差はないんだけどね。けど、コノさんの訝しむように、こうしたセオリーから離れたシステムには何か意味があるのだろう。
「それじゃあ、情報整理のついでに聞きたいんだけどさ」
「ああ、ちょっと待ってください」
僕が続いて【アナザーワン】【スキル】【奥義】について聞こうとすると、コノさんは僕の言葉を遮った。
このゲームの根幹であるステータスという情報の整理以上に大事なことがあるというのだろうか。というのはさすがに冗談だけど、一体どうしたというのだろうか。
彼女は、そんな僕の目線を受け取り、一呼吸おいて。
小さな口を開いた。
「とりあえず、服。買いませんか?」
破れかぶれの和装を必死にかき上げての言葉だった。
そりゃあ、いつでもどこでもできることよりも、体裁の方が大事というものだった。