第30話「ファンガーと魔女王エイリエル」
みんな程良く打ち解けた、とまではいかないが、お互いが大体の事情を理解したと思っていた。そこに「バキバキバキィ」と言う物凄い音を立てて小型ジェット機が近隣の民家の塀や電柱、木々を破壊しながら着陸した。
ハッチからタラップを降りて30代くらいに見える女性が降りてきた。長い金髪の髪をフワァっとなびかせながら。
「初めまして。私はクリード・エリオス、ヘキサゴンの長官及び総指揮官。そしてチャーミ―の母です」と流暢な日本語で挨拶した。
「エリオスママ! 迎えに来てくれたの?」
「そうよ、貴女は本当にこうと決めたら考えずすぐ行動に出るわね。誰に似たのか……」
「良いじゃないですか、でも私ってホントパパにもママにも似なかったね」とニコニコしながら言った。
「まぁ良いのだけどギブソン、岩鉄、サリアにはキュプラスの月への対抗手段、今総力を上げて会議してるけどそれに参加してもらわないと困るわ」
「ハイですぅ」「了解であります」サリアと岩鉄は深々と頭を下げながら言った。
ヒカリ達は呆然としていた。佐々木原市では比較的民家が少ない所にいたのだが、着陸の時色んな物が壊れている。
「これがアメリカンスタイルかぁ! 凄いなぁ、ってちょっとちょっと!」ヒカリがエリオスにどうしてくれるんだと言う顔で「ここは飛行場じゃないんですけど!」と怒った。
「あ、ごめんなさい。お金で解決するわよね?」
ヒカリは凄い銭ゲバだなぁと飽きれた。
「細かい事は省略するわ。貴女が魔法少女のヒカリさんね。世間知らずのチャーミ―に色々教えてくれてありがとう。そしてキュプラスの月が活動を始めたら必ずこの子達と共闘して欲しいの」と言った。
その時だった。
「グフッ」エリオスが血を吐いた。
身体の胸のあたりに剣が突き刺さっている。
「エリオスママ!」チャーミ―が悲痛な叫び声をあげる。
「なーんちゃって。ケチャップよ。こういう事が多いから持ってるの。で、あんた誰?」
エリオスは分身していたようだ。笑いながら攻撃を仕掛けてきた者の後ろにいつの間にか立っていた。
ヒカリはすぐ分かった。「お前はファンガ―……」と言い終わる瞬間には
エリオスの手刀だけでその者の首は飛んでいた。
だが首だけになったファンガ―は笑いながら話し出す。
「私は佐々木原市の統治悪魔ファンガ―。以後よろしく」
全くダメージを受けていないようだ。
「で、お前は誰だ? 悪魔の匂いがするが」ファンガ―はエリオスに逆に尋ねた。
エリオスは答えた。
「魔女王エイリエルと言えば分かるかしら?」
「魔女王エイリエル? そうか。だいぶ力を失っている様なので気付かなかったよ。教科書にでも載るつもりか?」ファンガ―は笑った。
「私はそうかも知れないわね。でもこの子チャーミ―は私とレベルMAXとの間に生まれた現時点で最強の魔法少女よ。まだ未知数だけどね。そうネームレスに伝えておきなさい」
エリオスは言った。
「ヒカリさん、この子はちょっと捻くれているけれど本当は寂しがりなの。仲良くしてあげてね」
可愛らしく笑って言った。
「私は本部に帰るわ。その男との戦いお疲れ様ね。強いわよ。油断せず。しばらくは戦えないダメージを与えたからほおっておけば消えるから」
「は、はい……」ヒカリはビックリしながらもかろうじて返事をした。
銭達は呆気に取られていた。
「で、この区画の壊れた家屋はどうするのよー!」
話を聞き終えて現実に戻って思う事はそれしかないだろう。アメリカの人間は大雑把過ぎると思った。チャーミ―と仲良くなんて出来るか全然自信無いヒカリであった。




