転校生。
4月14日。私は噂の場所へとやって来ていた。
私立 東峰高校。
ここが今日から通うことになる学校か。私は少し不安になる。
古くなっている靴箱を抜け、階段を登る。聞いていたとおりのボロボロっぷりである。ホントにここが今も校舎として使われているのだろうか。
3階へ到着し、【2-c】の教室へ向かう。その途中【2-a】【2-b】を覗いたが誰もいない。移動教室というよりも、使われている形跡がなかった。
「失礼します。」
数回のノックした後、緊張した表情でドアを開ける。
「あら、あなたが新しい転校生ですね。」
「あ、はっはい。」
「それじゃあ、まずは自己紹介からお願いします。」
言われるがままに対応する。
「埼玉から来た島川ミナトです。よろしくお願いします。」
「はい、皆さん、仲良くしてあげてくださいね。」
物寂しい拍手のあと先生に指示された席へと座る。隣は、何処か不気味な雰囲気を醸し出している、しかし美少年と呼べるであろう男であった。
「君、転校生なの??」
その不気味な男がこちらに話しかけてきた。
「うん、そうだけど...。」
「なるほどね。いや、急にごめんよ。僕は堺。堺シュウヤ。」
その男、堺は申し訳なそうに頭をかく。印象とは異なり、友好的な人物そうである。
私は素朴な疑問を彼に投げ掛ける。
「けど、どうしてそんな事を??」
「いや、この時期に転校生って珍しいでしょ??4月の中旬なんてそうそうあったもんじゃない。
それに君の靴下、学校指定の物じゃないだろう??だから少し疑問に思ったわけだよ。」
「凄い。堺くん名探偵みたいだね。」
「誉め言葉として受け取っておくよ。それと堺くんじゃなくて堺でいい。」
私は汗を拭い、改めて教室を見渡す。
生徒は私を含めてたったの5人。予想はしていたが、思っていた以上に少ない。これだけ古い学校だ。まぁ、それも仕方がないといえば仕方がないだろう。
時刻は12:30。あと少しで昼休みであろうか。
と、思った途端チャイムが鳴った。周りの様子をみた限り昼休みを知らせるチャイムであろう。
「おう、転校生。一緒に飯食わねぇか。」
弁当箱をもった筋肉質の男に声をかけられる。
少し怖そうな人だが友達作りの為にもここはひとつ勇気を出すべきであろう。
「うん、一緒に食べよう。」
「俺は佐々木。一応このクラスの委員長だ。」
「よろしく、佐々木くん。」
「ところでおまえ、なんでこんな時期に転校してきたんだ??」
「父さんの仕事の都合でこっちに。」
佐々木は満足げな顔で頷いて卵焼きを口に入れる。
「うちはクラス替えとかないからな。これから2年間ずっと同じクラスメートだ。まぁ、仲良くしてやってくれ。」
「こちらこそ、よろしく頼むよ。」
「あ、そうだった。」
雑談をしながら弁当を食べていた私たちだったが、佐々木は何か思い出した様子で私に迫る。
「堺って奴にはちかづかない方がいいと思うぜ。おまえ、さっきあいつと話してただろ??」
その声色は真剣なものであった。
「あいつ、ほとんど学校に来ないんだ。それにな....犯罪経験あるって噂だぜ。」
「そ、そうなんだ....。」
反応に困った私は曖昧な返事をする他なかった。堺とは少し話しただけだが、とても犯罪をするような人物には見えなかったからだ。
そういえば彼は何処にいったのだろう。チャイムが鳴った後、教室を出てから姿とみていない。
「おい、佐々木。転校生をいじっちゃ可哀想だろ。」
「おぉ、福山。なぁに、別にそんなつもりはねぇよ。」
「ごめんよ、佐々木はいつもこんな調子なんだ。」
福山はこちらに見て笑いながらそう言う。どうやら佐々木とは仲がいいらしい。
「いや、気にしてないから大丈夫だよ。」
「そう、それならよかった。そろそろ次の授業の準備した方がいいんじゃないか??昼休みは1:15までだからね。」
福山に言われて私は時計を見る。1:10。話をするのに夢中で気付かなかったが昼休みは既に40分も経過している。
「おっと、ゆっくり食べすぎたか。」
同じく時計を確認した佐々木は空っぽになった弁当箱をしまい、席をたつ。
「つーことで改めて宜しく頼むぜ。ミナト。」
「うん、二人ともよろしくね。」
二人が席を離れたのと入れ違いで堺がこちらにやってきた。
福山は本気にするなとは言っていたが、あの時の佐々木の表情はどうも本気だったように思える。
「佐々木くん達に何か言われた??」
私の気持ちを読み取ったように堺が笑いながら聞いてきた。余程私の顔が緊張していたのだろうか。
「え....まぁ、うん。」
「彼、よく冗談を言うんだよ。まぁ、学校に来ないのは本当なんだけど。」
「へぇ、何でなの??」
「アルバイトしているんだよ。ちょっとしたアルバイト。何せ人が居なくてね。学校がある日でも呼ばれる時があるんだ。」
ちょっと特別なアルバイトでね、と堺が言い終わったところで5限目を知らせるチャイムが鳴った。
「興味あるなら来てみるかい??」
チャイムが鳴り終わった後、堺は小声で私にそう言った。
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