NEW GAMEと届かぬ想い
プロローグ
なんだ?これ、、、なんだか懐かしい気がする。小さいころの、思い出、、、か?
優は夢を見ていた。優が小さい時の夢だ。しかし彼は思い出せない。
なんだあの子。泣いてる?なんで、、、
少女はなぜか泣いていた。
(あれは、俺、、、なのか?)
そこへ少年が駆け寄る。
少年が近づくと少女は笑顔を取り戻した。
本当に嬉しそうな、まるで主人が帰ってきたときのペットのように愛くるしい無邪気な表情だった。
「君は、誰?」
少年の問いに彼女が何か答える。しかし聞こえない。
1.仲良し組と話題のゲーム
そこで目が覚めた。
「ここは?」
「よっ!随分と気持ちよさげに寝やがって、にしてもその態勢辛くないのか?」
どうやら授業中に寝てしまっていたらしい。俺は一つ欠伸をすると大雅の問いに答えた。
「別に。大したことない。最初は首がきつかったけど、慣れれば楽だし、先生にも見つかる確率は低い。まさにwin-winだ。」
この態勢は中学の時に2年かけて編み出した俺の仮眠技だ。説明しづらいが端的に言えば会議で重大な決断を迫られた社長のようなポーズだ。首が絞められるように痛いし、横から突かれると倒れるというデメリットもあるが、今まで幸いそんな経験はしたことない。
「俺からしてみれば普通の生徒がするような態勢の方がよっぽど辛いと思うがな。」
「そんなもんかねぇ。ま。俺は学校で寝たことないから知らんが。」
そんな談笑をする中、俺はあることを思い出し、何の気なしに言ってみる。
「そう言えばお前『EFO』もう予約した?俺どこ行っても予約できなかったんだが、、、」
『EFO』とはつい最近発表されたVRゲームだ。プレイヤーはVRゴーグルを装着し、仮想空間にダイブしてから敵を狩り、最終的に12の伝説の魔物を模した敵を倒せばゲームクリア。クリア後どうなるかはまだ情報解禁されておらず、公式サイトを見てもCOMING SOON!!という何とも典型的な文面だけだが、まぁ、それなりの報酬が確約されているのだろう。また敵を倒さなくても釣りはできるしゲーム内マネーを使ってギャンブルできるし、貯めればペットを飼えるし、家も買えるし疑似的な結婚もできるので、現実世界ではある事情により結婚できなかったりするカップルでも遊べるのだとか、、、
またここが習得するオリジナルの中二病スキルも売りの一つなのだとか、そこに運要素はあるものの、しかしそれ以外は実力がものをいう世界。という老若男女問わず誰でも遊べるというのが今作の売りなのだとか。発売元の会社もこれまでに『バリバリシューティング』、『爆音レーシング』などのメジャータイトルは勿論『急がNIGHTショッピング』、『引きこもり脱出計画』などのマイナータイトルなどの次世代を往くマイナータイトルも続々発売している意欲的な会社。TE社なので安心して買える。
「あ、あれか。俺も昨日学校終わってから探しまくったんだが、正直辛いな。基本的に考えられることは何でもできるってことだけに、予約する人も従来の比じゃないってどのメディアも似たようなこと言ってたからなぁ。そもそも俺ら丁度予約開始の時テスト期間だったから大幅に出遅れたし。」
これほどまでにテストというものを恨んだことはない。
「まぁ気楽に行こうや。」
「確かに考え込んでも答えの出るもんでもないしな。」
ネットで買えばいいじゃないかと言われそうだが2人はある理由からそれは選択肢として外していたのだ。それは、、、
「やっぱ欲しいよな」
「あぁ、どうしても」
2人は溜息をつくと同時に欲しいものを口にした。
「黒髪ポニーテールのリンカちゃん(猫耳メイドのミリカちゃん)の抱き枕」
しかし2人の欲しいものは別れ、けんかになりそうになる。
「え?なんだって?ごめん、最近持病の難聴スキルが悪化してよく聞き取れなかった。猫耳の獣人間だなんて百害あって一利なしの爆弾も同然だぞ?」
「何を言ってんだか、やれやれ。これだからミーハーは怖いね。寝言は寝て言ってほしいものだね。
黒髪ポニテを否定するわけじゃないが、俺は断然モフモフの獣少女だね。プレミアは実際モフモフしているらしいし、これは命を削ってまで買う価値がありますわ。」
「全く、何をくだらないことで喧嘩しているのだか、、、」
優と大雅が火花を散らしていると誰かが呆れたように割って入ってきた。
「美咲!どうしてここに?」
「ちょっと通りかかったから大雅と話そうかなって。それより何の話?」
大野美咲。高校2年生。17歳。O型。
大雅の彼女で俺らの幼馴染。昔から俺たちが喧嘩になるとよく仲裁してくれたりと、ほんとにいいやつだ。美咲がいなかったら俺たちは何度絶交していたことか、ということが何回もあったりする。でも俺、好かれてるってわけでもないよな。そんなことを思い出している俺をよそに大雅が事のあらましを説明する。
「へぇ。で、そのリンカちゃんとミリカちゃんはゲームキャラなの?」
「ああ、PVを見ただけでよくは知らんが物語にかかわってくる人物なんだろな。だが予約ができないとなると、、、万事休すか。」
絶望にうなだれる俺たちを前に彼女はたじろぎながら、何か解決策はないものかと彼女なりに考えているようだった。俺も一歩選択肢を変えていたら、美咲のことが好きだったんだろうな。なんて今となってはありもしない幻想を考えてみるも脳内で再現できず、そんなことを考えた自分をばかばかしく思った。
2.大野美咲と隠されしHistory
本当だったら美咲と付き合ってるのは優のはずだった。しかし優の元々の鈍感主人公補正に加え、優がまったく彼女を意識していないようだったので、ある時優に、「美咲お前のこと嫌いらしいって他の女子から聞いた。」なんて嘘を彼に伝えると彼は落ち込み、以来彼女とあまり話さなくなった。
なぜそんなせこい真似をしたかと言うと、完全に大雅が彼女に惚れていたからだった。美咲は昔からみんなのリーダー的な存在で、みんなから頼られていた。そんな彼女が眩しくて、素敵で、だからこそ誰にも譲りたくなかった。
でも美咲は優のことが好きだった。それは傍から見れば誰もが分かるような。熱い視線。
だから俺は彼女に残酷な真実を伝えてしまった。「優はお前をそれほど気にしていない。なぜなら優は里奈先輩のことが好きだから。」と。本当にどうしようもなくずるい。優には嘘をつき、彼女にはありのままの、しかし残酷な真実を伝えた。本当にどうしようもないクズ。自分でも分かっている。でもこれ以上2人が仲良くしているとこを見ていられなかった。
彼女はそんな真実に泣き崩れ、そんな彼女に俺はいい顔をしまくった。その結果がこれだ。俺は現状に満足し、優越感に浸りながらも、しかしそれ以上に罪悪感も感じ、愚かな自分の行動を悔やむ日々を現在送っている。
『EFO』発売まであと3日
前回の掲載から数日が経ち、皆さんの評価が気になる今日この頃。
色々と展開が思いつき、書いてみるも時間があっという間に過ぎてしまったので今日はここらへんで締めさせてもらいたいと思います。皆さんに期待して次回を待っていただけると恐縮です。
それではまた次回